- 作成日 : 2025年4月1日
小切手の銀行渡りとは?メリットや手続き、必要書類、廃止の方針などをわかりやすく解説
「銀行渡り」という言葉を聞いたことはあっても、その仕組みや使い方について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。銀行渡りとは、小切手をより安全に利用するための仕組みで、企業間の取引や高額な決済などで広く使われています。本記事では、銀行渡り小切手の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、具体的な入金手続き方法、トラブル時の対処法まで、初心者の方にもわかりやすく詳しく解説しています。ぜひこの記事を参考に、安心して小切手を利用できるよう知識を深めてみてください。
目次
小切手の銀行渡りとは
銀行渡りとは、小切手の表面の右肩などに記載される表示であり、不正利用を防ぐための重要な仕組みです。「銀行渡り」の記載がある小切手は、銀行の窓口で直接現金に換金することができず、必ず持参人の銀行口座に入金する形で決済されます。
小切手には、本来、銀行窓口に持っていけばその場で現金に換えられるタイプもあります。しかし、「銀行渡り」と記載された小切手は、必ず銀行口座を通して資金をやり取りすることになっており、現金を直接手渡しすることはありません。これが銀行渡りの最大の特徴であり、持参人払小切手などの通常の小切手とは明確に区別されています。
また、「銀行渡り」という表示は、「線引き小切手」と同様に、銀行口座への入金を指定するための記載であり、実務上はほぼ同じ効果を持っています。ただし、線引き小切手は明確に法律(小切手法)で規定されていますが、「銀行渡り」という表現自体は法律用語ではなく、実務的な慣行として用いられているものです。
銀行渡り小切手のメリット
銀行渡りの小切手は、支払い手段として利用される小切手の中でも特に安全性を高めるための仕組みを備えています。そのメリットを詳しく見ていきます。
不正利用の防止につながる
銀行渡りの最も大きなメリットの一つが、不正利用のリスクを大きく減らせることです。
通常の小切手(例えば持参人払小切手)の場合は、小切手そのものを銀行に持参すれば誰でもすぐに現金化できてしまいます。このため、小切手を紛失したり、盗難に遭ったりした際に、第三者が不正に現金を得ることが容易であり、大きなリスクが伴います。
これに対して銀行渡りの小切手の場合は、小切手を銀行に持ち込んでもその場で現金を受け取ることはできません。必ず銀行口座に資金が振り込まれる形式で入金されます。この仕組みにより、もし不正な第三者が小切手を入手しても、すぐに現金を手に入れることは困難です。資金の移動が口座を通じて行われるため、不正利用があった場合でも資金の流れを追跡でき、不正な利用者を特定しやすくなります。この結果、盗難や紛失時の安全性が格段に向上します。
特に、高額な取引を頻繁に行う企業や法人間取引においては、小切手の不正利用による損失は大きな経済的リスクとなります。そのため銀行渡りの仕組みは、こうしたリスクから取引を守る重要な役割を果たします。
取引の記録ができる
銀行渡りの小切手を利用すると、資金の移動が銀行口座を経由して行われるため、すべての取引が明確な記録として残ります。銀行口座への入金履歴は銀行の取引明細に記録されるため、取引の事実や入金金額、日付などを後から簡単に確認できます。
これは特に企業の会計処理や経理業務において非常に重要です。取引記録が銀行明細として明確に残るため、後日の監査や税務調査、社内での経理処理において透明性が高まります。会計帳簿との照合作業も簡単に行え、取引の正確性と信頼性を向上させることができます。
紛失や盗難のリスクを抑えられる
現金の場合は、紛失・盗難に遭った時点でほとんど取り戻すことが不可能であり、被害額をそのまま損失として計上するしかありません。しかし、銀行渡りの小切手の場合は、口座への入金しか認められないため、不正に現金化される可能性が極めて低くなります。
さらに、万が一小切手が紛失または盗難に遭った場合でも、振出人にすぐ連絡を取り、銀行に支払い停止の手続きを依頼することで、資金が不正に引き出されることを防げます。銀行渡りの仕組みがなければ、このような対応は難しく、資金が戻ってくる可能性も低くなります。
受取人が特定できる
銀行渡りの小切手の入金は銀行口座経由で行われるため、最終的な資金の受取人が明確に特定できます。この仕組みがあることで、資金の流れが非常に透明になり、受取人が誰であるかがはっきりと記録されます。
特に法人間取引においては、資金の流れを明確にすることが必須であり、責任の所在を明らかにするという観点からも重要です。また、万が一のトラブル発生時にも迅速な対応が可能になり、企業のコンプライアンス向上にも役立ちます。
信頼性の向上につながる
銀行渡りの小切手によって、振出人・受取人の双方に安心感を与えます。特に企業間の高額な取引では、現金によるやり取りよりも銀行渡りの小切手の方が安全性が高く、透明性もあるため、相手方からの信頼も得やすくなります。
銀行渡りを利用することで、取引相手に対して「しっかりとした管理を行っている企業である」というイメージを与えることもでき、信頼性の高い企業として評価されることにつながります。
