- 更新日 : 2025年2月19日
セール・アンド・リースバック取引の会計処理と仕訳をわかりやすく解説
保有する不動産の有効活用を進める企業も増えてきています。セール・アンド・リースバック取引による不動産の有効活用と資金調達も、不動産有効活用の方法のひとつです。この記事では、セール・アンド・リースバック取引の内容と会計処理の方法、注意点についてそれぞれ解説していきます。
目次
セール・アンド・リースバック取引とは
セール・アンド・リースバック取引とは、上の図のように、所有する物件の売却(セール)を行ったあと、同物件について賃貸契約(リース契約)を結び、引き続き同物件を利用できるようにする取引を指します。所有する不動産を中心に企業でも取り入れられているスキームで物件の売却によって資金調達ができる一方、賃貸料を支払うことで、一定期間、物件の利用を継続できるのが特徴です。
なお、セール・アンド・リースバック取引を行うことによって、賃貸契約による賃貸料が発生することにはなりますが、物件の所有者ではなくなるため、物件を管理維持するための修繕費や税金の支払いはなくなります。さらに、物件の売却によって手元資金が増えることもあり、キャッシュフローの改善やコスト管理の簡素化などに有効な方法です。
セール・アンド・リースバック取引の会計処理の流れ
セール・アンド・リースバック取引は、リース取引を含んだ取引です。そのため、通常のリース取引と同様に、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に区分して会計処理を行います。ここでは、金融会社やリース会社などのセール・アンド・リースバック取引を業として行っている会社側の会計処理ではなく、一般企業での会計処理を想定して、物件を売却する側の会計処理を取り上げます。
セール・アンド・リースバック取引を引き受ける金融会社やリース会社のリース取引部分の会計処理については、以下の記事を参照ください。
ファイナンス・リース取引に該当する場合
ファイナンス・リース取引は、資産を取得したときと、ほぼ同等の性質があるリース取引を指します。セール・アンド・リースバック取引のリース部分がファイナンス・リース取引に該当するときは、以下のような流れで会計処理を行います。
ファイナンス・リース取引については、以下の記事を参照ください。
物件の売却時
(例)期首において、取得価格5,000万円の鉄筋コンクリートの建物(期首における減価償却累計額3,000万円で間接法により減価償却を行っている)をセール・アンド・リースバック取引で売却した。また、売却により1,500万円が当座預金に入金された。
通常の資産売却の仕訳とほとんど同じですが、売却損の全額を長期前払費用(売却益は長期前受収益)に計上する点が、通常と異なります。
物件のリース時
(例)セール・アンド・リースバック取引により、売却した物件のリースを開始した。リース料総額(毎月30万円前払いの5年契約)の割引現在価値は14,500,000円であった。リース契約にともない、1回目の家賃の支払いも当座預金より行っている。
リース開始時には、リース資産とリース債務の両建処理を行い、リース支払時にリース債務を取り崩していきます。今回のケースでは、リース料の支払いは前払いなので1回目の利息は発生しませんが、2回目以降は支払額とリース債務の差額を支払利息として計上します。
また、期末時には、売却時に計上した長期前払費用(または長期前受収益)と合わせて、リース資産の減価償却を行います。
リース資産の減価償却については、以下の記事を参照ください。
オペレーティング・リース取引に該当する場合
ファイナンス・リース取引に該当しないリース取引は、オペレーティング・リース取引で会計処理します。オペレーティング・リース取引では、売却とリース、それぞれ個々の契約として扱うのがポイントです。
物件の売却時
(例)期首において、取得価格5,000万円の鉄筋コンクリートの建物(期首における減価償却累計額3,000万円で間接法により減価償却を行っている)をセール・アンド・リースバック取引で売却した。また、売却により1,500万円が当座預金に入金された。
オペレーティング・リース取引の売却時の仕訳は、通常の資産売却の仕訳と同じです。
物件のリース時
(例)セール・アンド・リースバック取引により、売却した物件のリースを開始した。毎月20万円前払いの5年間のリース契約で、オペレーティング・リース取引に該当する。契約にともない、1回目のリース料を当座預金より支払った。
