- 更新日 : 2025年9月12日
反面調査とは?税務調査との違いや企業が押さえておくべき注意点を解説
突然「反面調査が入ります」と連絡があると、多くの経営者が戸惑います。
「どの範囲まで調べられるのか」「断れるのか」と不安に感じるのも当然です。実際、反面調査は自社ではなく取引先を対象におこなわれるものですが、その内容次第では自社の取引にも注意が向くことがあります。
必ず税務調査につながるわけではありませんが、無関係とも言い切れないため、軽く考えない姿勢が大切です。
国税庁の見解や法令を理解し、協力義務の範囲や注意点を把握することが、余計なトラブルを避ける第一歩です。本記事ではその仕組みや流れをわかりやすく解説します。
目次
反面調査とは
反面調査とは、税務署がその会社自身ではなく、取引先や銀行といった第三者に確認をおこなう調査です。根拠になっているのは国税通則法第74条の2で定められた質問検査権です。申告や帳簿に不自然な点があると、裏付けを取るために実施されます。
直接調べられるのはあくまで相手先側なので、自社が調査を受けるわけではありません。ただし、やり取りの中で気になる点が見つかれば、こちらにも話が広がることはあります。必ず調査につながるわけではないものの、軽く考えずにきちんと対応する姿勢が大切です。
参考:第1章 法第74条の2~法第74条の6関係(質問検査権)|国税庁
反面調査と税務調査の違い
税務調査は、その会社に直接入り込み、帳簿や書類を調べて申告内容を確認します。これに対して反面調査は、仕入先や販売先などに質問する形でおこなわれます。正面から調べるのが税務調査、横から間接的に確認するのが反面調査というイメージです。
反面調査は単独でおこなわれるのではなく、税務調査の補完手段として位置づけられ、申告内容に疑問が生じた場合に裏付けを取るために利用される調査という立ち位置です。
そのため、実施時期や通知方法も異なります。税務調査は原則として事前通知があります。一方、反面調査には法令上の通知義務はなく、運用上は事前に連絡されるのが一般的です。これらの違いを理解しておくことは、企業が調査に適切に対応するために重要です。
反面調査の対象となる3つのケース
反面調査は、申告内容や帳簿の信頼性に疑問があるときにおこなわれます。ここでは想定される3つのケースを解説します。
①所得隠しや脱税の疑いがある場合
売上や経費の数字が帳簿と実態で合っていない場合、税務署は裏付けを求めます。とくに現金商売や交際費が多い事業者は記録外の取引が発生しやすいと見られ、取引先への確認が入りやすいです。
売上や経費が帳簿と実態で異なっていると判断されれば、正確な数字を把握するために取引先へ確認がおこなわれます。所得隠しや脱税の疑いが強い場合、反面調査により事実関係が詳細に検証される仕組みとなっています。
②帳簿や証拠書類に不備がある場合
領収書の文字がかすれて読めなかったり、仕訳の根拠が不明確な書類が多い場合、税務署は「本当に正しいのか」と疑念を抱きます。
帳簿や証憑は取引の正当性を示す基礎となるため、これらを乱雑に扱っていると「確認が必要だ」と判断され、反面調査の対象になりやすくなるのです。
帳簿や証憑に不備がある状態を放置すると、事実確認の必要性が高まり、結果として反面調査を受ける可能性がさらに高くなります。税務署は第三者からの情報を通じて、帳簿内容と取引実態の整合性を確認する仕組みです。
③不自然な取引内容がある場合
架空の取引や過大な金額が計上されている場合、税務署は実態確認のため反面調査をおこないます。突然高額な売上が計上されたり、短期間で取引先が急増・変更した場合も調査対象とされやすいようです。
取引の流れや金額が不自然で経済活動と一致していないとみなされると、取引先へ確認をおこない裏付けを取ります。不自然な取引は資金隠しや脱税の手口に用いられることがあるため、反面調査で事実が細かく検証されるのです。
税務調査の流れ
反面調査に関連して税務調査は、事前通知から始まり日程調整や準備・実地調査・結果通知といった段階を踏んで進みます。それぞれの流れを順に紹介します。
①調査対象の選定と事前通知
税務署は申告内容の矛盾や業種の特性、取引規模や過去の申告実績など多角的に確認し、調査対象を選定します。
