- 作成日 : 2025年9月9日
圧縮記帳で別表の添付漏れがあったらどうすればよい?課税のリスクや対処の仕方を解説
補助金や保険金などを受け取り、新たな固定資産を導入した場合は、圧縮記帳ができます。圧縮記帳をする際は法人税の確定申告時に「別表」などの必要書類を添付するよう定められていますが、なんらかの原因により添付漏れが起きるケースもあるでしょう。
圧縮記帳において重要書類である別表の添付漏れが起きた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。この記事では、圧縮記帳における別表の添付漏れのリスクや対処法を解説します。
目次
添付漏れがある場合は圧縮記帳が認められない可能性が高い
確定申告時に必要な書類の添付漏れがあると、圧縮記帳が認められない可能性が高いです。圧縮記帳における別表の重要性や、実際に適用が認められなかった判例について解説します。
圧縮記帳では別表13の提出が必須
圧縮記帳を適用する際は、確定申告書に「別表13」を添付して提出する必要があります。別表13は圧縮記帳による損金算入の明細書です。補助金や保険金、資産の交換などで固定資産を取得した際に、その資産の詳細や圧縮額などを詳しく記載する必要があります。
原則として、この書類がないと圧縮記帳は認められません。ただし、提出できなかったことに「やむを得ない事情」があると税務署に判断された場合は、例外的に認められるケースもあります。
圧縮記帳の仕組みについてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
適用が認められなかった事例
過去の裁判例からも、圧縮記帳における別表の添付漏れには十分注意しなければならないことがわかります。
たとえば、名古屋高等裁判所では、圧縮記帳が認められず過少申告加算税の賦課決定を受けた法人が、これを不服として裁判を起こしました。しかし、申告時に書類を添付したという明確な根拠が乏しいことや、書類を提出できなかったことが「やむを得ない事情」にはあたらないと判断され、課税を認める判決が出ています。
控訴人が交換特例明細書を添付することを失念していたことは、原判決13頁の3のとおり、「やむを得ない事情」には当たらないから、控訴人のこれらの点についての主張は採用できない。
こうした判例もあるため、添付漏れがあった場合に圧縮記帳が認められる可能性はないと考えておきましょう。
圧縮記帳で別表の添付漏れが見つかったらどうしたらよい?
もし圧縮記帳で別表の添付漏れが見つかった際は、まず税理士へ相談しましょう。そのうえで、状況に応じた適切な方法で対処していくのが大切です。添付漏れが見つかった際の注意点もあわせて解説します。
まずは税理士に相談
添付漏れが発覚したら、自社で判断して動かず、まずは税理士に相談して対処方法を一緒に考えるのが賢明です。
専門家と添付漏れの状況やミスが起きた原因を突き止めることで、今後の対策の方法が見えてきます。また、税理士は更正の請求や修正申告、税務署への説明なども代行してくれるため、さらなるトラブルへ発展するリスクも低減できます。
更正が認められず税務調査の対象になる可能性も
申告内容に誤りがあった場合、通常は更正の請求や修正申告といった手続きをします。しかし、圧縮記帳の添付書類に関しては、前述のとおりやむを得ない事情がない限り、後から別表を提出しても認められないのが実情です。
むしろ「ほかの経理処理も不正確なのではないか」と税務署に判断され、税務調査の対象になる可能性が高くなるケースも考えられます。圧縮記帳をしても総合的に課される税金の総額は変わらないため、もしほかに税負担の緩和や節税につながるものがあれば、そちらを有効活用するのもひとつの手です。
圧縮記帳の要件
圧縮記帳を正しく適用するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 指定の経理方法で圧縮する
- 確定申告書で圧縮額の明細(別表13)を添付する
- 清算中の法人でない
あらためて要件を確認し、申告の際に抜け漏れがないよう注意しましょう。
指定の経理方法で圧縮する
圧縮記帳を行う際は、必ず以下のいずれかの経理方法で記帳する必要があります。
| 直接減額方式 | 固定資産の帳簿価額を、補助金などの額を限度として、直接差し引いて計上する方法 → 処理がシンプルで、帳簿管理が楽になる利点がある |
|---|---|
| 圧縮積立金方式 | 補助金などの額を「圧縮積立金」として純資産の部に計上する方法 → 企業の財政状態を正しく把握できるのが特徴 |
比較的処理がシンプルなのは、直接減額方式です。圧縮記帳をした年度以降は、減額した取得価額をもとに減価償却していきます。
圧縮積立金方式は、企業会計基準に則った方式であり、企業の財政を正しく把握できます。一方で、処理は直接減額方式よりも複雑になるため、必要以上に時間がかかる可能性も考えられるでしょう。
どちらかの方式で適切に記帳していないと、圧縮記帳は認められません。
確定申告書で圧縮額の明細を添付する
