- 作成日 : 2025年9月9日
税務調査が入る頻度や時期は?10年以上来ない法人の特徴や対策を解説
税務調査が10年以上来ていない、という法人は少なくありません。しかし、それだけで安心できるとは限りません。
本記事では、税務調査が来る頻度はどのくらいなのか、調査対象になりやすい法人との違いについて、わかりやすく解説します。
具体的な対策や、万が一通知が来た時に乗り切るためのポイントも紹介しています。ぜひ参考にしてください。
目次
税務調査とは?
税務調査とは、個人や法人が行った税務申告の内容が正しいかどうかを、税務署や国税局が確認するための調査です。
法人税や消費税などの申告内容に、誤りや漏れがないかを確認し、適正な納税を確保することを目的としています。
税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。任意調査は事前通知があり、日程や対応方法について納税者側と調整を行ったうえで進められるのが一般的です。
一方、強制調査は重大な脱税や組織的な不正が疑われる場合に行われ、裁判所の令状をもとに抜き打ちで実施されます。
中小規模の一般法人の場合は主に税務署が調査を行うのに対して、大企業や取引規模が大きく不正の可能性がある場合は国税局が担当します。
なお、税務調査が来ること自体は、必ずしも違法行為や不正があった証拠ではありません。日常的な申告内容の確認や、過去の調査から一定期間が経過している場合にも行われることがあります。
基本的な流れ(任意調査の場合)
任意調査の一般的な流れは、次のとおりです。
- 事前通知(電話または文書)で調査日程や調査官の人数、対象期間などが連絡される
- 日程調整を経て、訪問日が確定する
- 原則2〜3日程度、会社の事務所や事業所で帳簿や証憑書類の確認、経理担当者や経営者への質問が行われる
- 指摘・修正申告が必要な場合は、その場または後日通知がある
- 修正申告後に追加納税を行うか、問題がなければ終了通知が出される
重大な脱税や組織的な不正が強く疑われる場合には、強制調査を行うことがあります。一般的な任意調査とは異なり、抜き打ちで実施されるのが大きな特徴です。
事前通知がなく、裁判所の令状にもとづき、複数の調査官が一斉に会社や関係先を訪問して帳簿やパソコン、取引記録などを押収して詳細に調べます。
税務調査の範囲
税務調査の対象期間は、原則として過去3年分です。ただし、意図的な申告漏れや仮装・隠ぺいが疑われる場合には、最長で7年分まで遡って調査されることがあります。
調査対象となる項目は多岐にわたり、主な例は以下のとおりです。
このように、税務調査では帳簿や証憑の整合性を確認するだけでなく、取引の実態や経営実態との整合性もあわせて確認されます。
税務調査が来る時期と頻度
税務調査が行われる時期に明確な決まりはありませんが、一般的には確定申告の時期(3月)を過ぎた頃から増えます。とくに、税務署や調査官の業務が比較的落ち着く8月〜12月は、法人への調査が集中しやすい傾向です。
法人の調査率はおおむね約1〜3%程度とされていることから、毎年調査が入る法人はごく少数で、大半の法人は数年に一度も調査を受けないケースがあります。ただし、この数字は業種や規模、過去の調査履歴によって変動します。
税務調査の頻度は、企業の規模や業種にもよりますが、おおよそ3〜10年に一度が一般的です。税務調査では原則として過去3年分の書類が確認されるため、3年より短い周期で繰り返し調査が入るケースは少ない傾向にあります。
もっとも売上や利益の急激な変動、不自然な経費計上、過去の指摘事項の再発など、調査の必要性が高いと判断された場合は、短期間で再び調査が行われることもあります。
税務調査が10年以上来ない法人の特徴
税務調査は数年に一度は入るものと思われがちですが、10年以上調査が来ない法人も存在します。ただし、税務調査が来ないことにはそれなりの理由があり、日常的な経理体制や事業運営の状況が大きく関係しています。
ここでは、税務調査が入りにくい法人に共通する特徴を紹介します。トピックは、以下のとおりです。
- 売上や利益が安定している
- 非現金取引の比率が高い
- 過去に税務調査の指摘歴がない
- 経費処理が適正である