対象に選ばれた企業には原則として電話連絡があり、調査の日時・場所・対象となる税目や調査期間、提示を求められる帳簿や証憑書類などの詳細が伝えられます。
調査対象に選ばれること自体は必ずしも不正を意味するものではなく、定期的な確認の一環であることも少なくありません。
通知を受けた時点で税務署のチェックが始まっているため、日常的な記帳や保存書類の管理状況が調査の印象に直結します。通知を軽視せず、要求された内容を正しく把握し、今後の準備計画を整える姿勢が大切です。
②日程調整と準備
税務署からの通知後、企業は調査官と日程調整をおこない、調査日を確定します。必要に応じて税理士を立ち会わせることも考えましょう。
専門家の助言を受けながら臨むことで安心感が高まります。当日までに帳簿や領収書・契約書・取引明細・通帳コピーなど調査で使用される可能性のある資料を整理しておくことが重要です。
書類は内容別に仕分けをおこない、求められた際にすぐ取り出せる状態にしておくことで調査を円滑に進められます。
準備が不十分な場合、調査官に不信感を与え、調査が長引いたり追加の確認を招いたりするリスクがあります。日程調整と並行して資料整理の計画を立てることが、調査をスムーズに乗り切るための第一歩です。
③実地調査(臨場調査)
実地調査は通常2〜3日間にわたり実施され、初日には会社の代表者や経理担当者への聞き取り調査がおこなわれます。帳簿や証憑書類の整合性に加え、在庫や現金残高の確認もあり、実態が記録と一致しているかが重点的に確認されるものです。
場合によっては不明点や疑問点を解消するために追加資料を求められます。また、追加資料だけでは不十分だと調査官が判断した場合には、取引先に対して反面調査が実施されるのです。
現場では調査官の質問に対して冷静かつ正確に回答することが求められ、曖昧な返答や書類不備は不必要な疑念を招く恐れがあります。
誠実な態度で対応し、必要に応じて税理士のサポートを受けることで、調査の信頼性と評価を高めることにつながります。
④調査結果の通知と対応
実地調査が終わると、税務署は調査結果を整理し、後日企業に対して説明をおこないます。問題が見つからなければ調査は終了しますが、誤りや不備が判明した場合には是正を求められ、修正申告が必要です。
過少申告や不適切な経理処理があれば、追徴や加算税が課されることもあり、負担は軽視できません。
調査後は通知内容を正確に把握し、必要に応じて税理士の助言を受けながら適切な対応をおこなうことが求められます。誤りを速やかに是正し改善策を実行することで、将来のリスクを抑え、税務署との信頼関係を維持することにつながります。
税務調査にて答える範囲とNG対応|信頼される受け答えのコツ
税務調査にて聴取が入ったときは、知っている事実だけを落ち着いて答えるのが一番です。
推測や「たぶんこうです」といった曖昧な答えをしてしまうと、かえって疑問を広げてしまいます。曖昧な内容については無理に答える必要はなく、「確認後、改めて回答します」と一度保留するのが適切です。
重要なのは誠実で落ち着いた態度を示すことであり、威圧的な言動や過剰に防御的な姿勢は逆に不信感を与えます。
相手に不安や不快感を与えない受け答えを意識すれば、調査全体の印象が良くなり、必要以上の追及を避けられる可能性が高まります。冷静かつ一貫して事実のみを伝える姿勢こそが、信頼を得るための重要な要素といえるでしょう。
反面調査に備える3つのポイント
反面調査は、自社が税務調査を受けた際に取引先へ実施される可能性があります。そのため、取引先との信頼関係づくりや社内体制の整備、証憑管理の徹底が欠かせません。ここではとくに意識しておきたい3つのポイントを紹介します。
①取引先とのコミュニケーションを密にとる
取引条件は開始時や変更時に丁寧に説明し、相手が理解した状態を作ることが大切です。日頃から連絡を取りやすい関係を築いておけば、反面調査の際に「よくわからない」と言われるリスクを下げられます。
税務署から問い合わせがある可能性を事前に知らせておくと、取引先に安心感を与えることにもつながります。小さな疑問でも早めに解消しておくことで、信頼を保てます。
②反面調査時の対応をマニュアル化する
