- 更新日 : 2025年3月31日
約束手形の廃止はいつから?2026年度末までのスケジュールやでんさいなどの代替手段も解説
約束手形は、長年にわたり日本の企業間取引で活用されてきた決済手段のひとつです。支払いを将来に約束することで、資金繰りの調整や信用取引を可能にする仕組みとして広く定着してきました。しかし、経済のデジタル化が進むなかで、その役割や利便性に疑問が持たれるようになり、ついに政府は2026年度末をもって約束手形を実質的に廃止する方針を打ち出しました。本記事では、そもそも約束手形とは何か、廃止に至った背景やスケジュール、メリット・デメリット、代替手段、そして企業が今とるべき対応まで、わかりやすく解説します。
目次
そもそも約束手形とは
約束手形とは、発行者(振出人)が受取人に対し、将来の特定期日に一定金額を支払うことを約束した有価証券です。振出人が受取人に手形を交付することで決済が行われ、受取人は期日まで手形を保有するか、裏書譲渡によって第三者に譲渡したり、金融機関で割引(買い取り)を依頼して期日前に現金化することができます。
約束手形には、以下のような情報が記載されます。
- 支払う金額
- 支払期日
- 振出人の署名または記名押印
- 受取人の名前
- 支払場所
これらの情報が正しく記載された手形を受け取った側は、原則として支払期日になればその金額を受け取ることができます。
小切手や為替手との違い
約束手形と似たような決済手段には、小切手や為替手形がありますが、それぞれに明確な違いがあります。
小切手は、受け取った人が銀行に持ち込めばその場で現金化できる「即時払い」の性格を持っています。一方、約束手形は「将来の日に支払う」という約束に基づいており、支払いを先延ばしできる点が大きな特徴です。
為替手形は、振出人が「第三者に支払いをしてほしい」と依頼する仕組みで、約束手形とは発行と支払の関係が異なります。約束手形は、あくまで発行者本人が支払いを行うという点で、為替手形とは性質が異なります。
約束手形の歴史的背景
日本における約束手形の制度は、明治時代に西洋の金融制度を導入した流れの中で整備されました。現在の法的な枠組みは、1882年(明治15年)に制定された「為替手形約束手形条例」がもとになっています。
高度経済成長期には、企業の資金需要が急増し、手元に現金がなくても仕入れを行える手形が、非常に重宝されました。とくに銀行融資が追いつかない場面では、手形を活用することで企業活動を回していたという歴史があります。
1970年代以降には、手形の支払期間(支払サイト)として120日が一般的になりました。これは、当時の業界慣行や政府の通達によって定着したもので、今でも一部の業界ではその影響が残っています。
約束手形の現状と課題
現代では、企業の資金繰りの多様化やデジタル化の進展により、約束手形の発行件数は徐々に減少しています。とはいえ、製造業や建設業など、依然として一定の割合で利用されている業界もあります。
約束手形を使う側にとっては、支払いを先延ばしにできるというメリットがありますが、受け取る側にとってはリスクや不便も大きくなります。例えば、現金化まで時間がかかることで資金繰りが苦しくなったり、振出人が支払い不能(=不渡り)になった場合には、大きな損失を被る可能性があります。
また、紙の書類であるため、管理や保管の手間、紛失・盗難といったリスクも避けられません。こうした点が、今回の廃止の動きにつながっています。
約束手形の廃止はいつ?今後のスケジュール
経済産業省を中心に、政府は約束手形の利用を段階的に減らし、2026年度末(2027年3月末)までに「紙の約束手形を実質的に廃止する」ことを目指しています。「実質的に廃止」とは、法律で完全に禁止するわけではありませんが、使われる場面がほとんどなくなるように制度や運用を変えていくという意味です。
すでに多くの銀行や金融機関も、この方針に合わせて準備を進めており、2026年度末を目処に紙の約束手形や小切手の取り扱いをやめる動きが広がっています。企業が手形を発行したり受け取ったりすることができなくなるのは、時間の問題です。制度の整備と実務の両面から、約束手形は確実に姿を消しつつあります。
2024年11月:支払いは60日以内が原則に
これまで、約束手形では「支払サイト120日」など、長い支払猶予が当たり前とされてきました。しかしこれは、下請企業など中小企業の資金繰りを苦しめる原因になっていました。
