• 作成日 : 2025年9月9日

一括償却資産は4年目以降どうなる?帳簿や税務処理の注意点を解説

一括償却資産で処理した場合の4年目以降の対応に迷う人もいるでしょう。本記事では、一括償却資産の概要や金額区分、4年目以降の資産の取り扱い方、実務上の注意点を解説します。

最後まで読めば、一括償却資産の4年目以降の正しい処理方法がわかり、トラブルを回避することが可能です。特に、経理担当者や個人事業主にとっては、申告漏れや帳簿上の不整合が税務調査時のリスク要因となるため、事前に理解しておくことが重要です。

一括償却資産とは?

一括償却資産の概要や金額区分ごとの処理方法、混同されがちな制度との違いについて解説します。一括償却資産の基本概要を把握しておくことで、4年目以降も適切な判断がしやすくなります。

一括償却資産の概要

一括償却資産とは、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産に対して適用される制度です。法人税法施行令第133条の2に基づき、資産の耐用年数にかかわらず、取得した事業年度から3年間で均等に損金参入処理できる点が特徴です。

たとえば15万円の設備を取得した場合、1年目から3年目まで毎年5万円ずつを減価償却費として計上します。通常の定率法や定額法と異なり、3年の均等償却となるため、会計処理の簡便化を図れます。

金額区分で変わる3つの処理方法

少額資産の処理方法は、取得価額によって以下の3つに分かれます。

  • 10万円未満の資産:取得年度に全額損金算入(即時償却)
  • 10万円以上20万円未満の資産:一括償却資産(3年均等償却)
  • 30万円未満の資産(青色申告かつ中小企業限定):少額減価償却資産特例による即時償却(年300万円まで)

それぞれの制度に応じた処理が求められるため、取得金額の確認と制度の選択ミスを防ぐ体制づくりが重要です。会計ソフトへの登録時や台帳への記載時に、金額帯に応じた処理分類を明確にしておきましょう。

少額減価償却資産特例との違い

一括償却資産と混同されやすいのが、少額減価償却資産特例です。少額減価償却資産特例は中小企業等に認められた優遇制度で、取得価額が30万円未満の資産について、年間300万円まで即時に損金算入できます。

一方、一括償却資産制度は10万円以上20万円未満の資産に対し、誰でも適用できる制度で、即時償却ではなく3年間での均等償却が必要です。少額減価償却資産特例はあくまで租税特別措置法に基づく制度で、適用には中小企業要件や青色申告の届出が必要です。

一括償却資産と少額減価償却資産特例は対象資産や適用条件が異なるため、選択ミスは税務処理の誤りに直結します。実務では、取得価額で区分を判定し、事業規模や青色申告の有無などの要件を確認する二段階チェックが有効です。

一括償却資産の4年目以降の取り扱い方

一括償却資産は3年間で全額償却されるため、4年目以降は「すでに処理済み」と思われがちです。しかし、実物が事業で使われ続けているケースも多く、帳簿や資産台帳での扱いには注意が必要です。

税務・会計・実務の面から4年目以降の資産の取り扱い方を解説します。

税務上の扱い

税務上は、一括償却資産が3年間で全額償却された時点で「償却済み」となります。4年目以降については、課税対象から外れるため、追加で経費処理を行う必要はありません。

また、通常の減価償却資産のように、別表への記載や償却限度額の調整も必要なく、申告書への記載義務も基本的に不要です。したがって、税務面では4年目以降に特段の処理は求められず、期末の確認作業の負担も軽減されます。

会計・帳簿上の扱い

会計処理においては、簿価がゼロであっても、実物が事業で使用されていれば台帳上の記録が必要です。

特に固定資産台帳などでは「使用中」「保管中」などのステータスを正しく反映し、実態との整合性を保つ必要があります。

監査対応や棚卸時には、帳簿と現物の突き合わせが求められることがあるため注意しましょう。台帳から削除されていない資産でも管理が曖昧になっていると、指摘を受けるリスクが高まります。

実務上の注意点

一括償却資産は法的には3年で償却が完了しますが、会計上・実務上は「使っている限り存在している」ものとして扱われます。帳簿に残すかどうかは任意ですが、実物と台帳の整合性が取れていないと、税務調査で説明を求められる可能性があります。

たとえば、廃棄済みの機器が「使用中」として残っていると、過年度の償却処理の適否を疑われかねません。

特に、複数の資産をまとめて一括償却している場合は、どの資産が除却・紛失・廃棄されたのかが不明瞭になりがちです。資産の処分時には「除却日・理由・証憑」の記録を残すなどの対応が重要です。第三者が見ても判断できる状態に整えておきましょう。

