- 作成日 : 2025年4月1日
小切手は2026年度末までに廃止予定!理由や電子記録債権(でんさい)などの代替手段を解説
2026年度末(2027年3月末)に、紙の小切手が完全に廃止されます。小切手は日本企業の取引で長年使われてきましたが、効率性の問題や不渡り・紛失などのリスクから電子決済への移行が求められています。この変化は、企業だけでなく、小切手を使っている一部の個人にも影響します。本記事では、小切手廃止の理由や具体的なスケジュール、企業や個人がこれから取るべき対応、さらに小切手に代わる新しい決済手段について詳しく解説します。
目次
小切手の廃止はいつから?
小切手は企業間取引で長く利用されてきた決済手段ですが、今後は電子的な決済サービスへの移行が強く推奨されています。一般社団法人全国銀行協会は、2026年度末までに全国の手形交換所における紙の手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを目標としています。
これに伴い、一部の金融機関では、すでに紙の小切手の取り扱いを段階的に停止しています。例えば、みずほ銀行は2024年1月4日以降、新規の当座預金口座開設者に対して紙の手形・小切手の発行を停止しました。また、2027年4月以降を期日とする手形・小切手の取り立て受付も停止する予定です。三菱UFJ銀行も同様に、2025年9月30日をもって手形・小切手の発行受付を終了し、他行を支払地とする手形・小切手の預金入金扱いも2026年3月31日に終了するとしています。
ここで重要な点は、廃止されるのはあくまで紙媒体の小切手であることです。電子的に記録される債権である電子記録債権(通称:でんさい)は引き続き利用可能となっています。
小切手が廃止される理由はなぜ?
小切手や手形は日本企業の商習慣として長年使用されてきました。しかし、政府や金融機関は以下の理由から、紙の小切手を廃止し、電子決済へと移行させる方針を固めています。
- 業務効率化のため
紙の小切手の処理には手間がかかり、業務効率を悪くする原因になっています。電子決済に移行すれば、手続きの手間が省けます。 - 資金回収に時間がかかるため
小切手は銀行に持ち込んで現金化するまでに時間がかかり、特に中小企業の資金繰りを圧迫しています。電子決済では即時に資金移動が可能です。 - リスク回避と安全性向上のため
紙の小切手は紛失、盗難、不渡りのリスクが伴います。電子決済はこれらのリスクを大幅に低減できます。 - キャッシュレス社会促進のため
日本政府は経済の効率化のためにキャッシュレス化を推進しており、小切手廃止もその一環です。
小切手の廃止が企業にもたらすメリット
小切手の廃止により企業が得られるメリットとして、事務負担の軽減、コスト削減、資金管理の改善、安全性向上などが挙げられます。
事務作業の効率化
紙の小切手を使った取引には、発行・記入作業、銀行への持ち込み、郵送など多くの手間がかかります。さらに、小切手を使う場合は支払期日を管理する必要があり、経理や財務担当者の業務が煩雑になります。これらの業務が電子決済に置き換わることで、企業は業務を効率化できるとともに、経理担当者がより生産的で戦略的な業務に集中できるようになります。
コストの削減
小切手取引には収入印紙代や郵送料、金融機関に払う手数料などの費用がかかっています。年間の取引回数が多い企業ほど、この費用が大きな負担となっています。電子決済に移行することで、これらの費用を大幅に削減することが可能になり、企業の収益性や競争力を高めることにつながります。
資金繰りの改善
紙の小切手では受け取ってから現金化されるまでに一定の時間がかかるため、企業の資金繰りを圧迫していました。特に中小企業においては、このタイムラグが経営のリスク要因になることもありました。電子決済の導入により、支払いと同時または短期間で入金が確認できるため、企業の資金繰りが改善し、経営安定化にもつながります。
紛失・盗難などのリスク低減
紙の小切手は紛失や盗難といったリスクが常に伴います。万が一紛失すると再発行の手間がかかり、経営にも影響を与える可能性があります。電子決済や電子記録債権(でんさい)に切り替えることで、紙媒体特有のリスクがなくなり、企業の取引がより安全で安定したものになります。また、支払い期日の管理も電子的に行えるため、人的ミスのリスクも低減できます。
不渡りのリスク低減
紙の小切手では振出企業の資金状況が悪化すると不渡りが発生し、受取側に大きな損失が出ることがあります。電子決済を利用すると、支払う側の資金状況をリアルタイムで確認しやすくなり、不渡りの発生を未然に防ぐことが可能になります。これにより、取引先との信頼関係も安定的に保たれます。
小切手の廃止が企業にもたらすデメリット
一方で、小切手廃止には企業が直面する課題や短期的なデメリットも存在します。以下では、その具体的な課題について詳しく説明します。
新しい決済システムへの対応が必要
小切手を廃止するには、新たな電子決済システムや電子記録債権(でんさい)の導入が必要です。企業は既存の会計・経理システムを改修したり、新たにシステムを導入したりする必要があります。そのため、システム変更に伴う初期費用や準備期間、さらに従業員への教育・研修を行う必要があり、短期的な負担が発生します。
