- 更新日 : 2025年2月20日
一人親方が経費にできるもの・できないものまとめ
一人親方が独立した当初に直面する大きな問題が確定申告です。売上額は請求書で確認できても「何を経費に入れればよいのか」といった、疑問や不安を抱く方もいるでしょう。今回は、一人親方が経費にできるものとできないものをまとめました。具体的なケースや仕訳例も紹介するため、はじめて確定申告される方や税金の知識が浅い人に役立つでしょう。
目次
一人親方が経費にできる主なもの
税金の負担を抑えるには、漏れなく経費を計上することがポイントです。所得税の課税対象である所得は、単純化すると「売上-経費-所得控除」で算出します。差し引く経費が増えるほど課税対象額が減るため、節税につながります。
一人親方が経費にできる主な項目は次のとおりです。
地代家賃
地代家賃はオフィスや店舗、駐車場などを借りたときに支払う賃料を記帳する項目です。事務所の賃料はもちろん個人の住宅を仕事場として使用している場合、その家賃も経費に算入できます。
ただし、経費として認められるのは事業と関連がある部分にとどまります。事業以外のプライベートな部分にかかる賃料は、経費から除外しなくてはいけません。事業に使用する広さや時間などを基準にし、業務上必要な経費を算出する処理が必要です。(家事按分)
仕訳では経費に入れられない私的な部分の賃料は事業主貸で処理します。
仕訳例)家賃100,000円のマンションで4部屋のうち1室を事業で使っている場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
地代家賃 事業主貸 | 25,000円 75,000円 | 普通預金 | 100,000円 | 事務所家賃 |
旅費交通費
旅費交通費とは業務を行うために必要な移動にかかる費用です。具体的には自動車のガソリン代・電車代・バス代・出張時の宿泊代・食事代などが該当します。遊びに行く際のタクシー代や電車賃など私的な交通費は除外します。
タクシー代や駐車場料金などは、後から見返したときに仕事で使ったものか判別がつかなくなりやすいです。旅費交通費に限らず、普段から領収書を事業用とプライベートに分けておきましょう。
交通系ICカードを使用する場合、経費算入が可能なのは実際に使った金額です。チャージした段階では経費ではないため注意してください。
仕訳例)出張のために飛行機代や在来線代、宿泊ホテル代など計50,000円を支払った
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
旅費交通費 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 | 出張代 |
材料費
仕事を行うための工具・備品の材料費も経費計上できます。仕訳で使用する勘定科目は基本的には消耗品費です。重機や建設機器など大型のものから、日曜文具まで広く含まれます。耐用年数が1年以上、購入金額が10万円以上のものは「工具器具備品」で処理します。
消耗品費は雑費と混同しやすいですが、雑費とはどの科目にも該当しない少額の費用を計上する勘定科目です。勘定科目として材料費も存在しますが、こちらは主に製造業で原料を調達した際に使う勘定科目です。
仕訳例)業務に使用するコピー機のトナーを10,000円で購入した
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 | コピー機のトナー |
水道光熱費
水道光熱費にはオフィスや事務所の電気代・ガス代・水道代などが該当します。飲食店や美容室など店舗型のビジネスを経営されている方は、その建物で生じた水道高熱費を全額経費に入れられます。
自宅兼事務所の場合、例によって家事按分が必要です。スペースごとに正確な金額を把握するのは難しいので、一般的には使用時間や使用日数を基準に按分します。
自宅兼事務所で毎日12時間部屋の電気を使用していて、うち6時間を仕事で使っているときの仕訳は以下のとおりです。
仕訳例)1ヵ月の電気料金が20,000円、仕事で毎日6時間使用した場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
水道光熱費 事業主貸 | 5,000円 15,000円 | 普通預金 | 20,000円 | 電気料金 |
通信費
仕事上の通信や連絡に関わる費用は、通信費で処理します。通信費に含まれるのは、固定電話代・携帯電話代・ファックス代などが該当し、日常的な費用が多く使用頻度の高い勘定科目です。
パソコンやインターネット関連費用も通信費の範疇です。仕事用のホームぺージを持っている場合、維持管理に要する費用も全額経費になります。
自宅兼事務所で自宅の固定電話を仕事にも使用しているときは、家事按分の処理が必要です。
仕訳例)事業専用の固定電話料金10,000円を支払った
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
