- 更新日 : 2025年2月19日
中小企業でも社会保険(厚生年金・健康保険)に加入しなければいけない?
マイナンバーの導入などをはじめとして、さまざまな取り組みが見られる社会保険ですが、中小企業の中には未加入のところも見られます。
今回は、中小企業でも社会保険に加入する必要があるのか、さらには社会保険に加入した場合の納付までの流れや経理処理などについてご紹介していきます。
社会保険は加入しないといけない?
中小企業の経営者から”社会保険は必ず加入しないといけないの?”という疑問がよく寄せられます。
特に起業したばかりの経営者は、登記や開業届などのことは分かっていても、社会保険についてはそれほど意識をしていない人も少なくありません。そのような経営者の中には、”従業員がいないから社会保険は不要だろう”という考えがあるのかもしれません。
しかし、法人である以上は社会保険の「強制適用事業所」であり、社会保険に加入しなければなりません。すなわち、従業員が0人であっても、経営者に対して役員報酬が支払われている場合は、社会保険の加入手続きを取らなければならないのです。しかし、現状としては、法人でありながらも社会保険に未加入である中小企業が存在していることも事実です。
あえて社会保険に加入しない理由としては、その負担額が大きいことが挙げられます。社会保険は企業と従業員がそれぞれ半分ずつ負担することになっています。
その保険料率は厚生年金保険と健康保険を合わせて25%~30%近くあり、企業側はもちろんのこと、個人としても社会保険よりも国民健康保険や国民年金に加入する方が、負担額が少なく済むケースがあることから加入しないのかもしれません。
これまで未加入の企業が社会保険に加入した場合に、最大2年間遡って請求される社会保険料は、中小企業の資金繰りに大きな影響を与えかねません。こういったリスクもあることから、企業の規模にかかわらず社会保険の加入を前提に考えていかなくてはいけません。
では、今度は社会保険料の発生から納付までの流れと、その経理処理方法を見ていきましょう。
社会保険料の経理処理方法は?
社会保険料は、基本的には従業員と企業で半分ずつ負担することになります。(ただし、子ども・子育て拠出金については企業が全額負担することになっています)
発生から納付までの流れについて、具体例を用いて説明していきます。
例)3月分の社会保険料が6万円(企業負担3万円、従業員負担3万円)発生した。このとき、納付は翌月の4月末で、従業員負担分は4月の給与から差し引くものとする。
では、さっそく経理処理から見ていきましょう。まず企業負担分についてですが、3月分の社会保険料の負担額なので、4月に支払うとは言っても発生主義の考え方から、この費用を3月末に処理しておく必要があります。
<仕訳(1)> 3月末日の仕訳
| 3月分社会保険料 (企業負担) | ||||
社会保険料の企業負担分については、「法定福利費」として費用計上します。貸方科目については、納付がまだ行われていないことから、流動負債の勘定科目の「未払費用」として処理します。
次に、4月の給料の支払日における仕訳です。4月分の給料から3月の社会保険料の従業員負担分を天引きした金額を支払ったものとします。(本来は、社会保険料以外にも住民税や所得税なども天引きしますが、ここでは簡単に説明するために社会保険料のみの天引きとします)
<仕訳(2)> 4月の給料支払日の仕訳
| 4月分給与 | ||||
| 支払金額 | ||||
| 3月分社会保険料 (個人負担) | ||||
社会保険料の従業員負担分については、流動負債の勘定科目である「預り金」を用います。「預り金」については、住民税や所得税を天引きする際にも使用するため、その金額をしっかりと区分するために「社会保険料預り金」の勘定科目を使用している企業もあります。
では、最後に社会保険料の納付時の仕訳です。
<仕訳(3)> 4月末の社会保険料の納付時の仕訳
| 3月分社会保険料 (企業負担) | ||||
| 3月分社会保険料 (個人負担) | ||||
| 納付金額 | ||||
流動負債に計上していた「未払費用」と「預り金」を打ち消す処理を行います。この仕訳を行った後に3月の社会保険料に関する「未払費用」や「預り金」が残っている場合は、仕訳や給料の天引き分などに誤りがあるかもしれませんので、確認が必要になります。