セキュリティの強化が必要
電子決済を全面的に導入すると、企業はセキュリティへの対応を強化する必要があります。従来の紙の小切手では想定されなかった、情報漏洩や不正アクセスのリスクが新たに生じるためです。セキュリティ対策に追加の投資をしたり、専門的なセキュリティ対策を実施したりすることが求められます。
取引先との調整に手間がかかる
取引先によっては、依然として小切手での取引を希望する企業もあり、電子決済への切り替えに抵抗を示すケースが考えられます。この場合、企業は取引先と交渉・調整を行い、新たな決済手段に移行するための合意を得る必要があります。この調整には時間と労力がかかることもあり、企業の業務負荷が一時的に増加する可能性があります。
中小企業の負担が増加する
中小企業や、長年にわたり小切手を中心に決済を行ってきた企業にとっては、新しいシステムへの対応が特に大きな負担になる可能性があります。これらの企業は新しい決済システムを導入するための費用や人的リソースが不足している場合が多く、業務フローの再構築や取引先との交渉にかかる負担も大企業よりも重くなると予想されます。そのため、中小企業に対する公的支援や金融機関からのサポートが求められています。
小切手の廃止による代替手段
紙の小切手が2026年度末に廃止されることに伴い、企業や個人は新たな決済手段への移行を進める必要があります。ここでは、小切手の代わりとなる具体的な決済手段をそれぞれの特徴とメリットを交えながら詳しく解説します。
銀行振込(口座振替)
銀行振込(口座振替)は、小切手の代替手段として最も一般的で、すでに多くの企業や個人が日常的に利用している方法です。銀行の口座間で直接資金を移動させるため、支払いが即座に反映される特徴があります。また、多くの銀行がインターネットバンキングやATM、銀行窓口での振込サービスを提供しており、簡単に導入できます。
銀行振込のメリットは、新たなシステムを特別に導入する必要がなく、比較的スムーズに切り替えが可能な点です。また、支払いの履歴が銀行口座に記録されるため、管理も容易であり、透明性や安全性が高いこともメリットです。ただし、銀行によっては振込手数料がかかるため、取引回数が多い企業では手数料負担が増える可能性もあります。
電子記録債権(でんさい)
電子記録債権(通称:でんさい)は、小切手や手形に代わる新しい企業間の電子的決済手段です。小切手のように支払期日を設定して後日に資金を移動させる仕組みですが、紙ではなくインターネット上の電子記録として管理されます。
電子記録債権の特徴としては、紙の小切手や手形に必要だった印紙税や郵送料などのコストが不要になることが挙げられます。また、電子的に記録されるため紛失や盗難のリスクがなく、管理業務の負担も軽減されます。さらに、支払期日に自動で資金移動が行われるため、小切手のように銀行に持ち込んで現金化する必要もありません。譲渡や分割も可能であるため、企業間の取引において柔軟な資金調達手段としても活用されています。
導入するには金融機関に申し込み、審査を通過すればオンライン上ですぐに利用可能になります。
クレジットカード決済
クレジットカード決済は、個人間や小規模な企業間の取引で特に普及している決済方法ですが、最近では法人間取引でも利用が広がっています。
クレジットカード決済の仕組みは、購入者(支払う側)がクレジットカード会社に支払いを依頼し、クレジットカード会社が代金を立て替えて支払う仕組みです。実際の引き落としは後日行われるため、購入者側の資金繰りに余裕が生まれるというメリットがあります。また、支払った額に応じてポイント還元などの特典が付くこともあり、特に中小企業や個人事業主にとって魅力的な支払い手段です。
ただし、クレジットカードを利用するには手数料が発生することが多く、取引金額が大きい場合はコストが増加することに注意が必要です。また、法人向けクレジットカードの発行に際しては審査があります。
デビットカード決済
デビットカード決済は、決済を行った瞬間に銀行口座から支払金額が引き落とされる仕組みです。クレジットカード決済と異なり、口座残高以上の支払いはできない仕組みになっています。
デビットカード決済のメリットとしては、口座残高の範囲内で即時に決済が完了するため、資金管理が容易で、使いすぎを防げることです。クレジットカードの審査を受けたくない場合や、個人事業主や中小企業が資金管理を厳密に行いたい場合に適しています。また、最近では多くの銀行が法人向けデビットカードも提供しています。
デメリットとしては、即時引き落としが基本のため、支払いを後日に延ばすことができず、キャッシュフローに余裕を持たせるのは難しいという点があります。
電子マネー決済(プリペイド型・QRコード型など)
電子マネー決済は、スマートフォンやICカードなどを利用し、事前にチャージした資金を使って支払いを行う仕組みの決済方法です。特に小額の取引に適しており、非接触型やQRコード型の決済も普及しています。
電子マネー決済のメリットとしては、支払いが非常にスピーディで、現金のやり取りを省略できるため、業務効率化に役立つことです。また、QRコード型の電子マネーは店舗に専用端末を導入する必要がない場合もあり、導入コストが比較的低い点も魅力です。
