• 作成日 : 2025年9月9日

手形貸付についてわかりやすく解説|仕組みやメリット・デメリットも紹介

手形貸付とは、約束手形を担保として金融機関からお金を融資してもらうことです。

実際に銀行融資を受けようと検討している人の中には「手形貸付の特徴を具体的に知りたい」「手形貸付の仕組みを把握しておきたい」などと考えている人もいるでしょう。

そこで本記事では、手形貸付の概要や特徴についてわかりやすく解説しています。また、手形貸付の仕組みやメリット・デメリットなどもまとめています。

手形貸付とは?

手形貸付とは、借主が金融機関宛に約束手形を振り出し、その約束手形を担保にしてお金を融資してもらう方法のことです。

そもそも約束手形とは、期日までにお金を支払うことを約束した有価証券の一種で、支払い期日・支払い額・発行日などが記されています。

お金を借りたい企業は、約束手形を金融機関に発行することで、手形に記載された金額を融資してもらえます。

手形貸付は借入期間が1年以内と短めであることから、つなぎ資金や短期の運転資金を調達したい場合に申し込む会社が多いのが特徴です。

証書貸付・当座貸越・手形割引との違い

手形貸付・証書貸付・当座貸付・手形割引の銀行融資4種類について、違いを以下の表にまとめました。

比較項目手形貸付証書貸付当座貸越手形割引
特徴約束手形を担保としてお金を融資してもらえる借用書をもとにお金を融資してもらえる預金残高が不足したときに自動で借入できる保有する約束手形を売却して現金化する
借入期間1年以内5年〜10年ほど1年以内
資金用途つなぎ資金や短期の運転資金など設備投資や長期の運転資金などつなぎ資金や短期の運転資金などつなぎ資金や短期の運転資金など
一般的な返済方法一括返済分割返済随時返済

手形貸付は、借入期間が1年以内と短期間である点や一括返済が基本である点で、他の融資方法と明確な違いがあります。

手形貸付の仕組み

手形貸付の仕組みは以下の通りです。

  1. 借主が金融機関に約束手形を振り出す
  2. 利息を除いた金額を融資してもらう
  3. 期日に口座からお金が引き落とされる

まず、お金を借りる側である企業は、振出人や支払額などを記載した約束手形を発行します。約束手形は、お金を期日までに全額返済することを証明する担保としての役割を果たします。

発行した約束手形を金融機関に渡すと、審査を経て利息を除いた融資額が指定の口座に振り込まれる流れです。約束手形に記載された期日が来ると元金が口座から引き落とされ、この引き落としを持って手形貸付の取引は終了です。

なお、手形貸付を申し込むには、当座預金の口座を事前に開設しておかなければなりません。普通預金の口座では、手形や小切手の支払いはできないため注意してください。

手形貸付の4つのメリット

手形貸付の主なメリットを4つ紹介します。

1.資金調達できるまでが速い

手形貸付は必要な手続きが少ないため、他の資金調達方法よりもスムーズにお金を確保できる場合がほとんどです。

すでに約束手形が担保として決まっており審査項目も少なめであることから、審査自体にかかる時間も短い傾向にあります。場合によっては、数日ほどでお金を融資してもらえることもあるでしょう。

そのため、急な支払いが発生したときや、短期間の運転資金を調達したいときなどに重宝します。

2.印紙税を抑えられる

手形貸付を利用するときには約束手形を発行する必要があり、約束手形は印紙税の対象です。しかし、約束手形は他の書類よりも印紙税を安く抑えられます。

たとえば、金銭借用証書を作成する場合、1,000万円の借用書であれば1万円の収入印紙を用意しなければなりません。

一方、1,000万円の約束手形を振り出す場合は4,000円で済みます。また、他の契約金額あたりの印紙税も借用書より安いです。

金銭借用証書の印紙税額(1通あたり)約束手形の印紙税額(1通あたり)
  • 1万円未満:非課税
  • 1万円以上10万円以下:200円・10万円超え50万円以下:400円・50万円超え100万円以下:1,000円
  • 100万円超え500万円以下:2,000円
  • 10万円未満:非課税
  • 10万円以上100万円以下:200円
  • 100万円超え200万円以下:400円
  • 200万円超え300万円以下:600円
  • 300万円超え500万円以下:1,000円

