- 更新日 : 2024年8月8日
農業簿記とは?一般の簿記との違いや特有の勘定科目などを解説
農業簿記とは農業を営む個人事業主や農業法人向けの会計の手法です。農産物を生産して販売し、売上が生じている場合には農業簿記をつけることができます。一般的な簿記とは何が異なるのか、また、農業簿記に用いる勘定科目には何があるのかまとめました。農業簿記検定を取得するメリットについても説明するので、ぜひ参考にしてください。
目次
農業簿記とは
農業簿記とは、農業を営む方向けの簿記の手法です。農作物の種類に関わらず、生産や販売により農業所得を得ている場合は農業簿記をつけておくことが求められます。
また、農業簿記が必要なのは農業法人だけではありません。個人事業主として農業により所得を得ている方にとっても必要です。農業簿記には「種苗費」や「飼料費」、「農薬衛生費」などの一般の簿記にはない農業に特化した勘定科目があるため、より支出を明確に分類することができます。
農業簿記と通常の簿記との違い
農業簿記と通常の簿記には、次のポイントが異なります。
- 勘定科目
- 棚卸しの方法
- 確定申告時の書式
- 生物資源の取扱
それぞれの違いについて、わかりやすく解説します。
勘定科目が異なる
農業簿記では、通常の簿記に使用しない勘定科目を使うことがあります。例えば、生産資材の経費を「種苗費」「素畜費」「農薬衛生費」などの勘定科目で仕訳をすることができます。
他にも農業共済に加入している場合であれば「農業共済掛金」の勘定科目で掛金の仕訳が可能です。利用できる勘定科目や該当する費用については、後で詳しく解説します。
棚卸しの方法が異なる
年度末に手元に残っている生産資材や在庫は、棚卸しをして帳簿に記録をつけます。通常の簿記では「商品」などの勘定科目を使ってまとめて棚卸しを行いますが、農業簿記では在庫の種類によって次の4つの勘定科目に分けることが一般的です。
| 勘定科目 | 内容 | 対象となるもの |
|---|---|---|
| 農産物 | 販売を目的として生産したもの | ・収穫済みの農産物のうち、在庫として区分できるものなど |
| 仕掛品 | 生産のために栽培中あるいは育成中のもの | ・栽培中あるいは未収穫の農産物 販売目的で飼育している動物など |
| 原材料 | 生産を目的として費消されるもの | ・種子 ・肥料、農薬 ・飼料、冷凍精液など |
| 貯蔵品 | 生産と販売以外の目的で貯蔵されるもの | ・燃料 ・梱包や包装につかうもの ・収入印紙など |
確定申告時の書式が異なる
確定申告の際に提出する決算書・収支内訳書は、農業簿記では専用の書式を用います。また、農業以外の所得がある場合は、農業所得とは区分けして売上や経費をまとめます。
ちなみに青色申告の標準的な簡易帳簿は次の6点です。
| 簡易帳簿 | 記載する内容 |
|---|---|
| 現金出納帳 | 農業に用いた現金の出し入れ状況。取引順に記載する。 |
| 売掛帳 | 農産物などを販売し、代金が未収の取引や未収代金を受け取った取引。 |
| 買掛帳 | 農業で生じた費用のうち、代金が未払いの取引や未払い代金を払った取引。 |
| 経費帳 | 農業で生じた費用。水道光熱費や租税公課などの勘定科目ごと、あるいは支払った方法(現金、小切手、現物など)に分けて記載する。 |
| 固定資産台帳 | 農業用の減価償却資産や繰延資産。資産の取得や異動についても記載する。 |
| 農産物受払帳 | 農産物を収穫したときの年月日や農産物の種類、数量など。消費税課税事業者は軽減税率の対象となる取引があるときは区分して記載する。 |
生物資源の取扱が異なる
果樹や搾乳牛などの生物資源については、「生物」の勘定科目で減価償却を行います。生産活動を開始するまでに要した育成費用は固定資産の取得金額とし、毎年度末に育成期間中の果樹・家畜にかかった費用総計を「育成仮勘定」という仮置きの固定資産に振り替える処理が必要です。
また、年度中に生産活動を開始した果樹・家畜に関しては、「育成仮勘定」から「生物」に振り替えた上で、減価償却の対象として管理を開始します。
農業簿記特有の勘定科目
農業簿記特有の勘定科目には、次のものがあります。
