• 作成日 : 2025年9月3日

会計と簿記の違いとは?資格の種類や業務内容までわかりやすく解説

「会計」と「簿記」、どちらも会社のお金に関わりますが、その違いを正確に説明できるでしょうか。簿記は日々の取引を記録する「記録」であり、会計はその記録をもとに利害関係者へ経営成績や財政状態を「報告」します。この2つの関係性を正しく理解することは、正確な経営判断や業務効率化につながります。

この記事では、会計と簿記の基本的な違いから、関連する資格、そして中小企業の経営にどう活かすかまで、初心者にもわかりやすく解説します。

会計と簿記の根本的な違い

会計と簿記はどちらも企業の数字を扱いますが、その目的や使われ方には明確な違いがあります。両者の役割や成果物を整理することで、経理業務の全体像が理解しやすくなります。

会計と簿記の根本的な違い

簿記は、売上や仕入、経費といった日々の取引をルールに従って記録・分類・整理する作業です。対して会計は、簿記で整理された情報を活用し、経営状況をわかりやすく示す資料を作成する一連の工程を指します。

簿記が「記録のしくみ」であるのに対して、会計は「報告や分析のしくみ」といえるでしょう。

目的の違い:簿記は「記録」、会計は「報告」

  • 簿記の目的は、日々の経済活動を正確に帳簿へ記録し、企業内の取引履歴を明らかにすることです。
  • 会計の目的は、簿記の記録をもとに、経営成績や財政状態を社内外に伝えることです。

たとえば、簿記で作成された元帳をもとに、会計では財務諸表を作り、株主や金融機関に報告するという流れになります。

役割の違い:簿記は会計の「手段」、会計は「伝えるしくみ」

簿記は、会計の中に含まれる一つの工程です。取引データをルール通りに整理する作業であり、それ自体が完結するものではありません。

一方、会計は、簿記の情報を使って「誰に、何を、どう伝えるか」を考えるしくみです。たとえば、決算書や経営分析レポートの作成、税務申告の基礎となる処理も含まれます。

このように、簿記は取引に係る数字を扱うための道具であり、会計はその数字を使って会社の状況を表現する手段です。

成果物の違い:帳簿と財務諸表

項目簿記(Bookkeeping)会計(Accounting)
目的日々の取引を正確に記録する経営状況を社内外に報告する
役割記録・整理のための「しくみ」意思決定や報告に活かす「全体の工程」
成果物仕訳帳総勘定元帳などの帳簿財務三表(B/S、P/L、C/S)などの報告書
  • 簿記の成果物は、「仕訳帳」や「総勘定元帳」など、取引内容を記録した帳簿です。
  • 会計の成果物は、「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」など、経営情報を集約した報告資料です。

簿記の記録があることで、会計処理が成り立ちます。帳簿が正確でなければ、適切な財務諸表も作れません。

会計の基礎となる簿記とは

簿記は、会計のしくみを機能させるために欠かせない記録の技術です。企業で起きる日々の取引を一定のルールに従って記録することで、正確な会計処理や報告につながります。

簿記とは取引を記録すること

簿記とは、「帳簿記入」の略で、会社の取引内容を体系的に記録するしくみです。たとえば、仕入や売上、経費の支払いなど、企業内で発生した金銭やモノの動きを記録することが目的です。

このとき使用されるのが「勘定科目」(例:現金、売上、仕入、給与など)です。簿記の仕方にはいろいろありますが、その中で「複式簿記」があります。複式簿記の記録には「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の考え方を使い、取引を両面から捉えることで、取引の全体像を一貫して管理することができます

たとえば、「現金で15万円の備品を購入」した場合には、

  • 借方:備品15万円(資産の増加)
  • 貸方:現金15万円(資産の減少)
    と記録されます。

このように、簿記は誰が処理しても同じ記録になるよう統一されたルールに従って行われます。

仕訳から試算表までの基本的な流れ

簿記は以下の流れで進められます。

  1. 取引の発生
    例:商品の販売、経費の支払いなど。
  2. 仕訳の作成
    取引内容を借方・貸方に分け、「仕訳帳」に記録。
  3. 転記
    仕訳帳の内容を、科目ごとに「総勘定元帳」などに書き写す。
  4. 試算表の作成
    すべての勘定科目の残高を集計し、試算表を作成。
    借方と貸方の合計が一致するかを確認します。