契約金額にもよりますが、1通あたりの印紙税額に2倍ほどの差があることがわかります。

参考:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁

3.比較的金利が低い

手形貸付は、他の融資方法よりも比較的低金利でお金を借入できる場合があります。

原則として短期融資であり返済も一括が基本である手形貸付は、融資する側からすれば貸したお金を回収できなくなる可能性が低い傾向にある融資方法です。そのため、長期にわたって貸し倒れのリスクに備える必要がないため、比較的低い金利で貸付してもらえます。

金融機関によって異なりますが、基本的には3〜20%の範囲で金利を設定してもらえます。もし利息をなるべく抑えたい場合、利息は元金・金利・返済期間をもとに算出されるため、無理のない範囲で返済期間を短めに設定すると良いでしょう。

4.資金繰りを改善できる可能性がある

手形貸付は審査に通過すればすぐに融資してもらえることもあるため、手形貸付によって資金を調達することで資金繰りの改善に役立てられる可能性があります。

たとえば、来月末に1,000万円の売掛金が振り込まれるが、今月末までに仕入れ代金やオフィスの家賃などを支払う必要があり500万円が不足していると仮定しましょう。

このような場合に手形貸付で500万円を融資してもらえれば、目先の支払いを乗り切れます。加えて、来月末に振り込まれる1,000万円を使用すれば、500万円の借入金を完済可能です。

手形貸付は上記の例のようにつなぎ資金として便利であり、黒字経営であるにもかかわらず資金がショートする「黒字倒産」のリスクを回避するのに役立ちます。

手形貸付の3つのデメリット

手形貸付の主なデメリットを3つ紹介します。

1.高額かつ長期的な融資を受けられない

手形貸付は1年以内の短期融資が原則であり、1年を超える長期的な融資は受けられません。

設備投資や新規事業の開発費用などには手形貸付は向いていないため、高額かつ長期的に資金を用意する必要がある場合は、他の資金調達の方法を探した方が良いでしょう。

ただ、返済期日に同額の手形貸付を行うことで、継続的に融資してもらうことは可能です。「短期継続融資」や「短期転がし(短コロ)」などの方法によって、長期にわたって運転資金を調達する中小企業もあります。

2.企業の信用度が低いと審査に通過できない可能性がある

手形貸付は約束手形のみを担保として融資してもらう方法であるため、企業の信用度が低いと審査に通過できない可能性があります。

また、手形貸付は基本的に一括返済なので、赤字経営であったり自己資本比率が極端に低かったりする企業も審査で落とされる場合があります。

なお、手形貸付を申し込むには当座預金を開設する必要があり、この当座預金を開設するときにも審査を受けなければなりません。当座預金を開設する審査でも、事業内容や代表者の情報など企業の信用力が問われます。

審査に落ちた場合は当座預金を作成できず、手形貸付にも申し込めません。

3.不渡りとなったときに大きなリスクがある

不渡りとは、期日までに口座へ用意しておくべきお金を用意できず、残高不足で引き出せなかった状態のことです。

不渡りとなった場合、手形貸付をしてくれた金融機関によって「不渡り届」が提出され、全国銀行協会へ報告されます。

全国銀行協会へ報告されると全国の金融機関へ不渡りの事実が共有され、金融機関からの信用度が下がることが考えられます。そうなると、金融機関から新たに融資を受けることは難しくなるでしょう。

また、取引先にも不渡りの事実が知られてしまうと、取引を縮小されたり中止されたりする可能性もあります。

さらに、1回目の不渡りから半年以内に再び不渡りをした場合は、銀行取引が停止となり当座預金の取引は2年間停止されます。

不渡りを防ぐためには、期日までに返済額を口座に用意しておくことが重要です。一括返済したことによって資金繰りが悪化する恐れがあるため、余裕を持って返済額の用意をし始めましょう。

