- 更新日 : 2025年6月19日
裏書譲渡した手形の会計処理や仕訳とは?具体例でわかりやすく解説
受取手形を使った支払いの場面では、「裏書譲渡(うらがきじょうと)」という方法が使われることがあります。裏書譲渡とは、取引先から受け取った手形を第三者への支払いに使う方法で、現金を使わずに決済できる点が特徴です。ただし、会計処理は少し特殊で、処理方法がいくつかあります。
この記事では、裏書譲渡の基本と会計処理の考え方、具体的な仕訳例をやさしく紹介します。
目次
裏書譲渡とは?
企業が取引の中で受け取った「約束手形」や「為替手形」は、通常であれば期日が来たときに現金化されます。しかし、その手形を使って別の取引先への支払いに充てることができます。この方法を「裏書譲渡」といいます。
裏書譲渡は、現金を使わずに支払いができるため、資金繰りを助ける手段のひとつとして多くの企業で使われています。ただし、手形の信用性や不渡りリスク、会計処理の方法など、注意しなければならない点もあります。
受取手形を第三者に譲渡する取引
裏書譲渡とは、自社が取引先から受け取った手形を、さらに別の会社(第三者)への支払いに使うことを指します。
たとえば、A社がB社から商品を仕入れて代金を支払う必要があるとき、C社から受け取った手形を裏書譲渡して、B社への支払いに使うといったケースです。こうすることで、自社は現金を出さずに仕入代金を支払えます。
このような形で、手形が支払手段として「バトン」のように他の会社へと回っていくのが裏書譲渡のイメージです。
このとき、手形を裏書譲渡した企業(上記の例ではA社)は「裏書人」と呼ばれ、万が一その手形が決済されなかった場合は、支払いの責任を負うことになります。これを「償還義務(しょうかんぎむ)」といいます。
裏書の書き方
裏書を行うには、手形の裏面に次の内容を記載し、法人印を押印します。
- 住所
- 会社名
- 代表資格
- 代表者名
これらを記載したうえで、手形を譲渡先に引き渡すことで、裏書譲渡が成立します。最近では、電子記録債権(でんさい)など、紙を使わない決済方法も普及していますが、裏書の基本的な仕組みは同じです。
なお、記入ミスや押印漏れがあると裏書が無効になることもあるため、慎重な対応が求められます。
裏書譲渡が使われる業界や職種
裏書譲渡は、主に以下のような業種・職種で利用されています。
- 製造業や卸売業:資材の仕入れに対して、販売先から受け取った手形を支払いに回す
- 建設業や工事業:工期に合わせて手形決済が使われることが多く、裏書譲渡も一般的
- 地方の中小企業:資金繰り対策として現金の代わりに手形が使われることがあり、裏書も活用される
- 繊維・アパレル業界:取引金額が大きく、業界内での信用決済が頻繁に行われる
一方で、政府や金融業界が2026年の約束手形の利用廃止に向けた取り組みを行っていることもあり、最近は手形そのものを使う取引が減ってきている傾向があります。
裏書譲渡と割引手形との違い
裏書譲渡と似た言葉に「割引手形」というものがあります。割引とは、「期日前の手形を銀行に持ち込んで、手数料を引かれたうえで現金化する」という意味です。
割引手形は、銀行や金融機関に持ち込むことで資金を早めに得ることができ、資金繰り対策として用いられます。
一方、裏書譲渡は、手形を他の取引先への支払いに使う方法であり、資金調達ではなく債務の消し込みに使われるという点が違います。
裏書譲渡のメリットとデメリット
裏書譲渡は、受取手形を使うことで現金を使わずに支払いができるため資金繰りに役立ちますが、不渡りなどのリスクもあります。ここでは、裏書譲渡を活用するうえで知っておきたい利点と注意点を整理します。
裏書譲渡のメリット
裏書譲渡のデメリット
- 不渡りが起きた場合に支払い責任を負う
手形が決済されなければ、裏書した側(自社)が支払い義務を負う可能性があります。 - 会計処理の選択肢が多く社内ルールが必要
直接減額法・評価勘定法・対照勘定法などがあり、統一した運用が求められます。 - 決算処理が複雑になることがある
決算日までに裏書手形が未決済の場合、注記や帳簿の表示に注意が必要です。 - 電子記録債権(でんさい)などとの違いに注意
紙の手形とは処理方法が異なる場合があるため、新しい形式を使う際は事前確認が必要です。
裏書譲渡の会計処理の考え方
裏書譲渡を仕訳する方法は1つではありません。企業の会計方針や実務の体制に応じて、主に3つの処理方法のいずれかが使われます。
直接減額法