この試算表をもとに、会計処理の後半(決算整理や財務諸表の作成)へ進みます。正確な帳簿がなければ、正確な会計報告は行えません。

簿記の種類:複式簿記と単式簿記

簿記には、記録の方法として次の2つがあります。

  • 複式簿記
    一つの取引を、原因と結果の2つの側面から記録します。企業会計ではこちらが標準です。
    例:「備品を現金で購入」→備品(資産の増加)/現金(資産の減少)
  • 単式簿記
    お金の出入りだけを一方向で記録する方法。家計簿のような記録に近く、個人事業主の簡易簿記などで使われることもあります。

企業が正確な経営成績や財政状態を把握するには、複式簿記による記録が前提となります。

企業の状況を伝える会計とは

会計は、簿記によって作成された記録を利用して、企業の経済的な状況を利害関係者に伝えるための幅広い活動を指します。単なる計算作業ではなく、企業の信頼性を支える重要な機能といえるでしょう。

財務会計は社外に向けた報告のしくみ

会計の中でも、財務会計は、主に社外の関係者に対して企業の経営状態や成績を伝える目的で使われます。このときに作成されるのが、財務諸表です。会社の状況を「数値のレポート」として形にしたもので、報告の相手によってさまざまな活用がされます。

たとえば、以下のような人たちが財務諸表を参考にします。

  • 株主・投資家:企業の収益性や安定性を見て、投資判断をします
  • 金融機関:貸付の可否や返済能力を判断します
  • 取引先:継続的に取引してよいかどうか、会社の健全性を確認します
  • 税務署:税金の計算が正しく行われているかを確認します
  • 経営者:自社の数字を客観的に把握し、経営判断に活用します

このように、財務会計は会社の外にいる関係者が使うことを前提としているため、社会的なルール(会計基準や法律)に沿って、客観性のある形式でまとめることが求められます。

会計には社内向けの管理会計もある

一方で、会計にはもう一つ「管理会計」という分野があります。これは、経営者や部門の責任者など、社内の意思決定者に向けて情報を提供する会計です。

  • 管理会計では、部門ごとの業績評価、コスト削減の検討、予算の進捗管理など、会社内部の判断材料をつくります。
  • 財務会計のような厳格なルールはなく、目的に応じて自由に数値を分析し、実務に役立てます。

たとえば、特定の事業が赤字であれば、その原因を把握し、どこを改善すればいいかを検討する際に使われます。

財務会計と管理会計の違い

両者の違いを整理すると、次のようになります。

区分財務会計管理会計
対象社外の関係者(株主、銀行、税務署など)社内の関係者(経営層、部門責任者など)
主な目的過去の実績を報告する未来の判断に活かす
使用ルール会計基準、会社法などに基づく社内の目的に応じて自由に設計
成果物財務諸表(B/S、P/L、C/Sなど)予算資料、部門別の損益表など

企業活動全体の透明性や戦略判断を支えるために、財務会計と管理会計は目的に応じて使い分けられています。

会計や簿記の資格にはどんな種類がある?

会計や簿記の知識は、経理担当者だけでなく、ビジネスに携わるすべての人にとって役立つスキルです。その知識や実務能力を客観的に証明する手段として、複数の資格が設けられています。ここでは代表的な資格の特徴と、実務での活用例を紹介します。

日商簿記検定:知名度が高く、実務でも評価される資格

「日商簿記検定」は、日本商工会議所が主催する簿記資格で、企業の採用・昇進基準としても広く活用されています。3級から1級まで段階的にレベルが分かれており、それぞれの内容は以下のとおりです。

等級学べる内容想定される実務・評価される場面
3級仕訳・帳簿記入など基本的な記録処理小規模事業者の帳簿作成、経理職の入門レベル
2級商業簿記と工業簿記の基礎中小企業の経理実務、財務諸表の読解、決算業務の補助
1級会計基準、連結会計、原価計算など高度な知識大企業の決算・分析業務、会計士・税理士の登竜門

3級は、帳簿の記録や仕訳処理といった日常的な経理業務の基本を学ぶ資格です。小規模事業者や経理職の新人研修などでも活用されており、これから会計業務を始める方の導入として適しています。
勘定科目の理解や取引の流れを身につけることで、上司の補助業務を安心してこなせるようになります。

2級は、企業の商取引や製造活動における会計処理までをカバーしており、月次決算や年次決算にも対応できるスキルの証明となります。経理・財務部門に限らず、営業や管理部門で数字を扱う場面でも評価されやすい資格です。

