- 作成日 : 2025年9月9日
償却資産とは?対象となる資産や申告方法を具体例を交えてわかりやすく解説
毎年1月になると、市区町村から「償却資産税の申告書」が届きますが、そもそも償却資産とは何なのか、正しく理解できていますか?土地や建物は固定資産税として、自動的に課税されますが、事業用の機械や備品などは自己申告が必要です。
申告漏れは過料や追徴課税のリスクもあるため、正しい知識が欠かせません。本記事では、償却資産の基礎や対象資産、申告方法、軽減制度、ペナルティなどを具体例とともにわかりやすく解説します。
目次
償却資産とは?基礎を簡単に解説
償却資産の基礎について、以下の点を解説します。
- 償却資産とは固定資産の一部
- 個人も法人も課税対象となる
- そもそも固定資産税とは?
償却資産とは固定資産の一部
償却資産とは、土地と家屋以外の事業用固定資産で、償却資産税の課税対象となる資産のことです。
地方税法第341条第4号に基づき、事業に使用される機械や設備、備品などが該当します。使用や期間の経過により価値が減少する資産であるため、減価償却の対象となり「償却資産」と呼ばれます。土地・家屋は自治体が登記情報等から自動把握しますが、償却資産は自己申告が必要です。
たとえば、飲食店の厨房機器、オフィスのパソコンやコピー機、工場の製造設備などが挙げられます。自動車や無形資産(特許権など)は対象外です。
事業の用に供している資産が償却資産に該当する場合、毎年申告が義務づけられています。対象か迷う場合は自治体や税理士に確認すると安心です。
個人も法人も課税対象となる
法人だけでなく、個人事業主やフリーランスも償却資産税の課税対象です。
課税対象かどうかの判断ポイントは「事業用であること」です。美容室のシャンプー台や飲食店の厨房機器、農家の農機具など、営利目的かどうかは法人・個人の区別は関係ありません。一定の目的で継続的に行う活動はすべて事業とみなされます。
土地や建物は自治体が登記情報から把握しますが、償却資産は自己申告制のため、申告しなければ存在を認識できません。そのため、申告漏れは過料や追徴課税のリスクにつながります。対象資産を正しく把握し、期限内に申告することが重要です。
そもそも固定資産税とは?
固定資産税は、土地・建物・償却資産などの固定資産を所有している人に対して、市区町村が毎年課す地方税です。
毎年1月1日時点の所有状況を基準に課税され、原則として年4回に分けて納付します。固定資産には土地や家屋が含まれますが、事業用の機械や器具備品なども「償却資産税」として固定資産税の一種に含まれます。
土地や家屋は登記情報から自治体が自動的に把握しますが、償却資産は自己申告制のため、所有者が資産の内容・取得価額を申告しなければなりません。仕組みを理解しておくことで、申告漏れを防ぎ、スムーズに対応できます。
償却資産は主に6種類
償却資産は大きく6つの分類に分けられます。地方税法や固定資産評価基準に基づいて区分されており、課税や評価を行う際の基準となります。保有資産がどの区分に該当するかを把握しましょう。
構築物
構築物とは、土地や建物に付属して設置される設備や施設のことです。事業用に設置された場合は償却資産として課税対象になります。
構築物に分類される主なケースは以下のとおりです。
- 舗装された駐車場や通路
- 庭園や緑化施設
- 門や塀などの外構工事
- 広告塔や店舗看板
- ゴルフ練習場設備
- 受変電設備
- 予備電源設備
- 内装工事による造作
構築物は建物そのものではないため、家屋の固定資産税とは区別されます。償却資産の申告時には「構築物」として取得価額や設置時期を正確に記載する必要があります。とくに内装や造作工事は、建物の一部と思って申告漏れが発生しやすい資産なので注意が必要です。
機械及び装置
機械及び装置は、製造や加工、運搬などの事業活動を行うために設置された機械類を指します。主な例は、各種製造設備や加工機械、発電設備、大型特殊自動車のうち建設機械に該当するものなどです。
機械及び装置は、事業の生産性を支える重要な資産であり、取得価額や耐用年数に基づいて評価額が算定されます。
とくに工場や製造業では該当する資産が多く、申告漏れや区分の誤りが起こりやすい分野です。設備の更新や増設を行った場合は、必ず台帳や会計記録と照合し、最新の状態で申告することが必要です。
船舶
船舶は、事業に使用する船やボートなどを指します。具体例は、釣船、漁船、遊覧船、運搬用の作業船などです。水上での運搬や営業活動に使用され、耐用年数に応じて減価償却を行い、評価額を算定します。
趣味や個人利用目的の船は対象外ですが、業務に一部でも使用している場合は課税対象になる点に注意が必要です。とくに漁業や観光業などでは所有数が多く、取得価額や使用開始日を正確に記録しておくことが重要です。申告漏れは後の追徴課税につながるため、台帳管理を徹底しましょう。
航空機
