- 作成日 : 2025年3月19日
予算管理と予実管理の違いを徹底解説!目標設定の手順や活用方法とは?
経営において、予算管理とは、予算を決め、管理していく重要な業務のひとつです。しかし、類似した言葉で「予実管理」もあり、違いがわからないという方もいらっしゃるでしょう。
本記事では、予算管理と予実管理の違いについて解説します。さらに予算管理の目的や運用方法もあわせてご紹介します。予算管理についての理解を深め、健全な企業経営に役立てましょう。
予算管理と予実管理の違いとは
予実管理とは、予算管理の一つであり、予算管理の中でも、事業活動における目標達成を目的とした、会社のお金の管理を担う重要な業務です。
予算管理と、予算管理における予実管理の役割を、目的と概要に分けて比較してみましょう。
目的 | 概要 | |
---|---|---|
予算管理 | 予算の策定 | 会社のお金を分配・管理 経営計画(事業計画)にもとづいて予算計画を立案する |
予実管理 | 予算と実績の分析・評価・課題発見 | 立てた予算計画と事業を一定の期間ごとに比較し、2つの乖離などを分析し、問題点や課題を発見することで軌道修正の必要性を見出す |
予実管理とは、予算管理で立てた予算計画を、実績と比較管理することです。
経営のベースとなる「予算」が3つある
経営の基本である予算には、企業全体の予算を総称する「総合予算」と、これを構成する以下の3種類の予算があります。
損益予算 | 企業の利益目標に関わる |
---|---|
資金予算 | 企業の資金繰りに関わる |
資本予算 | 将来的な収益のための資金計画に影響する |
いずれも企業活動における予算の設定は重要な意味を持ちます。
それぞれの予算を連動させて管理することで、企業は日頃の業務から長期的な戦略までを進めていけるのです。
損益予算
損益予算とは企業の利益目標に大きく関わる予算のことを指し、一般的に、企業の設けを示す指標です。
売上や製造・開発、経費、利益などをそれぞれ算出します。
資金予算
資金予算とは企業の資金繰りに関する、キャッシュフローを中心とした予算のことを指します。
たとえば現金収支や借入返済などが例に挙げられます。
売上が計上されても、実際の入金が遅れていたり、支払いタイミングに差がある場合は資金繰りに影響が出てしまうため、資金の流れを把握することが大切です。
資本予算
資本予算とは会社や工場などの設備調達や資金調達についての計画のことを指します。
設備投資や新規事業への投資といった、長期的な目線でとらえる予算です。
企業の成長戦略に直結するため、経営者の判断が問われる領域となります。
予算管理で扱う予算の種類
予算管理のうち、利益に直接関係する損益予算はさらに「売上予算」「原価予算」「利益予算」「経費予算」の4つで構成されます。
以下の表で比較してみましょう。
概要/算出方法 | 特徴 | ||
---|---|---|---|
損益予算 | 売上予算 | 売上目標となる数値のこと また事業活動の収益の総計 | 市場の動向や為替などの景気に左右されがちなため定期的な見直しをする必要がある |
過去の実績または将来の目標値をもとに算出 | |||
原価予算 | 商品(サービスや製品)を製造・開発する際に必要となる原材料に直接関わる予算のこと | 売上予算や原材料価格(仕入れ価格)によって左右される | |
売上予算をベースに仕入額・製造開発費を算出 | |||
経費予算 | 事業活動において発生する販売管理費や一般管理費などの必要経費のこと | ||
具体例)人件費・交通費・広告宣伝費・オフィスの賃料・光熱費など | |||
利益予算 | 事業活動で得られる利益の目標値となる数値のこと | 利益予算を達成するには売上・経費・原価それぞれの問題点や課題を発見し解決することが重要である | |
売上予算ー(経費予算+原価予算)で算出 | |||
資金予算 | 企業の資金繰りに関する予算 | ||
資本予算 | 会社や工場などの設備調達や資金調達についての計画 |
上記の通り、企業の事業活動において損益予算は重要な役割を持っています。また一般的に「予算」といえば損益予算のことを指す場合が多く、損益予算の管理によって企業の利益が左右されると言ってもいいでしょう。
予算管理と予実管理の違い
予算管理と予実管理には、実はきちんと決まった法的定義はありません。
どちらも、経営上のお金の管理に関するものであり、文脈上、同じものとして扱われる場合もあります。
一方、区別して扱う場合には、予実管理とは、予算管理の一環であると説明されることが多いです。
予算管理と予実管理それぞれの考え方
予算管理は、期首に目標を定めて、それに合わせて人員や経費を配分します。
従業員に予算の目標を共有したり、社内資源を適切に投資することで合理的な経営判断ができる要素になります。
