- 更新日 : 2026年7月23日
農業簿記とは?商業簿記との違いと農業会計の勘定科目を解説
農業簿記は、一般的な簿記の仕組みをもとに、取引の性質に合わせた専用の勘定科目や棚卸し方法、決算書様式を用いるのが特徴です。
専用の処理に慣れるまでは判断に迷う場面が多くなりがちです。
農業簿記とは農業を営む個人事業主や農業法人向けの会計手法であり、農業会計とも呼ばれます。種苗費や農薬衛生費といった農業特有の勘定科目を用いるため、通常の簿記とは仕訳の判断や棚卸しの方法が異なります。この記事では一般的な簿記との違い、特有の勘定科目、農業簿記検定の概要までを順に解説します。
目次
農業簿記とは?
農業簿記とは、農業を営む方向けの簿記の手法です。農作物の種類に関わらず、生産や販売により農業所得を得ている場合は所得を適切に計算するための帳簿・書類の作成と保存が求められます。
また、農業簿記が必要なのは農業法人だけではありません。個人事業主として農業により所得を得ている方にとっても必要です。農業簿記には「種苗費」や「飼料費」、「農薬衛生費」などの一般の簿記にはない農業に特化した勘定科目があるため、より支出を明確に分類することができます。
参照:No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)|国税庁
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農業簿記と通常の簿記との違い
農業簿記と通常の簿記には、勘定科目・棚卸し・申告書式・果樹や家畜の取扱いの違いがあります。
- 勘定科目
- 棚卸しの方法
- 確定申告時の書式
- 果樹や家畜の取扱
それぞれを押さえると、農業特有の処理に迷いにくくなります。
勘定科目が異なる
農業簿記では、一般に、通常の簿記にはない農業特有の勘定科目を使って仕訳します。
生産資材にかかる経費を、種苗費・素畜費・農薬衛生費などの勘定科目で整理することができます。農業共済に加入している場合は、「農業共済掛金」という独自の科目で掛金の仕訳が可能です。利用できる勘定科目や該当する費用については、後ほど詳しく解説します。
棚卸しの方法が異なる
通常の簿記では「商品、製品、仕掛品、原材料」等の科目で棚卸しを実施する一方、農業簿記では在庫の種類に応じて4つの科目に分けます。
年度末に手元に残っている生産資材や在庫は、棚卸しを行って帳簿に記録します。在庫を性質ごとに分類することで、農産物・育成中の作物・原材料・補助的な貯蔵品をそれぞれ独立した数字で確認できるようになります。
| 勘定科目 | 内容 | 対象となるもの |
|---|---|---|
| 農産物 | 販売を目的として生産したもの | ・収穫済みの農産物のうち、在庫として区分できるものなど |
| 仕掛品 | 生産のために栽培中あるいは育成中のもの | ・栽培中あるいは未収穫の農産物 販売目的で飼育している動物など |
| 原材料 | 生産を目的として費消されるもの | ・種子 ・肥料、農薬 ・飼料、冷凍精液など |
| 貯蔵品 | 生産と販売以外の目的で貯蔵されるもの | ・燃料 ・梱包や包装につかうもの ・収入印紙など |
確定申告時の書式が異なる
確定申告時に提出する決算書と収支内訳書は、農業簿記では農業所得専用の書式を用います。
農業以外の所得がある場合は、農業所得とそれ以外の所得を分けて売上や経費を整理します。
また、農業所得の記帳では、取引内容に応じて次のような帳簿を使用します。必要となる帳簿は、青色申告特別控除の適用要件や取引内容によって異なります。
| 簡易帳簿 | 記載する内容 |
|---|---|
| 現金出納帳 | 農業に用いた現金の出し入れ状況。取引順に記載する。 |
| 売掛帳 | 農産物などを販売し、代金が未収の取引や未収代金を受け取った取引。 |
| 買掛帳 | 農業で生じた費用のうち、代金が未払いの取引や未払い代金を払った取引。 |