航空機は、事業目的で使用される飛行機やヘリコプター、グライダーなどを指します。該当例は、航空会社の旅客機や貨物機、観光用の遊覧ヘリ、測量・撮影用の小型機などです。購入費用が高額で耐用年数も長いため、取得価額や耐用年数に基づき、毎年減価償却を行って評価額を計算します。
個人の趣味で使用する航空機は対象外ですが、業務の一部にでも使う場合は課税対象となります。保有や使用の実態が複雑なケースもあるため、契約内容や使用記録を確認し、対象資産として適正に申告することが重要です。
車両及び運搬具
車両及び運搬具のうち、償却資産税の課税対象となるのは大型特殊自動車など、自動車税や軽自動車税の対象外になるケースです。たとえば、フォークリフトやホイールローダー、ブルドーザーなどの建設機械、港湾での荷役用車両などが該当します。公道を走行する一般車両とは異なり、自動車税の課税客体ではないため、償却資産として申告が必要です。
償却資産の申告が必要な大型特殊自動車に分類されるのは、長さ4.70m超・幅1.70m超・高さ2.80m超・最高速度15km/h超のいずれかの要件を満たすケースです。農耕作業車は、最高速度が35km/h以上で大型特殊に区分されます。
軽自動車税(種別割)の課税客体となる小型特殊自動車は、償却資産の申告は不要です。農耕用トラクターなどが小型特殊自動車の典型例で、道路走行の有無にかかわらず軽自動車税の対象になります。フォークリフトなど一部の特殊車両は、寸法や最高速度によって「大型特殊」か「小型特殊」に分かれるため注意が必要です。
事業で使用していても「車両=自動車税だけ」と誤解されやすく、申告漏れが多い資産のひとつです。所有台数や取得価額、使用開始日を正確に把握し、固定資産台帳と照合して申告しましょう。
工具、器具及び備品
工具、器具及び備品は、多くの業種で該当資産が発生する代表的な区分です。具体例として以下が挙げられます。
- パソコン
- コピー機
- 陳列ケース
- 医療機器
- 測定工具
- 金型
- 理容や美容の施術機器
- パーテーション
工具、器具及び備品は、購入後の使用や経年で価値が減少するため、耐用年数に応じて減価償却を行い、評価額を算出します。とくに事務所や店舗では、小型の備品類が多く申告漏れしやすい傾向があります。
一つひとつは少額でも、複数をまとめると課税対象額に達する場合があるため、取得価額と数量を管理することが重要です。台帳や会計データを定期的に整理し、抜け漏れなく申告しましょう。
業種別の償却資産の具体例
償却資産は業種ごとに内容が異なります。業種別の償却資産の具体例は以下のとおりです。いずれも事業用であれば申告義務があります。
業種 | 償却資産の具体例 |
---|---|
飲食業 | 厨房機器(コンロ・冷蔵庫・製氷機)、業務用エアコン、看板、テーブル・椅子、レジ、内装工事 |
美容・サロン業 | 美容機器(エステ機器・脱毛器)、シャンプー台、施術ベッド、鏡、照明、空調設備 |
小売・物販業 | 商品棚、冷蔵ショーケース、POSレジ、防犯カメラ、什器備品 |
建設業 | 工具、発電機、仮設事務所、足場材、作業車など、製造業は加工機械、コンベア、測定器、空調設備 |
IT・オフィス業 | パソコン、サーバーラック、コピー機、オフィス家具 |
償却資産の対象外となるケース
償却資産の対象外となる資産もあります。償却資産の対象外となる代表的なケースは以下のとおりです。
- 土地・家屋そのもの
- ソフトウェアなどの無形固定資産
- 自動車税や軽自動車税の対象となる車両
- 牛や馬などの家畜
- 果樹やその他の生物
- 取得価額20万円未満の資産
上記に該当する資産は、地方税法第341条第4号で課税対象から除外されています。ただし、対象外と思い込み申告しないケースでも、実際は課税対象となる例もあります。
たとえば、建物の付属設備や内装造作は家屋ではなく「構築物」として申告が必要な場合があります。判断が難しいときは、早めに市区町村の資産税課や税理士に相談し、誤った判断による申告漏れや追徴課税を防ぐことが重要です。
償却資産の申告方法
償却資産を所有する法人や個人事業主は、地方税法第383条に基づき、毎年1月1日現在の所有状況を市区町村に申告する義務があります。申告期限は原則1月31日までで、紙の申告書のほか、eLTAX(地方税ポータルシステム)を使った電子申告も可能です。
申告内容は、資産の名称や取得年月、取得価額などを記載し、該当する資産区分ごとに整理します。新たに取得した資産や除却した資産も漏れなく記載します。期限を過ぎると過料や追徴課税のリスクがあるため、台帳や会計データをもとに早めに準備を進めることが重要です。
償却資産の課税の仕組み
償却資産の課税は、総務大臣が定める固定資産評価基準に基づき、市区町村が評価額を算出して行います。償却資産の課税の仕組みについて、以下の点を詳しく解説します。
- 償却資産の評価額と税率
- 償却資産の非課税限度
- 償却資産税の納税通知
償却資産の評価額と税率
償却資産の評価額は、取得価額を基準に耐用年数に応じた償却率を適用して算出します。毎年の減価償却によって資産価値が減少し、残存価額が翌年度以降の課税基準となります。税率は固定資産税と同じで原則1.4%です。