通信費 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 | 固定電話料金 |
上記仕訳例は事業用途のみの通信費の仕訳です。家事按分を行う場合、プライベートな部分は事業主貸という勘定科目を使用します。
車両費
自動車の購入費用・ガソリン代・洗車代・税金・損害保険料など、車両に関する費用を広く処理できる勘定科目です。経費計上が認められるのは事業に関係する車両に限定されています。
車に関する費用が経費になるかの線引きは他の費目と同様、事業の継続に必要かどうかです。家族名義の車両でも事業に使用したときに経費として認められた判例があり、個別具体的な判断が下されます。
一人親方(個人事業主)の場合、事業専用車両を保有しているケースは少ないと思われます。プライベートと併用しているときは家事按分によって、仕事のために使用した部分のみ経費計上可能です。
仕訳例)事業に要する車両のガソリン代5,000円を支払った場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
車両費 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 | ガソリン代 |
接待交際費
接待交際費は懇親会費用やタクシー代、贈答品の購入費など取引先と円滑な関係を作るための活動にかかる費用のことです。プライベートの飲み会で生じた費用を接待交際費に入れるのはNGです。
法人では損金に計上可能な接待交際費に上限額が設定されているのですが、個人事業主の場合は際限なく経費にできます。
接待交際費はプライベートな飲食との境目が付きづらく、税務署からのチェックが厳しくなる傾向はあります。上限がないからといって、むやみやたらと懇親会に交際費を計上すると、申告時に疑われかねないため注意しましょう。
仕訳例)取引先へのお土産代5,000円を現金で支払う場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
接待交際費 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 | お土産代 |
組合費
一人親方専用の特別加入団体に加入することで、労災保険の補償を受けられます。また、特別加入団体の入会金・組合費・事務手数料は経費算入が可能です。
会社員の場合、原則として雇用先で労災保険に加入します。しかし一人親方は会社の従業員ではないため、原則として労災保険の適用を受けられません。
一人親方は何もしていないと業務で病気やケガをした際の補償制度がなく、非常に不安定な働き方を強いられます。上記の問題を解決するための救済制度が、一人親方専用の特別加入団体です。
仕訳例)事業用の口座から組合費(労災保険料)15,000円を支払った場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 15,000円 | 普通預金 | 15,000円 | 組合費 |
専従者給与
自らが営む事業の従業員として配偶者や一定の親族を雇っている場合、その給与が経費になるケースがあります。家族への給与は基本的には経費にならないのですが、所得税法に定める条件を満たせばOKです。
青色申告と白色申告のどちらを採用しているかで、要件が若干異なります。青色申告で専従者給与を経費に入れるためには以下の条件が必要です。
- 青色事業専従者給与にかかる届出を提出していること
- 生計を一にする配偶者、もしくは15歳以上の親族であること
- 適正な金額であること
- 6ヵ月以上事業に従事していること
仕訳例)専従者(妻)に対して専従者給与100,000円を現金で支給した場合
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
専従者給与 | 100,000円 | 現金 | 100,000円 | 専従者給与 |
一人親方で経費にできないもの
企業は新年会・忘年会の費用や慶弔見舞金など従業員の生活安定に資する費用を、福利厚生費として経費計上できます。
一人親方の場合、上記のような扱いは認められていません。福利厚生費は、あくまでも従業員のための支出なので、社員がいない一人親方では認められないのが基本です。家族を従業員として雇っている場合も、専従者の扱いとなるため福利厚生費を計上できません。
ただし、一人親方でも一定の条件を満たせば、福利厚生費の計上が認められる余地はあります。たとえば、将来的に事業を拡大して新たに社員を雇い入れるときです。
福利厚生費を計上するためには、社会通念上妥当な金額で、かつ全従業員が平等に利用できる必要があります。特定の役員や従業員のみ対象の支出はNGです。健康診断の費用を福利厚生費にしたい場合は、全員に対して実施しなくてはいけません。
異常な高額だと税務調査で怪しまれる場合があります。極端な高額ではなく一般的な金額のみ計上するようにしてください。
一人親方の経費の平均はどれくらい?