こうした状況を改善するため、政府は「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」の運用ルールを見直し、2024年11月からは「支払いは原則60日以内」とする新しいガイドラインを適用します。
この改正により、60日を超える手形の使用が行政指導の対象になる可能性があります。つまり、実質的に「長期サイトの手形は使えなくなる」ということです。企業には、これまでの商習慣を見直し、早期に新しい決済スタイルへ切り替えることが求められています。
2026年度末(2027年3月):手形の利用がほぼ終了
2026年度末(2027年3月末)は、紙の約束手形の「実質的な廃止」に向けた最終的な目標時期です。金融機関もこのスケジュールを前提に、紙の手形や小切手の取り扱いを順次終了していく予定です。
そのため、企業はこの期限を待たずに、はやめに代替手段を導入して社内の業務フローを見直す必要があります。また、取引先との決済方法に関する協議も前倒しで進めることで、トラブルや混乱を防ぐことができます。
約束手形が廃止される理由
約束手形は長い間、日本の企業間取引において広く使われてきました。特に現金がすぐに用意できない場合でも、支払いの「約束」を示すことで商品やサービスを受け取れるという点で、多くの企業にとって資金繰りの調整手段として有効だったのです。
しかし、社会や経済の仕組みが大きく変わってきた今、約束手形には時代にそぐわない問題点が数多く浮き彫りになっています。以下に、廃止が進められる主な理由を詳しく解説します。
資金繰りに悪影響を及ぼす
約束手形では、支払い期日が「受け取ってから2〜4か月後」といった長期になることが一般的です。中でも「120日サイト」という慣習は特に多く、受け取った側の企業はその間、売上があっても現金を得ることができません。
特に中小企業では、日々の仕入れや人件費などの支払いに現金が必要になるため、手元に現金が入ってこない期間が長引くと、資金繰りが一気に悪化する恐れがあります。また、急な設備投資や売上の減少といった予期せぬ事態に対して柔軟な対応ができず、倒産リスクすら高まるケースもあります。
不渡りのリスクがある
手形には、発行者(支払う側)が約束した期日に支払いを履行しない「不渡り」という重大なリスクが常に付きまといます。不渡りによって、受け取った企業にとっては代金が受け取れないという損失になるだけでなく、最悪の場合、その企業自身の連鎖倒産につながることもあります。
また、発行した企業も、一度でも不渡りを出せば、金融機関からの信用を失い、銀行取引停止となるケースがあります。これは実質的に「企業としての活動停止」を意味するほど深刻な問題です。こうした信用リスクが、手形取引における大きな不安要素となっています。
紙ベースの非効率な業務が生じる
約束手形は紙で発行・受け渡しされるため、その取り扱いには多くの手間がかかります。発行にあたっては、印刷、押印、印紙の貼付、郵送などの手続きが必要で、受け取った後も保管や期日管理、取立て処理などの業務が発生します。
これらの事務作業に時間を取られ、経理担当者の負担となるだけでなく、業務全体の効率も低下させます。さらに、紙の書類である以上、紛失や盗難、汚損といったリスクも常に伴い、セキュリティ面での不安も大きいと言えます。
現代のビジネスに不向き
近年、企業活動のあらゆる場面でデジタル化やオンライン化が進んでおり、業務のスピードと正確性が強く求められるようになっています。その中で、紙の手形は「処理に時間がかかる」「物理的に持ち運びが必要」「リアルタイムで確認できない」など、現代のビジネスには不向きな仕組みとなっています。
特に若い世代の経営者やスタートアップ企業、IT企業などでは、そもそも手形を使った経験がないというケースも増えており、取引の主流から外れつつあります。オンラインバンキングやクラウド会計といった便利な仕組みが整っている今、あえて紙の手形にこだわる理由が薄れているのです。
国際基準とのギャップがある
世界のビジネスの現場では、すでに約束手形のような紙ベースの長期決済手段は、ほとんど使われていません。欧米をはじめとする主要先進国では、電子決済やファクタリング、デジタル債権などが標準的な方法となっており、日本のように紙の手形が根強く残っている国はごく少数です。