銀行渡り小切手のデメリット
銀行渡りの小切手は安全性が高く、取引記録が明確になるといったメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。ここでは、銀行渡りの小切手を使う上で把握しておくべきデメリットを詳しく説明します。
即時に現金化できない
銀行渡りの小切手の最も大きなデメリットは、すぐに現金化することができないという点です。銀行渡りの小切手を銀行窓口に持参しても、その場で現金を受け取ることはできません。銀行口座に一度入金する必要があるため、資金を実際に引き出せるようになるまでには数日間の時間がかかります。
特に緊急で現金が必要な状況や、即座に資金を活用したい場合には、この現金化までの時間が大きな障害となります。通常、小切手を預けてから実際に資金が引き出せるまでにかかる期間は、銀行間の処理が必要になるため、同一銀行間であれば比較的短い場合もありますが、異なる銀行間であれば数営業日を要することが多くなります。
資金繰りに影響を与える
銀行渡りの小切手が実際に現金化されるまでには数営業日の期間を要することが多いため、資金繰りに影響を与える可能性があります。特に資金繰りがタイトな中小企業や個人事業主にとっては、小切手の入金処理が完了するまでの期間が資金不足を招き、運転資金や支払いなどに悪影響を及ぼすリスクがあることに注意が必要です。
小切手の支払銀行が異なる場合には、資金が利用可能になるまでさらに時間がかかることも多いため、銀行渡りの小切手を受け取る場合には、その資金を見越して余裕を持った資金計画を立てる必要があります。
受取人の銀行口座が必要
銀行渡りの小切手を利用するためには、受取人が銀行口座を持っている必要があります。意外に見落とされがちですが、銀行口座を持っていない個人や法人は、銀行渡りの小切手を受け取っても入金処理ができません。
特に、銀行口座を持っていない個人や中小事業者、小規模の取引相手の場合、銀行渡りの小切手を渡しても現金化できず、結果として資金決済が遅れたり、別の支払い方法を取る必要が出てきます。この点は取引の相手方に配慮し、事前に口座の有無を確認するなどの対応が求められます。
銀行の営業時間内の持ち込みが必要
銀行渡りの小切手の入金手続きは原則として銀行の窓口でのみ可能であり、ATMでの処理は一般的に受け付けていません。そのため、銀行の営業時間内に直接窓口を訪問して手続きを行う必要があります。
多くの銀行の営業時間は平日の午前9時から午後3時頃までとなっており、土日祝日や営業時間外には手続きができないという制限があります。このような時間的な制約があるため、多忙な業務を抱える企業担当者や個人事業主にとっては不便さを感じる可能性があります。
特に急な入金が必要な場合や、営業時間内に銀行を訪問するのが困難な状況では、銀行渡りの小切手の利用が実務上の負担となり、業務効率を下げる原因になることがあります。
取立手数料が発生する場合がある
銀行渡りの小切手を入金する際、振出銀行(小切手を発行した銀行)と受取人が利用している銀行が異なると、取立手数料と呼ばれる手数料が発生することがあります。
取立手数料は、銀行間の処理を行うために銀行が受取人に課すものであり、その金額は銀行ごとに異なりますが、一般的には数百円程度から数千円程度の範囲で設定されています。特に小額の小切手を受け取った場合、取立手数料が負担となり、実際に手元に残る金額が目減りする可能性があります。
このため、銀行渡りの小切手の利用時には、できる限り同じ銀行同士で処理することを検討するなど、手数料負担を軽減するための工夫が必要になります。
銀行渡り小切手を現金化する方法
取引先や取引相手などから「銀行渡り」の表示がある小切手を受け取った際には、銀行口座に入金するための具体的な手続きが必要です。
まず、小切手を受け取った後、銀行渡りの表示や記載内容に誤りがないかどうかを念入りに確認します。銀行渡りの表示が正確に記載されていること、金額や日付、振出人の署名や押印に不備がないか確認することが重要です。問題がなければ、銀行に持参して入金手続きを行います。
銀行窓口での手続きは原則として銀行の営業時間内(平日の午前9時~午後3時頃)に限定されています。銀行窓口に訪問し、担当者に銀行渡り小切手の預金(入金)を行いたいことを伝えます。その際、預金したい銀行口座の通帳またはキャッシュカードを準備して提示します。
銀行によっては、窓口で指定の「預金口座振込依頼書」などの書類に必要事項を記入する必要があります。この書類には、預金する口座番号、名義人、入金する金額、小切手の情報、連絡先などを正確に記入します。記入後、窓口担当者に小切手と一緒に提出し、手続きを進めてもらいます。
銀行窓口では、小切手の内容確認や本人確認書類のチェックが行われます。特に高額(10万円を超える場合など)の小切手の場合や初回取引時には、本人確認書類の提出が求められることが多いです。
手続きが無事完了すると、銀行から「預金受領書」や控えが発行されるため、紛失しないよう大切に保管します。
銀行渡り小切手の入金手続きに必要な書類
銀行渡りの小切手の入金手続きを行う際には、基本的に以下の書類が必要です。
- 小切手:「銀行渡り」の表示が明確に記載された原本の小切手が必要です。コピーなどでは受付できません。