一人親方の経費割合は、業種や事業形態によって異なります。総務省の「2023年(令和5年)個人企業経済調査」によると、建設業の個人企業における売上高営業利益率は約19.2%です。これは、売上の約80.8%が経費であることを意味します。
一方で、CICC(建設産業経理研究所)の「建設業の経営分析(令和5年度)」では、建設業全体(法人企業を含む)の売上高営業利益率は3%台に低下したと報告されています。
このデータを比較すると、一人親方の方が法人企業に比べて利益率が高く、経費率が低い傾向にあることがわかります。 しかし、安定した経営を維持するためには、適切な経費管理が不可欠です。
ここからは、一人親方の経費管理のポイントを解説し、適切なコスト削減や節税対策を通じて、さらに経費率を下げ、利益率を向上させる方法をご紹介していきます。
一人親方の経費を最大限に活かすための節税対策
一人親方が事業を継続し、安定した収益を確保するためには、適切な節税対策が欠かせません。経費を正しく計上し、税制上の特典を活用することで、納税額を抑えつつ手元資金を最大化できます。
ここでは、青色申告による控除の活用、家賃や光熱費の家事按分、減価償却の適用といった具体的な節税方法を解説します。
青色申告で控除を活用する
青色申告を選択すると、最大65万円の特別控除を受けることができます。ただし、この控除を適用するには、税務署への事前申請が必須です。また、電子申告の実施と複式簿記による帳簿作成も求められます。
また、30万円未満の資産は「少額減価償却資産の特例」を利用すれば、一括経費計上が可能です(中小企業者等が対象)。
さらに、「青色事業専従者給与」を利用すれば、家族への給与を経費化できます。ただし、こちらも事前に届出書の提出が必要で、実際に業務へ従事していることが条件となります。
家賃・光熱費の一部を経費にする(家事按分)
自宅の一部を事務所として使用する場合、家賃や光熱費の一部を事業経費として計上できます。これを「家事按分」といい、使用割合に応じて経費として認められます。
たとえば、自宅の10%を事業用スペースとして利用している場合、家賃や電気代・ガス代の10%を経費として計上可能です。按分の割合は業務実態に基づいて決める必要があり、過度な経費計上は税務調査で否認されるリスクがあるため、注意が必要です。
合理的な按分割合を設定し、計算の根拠を記録しておくことで、適正な経費計上が可能になります。
減価償却を活用する
減価償却とは、事業で使用する設備や車両などの高額な資産の購入費用を、数年間に分けて経費として計上する方法です。
たとえば、100万円の機械を購入した場合、一度に全額を経費にするのではなく、法定の耐用年数(例えば5年)に応じて毎年20万円ずつ経費として計上していきます。
この仕組みを利用すると、高額な支出を一度に計上せずに済むため、毎年の経費が均等になり、利益の大きな変動を防げます。また、適正な減価償却を行うことで、資産の価値を正確に管理し、税務上のリスクを回避することが可能です。
対象となる資産には、事業用の工具・機械、事業用車両、事務所や倉庫(建物部分のみ)などがあります。 一方、消耗品や少額の備品は、購入した年に全額を経費計上できる場合があります。
減価償却の方法や適用条件を正確に理解し、正しく計上することで、税負担を時間的に分散しながら安定した事業運営が可能となります。
一人親方が経費を適切に管理するポイント
安定した事業運営には、経費の管理が欠かせません。経費を適切に記録・管理することで、確定申告時の負担を減らし、税務調査のリスクを低減できます。ここでは、一人親方が効率よく経費を管理するためのポイントを紹介します。
領収書・レシートを必ず保管する
経費の証拠として、領収書やレシートの保管は必須です。 これらの書類がないと、税務調査の際に経費として認められない可能性があります。
領収書は、支払日・金額・支払先・用途 を確認し、整理して保管しましょう。紙の領収書はファイルや封筒にまとめ、電子データの保存が可能な場合はスキャンしてクラウド上に保管すると管理しやすくなります。
また、電子帳簿保存法に対応したアプリやクラウドサービスを活用すると、手間を省きつつ法令に準拠した管理が可能です。
事業用とプライベート用のお金を分ける
個人事業主は、事業用の資金とプライベートの資金を明確に区分することが大切です。 この区分を怠ると、経費の集計が複雑になり、確定申告時に混乱を招きかねません。
