- 更新日 : 2025年2月20日
金融商品会計基準についてじっくり解説
金融商品に関する会計基準(金融商品会計基準)は、現金預金や有価証券、オプション取引など、金融商品の会計処理について示された会計基準です。金融商品の会計処理の基礎となる内容で、幅広い金融商品について扱いが触れられています。
この記事では、金融商品会計基準で示されている金融商品の範囲、金融資産や負債の発生や消滅、会計処理など、金融商品会計基準の概要を紹介します。
目次
金融商品会計基準とは
金融商品会計基準とは、1999年、企業会計審議会から公表された金融商品の会計基準を示したものです。正式名称を「金融商品に関する会計基準」といいます。有価証券や金融債権、金融商品の取引など、金融商品の会計処理を定めることを目的に設置されました。
金融商品会計基準には、金融商品の範囲、発生や消滅の認識、評価基準、貸借対照表に表示する価額、貸倒見積高の算定、ヘッジ会計、複合金融商品のような、金融商品に関わる幅広い内容が記載されています。
なお、金融商品会計基準を含め、存在する複数の会計基準は「企業会計原則」がベースです。ただし、金融商品については、企業会計原則に定められた資産の評価基準より、金融商品会計基準に定めのあるものが優先して適用されます。
金融商品の範囲
金融商品会計基準に定められている金融商品の範囲は、大きく3つです。金融資産、金融負債、デリバティブ取引にかかわる契約と定義されています。
金融資産
金融資産に含まれるのは、現金預金、将来現金を受け取る権利を持つ売掛金などの金銭債権や公社債、将来現金以外を受け取る権利を持つ他社持分権の請求権、他社株式や出資証券などをいいます。
すでに金銭として所有しているもののほか、将来金銭や資産価値を得られるものが、金融資産に該当します。商品などの棚卸資産、固定資産など、販売や減価償却を通じて将来費用化される資産は金融資産にはなりません。
金融負債
金融負債は、金融資産とは立場が入れ替わっただけです。将来、金銭等で支払う、または権利を譲渡する必要があるものをいいます。たとえば、買掛金や借入金、社債などの金銭債務、金銭債務を引き受ける場合の一定の要件を満たした債務保証契約などが金融負債にあたります。
デリバティブ取引
デリバティブ取引は、金融商品から派生した取引のことです。以下のような取引を、デリバティブ取引といいます。
- 将来の決まった期日に一定価格で売買することを約束する「先物取引」
- 将来の決まった記事に一定価格で購入または売買する「オプション取引」
- 将来異なる通貨や別種の金利へ交換する「スワップ取引」
- 将来の決まった期日に決まった為替相場で売買する「為替取引」 など
このほか、複数の金融商品の性格をもち合わせた複合金融商品も、金融商品会計基準の金融商品の範囲に含まれます。
金融資産および金融負債の発生・消滅
金融資産と金融負債の発生
金融資産と金融負債は、商品売買やサービス等の提供などを除き、信用リスクや時価変動リスクが生じる「契約締結時」に発生を会計上認識することと定められています。つまり、有価証券やデリバティブなどは約定日が基準になります。
一方、商品売買やサービス等の提供にあたる、売掛金や買掛金、貸付金や借入金は、権利または義務が生じる対価の受け渡し日を基準に発生したものと考えます。
金融資産の消滅
金融資産の消滅を会計上認識するのは、以下3つの要件すべてに該当したときです。
- 譲渡を受けた金融資産等の権利が法的に保全されている
- 直接また間接的に金融資産等の権利を享受した
- 譲渡した者が満期日前に買い戻す権利や義務を有していない
つまり、完全に資産の譲渡した、あるいは移転したと認められ、将来契約により譲渡が取り消される可能性のない場合、金融資産が消滅したものと認識することになります。
金融負債の消滅
金融負債が消滅したと認められるのは、以下のいずれかに当てはまるときです。
- 債務弁済などで契約上の義務を果たしたとき
- 債務免除などで契約上の義務がなくなったとき
- 債務を他者に引き受けてもらうことで第一次債務者でなくなったとき
金融資産および金融負債の会計処理
金融資産や金融負債は、決算日の状態が適切に反映されるように決算書に表示することが求められます。決算日の状態を適切に反映するには、それぞれの金融資産や金融負債がもつ性格にあった会計処理が必要です。
債権