| 経費帳 | 農業で生じた費用。水道光熱費や租税公課などの勘定科目ごと、あるいは支払った方法(現金、小切手、現物など)に分けて記載する。 |
| 固定資産台帳 | 農業用の減価償却資産や繰延資産。資産の取得や異動についても記載する。 |
| 農産物受払帳 | 農産物を収穫したときの年月日や農産物の種類、数量など。消費税課税事業者は軽減税率の対象となる取引があるときは区分して記載する。 |
生物資源の取扱が異なる
果樹や搾乳牛などの生物資源は、「生物」という勘定科目で減価償却の対象として扱うこともあります。
生産活動を開始するまでにかかった育成費用は固定資産の取得金額として記録し、年度末ごとに育成期間中の果樹や家畜にかかった費用の総計を「育成仮勘定」という仮置きの固定資産に振り替えます。年度中に生産活動を開始した果樹や家畜は、原則として育成仮勘定から生物に振り替えたうえで、減価償却の対象として管理を開始します。
農業簿記特有の勘定科目
農業簿記特有の勘定科目には、農業ならではの取引を整理するためのものが揃っています。費目を理解しておくと、仕訳の判断がしやすくなります。
| 勘定科目 | 内容 |
|---|---|
| 小作料・賃借料 | 農地や農機具の賃借料、農地以外の土地や建物の賃借料、賃耕料、農業協同組合などの共同施設を利用したときの利用料 |
| 種苗費 | 種もみや苗類、種イモなどの購入費用(自給分は収穫したときの価額に換算して記載する) |
| 素畜費 | 子牛や子豚、ひななどの取得費、種付け料 |
| 肥料費 | 肥料の購入費用 |
| 飼料費 | 飼料の購入費用 |
| 農具費 | 使用可能な期間が1年未満、あるいは取得価額が10万円未満の農具の購入費用 |
| 農薬衛生費 | 農薬の購入費用、共同防除作業をしたときの費用(自己負担分) |
| 農業共済掛金 | 水稲や果樹、家畜などにかかる共済掛金 |
| 土地改良費 | 土地改良にかかった費用、客土の購入費用 |
| 委託費用 | 農具などを用いた作業を委託する場合に請求された費用 |
なお農具の取得価額が10万円未満かどうかは、適用している経理方式によって取り扱いが変わります。たとえば税抜き98,000円(税込み107,800円)の農具を購入した場合、税込み経理方式では資産として扱いますが、税抜き経理方式では農具費としてまとめて経費計上することが可能です。
取得費用が10万円以上の農具は、原則として資産として処理します。10万円以上20万円未満の場合は、1/3ずつに分けて3年間で必要経費として償却処理する方法も選択できます。
農業簿記検定とは
農業簿記検定とは、農業に関わる会計知識を体系的に学べる検定試験です。一般社団法人 全国農業経営コンサルタント協会の監修のもと、日本ビジネス技能検定協会が実施しています。
検定は1級・2級・3級の3種類があり、いずれの級も総得点の70%を合格基準としています。試験対策には公式テキストや問題集も販売されており、活用すれば効率的に学習を進められます。
検定は原則として年に2回実施され、1回目は7月の第1日曜日、2回目は11月の第4日曜日に行われます。実施回数が限られるため、複数の級をまとめて受けることも検討できます。なお、1級と2級の併願はできませんが、2級と3級の併願は可能です。
受験資格は不問で、学歴や年齢、国籍に制限はありません。試験はいずれもマークシートによる選択式で、計算問題もあるため電卓を持ち込めますが、スマートフォンのように通信機能のある機器は使用できません。
| 級 | 試験設問数 | 試験時間 | 試験科目 |
|---|---|---|---|
| 1級 | 50問 | 120分 | 財務会計、原価計算、管理会計 |
| 2級 | 25問 | 120分 | 財務会計、原価計算 |
| 3級 | 25問 | 90分 | 財務会計 |
検定料金は1級5,280円、2級2,750円、3級1,980円となっています。なお、2027年度に実施される検定試験から一部の受験料が改定される予定です。