このような状況では、海外企業との取引で日本独特の手形文化がネックになることもあります。例えば、「手形での支払いを条件にした契約」が国際的に通用しない、あるいは信頼性を疑われるといったリスクも考えられます。
結果として、日本企業の国際競争力の低下や、外資系企業とのビジネスチャンスの損失にもつながる可能性があります。
約束手形が廃止されるメリット
約束手形の廃止により、多くの企業、特に中小企業にとっては資金繰りの改善や業務の効率化といったさまざまなメリットが期待されています。従来の手形に依存していた取引慣行を見直すことで、より健全で公平なビジネス環境が実現されようとしています。
キャッシュフローが安定する
手形では支払期日まで数か月待たなければ現金化できませんでしたが、今後は銀行振込や電子記録債権(でんさい)など、より早く確実に代金を回収できる決済手段への移行が進みます。これにより、売上が発生したあとすぐに資金が手元に入るようになり、中小企業にとってはキャッシュフローの安定化が期待できます。
資金が早期に回収できることで、新たな仕入れや投資、借入金の返済といった経営判断がスムーズに行えるようになり、事業のスピード感と柔軟性も向上します。
事務コストやリスクを削減できる
約束手形には、発行時に印紙税が課税されるほか、書類の作成・印刷・郵送といった間接的なコストもかかっていました。また、受取後の保管・管理や紛失・盗難のリスクも無視できません。
こうした紙ベースの煩雑な手続きが不要になれば、経理・総務部門の業務負担が大幅に軽減されます。紙の保管スペースや管理台帳も不要となり、文書管理のデジタル化も進めやすくなるでしょう。
決済業務を効率化できる
電子決済の導入により、経理処理や債権債務管理の業務が自動化・システム化され、人的ミスの削減や作業時間の短縮につながります。特に、でんさいなどの仕組みを活用すれば、入金期日に自動で入金が行われるため、入金確認や回収作業にかける労力も不要になります。
こうした業務の合理化により、企業全体の生産性が向上し、経営資源をより戦略的な業務に振り向けることが可能になります。
公正な取引を促進できる
手形による取引では、支払側が「手形を渡せばとりあえず取引が成立する」という力関係を利用し、中小企業に対して長期の支払い猶予を押し付けるような慣行も存在していました。これは、いわば信用を背景にした「事実上の強制的な貸付」のようなものであり、公平性に欠けるケースも見られます。
約束手形の廃止によって、こうした不均衡な取引慣行が見直され、対等で健全な取引を促進することが期待されます。中小企業が不利な条件を押し付けられるリスクが減ることで、持続可能な取引関係の構築が進むでしょう。
約束手形が廃止されるデメリット
一方で、これまで約束手形を活用していた企業にとっては、廃止によって従来の取引スタイルが使えなくなることによる資金繰りの悪化や取引調整の手間が懸念されます。特に支払側の企業は、事前の準備や計画的な移行対応が不可欠です。
支払猶予ができなくなる
約束手形は、現金がなくても支払を「将来に約束」することで、仕入れや外注費の支払いを先送りにできるという資金繰り上の調整弁として活用されてきました。特に「120日サイト」などの長期手形は、実質的な資金調達手段となっていた企業も少なくありません。
廃止後は、より短い支払サイト(60日以内)が求められるため、支払い資金を前倒しで確保しなければならなくなります。運転資金の調達手段やキャッシュフロー管理の見直しが急務です。
支払いの遅延が増加する
手形には「不渡り」という厳しい制裁があるため、企業も支払いには慎重でした。しかし、電子決済などでは、法律上の強制力が相対的に弱くなるため、期日通りの支払いが行われないリスクが高まる可能性があります。
特に、新しい決済手段に不慣れな企業同士の取引では、支払い管理や合意形成に時間がかかり、取引トラブルの原因になることも考えられます。信頼関係や事前のルール設定がより重要になります。
建設業や卸売業では対応が難しい
建設業や卸売業など、長期の支払サイトを前提に資金繰りを行ってきた業種では、手形の廃止による影響が特に大きくなります。こうした業界では、取引先との調整や契約条件の見直しが進みにくいケースも多く、業界全体での合意形成や対応準備が求められます。
資金繰りの再設計だけでなく、経理システムや社内体制の見直しも必要になり、短期間での完全な移行は難しいと感じる企業も少なくないでしょう。