受取手形をそのまま減らし、裏書先への支払いと相殺する方法です。特別な勘定科目は使わず、「受取手形」を減額することで処理します。
この方法は、裏書譲渡と同時に手形を帳簿から除くことができ、処理の手間も少なく済みます。中小企業や、裏書譲渡の件数が少ない会社ではよく採用されています。
ただし、期末時点で未決済の裏書手形がある場合には、帳簿上に情報が残らないため、注記による対応が必要です。
評価勘定法(裏書手形勘定を使う方法)
「裏書手形」という勘定科目を使って処理する方法です。受取手形の代わりに裏書手形を立てて、帳簿上で別の場所に区分して表示します。
たとえば、以下のように仕訳します。
- 裏書譲渡した時点で「裏書手形」を計上
- 期末まで未決済であれば、貸借対照表には裏書手形として表示
- 決済が完了したら裏書手形を取り崩す
この方法は、未決済の裏書手形を明示的に管理できるという点で、会計の透明性が高まるメリットがあります。一方で、勘定科目が増える分、記帳には少し慣れが必要です。
対照勘定法(裏書債務も記帳する方法)
さらに詳細な管理が必要な場合には、「手形裏書見返」と同時に「手形裏書義務」という負債勘定も使って処理します。
これは、受取手形を裏書譲渡しても、不渡りが出たときに支払義務があることを負債として認識するための方法です。
具体的には以下のように処理します。
- 裏書譲渡と同時に「手形裏書義務見返」(資産)と「手形裏書義務」(負債)を計上
- 手形が正常に決済されれば、両方の勘定を取り崩す
- 万が一不渡りになった場合は、手形裏書義務を実際の支払いに振り替える
この方法は内部統制や監査対応に強い点が特長です。ただし、運用や管理の負担は最も大きく、社内のルールやフローが整っていないと難しい面もあります。
裏書譲渡の仕訳例をわかりやすく紹介
裏書譲渡は処理方法によって仕訳の形が異なります。ここでは、実務で使われる代表的な5つの仕訳例をご紹介します。
仕訳例①:直接減額法で裏書譲渡した場合
受取手形100,000円を仕入先への支払いに裏書譲渡したときの仕訳です。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 100,000円 | 受取手形 | 100,000円 |
この方法では、受取手形の残高を直接減らし、買掛金の消し込みとして処理します。手形が帳簿からなくなるため、決算時に未決済分がある場合は、注記での補足が必要です。
仕訳例②:評価勘定法(裏書手形勘定を使う場合)
受取手形を「裏書手形」として振り替えて管理する場合の仕訳です。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 100,000円 | 裏書手形 | 100,000円 |
「裏書手形」は評価勘定として使い、受取手形の代わりに帳簿に残します。決算時には未決済の裏書手形を資産として表示するため、財務諸表の透明性が高まります。
仕訳例③:対照勘定法(手形裏書義務見返と手形裏書義務を同時に記帳)
裏書譲渡した際に、将来の償還義務も見込んで処理する方法です。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 買掛金 手形裏書義務見返 | 100,000円 100,000円 | 受取手形 手形裏書義務 | 100,000円 100,000円 |
この方法では、受取手形の代わりに「手形裏書義務見返(資産)」と、将来支払うかもしれない「手形裏書義務(負債)」の両方を帳簿に残します。監査やリスク管理が厳しい企業に向いています。
仕訳例④:裏書手形が不渡りになった場合の処理(直接減額法)
譲渡した手形が不渡りになり、自社が現金で支払ったときの仕訳です。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 不渡手形 | 100,000円 | 現金 | 100,000円 |
裏書譲渡先で決済されなかった場合、償還義務により自社が支払うことになります。帳簿上は不渡手形を計上し、現金または預金での支払いとなります。
仕訳例⑤:期末に未決済の裏書手形がある場合(直接減額法)
裏書譲渡はしたが、決算日時点で決済が完了していない場合、仕訳としては動きがなく、注記で対応します。
評価勘定法対照勘定法を採用していない場合は、裏書手形の残高が帳簿に現れないことがあります。その場合は、期末時点での未決済手形を財務諸表の注記で明記し、リスクの存在を示しておくことが求められます。