- 通帳または口座情報:預金口座の通帳または口座番号が記載されているキャッシュカードなどを提示します。銀行によっては通帳自体の提示を求められることが多いため、事前に確認しておくことをおすすめします。
- 本人確認書類:小切手の金額が10万円を超える場合や、初回利用の場合には本人確認書類の提出が必須です。法人の場合は、登記事項証明書、印鑑登録証明書なども必要となることがあります。
- 印鑑:銀行や口座の種類によっては、届出印が必要となる場合があります。
銀行渡り小切手に関する注意点
銀行渡り小切手を安全かつ確実に利用するためには、いくつかの重要な注意点があります。また、小切手を利用する際に起こりうるトラブルへの対処方法も知っておくことが重要です。ここでは、銀行渡りの小切手の注意点とトラブルへの具体的な対応策を詳しく説明します。
小切手の呈示期間と有効期限
銀行渡り小切手を受け取った場合、特に注意が必要なのが小切手の呈示期間と有効期限です。
呈示期間とは、小切手を銀行に提示して支払いを請求するために定められた期間のことで、原則として振出日の翌日から10日間と決められています。この期間内に銀行に小切手を提示する必要があります。呈示期間を過ぎてしまうと、小切手の振出人が支払いを銀行に対して停止することが可能になります。そのため、呈示期間内に速やかに銀行で入金手続きを行うことが非常に重要です。
一方で、小切手の法的な有効期限は振出日から6か月間です。しかし、呈示期間(10日間)を過ぎると、振出人が支払いを取り消す権利を持つため、期間内であっても入金が確実に行われる保証がなくなります。したがって、小切手を受け取ったらすぐに銀行で入金手続きを行い、支払いが確実に行われるよう努めることが推奨されます。
小切手を紛失・盗難した場合
銀行渡り小切手を紛失したり、盗難に遭った場合には速やかな対応が求められます。最も重要なのは、すぐに小切手の振出人に連絡することです。振出人は支払銀行に対して事故届を提出し、紛失または盗難された小切手の支払い停止を求めることができます。
この事故届を銀行に提出することで、小切手の現金化を防ぐことが可能になります。ただし、銀行によっては事故届の提出時に、小切手の額面と同額の資金を一時的な担保として預けることを求められる場合があります。これは万が一、小切手がすでに現金化されてしまった場合に銀行が負う損失を防ぐための措置です。
さらに、紛失または盗難の場合には速やかに警察にも届け出を行い、遺失届または盗難届を提出することも重要です。警察への届出が記録として残ることで、後日トラブルが発生した際に状況の説明や対応が容易になります。
小切手が不渡りになった場合
小切手の不渡りとは、小切手を銀行に提示しても支払いが拒否される状況を指します。主な原因は、振出人の当座預金口座の資金不足です。
銀行渡り小切手が不渡りになった場合、最初に行うべきことは小切手を振り出した本人または企業(振出人)にすぐに連絡を取り、不渡りになった原因や理由を確認することです。その上で、代替の支払い方法(現金払い、振り込みなど)を話し合う必要があります。
不渡りが繰り返されると、振出人の信用は大きく損なわれます。一般的に6か月以内に2回の不渡りを出すと、銀行取引停止処分(銀行取引停止処分を受けると、事実上の倒産状態となります)を受けることになります。そのため、振出人にとっても非常に深刻な問題であることから、誠実に対応してもらえる可能性もあります。
しかし、振出人が誠実に対応しない場合や連絡が取れない場合には、法的措置(支払督促や民事訴訟など)を検討する必要があります。小切手の現物や銀行からの不渡り通知書などを証拠として準備し、法律の専門家に相談することをおすすめします。
銀行渡り小切手は2026年度末までに廃止予定
現在、2026年度末までに紙の手形・小切手の利用が廃止される計画が進行中です。これに伴い、小切手の銀行渡りの仕組みも廃止される予定です。政府や全国銀行協会、各金融機関は、手形・小切手の全面的な電子化を推進しており、2026年度末までに電子交換所における交換枚数をゼロにすることを目標としています。
具体的なスケジュールとして、三菱UFJ銀行は2025年9月30日をもって手形・小切手の発行受付を終了し、2026年3月31日には他行を支払地とする手形・小切手の預金入金を終了すると発表しています。
今後は、電子記録債権やインターネットバンキングなど、電子的な決済手段への移行が求められます。詳細については、以下の記事もご参照ください。
銀行渡りの仕組みをしっかりと理解しておきましょう
銀行渡り小切手は、現金化がすぐにできないなど多少のデメリットもありますが、紛失や盗難による不正利用を防ぎ、取引の安全性を高めるための重要な仕組みです。取引の記録が明確になり、企業の会計処理や監査にも役立ちます。銀行渡り小切手を使う際には、小切手の呈示期間や必要書類、紛失・盗難時の対応、不渡り時の対処法などを事前に理解しておくことが大切です。本記事の内容を活用し、安心でスムーズな取引を実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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