手形貸付を利用するときの流れ

手形貸付は以下の流れで利用できます。

  1. 金融機関への申し込み
  2. 審査と契約の締結
  3. 融資金の入金
  4. 元金の返済と手形の返却

まず、金融機関へ手形貸付の申し込みを行います。基本的には金融機関の窓口にて手続きが必要な場合がほとんどですが、オンライン上で手続きできるケースもあります。

申し込みが完了したら審査が実施され、審査に通過できれば金融機関と契約の締結が可能です。返済期日や返済方法などの条件面をしっかり確認したうえで契約を結びましょう。

契約締結後は、利息を差し引いた融資金が指定の口座に振り込まれます。返済期日が来たら元金が口座から引き落とされ、約束手形が返却されます。

申し込み時と契約時に必要な書類

手形貸付を申し込むときと契約するときに必要な書類を、以下の表にまとめました。

申し込み時に必要な書類契約時に必要な書類
  • 金融機関所定の約束手形
  • 履歴事項全部証明書
  • 代表者の本人確認資料
  • 決算書
  • 事業計画書や月別収支計画書
  • 当座照合表
  • 申し込み時に提出した書類
  • 印鑑証明書
  • 実印
  • 融資額に応じた収入印紙

基本的には上記の書類があれば手続きを進められますが、金融機関によって必要な書類が異なる場合があるため、事前に確認しておくことを推奨します。

約束手形は2026年に廃止される予定

経済産業省は、2026年までに手形貸付に必要な約束手形を廃止する方針です。

約束手形は現金を入手できるまでの期間が長く、支払い期限前に現金化する場合の割引料が高いため、受注側の企業に資金繰りの皺寄せがきていることが問題視されていました。

約束手形を使用している場合は、原則として銀行振込を含む現金での支払いをするよう経済産業省は促しています。現金支払いが難しい場合は、電子記録債権による支払いも可能です。

約束手形の廃止に伴い、大手銀行も手形の新規発行の受付を終了し始めています。

三井住友銀行2025年9月30日に発行申し込みの受付を終了
みずほ銀行
  • 2023年12月以前に当座勘定を開設済みの場合:2026年4月1日に発行を停止
  • 2024年1月以降に当座勘定を新規開設した場合:2024年1月4日に発行を停止
三菱UFJ銀行2025年9月30日に発行申し込みの受付を終了

2025年の秋ごろまでに発行の受付を終了する銀行が多いため、手形貸付を利用したい場合は早めに申し込みましょう。

参考:紙の約束手形、やめませんか?|中小企業庁

手形貸付に関するよくある質問

最後に、手形貸付に関するよくある質問をいくつか紹介します。

手形貸付の返済方法は?

手形貸付の返済方法は基本的に一括返済ですが、分割返済を選択できる場合もあります。

また、手形貸付の利息に関しては借入時に支払うのが一般的です。たとえば、一括返済であれば最初にお金を借りるタイミングで利息を除いた額が融資されます。

対して分割返済の場合は、初回の返済日までの利息を除いた額が融資され、初回の返済日が来たら2回目の返済日までの利息を支払います。

手形貸付の利息の計算方法は?

手形貸付の利息は「利息=借入金額×金利÷365×借入期間」で計算できます。

借入額が500万円、金利が4%、借入期間が4ヶ月(120日)のときの利息を実際に計算してみましょう。

利息=借入金額×金利÷365×借入期間
=5,000,000×0.04÷365×120
≒65,753

上記の条件でお金を借りた場合、利息は約65,753円となります。

よって、実際に融資してもらえる額は、500万円から65,753円を差し引いた4,934,247円となります。

手形貸付はどのような場面で使用されることが多い?

手形貸付は比較的金利が低くスピーディーに資金調達できることから、主に以下のような用途で使用されます。

つなぎ融資資金不足に陥ったときや資金繰りが悪化したときに一時的に穴埋めするための資金
短期の運転資金1年以内に返済することを条件に借りられる資金。賞与や税金など臨時でまとまったお金が必要となったときに融資してもらう場合がほとんど。
短期継続融資(短コロ)1年以内に一括返済するという条件で融資を受け、期日が来たときに再び同じ形式で融資を受けて返済期限を延長する方法

※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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