でんさい(電子記録債権)で裏書譲渡する方法
「でんさい」とは、正式には「電子記録債権」と呼ばれる、紙の手形を電子化した仕組みです。紙の手形と同じように、売上代金の回収や支払いに使うことができ、裏書譲渡と同じような運用も可能です。ここでは、でんさいの基本と、裏書譲渡との違いや実務での使い方について整理します。
でんさい(電子記録債権)の仕組み
でんさいは、紙の手形のように物理的な証券を使わず、電子データの形で債権の発生・譲渡・消滅を記録する仕組みです。でんさいネット(電子債権記録機関)という仕組みを通じて、取引情報が管理され、利用者間で債権のやり取りが行われます。
手形と同様、でんさいにも期日があり、支払期日に合わせて自動的に振込が行われる仕組みです。
でんさい(電子記録債権)による裏書譲渡の方法
紙の手形では、手形の裏に「裏書」をしてから第三者に渡す必要がありますが、でんさいではすべての処理がシステム上で行われます。
裏書譲渡に相当する操作は、「債権の譲渡記録」として処理されます。
- 債権譲渡の依頼を、でんさいネットを通じて金融機関に提出
- 受取人(譲渡先)の同意が得られると、譲渡記録が成立
- 債権は譲渡先の債権者名義に切り替わる
このように、でんさいの裏書譲渡では、紙の手形のような記入・押印作業が不要で、オンライン上で完結します。
会計処理は手形の裏書譲渡とほぼ同じ
でんさいを裏書譲渡のように利用した場合、会計処理としては紙の手形を使った裏書譲渡とほぼ同じ考え方で記帳できます。たとえば、受け取ったでんさいを仕入先への支払いに使った場合は、受取手形の代わりに「電子記録債権」などの勘定科目を使って処理することになります。
評価勘定法や対照勘定法を使う場合も、裏書譲渡と同じ考え方で運用することが可能です。ただし、システムによっては勘定科目名や処理フローが異なるため、自社の会計ソフトや銀行との運用ルールを確認しておく必要があります。
裏書譲渡時の会計処理で気をつけるポイント
裏書譲渡は手形を使った便利な決済手段ですが、処理方法を誤ると決算書の内容に影響したり、トラブルにつながったりすることがあります。ここでは、経理担当者が実務で気をつけたいポイントを整理しておきます。
処理方法を社内で統一しておく
裏書譲渡の会計処理には、直接減額法・評価勘定法・対照勘定法の3つがあります。どれを使っても問題ありませんが、社内で方法を統一し、全員が同じルールで記帳することが大切です。
バラバラの処理が混在すると、帳簿の整合性が取れなくなり、決算時の集計や監査対応で手間が増えてしまいます。
決算日時点での未決済手形に注意
期末までに裏書譲渡した手形がまだ決済されていない場合、その手形が帳簿に載っていないと、資産の過少計上と判断されることがあります。
評価勘定法や対照勘定法では裏書手形を帳簿に残すことができますが、直接減額法を使っている場合は、注記で補足する必要があります。
- 未決済の裏書手形がある場合 → 決算書の注記に記載
- 金額が大きい場合 → 裏書債務として負債に表示することも検討
不渡りリスクと償還義務の対応
裏書譲渡された手形が不渡りとなった場合、支払い義務が自社に戻ってきます。こうした場合に備え、不渡り時の仕訳処理もあらかじめ決めておくことが望ましいです。
また、会計処理だけでなく、社内での責任の所在(営業部門か経理部門か)も明確にしておくと、トラブル時の対応がスムーズです。
会計ソフトの設定を確認しておく
使っている会計ソフトによっては、「裏書手形」や「手形裏書義務」という勘定科目があらかじめ用意されていないことがあります。その場合は、科目の追加設定や名称の調整が必要になります。
また、勘定科目を間違えると仕訳が正しく集計されず、消費税の申告や決算書に影響することがあります。
裏書譲渡を迷わず処理できる仕組みをつくろう
裏書譲渡は便利な資金決済の手段ですが、処理方法が複数あり、決算や不渡り時の対応も考慮する必要があります。「迷わず処理できる仕組み」を社内で整えましょう。
どの会計処理を使うかを明確にし、ルールを統一すれば、帳簿の整合性を保ちやすくなります。また、期末に未決済の手形があるかどうかを定期的に確認することで、決算時の混乱を防げます。
また、裏書譲渡の記帳方法や責任の所在を社内で共有しておけば、担当者が変わってもスムーズに処理を引き継げます。日頃の仕組みづくりが、正確な経理業務につながります。
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