また、立案した予算計画が適切に実施・運用されているかを確認し、問題点や課題があれば随時改善策を投じるなどの対応が求められます。
予実管理は、この予算計画に基づき、業務を遂行する過程で予算と実績との間に乖離がないか確認・分析し、修正が必要かどうか管理・対策をすることで、予算管理の範疇にあるといえます。
つまり予実管理は予算管理のうちの工程のひとつであり、利益やコスト管理、業務の効率化、生産性の向上実現など、経営における重要な役割を果たします。
予算管理の目的
大前提として予算管理の目的は、企業の利益目標を達成することです。
会社が事業を開始するときには、事業を行う目的と経営ビジョンを明らかにした上で、具体的な事業内容を決定し、これに基づいて利益目標を定めます。これらの過程をまとめたものが経営計画とされます。
経営計画では一定の期間ごとの目標を設定し、実行に移します。経営計画の項目として、経営資源を分配し、管理します。そのうちのお金の部分を管理するのが予算管理の重要な役割です。
なお、経営資源とは以下の3つを指します。
- ヒト(従業員や外注する人件費など)
- モノ(商品やサービス)
- カネ(コストや利益)
この「カネ」に該当する全般を予算管理を行うことで適切な経営が可能になります。
予算管理・予実管理の手順
予算管理と予実管理の手順は以下の3つのステップで説明できます。目標の設定、定期的な確認と決算、改善や軌道修正のサイクルで行います。
1.予算目標を設定する
まずは予算目標を設定します。
なぜこの目標値にしたのかという理由や根拠を明瞭にしておき、目的を見失わないようにしましょう。ポイントは現実的に達成可能な数値設定をすることです。
効果的な予算目標の設定のために、財務・経理部門との調整に限らず、実働員である営業部門や開発部門などの現場関係者・部署にも詳細をヒアリングしておくことが重要です。各部署との調整や共有をしたうえで、明確な目標を設定しましょう。
ただし、細かすぎる予算設定にしてしまうと、達成することだけが目先の目的になりがちです。逆に大まかすぎる目標設定でも目指すべきゴールが曖昧になり、可視化する際や軌道修正の際に適切な方法が不明瞭になってしまいます。
そもそも予実管理の目的は「目標達成のための過程を見える化し、実績を予算目標に近づけていくこと」で、大前提である予算目標が適切に設定されていなければ予実管理をすることは不可能です。予算目標を設定してから予実管理を行いましょう。
2.月次・週次でチェックし、月次決算を行う
目標を設定し、実際に運用が開始されたら、一定期間ごとに適宜チェックしましょう。
可能であれば週次と月次で確認を行い、決算は月次で実施しましょう。
コンスタントにチェックすることで、目標値と実績値の乖離を随時確認し、早期に対処できます。この確認作業の繰り返しにより予実管理の精度が高まります。
また、月次決算後は結果を従業員に周知し共有しましょう。目標値までの過程と進捗、これからの動向を把握させることで、各々が目標達成に具体的にどう尽力すればいいか、努力目標を考えることが可能です。
結果として従業員のモチベーションを左右する指標になりえます。
3.予実管理で改善点を挙げ、軌道修正する
予算目標の設定、運用開始、月次決算までできたら予実管理で改善点や問題点を洗い出しましょう。
目標値と実績値に大きく乖離があれば、原因を追求し発見する必要があります。とくに目標未達の場合、目標に近づけるための施策を考える必要があり、軌道修正のための調査や分析も場合によっては実施しなければいけません。
ポイントは、予算と実績の差異分析は売上高に限らず、売上利益や、売上利益から販管費(販売費と一般管理費)を差し引いた営業利益にも行うことです。
予実管理の最終目標は、利益予算の目標を達成することにあります。
どんなに高い売上があっても、薄利であれば目標には到達できません。逆に、売上高が目標未達であったとしても、利益率が高ければ予算目標を達成するかもしれません。利益予算の目標を達成させるために投じる施策は、事業の在り方によって変わってきます。
予算管理の方法はPDCAをまわすことがポイント
予算管理を適切に運用するには、PDCAをまわすことを意識しましょう。PDCAとは以下からなる4つのフローで、あらゆる経営計画で重視される方法です。
P(Plan/計画) | 予算編成・予算設定をする |
---|---|
D(Do/実行) | 事業活動を実行する |
C(Check/測定) | 目標値と実績値を測定する |
A(Action/改善) | 目標と実績の乖離に対して改善する |
以下ではPDCAをまわす具体的な方法や注意点を解説します。
【PLAN】予算編成・予算設定をする
経営計画において設定した目標に対して、予算編成および予算設定を行いましょう。