オペレーティング・リース取引では、リース料支払いの都度、費用計上します。
セール・アンド・リースバック取引の注意点
セール・アンド・リースバック取引は、会計処理の部分でも説明したように、ファイナンス・リース取引に該当するかどうかで仕訳や会計処理が異なります。ファイナンス・リース取引の条件は、解約不能(解約不能に準ずる取引を含む)であることと、フルペイアウトであることです。セール・アンド・リースバック取引の会計処理を行う際は、リース取引の区分と条件についても確認しておきましょう。
フルペイアウトについては、以下の記事を参照ください。
また、セール・アンド・リースバック取引で子会社などに物件を転リース(リースした物件を第三者に転貸借)するときは、会計処理の方法が少し変わってきます。具体的には、リース料の受け取りと支払いを相殺して、差額を手数料収入として扱います。また、以下の条件をすべて満たすときは、売却時の損益(固定資産売却損など)を繰延処理(長期前払費用、長期前受収益)しなくて良い点もおさえておきましょう。
- おおむね同一の条件で転リースしている
- ファイナンス・リース取引に該当する
- 取引実態で売買損益の実現が行われたと判断される
セール・アンド・リースバック取引の概要と会計処理をおさえよう
セール・アンド・リースバック取引は一見、複雑な取引に見えるかもしれません。しかし実態は、物件の売却とリース契約を同時に行うだけであり、それほど難しい会計処理が行われるわけではありません。なお、通常のリース取引同様に、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分けて処理する必要がありますので、その点は注意して会計処理を行うようにしましょう。
よくある質問
セール・アンド・リースバック取引とは?
所有する物件を売却したあと、同物件の賃貸契約を行うことで、資金調達と同物件の継続利用を可能にする取引を指します。詳しくはこちらをご覧ください。
セール・アンド・リースバック取引の注意点は?
ファイナンス・リース取引に該当するかの判断、転リースでの会計処理に注意します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
役員借入金の返済方法と仕訳はどうする?現金・相殺・振替のケースをわかりやすく解説
会社のお金が一時的に足りなくなったとき、経営者や役員が自分のお金を会社に貸すことがあります。これを「役員借入金」といいます。借りたお金はあとで返す必要がありますが、その返し方や会計処理は、経理の現場で迷うポイントのひとつです。 この記事では…
詳しくみる洗車代の仕訳に使う勘定科目まとめ
社用車に汚れや傷がついていると、取引先や顧客からの信用を失いかねないため、こまめな洗車が必要です。事業に使用している車両であれば、洗車代を経費に計上できます。洗車代の勘定科目として可能性があるものは、洗車代・修繕費・雑費の3つ。それぞれ適し…
詳しくみる預り金とは?仕訳の方法や勘定科目などについて解説
勘定科目のひとつに「預り金」があります。預り金は日常処理でよく使う勘定科目ですが、特に給与計算のときにはよく登場する勘定科目かもしれません。 給与計算時の仕訳、そして預かった税金などを納付するときの仕訳例見ていきましょう。 そして「預り金」…
詳しくみる売上計上の時期はいつ?計上時期の原則や税務調査で注意すべきポイントを解説
売上計上の時期は、会社の規模や業種、取り扱う商品やサービスによってさまざまです。 実現主義や発生主義などのさまざまな用語があり、迷うこともあります。 そこで、この記事では売上計上の時期について、基本的な内容から会社に応じて採用する売上計上の…
詳しくみる買掛金元帳とは?書き方や管理方法の注意点(テンプレート付き)
買掛金元帳は、仕入先元帳とも呼ばれる総勘定元帳の補助簿です。買掛金の発生時と支払時に記入します。仕入先ごとに買掛金の動きを記録するため、1件の仕入先につき1つの帳簿を使用しなければいけません。買掛金元帳の作成にはさまざまな注意点があります。…
詳しくみる吸収合併の会計処理・仕訳例を3つのケース別にわかりやすく解説
「吸収合併」とは、会社どうしが合併するとき、ある会社が別の会社を取り込む形で一つになることを意味します。合併には契約や登記の手続きが必要ですが、経理担当者にとって一番大切なのは、仕訳や会計処理です。 吸収合併にはいくつかのパターンがあり、の…
詳しくみる