一括償却資産を4年目以降に売却・除却・滅失したときの仕訳と台帳処理

一括償却資産は3年で簿価がゼロになりますが、4年目以降に売却・除却・滅失した場合も、適切な会計・税務処理が必要です。帳簿上の残高が0円だからといって処理を省略してしまうと、申告漏れや実態不一致のリスクにつながります。

資産を4年目以降に処分する際の仕訳と、台帳管理の具体例について解説します。

売却:固定資産売却益(雑収入)の計上例

4年目以降に一括償却資産を売却した場合、帳簿上は簿価0円のため、売却金額の全額が利益となります。

仕訳としては「現預金/固定資産売却益」または「雑収入」として収益計上します。少額であっても見落とさずに計上しましょう。

ネットオークションや中古買取サービスを利用した際も収入証明を残しておくと安心です。

除却・廃棄:固定資産除却損の計上例

除却または廃棄を行う場合も、一括償却資産はすでに簿価0円のため、費用として計上する除却損は発生しません。

ただし、税務調査や監査において「その資産が実際に廃棄されたこと」を説明できるように、廃棄証明や写真記録、処分業者の受領書などを保存しておくことが求められます。

固定資産台帳の変更手順と記載例

資産を売却・除却・滅失した場合は、固定資産台帳のステータスを「使用中」から「売却済」や「除却済」へ変更する必要があります。あわせて、処分日・方法・処分先・理由なども記録し、あとで第三者が見ても判断できる形にしておきましょう。

台帳の更新を怠ると、資産が存在しているように見えてしまい、棚卸時や税務調査時に疑義を生む原因となります。

特に、会計部門と総務部門が分かれている組織では、処分情報が共有されないことが二重計上や申告漏れの原因になります。定期的な情報共有やワークフロー化などの対策が有効です。

一括償却資産の4年目以降の処理における注意点や税務リスク

一括償却資産の4年目以降の実務で注意すべき代表的な3つのリスクについて解説します。税務リスクにつながるミスを防ぐためにも、一括償却資産の4年目以降の処理における注意点を把握しておきましょう。

二重計上のリスク

重複して計上すると、取得価額や資産総額が本来よりも過大に計上され、原価計算や決算の正確性に影響する恐れがあります。また、棚卸や税務調査の際に「旧資産の存在根拠」を求められるケースもあるため注意が必要です。

除却や売却を行った際には、すみやかに台帳のステータスを更新し、二重計上が発生しないよう管理を徹底しましょう。

売却益を見落として申告漏れするリスク

一括償却資産の簿価は4年目以降にゼロになりますが、実際に売却して金銭を得た場合は「固定資産売却益」または「雑収入」として課税対象になります。

よくあるミスが「もう償却済だから申告不要」と誤解し、売却時の収益や除却時の証明対応を怠るケースです。売却時には領収書や振込履歴などのエビデンスを必ず残し、会計処理と税務処理の両面から正確な対応を心がけましょう。

資産区分ミスによる誤課税リスク

資産の処理区分を誤ることで、本来申告不要な資産を課税対象に含めてしまう事例もあります。

一括償却資産は基本的に償却資産税の対象外です。しかし、会計ソフトや固定資産台帳で「通常の減価償却資産」として誤登録されたままの場合、地方税の申告データにそのまま反映されてしまう恐れがあります。

また、30万円未満の資産を「少額減価償却資産特例」で処理したにもかかわらず、区分が曖昧で誤って課税されるケースもあります。申告前には資産一覧を区分ごとに確認し、誤った課税を防ぐ体制づくりが大切です。

一括償却資産の4年目以降の処理で迷いやすいポイント

一括償却資産の4年目以降に起きるトラブルの多くは「処理したつもり」になっていることが原因です。実務上で迷いやすいポイントと対応方法について解説します。

売却処理を忘れていた場合の対応

4年目以降に一括償却資産を売却したにもかかわらず、仕訳をし忘れていたことに後から気づくことがあります。期中であれば、売却日付で「現預金/固定資産売却益(または雑収入)」の仕訳を入力することで対応可能です。

ただし、決算後に発覚した場合には、すでに確定した申告書や財務諸表への影響も検討する必要があります。影響が大きい場合は「修正申告」や「訂正伝票」の処理が必要な可能性があるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

一括償却資産の計上に誤りが見つかった場合の対応

「本当は10万円未満なのに一括償却で処理していた」「30万円未満特例を混在させていた」など、計上に誤りが見つかるケースもあります。

金額区分ミスが発覚したら、まず誤って計上した資産を一覧化し、本来適用すべき制度を判定しましょう。すでに提出済みの決算書税務申告書への影響を精査し、修正の必要性を検討します。

影響が軽微であれば、次期の注記や内部帳簿調整で済むこともありますが、税額が著しく変動する場合には修正申告が求められるケースもあります。

判断が難しい場合は、顧問税理士と早めに協議して対応方針を固めましょう。


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