具体的な経理処理は以上になります。今回の例で挙げたように、3月分の社会保険料を翌月の4月の従業員の給与から差し引き、4月末に納付するという流れが一般的です。従って、社会保険料の発生と天引きは1カ月分のズレが生じるということに留意して下さい。
まとめ
最後に、今回のポイントについてまとめておきましょう。
・法人は、社会保険の「強制適用事業所」であり、社会保険に加入しなければならない
・未加入の企業が社会保険に加入した場合には、最大2年分の社会保険料を遡って請求され、そのことは資金繰りの面でリスクとなる
・社会保険料は、企業と従業員で半分ずつ負担し、納付は企業が行う
・社会保険料の経理処理方法としては、企業負担分を「法定福利費」の勘定科目、給料から天引きされた従業員負担分については「預り金」や「社会保険料預り金」の勘定科目を用いる
・社会保険料の経理処理で用いた流動負債の勘定科目「未払費用」や流動負債の勘定科目「預り金」の残高が合わない場合には、仕訳や給料の天引き分などに誤りがあるかもしれないので、確認が必要となる
・一般的には社会保険料の発生と給料からの天引きは1カ月分のズレが生じる
起業して新たに社会保険に加入する企業はもちろんのこと、これまでも強制適用事業所であっても、あえて社会保険に加入していなかった中小企業も、これを機会にして社会保険の加入について、その制度や負担額などを確認してみて下さい。
また、社会保険料とともに、所得税や住民税などの天引きをする際に「預り金」で経理処理している場合には、貸借対照表上の「預り金」の科目内訳を定期的にチェックするようにしましょう。
関連記事
・非公開: 社会保険の種類と計算方法
・押さえておくべき社会保険と国民健康保険の違い
・個人事業主と会社員の社会保険の違い
よくある質問
法人は社会保険に加入しなくてもいい?
必ず加入してください。法人は、社会保険の「強制適用事業所」にあたります。詳しくはこちらをご覧ください。
社会保険料の経理処理方法は?
社会保険料は、基本的には従業員と企業で半分ずつ負担することになります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
新着記事
売掛金保証サービスとは?ファクタリングとの違いやメリット、選び方を解説
取引先の倒産による売掛金の未回収は、企業経営に深刻な影響を与えかねません。このような不測の事態に備えるための有効な手段が売掛金保証サービスです。 この記事では、売掛金保証サービスの基本的な仕組みから、混同されやすいファクタリングとの違い、導…
詳しくみる電子帳簿保存システムとは?主な機能からメリット・デメリット、比較のポイントまで徹底解説
電子帳簿保存システムの導入を検討中ですか? 改正電子帳簿保存法やインボイス制度への対応は、今や事業者の重要課題です。 本記事では、電帳法対応システムの基本機能からメリット・デメリット、自社に最適なシステムの選び方のポイントまでを徹底解説。さ…
詳しくみる請求書作成システムとは?メリットや選び方の比較ポイント、サービス例20選まで紹介
請求書の発行から入金管理までを自動化し、経理の生産性を高める請求書作成システム。この記事では、請求書作成システムの基本的な機能から、導入によるメリット・デメリット、そして自社に最適なシステムを選ぶための比較ポイント、さらにはサービス例20選…
詳しくみる財務会計システムとは?機能からメリット・デメリット、選び方のポイントまで徹底解説
財務会計システムとは、企業の財務諸表を作成し、経営状態を正確に把握するための基幹システムです。日々の取引入力から決算業務までを自動化し、バックオフィス業務を大幅に効率化します。 この記事では、財務会計システムの基本的な役割から、導入によるメ…
詳しくみる連結会計システムとは?種類の比較やサービス例10選など紹介
連結会計システムの導入は、複雑化するグループ経営において、迅速かつ正確な意思決定の基盤となります。この記事では、連結会計システムとは何か、その主な機能から種類、そして自社に最適なシステムの選び方までを網羅的に解説します。ERPや一般の会計ソ…
詳しくみる債権管理システムとは?機能や比較ポイント、サービス例15選など紹介
債権管理システムの導入は、適切な要件定義と運用のもとでキャッシュ・フローの可視化や回収の早期化を促し、バックオフィス業務の効率化に貢献します。 この記事では、債権管理システムの基本的な役割から、与信管理や入金消込といった主要機能、クラウド型…
詳しくみる