ただし、チャージ金額の管理や不正利用防止のためのセキュリティ対策が必要になります。また、小額決済に特化しているため、大きな金額の取引には適さないことがあります。
小切手廃止に向けて企業が取るべき対応
最後に、企業が小切手廃止に向けて具体的にどのような手順で進めるべきかを詳しく解説します。
現状の利用状況の把握
企業が最初に行うべきことは、自社で現在どの程度の量の小切手を発行・受領しているのかを正確に把握することです。具体的には、小切手を使った取引の頻度、金額規模、取引先ごとの内訳などを詳細に確認します。これにより、小切手の廃止が自社の業務にどれだけ影響を与えるのかが明確になります。
また、このタイミングで小切手を使った取引にかかるコスト(印紙代、郵送費、銀行手数料など)や、小切手管理にかかる事務作業の負担なども把握することで、電子化によるコスト削減効果も予測できます。
代替手段の検討
小切手廃止後に自社で利用する新たな決済手段を検討します。銀行振込、電子記録債権(でんさい)、クレジットカード決済、デビットカード決済、電子マネーなどの手段がありますが、それぞれの特徴や導入コスト、利便性を比較し、自社の業務や取引先との関係性を考慮して最適な手段を選定します。
例えば、取引先が中小企業で資金繰りが厳しい場合は、電子記録債権(でんさい)のように一定期間後に支払いを行う決済方法が適していることがあります。また、取引金額が少額で頻繁な場合は、デビットカードや電子マネーの活用が検討されることもあります。このように、自社の業務スタイルに応じて決済手段を慎重に選ぶことが重要です。
取引先への事前周知
新たな決済手段への移行には、取引先の理解と協力が不可欠です。自社で選定した代替手段について取引先へ丁寧に説明し、小切手廃止のスケジュールや、今後どのように支払いを進めるかを早期に伝えます。
特に、小切手に慣れている取引先や、高齢の経営者がいる企業などは新しい方法への抵抗感がある場合も多いため、事前に十分な説明の機会を設け、必要に応じて直接訪問するなどの丁寧なフォローアップを行います。取引先が新しい決済方法をスムーズに受け入れるよう支援することも重要です。
社内システムおよび業務フローの改修
小切手から新たな決済方法へ移行するにあたり、社内の会計システムや経理業務のフローを見直す必要があります。たとえば電子記録債権(でんさい)を導入する場合は、それに対応した会計処理や帳簿管理の仕組みを構築する必要があります。
業務フローの改修には一定の準備期間が必要となります。具体的には、システムの改修や追加開発、帳票や伝票の変更、マニュアルの整備などを行い、移行後に業務が円滑に進むよう体制を整えておきます。特に、システム改修には時間や費用がかかることがあるため、早めに計画を立てることが推奨されます。
従業員への教育・トレーニングの実施
新しい決済手段が社内に浸透するためには、従業員への適切な教育とトレーニングが不可欠です。会計・経理担当者はもちろん、営業部門や購買部門など、支払い業務に関わるすべての従業員を対象に、新しい決済手段の利用方法や手順、注意点を十分に理解してもらう必要があります。
教育を実施する際は、単にマニュアルを配布するだけでなく、説明会や研修会を開催して質問や不安を解消できる場を提供することが重要です。特にITに慣れていない従業員には丁寧なフォローアップを行い、移行への心理的ハードルを下げる工夫が必要です。
金融機関への相談・連携
小切手廃止に伴う新たな決済手段の導入や運用について、取引している金融機関と積極的に相談・連携することも重要です。特に、電子記録債権(でんさい)の導入では、金融機関がサービスを提供し、導入や運用方法についてサポートを行っています。
銀行は企業が円滑に新しい決済方法を導入できるよう、個別相談や説明会などの支援を行っています。疑問点や課題が発生した場合は、金融機関の窓口に積極的に相談して解決策を模索するとよいでしょう。
支払条件や契約の見直し
新たな決済手段への切り替えに伴い、取引先との支払条件や契約内容を見直す必要が出てくることがあります。例えば、小切手から銀行振込や電子記録債権に移行すると、入金日や支払日などの条件が変わることが考えられます。これにより、自社または取引先の資金繰りに影響が出る可能性があります。
したがって、支払条件の変更が必要な場合は取引先と協議し、双方が納得できる条件で合意を形成します。契約書や覚書など文書の改訂も忘れずに行い、後々のトラブルを防ぐようにします。
小切手の廃止・電子化に向けて準備を進めましょう
紙の小切手が廃止されることで、企業には事務作業の効率化やコスト削減といったメリットがありますが、決済システムの変更や取引先との調整など、乗り越えるべき課題もあります。個人についてもオンラインバンキングや電子マネーへの切り替えなど、新しい決済手段に慣れることが重要です。企業・個人ともに、小切手廃止の影響を理解し、銀行振込、電子記録債権(でんさい)、クレジットカードなどの代替手段への準備を計画的に進めることが求められています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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