- 税理士と継続的に顧問契約している
- 業種・規模に見合った利益や納税状況である
- 役員報酬が適正な金額に設定されている
売上や利益が安定している
売上や利益が毎年大きく変動している法人は、税務署から注目されやすくなります。
たとえば、以下のようなケースは、利益調整の可能性があるのではと税務署にマークされる可能性があるでしょう。
- 前年に比べて売上が急増しているにもかかわらず利益が極端に低い場合
- 赤字が続いた後に急に黒字化した場合 など
一方で、売上や利益が大きく変動せず安定している法人は、数字におかしな点がないとみなされやすく、その分、税務調査に入られる可能性が低くなります。
非現金取引の比率が高い
現金取引は記録が残りにくく、帳簿外の売上を計上しないままにすることが可能です。そのため、税務調査は現金商売に注視されやすい傾向があります。
たとえば、中小規模の飲食店や小売店、建設業などは、現金取引の比率が比較的高い業種といえます。
大手チェーンや都市部の店舗ではキャッシュレス決済が普及している場合もありますが、地域密着型や個人経営の場合は現金売上が主流のケースが少なくありません。
こうした業種では、現金管理の不備や帳簿外取引が疑われやすく、税務調査の対象として注視される傾向があります。
一方、銀行振込やクレジットカード決済など、非現金取引の割合が高い法人は、資金の流れが明確に記録として残るため、調査の優先順位は低くなります。
過去に税務調査の指摘歴がない
過去の税務調査で是正指導や修正申告を受けた法人が、同様の誤りを繰り返すと、再度の調査対象に選ばれやすくなります。
税務署は調査記録を保管しており、改善が見られない場合は優先度が高まりやすい傾向です。
一方で、これまでの調査で指摘を受けていない法人や、指摘後に改善が確認された法人は、一定期間は調査の優先度が下がることもあります。
経費処理が適正である
経費処理に不自然な点が多い法人は、税務署の関心を引きやすくなります。
たとえば、以下のようなケースが挙げられます。
- 年間の交際費が売上に対して極端に多い場合
- 私的な支出を経費計上している場合
- プライベートの車や住宅費を不自然に経費計上している場合 など
一方で、経費が事業活動と明確に整理され、税務署へ説明できる状態の法人は、不正の可能性が低いとみなされ、調査対象の後回しになる傾向です。
税理士と継続的に顧問契約している
税理士を通さず自己申告で決算や申告を行う法人は、会計処理の精度が低いとみなされやすく、ミスが発生するリスクが高まります。その結果、帳簿の信頼性が低いと判断され、調査対象に選ばれる可能性があるのです。
反対に、税理士と顧問契約を続けて定期的に帳簿チェックを受けている法人は、申告内容の信頼度が高まるため、税務調査の優先度が下がる可能性があります。
業種・規模に見合った利益や納税状況である
国税庁が公表する会社標本調査などの統計データには、業種ごとの平均的な利益率が示されています。
同業他社と比べて利益率や納税額が極端に低い場合、意図的な利益圧縮や過剰な経費計上を疑われることがあります。
一方で、売上や業種に見合った利益や納税額で安定している会社は、業界の平均と比べても数字に違和感がないため、税務調査の対象に選ばれにくくなるでしょう。
参考:国税庁|会社標本調査
役員報酬が適正な金額に設定されている
売上や人件費のバランスに対して役員報酬が過大または過少な場合、調査の対象になる恐れがあります。
たとえば、赤字で高額な役員報酬を払っている場合や、利益があるのに極端に低い場合は、別の方法で資金を得ていると疑われる恐れがあります。
一方、会社の規模や業績に見合った役員報酬を支給している法人は、税務署から疑われるリスクが比較的低いといえるでしょう。
税務調査の対策
税務調査は無作為に行われるものではなく、過去の申告内容や経理の透明性などをもとに、優先的に調査対象となる企業が選定されます。
日常的に不自然な点をなくす取り組みをしておくことで、調査のリスクを減らすことが可能です。
ここでは、すぐに取り組める以下4つの対策を紹介します。
1. 決算申告を正しく行う
税務調査を回避する第一歩は、申告内容の正確性です。