| 勘定科目 | 内容 |
|---|---|
| 小作料・賃借料 | ・農地や農機具の賃借料 ・農地以外の土地や建物の賃借料 ・賃耕料 ・農業協同組合などの共同施設を利用したときの利用料 |
| 種苗費 | ・種もみや苗類、種イモなどの購入費用(自給分に関しては、収穫したときの価額に換算して記載する) |
| 素畜費 | ・子牛や子豚、ひななどの取得費、種付け料 |
| 肥料費 | ・肥料の購入費用 |
| 飼料費 | ・飼料の購入費用 |
| 農具費 | ・使用可能な期間が1年未満、あるいは取得価額が10万円未満の農具の購入費用※ |
| 農薬衛生費 | ・農薬の購入費用 ・共同防除作業をしたときの費用(自己負担分) |
| 農業共済掛金 | ・水稲や果樹、家畜などにかかる共済掛金 |
| 土地改良費 | ・土地改良にかかった費用 ・客土の購入費用 |
| 委託費用 | ・農具などを用いた作業を委託する場合に請求された費用 |
※農具の取得価額が10万円未満かどうかは、適用している経理方式によって異なります。例えば税抜き98,000円(税込み107,800円)の農具を購入した場合、税込み経理方式のときは資産として扱いますが、税抜き経理方式のときは農具費としてまとめて経費計上します。
なお、農具の取得費用が10万円以上であったときは資産として扱います。10万円以上20万円未満のときは、減価償却をせずに1/3ずつに分けて3年間かけて必要経費として処理することが可能です。
農業簿記検定とは
農業簿記検定とは、一般社団法人 全国農業経営コンサルタント協会による監修のもと、日本ビジネス技能検定協会が実施している検定です。1、2、3級の3種類があり、いずれの級も総得点の70%を基準に合否が決まります。なお、難易度については公表されていませんが、公式テキストや問題集も販売されているので、受験対策に活用することができます。
農業簿記検定は年に2回実施され、原則として1回目は7月の第1日曜日、2回目は11月の第4日曜日です。実施回数が多いわけではないため、複数の試験をまとめて受けることも検討できます。ただし、2級と3級の併願は可能ですが、1級と2級、あるいは1級と3級の併願はできません。
受験資格は不問で、学歴や年齢、国籍に制限はありません。また、試験はいずれもマークシートによる選択式です。計算問題もあるため電卓を携行することは可能ですが、スマートフォンのように通信機能が搭載されている機器は使用できません。
| 級 | 試験設問数 | 試験時間 | 科目 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 50問 | 120分 | 財務会計、原価計算、管理会計 |
| 2級 | 25問 | 120分 | 財務会計、原価会計 |
| 3級 | 25問 | 90分 | 財務会計 |
農業簿記検定を取得するメリット
農業簿記検定を取得することで、財務会計や管理会計について学ぶ機会を得るため、経営状態をより詳細に把握できます。また、労務管理と連動し、より効率性の高い経営を実現できるでしょう。取得した知識を農業団体や個人の農業経営に役立てれば、地域農業の活性化にもつながります。
農業簿記についての知識を習得しよう
農業簿記についての正確な知識を習得することで、正しく経理処理ができるだけでなく、農業経営を見直し、より効率的な経営管理を実現することができます。農業簿記検定などの受験も検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
農業簿記とは?
農業に従事している方や農業法人向けの簿記の方法です。農業の生産・販売に携わる方が実施します。詳しくはこちらをご覧ください。
農業簿記と通常の簿記との違いは?
勘定科目や棚卸しの方法、確定申告時に用いる決算書や収支内訳書の書式、生物資源の取扱い方が異なります。独自の勘定科目もあるので、記載する内容も含め、覚える必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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