目標の設定・予算設定はつまりゴールの設定を意味します。各部門・部署ごとにヒアリングやすり合わせを行い、現実的に達成できそうな目標設定を心がけます。
また、予算編成の方法はトップダウン方式とボトムアップ方式の2種類があります。どちらにもメリット・デメリットがあるので、両方を上手く組み合わせることが大切です。
トップダウン方式
経営企画など経営陣の判断や意向で予算を決定する方法です。経営陣という上層部から従業員という下層部へブレイクダウンします。
トップダウン方式だけでは、目標設定が高く見積もられる可能性が高く、従業員などの実働現場からすると現実的に達成が難しい目標になりがちです。
ボトムアップ方式
各部門の現場や従業員からの声明や意見を反映して予算計画を作成し、企業全体の予算を決定する方法です。従業員という下層部から上に対して予算を積み上げていきます。
経営陣にいない従業員だけの意見を上げるボトムアップ方式だけでは、経営方針にそぐわない予算になってしまう恐れがあります。
【DO】予算を基に事業活動を実行する
「Plan」で設定した予算目標をもとに実際に事業活動を行います。
予実管理で定期的に実績値を確認しながら、適宜修正・改善を施行しましょう。また、イレギュラー対応が必要になった場合にも早期に対応することが重要です。
【CHECK】予算で設定した目標値と実績値を測定する
事業活動を行うなかで、週次・月次で繰り返し見返し、目標値と実績値の乖離を発見しましょう。
細かく確認することで、大幅な乖離が発生してしまう前に、早期に問題点や課題を発見できます。
目標に向けて具体的にどう施策するのかを検討します。原因の追求や分析を怠らなければ、目標により近づける可能性が高まります。
【ACTION】予算目標と実績の乖離を確認し、改善策を検討する
「Check」で発見した課題や問題点の改善策を具体的に考え施行します。
どう軌道修正するかで今後の経営に大きく影響を及ぼすため、重要な役割となっています。
目標に対して差異は必ず発生します。達成(上振れ)または未達(下振れ)のどちらにしても、今後の経営戦略に必要な実績データとなるため、原因の分析や解析は行いましょう。また、判断に応じて予算目標の変更や調整を行う場合もあります。
予算管理システムを導入するメリットとデメリット
予算管理を行うなら、予算管理システムを導入すると正確で効率的な管理が叶うでしょう。
しかし、予算管理システムを導入することで発生するメリットとデメリットを理解しておく必要があります。
メリットとデメリットを理解すれば、自社への導入の必要性や、導入するならどんなシステムが合っているかなどの判断材料になります。
予算管理システムの機能
予算管理システムにはさまざまな機能が搭載されています。
具体的には以下のような機能があります。
- 予算計画
- ダッシュボード
- シミュレーション
- 分析
- レポート
- アクセス制御
- 監査ログ など
事業内容にもとづいて必要とする機能を吟味しましょう。
予算管理システムのメリット
予算管理システムのメリットは2つあります。
ひとつは予算管理のプロセスを可視化できることです。可視化することで現場ごとの業務を目視できます。もうひとつは、事業活動が経営計画通りに進行しているのかをリアルタイムでモニタリングできることです。
目標値と実績値の差を即座に確認できるため問題点を早期に発見でき、早急な対処を行えます。結果として効率的な事業活動の運用に役立つといえるでしょう。
予算管理システムのデメリット
予算管理システムのデメリットは、導入コストと運用コストが発生することです。導入するならコストパフォーマンスを重視すべきですが、初期投資の段階では実用後の効果が不明です。
また、自社ですでに運用している会計ソフトと予算管理システムが連動しない場合には、手動入力する必要が出てくるなど、逆に手間がかかり、非効率的なうえ、ヒューマンエラーなどの懸念も発生します。
費用を最小限に抑えたい企業にはクラウド型システムの導入がおすすめです。
予算管理と予実管理で効果的な経営判断をしよう!
予算管理と予実管理の違いを解説したうえで、具体的な運用手順をご紹介しました。予実管理とは、予算管理の一つであり、経営において重要な役割を担っています。
しかし、予算管理を効率的に行うには十分な人員と時間を要します。業務効率化・生産性の向上のためにも予算管理システムを導入し、適切で効果的な予算管理を実現しましょう。
マネーフォワードのクラウド型予算管理システムなら自社に合ったサービスを見つけられます。導入を検討中の企業の方はぜひ資料をチェックしてみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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