受取手形や売掛金、貸付金などの債権は、債権の額から貸倒引当金を控除した額を表示することとされています。貸借対照表への表示方法としては、控除後の額を表示して注記するほか、債権と貸倒引当金の両方を総額で表示する方法があります。
公社債などの債権は、原則、取得価額で表示しますが、取得価額と額面に差額があり、差額が金利の調整と認められるときは、差額を満期までに償却する償却原価法を用いて表示します。
有価証券
他社株式などの有価証券は、保有目的によって会計処理が異なり、貸借対照表上に表示する額が変わってきます。
【有価証券の分類】
売買目的有価証券 | トレーディング部門で売買している、有価証券の売買を生業として売買している、頻繁に売買しているなどの有価証券 |
保有目的の債権 | 償還日が決まっており額面による償還が予定される有価証券のうち、満期まで保有することを目的とした有価証券 |
関係会社株式 | 支配権を有する子会社株式や大きな影響力をもつ関連会社株式 |
その他有価証券 | 売買目的有価証券、満期保有目的の債権、関係会社株式のいずれにも該当しない有価証券で、配当金目的など長期保有が考えられる有価証券 |
- 売買目的有価証券は、時価の変動で利益を得ることを目的とした有価証券であることから、貸借対照表上、時価で評価するのが適当とされます。そのため、貸借対照表上は時価で表示し、取得価額との差額を有価証券評価損益として損益計算書に表示します。
- 満期保有目的の債権は、償還日まで保有することを目的とした公社債などです。償還日まで保有することが確実であるため時価の影響を受けず、原則は取得価額で貸借対照表上に表示します。ただし、額面と取得価額との差額が金利の調整と認められる場合は償却原価法により、満期までに額面になるよう調整する会計処理が必要です。
- 関係会社株式は、支配や影響力の取得を目的としたものであるため、時価は影響しないと考えられます。そのため、取得価額で評価します。
- その他有価証券は、いずれにも該当しない有価証券です。保有期間が確定していない以上、時価による評価が妥当とされますが、損益として認識するのは妥当でないため、取得価額との差である評価損益は、「その他有価証券評価差額金」として純資産の部に表示します。
なお、満期保有目的の債権、関係会社株式、その他有価証券については、取得原価の半分以下に価値が下がるなど著しい価値の下落があったと認められるときは損失として認識し、下落後の時価を貸借対照表に反映しなければなりません。
また、上記は原則的な処理方法ですが、非上場株式など時価が存在しない時価評価が困難な有価証券は、取得原価で評価して貸借対照表に記載します。
運用目的の金銭信託
合同運用を除いた運用を目的とした金銭信託は、有価証券と同様、保有の目的に区分して、目的に応じて区分し、会計処理を行います。時価評価などで評価損益が出た場合は、損益計算書に表示して、当期に損益を認識します。
デリバティブ取引で生じる債権債務
デリバティブ取引によって生じる金銭債権や金銭債務であっても、金融商品であることに変わりないため、原則は時価により評価します。時価での評価になるため、評価損益も当然、当期の損益です。
ただし、非上場などで時価評価が困難なときは公正な評価額をもって、それでも難しいと認められる場合は、取得価額で債権債務の額を評価し、貸借対照表に表示します。
また、後のヘッジ会計の部分でも説明しますが、リスクヘッジを目的としたデリバティブ取引に関しては、評価損益をすべて損益と認識することはしません。損益は適切な期間に振り分けられるようにするため、繰り延べます。
※ただし、2021年4月1日以降開始の事業年度からは、デリバティブ取引の時価評価ではなく、時価算定会計基準適用となるため、原則処理(時価評価)ではない、デリバティブ取引の例外処理は認められなくなります。
金銭債務
金銭債務の会計処理と貸借対照表上の表示は、債権と同様です。支払手形や買掛金などの債務は確定している債務額で、社債については発行額と額面の差額が金利の調整と認められるときは、償却原価法をもって評価し、貸借対照表に反映します。
貸倒引当金の計上方法