実践すべき対策として、以下が挙げられます。
- 事業専用の銀行口座を開設する
- 事業用クレジットカードを準備する
- 経費の支払いは事業用口座・カードを活用する
このような管理体制を整えることで、支出を事業経費として整理する作業が容易になり、確定申告や税務調査の際にも説明がスムーズになります。
スマホアプリ、会計ソフトを活用する
スマホアプリや会計ソフトを活用することで、経費管理の負担を大幅に軽減できます。特に、クラウド型会計ソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードと連携し、自動で経費を分類・記録することが可能です。
スマホアプリを活用するメリットは以下のとおりです。
- 領収書を撮影するだけでデータ化できる
- 銀行口座・クレジットカードの取引を自動取得できる
- 確定申告書類を自動作成できる機能も搭載されている
近年提供されているクラウド会計ソフトは、一人親方にも使いやすく、税務申告の準備をスムーズに行えます。手作業での経費管理は手間がかかるため、早めにデジタルツールを導入し、業務効率を向上させましょう。
一人親方が経費に入れられる項目は多い
地代家賃・旅費交通費・材料費・水道光熱費・通信費のように、一人親方が経費にできる費用は少なくありません。もれなく経費を計上し、所得額を抑えるのが節税につなげるポイントです。
事業用とプライベートにまたがって拠出する項目の場合、家事按分の処理が必要なことにも注意が必要です。自宅兼事務所で働いている方は、時間や使用日数などを基準に按分割合を定めましょう。
従業員がいない一人親方の場合、福利厚生費という概念がありません。取引先との懇親会や健康診断の費用は経費算入不可です。
よくある質問
一人親方が経費にできるのはどんなもの?
一人親方が経費にできる主な項目は「地代家賃」「旅費交通費」「材料費」「水道光熱費」「通信費」「車両費」「接待費」「交通費」「専従者給与」です。詳しくはこちらをご覧ください。
一人親方が経費にできないのはどんなもの?
慰安旅行や新年会等、福利厚生に関する費用は経費算入不可です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
小口現金はいくらまで設定できる?上限設定のポイントや適正額の算出方法を解説
小口現金とは、企業が日常業務における少額な経費の支払いをスムーズに行うために用意する現金のことです。ただし、小口現金をきちんと管理できていない場合には、不正や盗難などのリスクも高まるため注意が必要です。本記事では、小口現金の管理方法や導入の…
詳しくみる社員が経費精算しない理由は?時効や効果的な対策を解説
社員が経費計算をしない理由としては、申請が面倒であったり、期限に間に合わなかったりすることが挙げられます。しかし、社員が経費精算をしないことは企業にとって問題があり、対策を講じなければなりません。 本記事では、社員が経費精算しない理由や対策…
詳しくみる交通費精算のルールとは?作成のポイントや精算書のテンプレートを紹介
経費精算のルールは、企業が従業員の経費申請を管理し、適切に精算するための取り決めです。適切なルールの策定により無駄な経費の削減や不正受給の防止、法的リスクの回避が可能になります。 本記事では、交通費精算の基本ルールや、交通手段別のルール策定…
詳しくみる経費精算規定(ルール)作成のポイントや注意点
経費精算規定(ルール)とは、経費精算の上限や経費精算の基準などを定めた社内規定です。社員の経費精算の公平性などを確保するためにも、社内で経費精算規定を作成するのが望ましいといえます。この記事では、経費精算規定の重要性と規定によくある項目の紹…
詳しくみる証憑書類とは?経費精算時に証憑になる領収書とは?
証憑書類は、税法上でも請求書や領収書などをはじめとして保存義務が定められている書類です。取引の事実を示す書類であることから、経費精算時においても重要視されています。この記事では、証憑書類の種類、作成目的や保存目的、保存方法や保存期間について…
詳しくみる小口精算とは?経費精算は給与振込でやるべき?
少額の精算のために社内に用意された小口現金による経費精算を小口精算といいます。経費精算の方法には、小口精算のほかに都度振込や給与振込時の精算などの方法がありますが、どの方法を用いるのがよいのでしょうか。 この記事では、小口精算のメリットやデ…
詳しくみる