1級では、財務会計・管理会計・会計学・原価計算といった幅広い領域を扱い、経営層に近い視点での意思決定にも役立つ知識が問われます。合格すれば、会計の専門職へのステップとしても評価されやすくなります。

会計士や税理士を目指す場合の基礎資格としても有効

日商簿記1級を取得すると、税理士試験の受験資格が得られます。かつては公認会計士試験にも受験資格が必要でしたが、現在は誰でも受験できるため、簿記1級の知識はその後の試験合格に向けた第一歩となります。

  • 公認会計士:企業の監査や会計アドバイザリー業務を担う
  • 税理士:税務申告、税務相談などを通じて企業活動を支援する

いずれも高い専門性を求められる職業であり、簿記の基礎がないと学習や実務の土台が整いません。

その他の会計・簿記関連資格

日商簿記以外にも、より実務的なスキルや国際的な知識を測る資格もあります。

  • FASS検定(経理・財務スキル検定)
    資産管理・決算・税務・資金管理の4分野から出題され、経理実務に必要なスキルを5段階で評価する検定です。自分の強み・弱みの把握に役立ちます。
    出典:FASS検定とは|日本CFO協会
  • BATIC(国際会計検定)
    IFRS国際会計基準)や英文会計に関する理解を測定。外資系企業やグローバル業務に携わる人に向いています。英語による会計実務への対応力も評価対象になります。
    出典:BATIC(国際会計検定)|東京商工会議所

会計と簿記の知識を中小企業の経営に活かす方法

会計や簿記の知識は、決算書の作成や税務申告のためにあるわけではなく、日々の取引を数値で把握し、経営判断に活かすために重要です。限られた人員や予算で運営される中小企業においては、経理担当者はもちろん、経営者自身が基礎を理解することで、企業の安定的な成長につながります。

感覚的な経営からの脱却

中小企業では、売上や収支の状況を「なんとなくの感覚」で把握し、実際の数値とズレた経営判断が行われるケースも見られます。帳簿が整備されていない、月次の損益が集計されていない、といった状況では、利益が出ているつもりでも実際には赤字だったということも起こり得ます。

こうした「どんぶり勘定」から脱却するには、簿記の知識をもとに日々の取引を正しく記録する習慣と、会計の知識を活かした月次・四半期ベースでの業績の見直しが欠かせません。感覚に頼らず、数字を根拠にした判断を行うことが、資金の流れを安定させ、的確な施策を選択する礎となります。

損益構造を読み解き、利益体質を見直す

会計で作成される損益計算書(P/L)は、企業の収益性やコスト構造を明確に示す資料です。数字の構造を読み解けば、自社の利益の源泉やコストの負担が可視化され、経営改善の方向性が見えてきます。

たとえば以下のような読み取りが可能です。

  • 売上総利益率が低下している場合 → 仕入価格や在庫回転率、製造原価等に改善余地がある可能性
  • 営業利益率が低い場合 → 人件費、広告宣伝費、外注費などの販管費の見直しが必要かもしれない
  • 特定部門の売上が増えているが全体の利益が横ばい → 部門別の損益分析を行うことで、戦略の重点を見直す機会になる

このように、会計数値を「見る」だけでなく、「読み解く」力が経営の質に直結します。

資金繰り管理による黒字倒産の回避

企業が黒字にもかかわらず倒産してしまう「黒字倒産」は、資金の流れを軽視した結果として生じます。とくに、売掛金の回収遅延や仕入債務の集中、設備投資による資金圧迫などが原因となることがあります。

このリスクを回避するには、キャッシュ・フロー計算書や資金繰り表を活用し、利益ではなく現金の動きを常に把握することが重要です。具体的には、

  • 月次でのキャッシュ収支の確認
  • 売上と入金のタイミングのズレの分析
  • 設備投資や税金支払い時期の見通し立て

といった管理を経理部門だけでなく、経営層も共有しておく必要があります。資金の流れを定期的に見直す体制を整えておくことが、事業継続のリスクを大きく下げる手段となります。

会計と簿記は経営の基盤となる知識

会計と簿記は似た用語ですが、目的と機能は異なります。簿記は日々の取引を正確に記録する技術であり、会計はその記録をもとに経営成績や財政状態を社内外に伝えるしくみです。

両者を正しく理解することで、経理業務の信頼性が高まり、経営判断の質も向上します。資格の取得を通じて知識を整理し、実務に応用することで業務の幅も広がります。

とくに中小企業では、感覚的な経営から脱却し、数字に基づいた意思決定を行うための基盤として、簿記と会計の知識が欠かせません。


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