債権の会計処理は、債権の額から貸倒引当金を差し引いて、貸借対照表上に表示すると説明しました。貸倒引当金の額は、債権が回収できなくなる可能性を考慮した妥当な額でなければなりません。債権によって、回収可能性の高さは変わってきますので、一律で見積高を算出するのは適切な会計処理とはいえないでしょう。そこで、貸倒引当金を計算するにあたって、金融商品会計基準では、債権を「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」に区分し、区分ごとに貸倒見積高を算定することと定めています。
一般債権
一般債権とは、貸倒懸念債権にも破産更生債権等にも区分されない、回収に重大な問題の発生していない債権のことです。一般債権を相手先ごとに見積もるのは数も多く困難なため、過去の貸倒実績で貸倒引当金を算出する「貸倒実績率法」を使って、一般債権全体をまとめて貸倒引当金を計算します。
貸倒懸念債権
貸倒懸念債権とは、債務の弁済に遅れが出ているなど、破産はしていないものの、経営に重大な問題がある一般債権よりリスクの高い債権をいいます。貸倒懸念債権の貸倒引当金の計算で使われるのは、「キャッシュ・フロー見積法」と「財務内容評価法」になります。
キャッシュ・フロー見積法は、回収額と利息など、将来キャッシュ・フローが合理的に見積もることができる貸付金などに摘要される方法です。
財務内容評価法は、債権額から担保を差し引いた額に、相手の支払能力を考慮した上で貸倒引当金を算出する方法です。
破産更生債権等
破産更生債権等は、経営破綻している、または実質経営破綻に陥っているなど、回収がほぼ不可能と見込まれる債権をいいます。破産更生債権等の貸倒引当金は、財務内容評価法によって行います。貸倒懸念債権と異なるのは、回収の見込みがほとんど失われているということ。相手の支払い能力がないとみなしますので、債権額から担保を差し引いた全額を貸倒引当金にします。
ヘッジ会計
ヘッジ取引とは、リスクを回避するために行う取引のことをいいます。金利上昇による金利変動や、日本円と米ドルなど為替変動によるリスクを回避、あるいは軽減することを目的に行われる取引です。
ヘッジ手段としては、デリバティブ取引が用いられており、デリバティブ取引は時価評価が原則で、損益も当期に認識することとなっています。しかし、為替予約を使ったヘッジ取引なら為替予約の額と決算日の価額の差は、当期の損益にすべて含めるのが妥当とはいえません。ヘッジ対象は、決算をまたいだ取引履行まで影響のあるもので、期間を配分して損益を認識するのが適切と考えられるためです。
そのため、ヘッジ取引については、ヘッジ会計といわれる会計処理を行って決算書に期間損益を適切に反映するようにします。ヘッジ会計においては、原則的には繰延ヘッジ、例外的に時価ヘッジを行います。また、一定の要件を満たす場合には、為替予約の場合には振当処理、金利スワップの場合には特例処理といった例外も別途定められています。
ヘッジ会計の概要と会計処理方法については、下記の記事で詳細を解説していますので、こちらの記事もご覧ください。
金融商品会計基準は金融商品の会計処理を示したもの
金融商品に関する会計基準(金融商品会計基準)は、1999年に公表された会計基準で、金融商品の範囲や会計処理などを定めたものです。資産の評価に関しては企業会計原則の内容よりも優先され、すべての会社の会計処理に適用することとされています。
金融商品会計基準には、金融商品の範囲についてのほか、発生や消滅の認識、会計処理の方法など、金融商品の基本的なことが記載されています。1999年以降、金融商品の変化などに合わせて何度か改正されていますので、公表当時の内容はもちろん、改正後の内容も確認しておくと、金融商品についての理解がより深まるでしょう。
よくある質問
金融商品会計基準とは何ですか?
正式名称を「金融商品に関する会計基準」といい、企業会計審議会から公表された金融商品の会計基準を示したものです。詳しくはこちらをご覧ください。
金融商品の範囲を教えてください。
金融商品会計基準に定められている金融商品の範囲は大きく分けて、金融資産、金融負債、デリバティブ取引の3つにかかわる契約と定義されています。詳しくはこちらをご覧ください。
金融資産と金融負債はいつ発生しますか?
商品売買やサービス等の提供などを除き、信用リスクや時価変動リスクが生じる「契約締結時」に発生を会計上認識することと定められています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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