たとえば、取得価額100万円・耐用年数10年の機械であれば、償却率にしたがって毎年評価額が減少し、それに税率をかけて税額を計算します。なお、耐用年数や償却率は国税庁の耐用年数表に基づいて決定されます。評価額の計算誤りは税額にも直結するため、取得時の領収書や契約書を保管し、正確に申告することが重要です。
償却資産の非課税限度
償却資産には、課税標準額が一定額未満の場合に課税されない非課税限度があります。多くの市区町村では、この限度額は150万円で設定されています。同一市区町村内で所有する償却資産の課税標準額の合計が150万円未満であれば、課税されません。ただし、非課税となる場合でも申告義務は免除されません。
申告を怠ると、後に資産の存在が判明した際に過去分を遡って課税される可能性があります。小規模事業者や開業間もない事業者は、この制度によって負担が軽減されるケースも多いため、所有資産の評価額を確認し、必ず期限内に申告しましょう。
償却資産税の納税通知
償却資産税は、申告内容をもとに市区町村が税額を計算し、毎年4〜6月頃に「納税通知書」として送付されます。通知書には、課税標準額・税率・税額・納付期限などが記載され、納付は年1回一括または年4回分割で行うのが一般的です。
納付方法は自治体によって異なり、納付書払い、口座振替、オンライン決済などが選べます。通知書が届いたら、記載内容に誤りがないか必ず確認し、疑問点があれば早めに各自治体の資産税担当へ問い合わせましょう。誤った申告や計算ミスがあった場合は、修正申告を行うことで後の追徴や延滞金を防げます。
償却資産の軽減制度
償却資産には、負担を軽減するための制度として「非課税」「課税標準の特例」「減免」の3種類があります。非課税は、課税標準額が一定額未満の場合に適用され、多くの自治体で150万円未満が基準です。
課税標準の特例は、中小企業等が特定の設備投資を行った場合に評価額を2分の1や3分の1に軽減できる制度で、地方税法や各自治体条例に基づきます。減免は、災害や事業縮小など特別な事情がある場合に、申請により税額が減額または免除される制度です。制度の内容や申請方法は自治体ごとに異なるため、導入を検討する際は必ず市区町村の案内や税理士に確認しましょう。
償却資産の申告をしなかった場合のペナルティやリスク
償却資産の申告をしなかった場合のペナルティやリスクについて、以下の点を解説します。
- 過料を科される可能性
- 虚偽の申告は懲役刑または罰金刑の可能性
- 故意でなくても申告義務違反になる可能性
過料を科される可能性
償却資産を正当な理由なく申告しなかった場合、地方税法第386条の規定により10万円以下の過料を科される可能性があります。過料とは刑事罰ではなく行政上の制裁金ですが、自治体の条例に基づき適用され、事業者としての信用にも影響を及ぼします。
所有資産の管理が不十分で申告漏れが発生した場合でも、意図的かどうかに関わらず過料対象となることがあるため注意しましょう。期限後に自主的に申告しても、状況によっては課される場合があります。
毎年の申告期限を把握し、所有資産を正確にリスト化しておくことが重要です。申告漏れ防止のため、会計データや台帳管理を日常的に行うことが望まれます。
虚偽の申告は懲役刑または罰金刑の可能性
償却資産について虚偽の申告を行った場合、地方税法第385条の規定により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性があります。虚偽申告とは、実際には保有している資産を申告しなかったり、取得価額を過少に記載したりする行為を指します。意図的であるかどうかに関わらず、課税の適正性を損なう重大な違反とみなされるため注意が必要です。
虚偽申告が発覚した場合は、過去数年分を遡って追徴課税される可能性も高く、延滞金などの負担も発生します。正しい申告を行うためには、資産の取得日や価額を証明できる書類を保管し、疑義があれば事前に自治体や税理士に確認することが不可欠です。
故意でなくても申告義務違反になる可能性
償却資産の申告漏れは、故意でなくても申告義務違反として扱われる可能性があります。たとえば、対象外だと思い込んで申告しなかった資産や、資産区分の誤解による記載漏れも違反とみなされるため注意が必要です。自己申告制のため、所有者自身が対象資産を正しく判断し、期限内に申告する責任があります。
「知らなかった」や「勘違いしていた」などの理由は免責にはならず、過去数年分を遡って課税され、延滞金が発生するケースもあります。リスクを避けるためには、資産の取得時に用途や区分を記録し、申告前に自治体や税理士に確認することが重要です。定期的な台帳管理と情報更新が、違反防止の基本となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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