日々の記帳を適切に行い、仕訳の誤りや計上漏れを防ぐことが前提となります。利益が実態と乖離していると、調査対象として目をつけられる可能性が高まります。
毎月の残高確認や証憑との突合を行い、決算期には税理士と二重チェックを行うことで、申告精度を高められるでしょう。
2. 領収書などの証憑保管を徹底する
売上・仕入・経費に関する証憑(請求書・契約書・領収書など)は、調査時に金額や取引の正当性を証明する根拠となります。
保管が不十分だったり、整理されていなかったりすると、説明がつかず修正申告を求められるリスクが高まります。
電子帳簿保存法に対応すれば、スキャンデータの保存やキーワード検索が可能となり、調査時の提示もスムーズです。
3. 信頼できる税理士との顧問契約をする
税理士が日常的に帳簿内容を確認している法人は、申告の信頼性が高く評価されます。
また、税務調査の通知が来た際には、事前準備や当日の立ち会い、質問への回答サポートを受けられるため、経営者や経理担当者の負担が大幅に減ります。
調査が入る前提で経理体制を整えるという意識を持ち、顧問税理士との連携を日常的に強化しておくことが大切です。
4. クラウド会計ソフトを活用する
クラウド会計ソフトを活用すると、記帳や証憑整理を仕組み化でき、月次決算で利益の急変や異常値を早期に把握できます。
電子帳簿保存法に対応のソフトであれば、データ保存や検索が容易になり、調査時の資料提出がスムーズです。役員貸付金や仮払金など、残高が調査で着目されやすい科目の定期的な確認・精算も容易になります。
マネーフォワードクラウド会計なら、税理士とのデータ共有や自動仕訳機能によって業務のさらなる効率化が可能です。これにより、税務調査の際にも慌てることなく、必要な書類やデータをすぐに提示できる経理環境に整えられるでしょう。
マネーフォワード クラウド会計の機能や制度対応、導入後のサポートについて、以下で詳しくご案内しています。ぜひご覧ください。
税務調査を乗り切るポイント
任意調査の場合、事前に税務署から日程や調査対象期間の通知があるため、調査当日までに必要な準備を整える時間があります。
準備不足や場当たり的な対応は、不必要な指摘や重加算税のリスクを高めます。したがって冷静かつ計画的な備えが、税務調査を円滑に終えるための重要な要素となるでしょう。
ここでは、税務調査を乗り切るための以下3つのポイントを紹介します。
- 事前に税理士に相談する
- 質問には誠実に答える
- 調査対象年度の帳簿や書類を用意する
事前に税理士に相談する
税務調査の通知が届いたら、できるだけ早く顧問税理士へ連絡を取りましょう。
調査対象期間や、売上・交際費・貸付金などとくに調査されやすい項目を整理し、必要な説明資料や証憑を一緒に準備します。
また、当日の対応方針も事前に決めておくと安心です。たとえば誰が説明するのか、調査の実施場所をどこにするのかなどを明確にしておくと、当日、スムーズに対応できます。
質問には誠実に答える
調査官からの質問には、事実にもとづいて丁寧に回答することが基本です。虚偽の説明や証拠の隠ぺい、過剰な言い訳は、かえって疑いを深める原因となります。
もし記憶が曖昧な場合や、後から誤りに気づいた場合は、素直に訂正しましょう。再確認後、正しい資料を提示する姿勢が信頼につながります。
調査対象年度の帳簿や書類を用意する
税務調査の対象は通常、直近3年分ですが、悪質と判断されれば最長で7年分まで遡る可能性があります。
仕訳帳・総勘定元帳・請求書・領収書・契約書など、関連資料を紙・電子に問わず、すぐ提出できる状態にしておきましょう。
電子帳簿保存法に対応したクラウド会計ソフトを活用すれば、検索や提示がスムーズになり、調査対応の負担を大幅に軽減できます。
以下の記事では、電子帳簿保存法について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:2022年1月の電子帳簿保存法の改正で人事労務分野が対応すべきことを解説
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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