圧縮記帳を適用する際は、確定申告で必ず、圧縮の対象となる固定資産や圧縮額が記載された明細書を添付しなければなりません。この書類が「別表13」であり、前述のとおり別表の添付がないと、圧縮記帳は認められないルールです。
別表作成の際は、受給した補助金や保険金の額、固定資産の取得価額、取得にかかった経費などを正確に把握したうえで進めていきましょう。
清算中の法人でない
圧縮記帳は国内にある法人が対象ですが、会社をたたむ手続き中である清算中の法人は認められません。これは、法人税法第42条に「内国法人(清算中のものを除く。)」と明記されているためです。
清算中の法人でなく、ほかの2つの要件を満たしているなら、圧縮記帳自体は可能です。適正な手続きを踏んで進めていきましょう。
法人税申告書「別表13」の書き方
圧縮記帳では、確定申告の際に「別表13」を提出しなければなりません。別表13は、圧縮記帳の要因によって使用する様式が異なります。
とくに利用ケースが多いと考えられる3つの様式について、書き方を解説します。
- 別表13(1)の書き方
- 別表13(2)の書き方
- 別表13(5)の書き方
別表についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:法人税申告書の別表13とは?見方や書き方、注意点まで解説
別表13(1)の書き方
別表13(1)は、国庫補助金や工事負担金で資産を取得した際に記載・提出する書類です。様式は上段・中段・下段に分かれており、それぞれ以下の内容を記載します。
| 書類欄 | 記載内容 |
|---|---|
| 上段 |
|
| 中段 |
|
| 下段 |
|
補助金で固定資産を取得した場合は上段に必要事項を記入します。工事負担金で取得した際は中段、非出資組合が賦課金で資産を取得した際は下段に必要事項を記入します。資産の取得に利用した資金の種類によって書く箇所が異なるため、注意が必要です。
別表13(2)の書き方
別表13(2)は、保険金で資産を取得した際に記載、提出します。
記載する主な内容は、以下のとおりです。
- 保険事故等があった年度
- 保険の対象となった資産
- 受け取った保険金額
- 保険差益の額
- 代替資産の詳細
- 圧縮限度額
- その他一定の事項等
別表13(2)は、保険金で代替資産を取得した場合に提出します。保険金を受け取って資産を取得していない場合は圧縮記帳が適用されないため、注意しましょう。
別表13(5)の書き方
別表13(5)は、特定の資産を買い替えたり、交換して新たに資産を取得した際に記載・提出する書類です。記載する主な項目は、以下のとおりです。
- 譲渡した資産の種類や取得年月日
- 譲渡した資産の帳簿価額
- 譲渡経費
- 新たに取得した資産の種類や取得年月日
- 買換資産の取得価額
- 圧縮限度額
- 対価の額の残額
- その他一定の事項
記載する項目がほかの別表に比べて多いため、一つひとつの情報を正確に記載するようにしてください。
別表の添付漏れを防ぐには
別表の添付漏れは、予期せぬ課税額の増加を招くリスクがあります。資金繰りや経営に支障を出さないためにも、以下のような対策を徹底しましょう。
- 漏れがあった事実を記録し残しておく
- 確定申告の添付書類のチェックリストをつくる
- 税理士との連携を徹底する
書類の添付漏れがあると圧縮記帳が認められないケースが多いため、提出前の確認が重要です。それぞれの対策について解説します。
漏れがあった事実を記録し残しておく
もし添付漏れが起きたなら、その事実を正しく記録して保管し、今後の対策を立てる際の参考にするとよいでしょう。
「担当者間の連携不足」「チェック体制の不備」といったように「なぜミスが起きたのか」という原因を明らかにしておくのが重要です。記録を残しておけば、会社全体で申告漏れを防ぐ意識を高められ、同じミスの繰り返しを防ぐことにつながります。
また、税理士の提出忘れなど自社の不手際でない場合も、念のため経緯を記録として残しておくとよいでしょう。
確定申告の添付書類のチェックリストをつくる
確定申告で必要な書類のリストを作成し、申告前にリストと準備した書類に相違がないかを確認すれば、提出漏れを防げます。
「どのような場合に、どういった書類が必要か」まで具体的に書いておけば、経理担当者が代わっても、ある程度スムーズに申告手続きを進められます。
必要な書類の種類などについては、税務署や税理士に確認しながらリストを作成していくとよいでしょう。
税理士との連携を徹底する
税理士と密に連携し、こまめな連絡や確認を怠らないことが、ミスを防ぐうえでは大切です。できれば補助金や保険金を受け取った段階で税理士に報告し、圧縮記帳を適用するかどうかを話し合っておくのが理想的です。
圧縮記帳をする場合は、要件の確認や書類の書き方などをよく見てもらい、抜け漏れがないか、コミュニケーションを取りながら進めていくとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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