農業簿記検定を取得するメリット
農業簿記検定の取得には、経営の見える化や労務管理への応用、地域への貢献といった効果が見込めます。検定を通じて学ぶ知識は、農業経営の現場で活かしやすい構成になっています。
経営状態を数字で見える化できる
検定で身につく財務会計や管理会計の知識は、経営状態を数字でとらえる力につながります。
帳簿や損益計算書を正しく作成できれば、自分の経営の数字を客観的に見られるようになります。青色申告で最大65万円の特別控除を受けることで節税にもつながるため、個人事業主の農家にとって取り組む価値が高い領域です。
労務管理にも応用できる
雇用を伴う農業経営では、一般企業と同様に労務管理の知識が求められます。
家族経営から従業員を雇う形態へと広がるなかで、給与計算や社会保険の手続きなど、簿記とつながる労務分野の理解が役立ちます。法人化や規模拡大を視野に入れている場合は、検定で得た知識を実務にそのまま活かせる場面が増えていきます。
地域農業の活性化に貢献できる
自分の経営に活かすだけでなく、周囲の農家へのアドバイスを通じて地域の農業を支えられます。
身近な農家と関わって経営や帳簿付けに関する助言を行えば、地域全体の農業経営の質を底上げできます。コンサルティング的な立場で関わることで、後継者の育成や新規就農者の支援にもつながります。
農業簿記でも課題となる勘定科目の判定
株式会社マネーフォワードが独自に実施した調査にて、仕訳作業の工程において最も工数がかかっている作業を尋ねたところ、最も多かったのは「適切な勘定科目や消費税区分(課税・非課税等)の判定」で、36.8%でした。次いで「銀行明細やクレジットカード明細と帳簿の突合作業」で、34.5%となっています。
システムを活用して農業簿記の経理業務を効率化
農業簿記には「種苗費」や「素畜費」「農薬衛生費」など、一般の簿記にはない特有の勘定科目が多数存在します。そのため、日々の帳簿付けにおいてどの科目に該当するかの判断に迷う場面が多くなり、結果として経理業務の負担が増加しやすい傾向にあります。 経理業務の工数を削減し、本業である農業に専念するためには、クラウド会計ソフトなどのシステムを導入することが有効です。システムの自動推測機能などを活用して勘定科目の判定を効率化することで、より正確でスムーズな経営管理を実現できます。
出典:マネーフォワードクラウド、仕訳作業の工程において最も工数がかかっている作業【勘定科目に関する調査データ】(回答者:仕訳業務に関与している707名、集計期間:2026年3月実施)
農業簿記の理解で農業経営を効率化しよう
農業簿記とは、農業を営む個人事業主や農業法人が用いる会計手法で、農業会計とも呼ばれます。種苗費や農薬衛生費などの特有の勘定科目、農産物の在庫を細かく区分する棚卸し、農業所得専用の決算書様式など、通常の簿記とは異なる処理を行うのが特徴です。
日々の記帳を続けることで、確定申告や補助金申請、経営判断にも活用できる帳簿が整います。専門的な領域でもあるため、必要に応じてクラウド会計ソフトを取り入れながら、無理なく経理業務に取り組んでいきましょう。
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よくある質問
農業簿記とは?
農業に従事している方や農業法人向けの簿記の方法です。農業の生産・販売に携わる方が実施します。詳しくはこちらをご覧ください。
農業簿記と通常の簿記との違いは?
勘定科目や棚卸しの方法、確定申告時に用いる決算書や収支内訳書の書式、生物資源の取扱い方が異なります。独自の勘定科目もあるので、記載する内容も含め、覚える必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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