反面調査への基本的な対応フローは社内で文書化し、経理担当や社員が迷わず行動できるように備える必要があります。調査官から取引先に連絡が入った際の想定質問や過去の対応事例を共有し、慌てない体制を整えましょう。
顧問税理士と定期的に連携し、手順の見直しをおこなうことも効果的です。日常の業務に落とし込むことで実効性のある準備ができます。
③取引先との証憑内容にズレが出ないよう整備する
請求書や納品書、支払明細などの記載内容は取引先と一致させ、金額や日付に食い違いがないか定期的に確認する必要があります。
誤記や手書き訂正は放置せず整えておくことが重要です。電子保存やキャッシュレス経理を導入し、調査官が確認した際にも整合性が明確にわかる状態を保つことが望まれます。整った証憑は社内の管理精度向上にも役立ちます。
反面調査に関するよくある8つの質問
反面調査は、企業にとって不安や疑問を抱きやすい手続きです。拒否の可否や事前通知の有無、対象範囲など実務に直結するポイントを理解しておくことが重要です。
ここでは反面調査に関して寄せられる代表的な8つの質問を取り上げ、基本的な考え方や注意点を解説します。
①反面調査は拒否できますか?
反面調査は国税通則法に基づく調査であり、原則として拒否はできません。正当な理由なく拒否すると刑罰の対象となる場合があります。
例えば、質問検査を妨げた場合には1年以下の懲役や50万円以下の罰金が科される可能性があります。調査官の質問に対して誠実に対応する姿勢が重要です。
②反面調査に事前通知はありますか?
法令上は反面調査に事前通知の義務はありません。運用上は原則として事前に連絡がおこなわれることが多く、突然調査を受ける可能性は低めです。
調査対象や資料準備について事前に説明される場合があります。日常的に記録を整理しておくことで対応が円滑になります。
③誰が調査対象になりますか?
反面調査の対象は取引先に限られません。関係会社や取引銀行も調査対象となります。さらに従業員や家族など広い範囲に及ぶことがあります。
これは実際の取引実態を確認するためであり、第三者からの証言や資料によって申告内容の信頼性が検証されるからです。対象は状況ごとに柔軟に選定されます。
④調査の期間はどれくらいかかりますか?
反面調査の期間は明確に定められていません。調査対象の範囲や確認事項の多さにより変動します。複数の取引先が関係する場合は時間を要する場合があります。
対応準備の程度が所要日数にも影響します。
⑤調査内容は営業担当や取引先に知られますか?
反面調査は取引先や関係者に対して直接おこなわれます。そのため調査の存在や内容が取引先に伝わる可能性は十分にあります。
税務署は調査理由を明かさない場合もありますが、やり取りを通じて調査対象企業が関係していると認識されることは避けられません。信頼関係を損なわないよう事前説明も有効です。
⑥調査内容は外部に漏れませんか(守秘義務はありますか)?
税務職員には法律に基づく守秘義務が課されています。調査で得られた情報は業務目的以外に利用することはできません。外部への漏洩は法的に厳しく制限されており違反すれば処罰の対象となります。
企業の内部資料や取引情報が不正に公開されるリスクは最小化されているため、調査内容が外部に漏れることはありません。
⑦反面調査を受けるとペナルティがありますか?
反面調査を受けてもペナルティはありません。ただし調査官に対して虚偽の報告をした場合には、1年以下の懲役や50万円以下の罰金が科される可能性があります。
罰則を受けた結果、信用を落とし、契約解除や取引停止に陥るリスクもあります。他の取引先から口裏を合わせるよう連絡を受けても、決して応じないようにしましょう。
⑧電子インボイスや電子帳簿保存法は反面調査対策になりますか?
はい。電子インボイス制度や電子帳簿保存法の仕組みを活用することで取引証憑の整合性が高まります。改ざん防止や保存要件を満たすため信頼性も向上します。
結果として反面調査に対する説明力が増し企業の透明性を示す手段となるのです。日常的な業務改善と調査対応の両面に効果があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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