約束手形の代わりになる決済手段
約束手形の廃止により、企業は新たな決済手段への移行を迫られることになります。これまで約束手形を使ってきた企業にとっては、単に方法を変えるだけではなく、取引の在り方や資金管理の考え方そのものを見直す必要があります。この章では、政府や金融機関が推奨している代替手段について、特徴や導入のポイントを詳しく解説します。
銀行振込による決済
銀行振込は、最も一般的な企業間の決済手段です。取引相手の銀行口座に直接送金する仕組みで、すでに多くの企業が日常業務のなかで活用しています。
銀行振込の最大の特徴は、即時性と確実性です。期日を指定しての振込や、自動振込機能などを活用することで、手形に頼らずに支払いの管理が可能です。また、現金化を待つ必要がないため、受取側の資金繰りも安定しやすくなります。
ただし、振込手数料がかかる場合があり、取引量が多い企業ではコスト面の管理が求められます。また、現金の支払い期日を明確に合意しておかないと、支払遅延やトラブルの原因になる可能性もあるため、契約上の取り決めが重要です。
電子記録債権(でんさい)
電子記録債権(通称:でんさい)は、約束手形に代わる新しい仕組みとして、政府が強く推奨している決済手段です。これは、従来の紙の手形を電子化したものであり、企業間での「支払約束」を電子的に記録・管理することができます。
でんさいは、株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称:でんさいネット)という公的な仕組みの中で運用されています。企業はこのネットワークに登録することで、紙の手形を発行することなく、支払いや譲渡の手続きがすべてオンラインで完結します。
支払期日になると、システムを通じて自動的に支払いが実行されるため、手形のように銀行への持ち込みや取立ての手間がありません。また、部分的に譲渡することも可能で、資金の柔軟な運用に対応できます。
発行者側は印紙税や紙代が不要となり、コスト面でも有利です。ただし、利用には金融機関を通じての申し込みが必要であり、相手企業もでんさいネットに登録していることが前提となります。導入には一定の手続きと社内調整が求められますが、中長期的には大きな効率化が期待できる手段です。
ファクタリングによる資金調達
これまで手形を割引して資金を確保していた企業にとって、ファクタリングは有効な代替手段です。ファクタリングとは、売掛金を第三者に売却することで、支払期日前に現金を得る方法です。金融機関や専門業者がファクター(債権の買い取り手)として機能し、企業に資金を前払いします。
ファクタリングのメリットは、スピーディーに資金調達が可能であり、信用リスクを移転できる点です。売掛金が確定していれば、比較的柔軟に対応してもらえるため、資金繰りに不安を抱える企業にとっては心強い選択肢となります。
一方で、ファクタリングには一定の手数料がかかり、契約条件によっては取引先への通知が必要になることもあります。そのため、導入前に仕組みや費用対効果を慎重に確認する必要があります。
クレジットカードによる企業間決済
最近では、法人向けのクレジットカードを利用した企業間決済も注目を集めています。特に中小企業では、支払いを一時的にカード会社が肩代わりしてくれることで、実質的に支払猶予を得られるメリットがあります。
クレジットカード決済は、オンライン決済や定期的な取引にも対応でき、経費の一元管理や利用明細の可視化といった点でも利便性が高くなっています。
ただし、取引額が大きい場合にはカードの利用限度額に達しやすくなるため、すべての取引に適しているわけではありません。また、カード決済を受け入れるには、加盟店契約などの手続きも必要になります。
オンライン決済サービスの活用
近年は、クラウド型の会計・請求管理サービスと連動したオンライン決済プラットフォームも普及しつつあります。例えば、請求書の発行と同時にオンラインでの支払い依頼ができる仕組みなどが登場しており、特に中小企業にとっては導入しやすい選択肢となっています。
これらのサービスでは、銀行振込の自動化や支払い状況の一元管理が可能となり、入金管理の効率が大幅に向上します。中には、売掛金を即時に現金化できる機能を備えたものもあり、資金繰りの安定化にも貢献します。
導入に際しては、費用や機能、取引先の対応状況を比較検討することが重要です。
約束手形の廃止に向けて企業がやるべきこと
約束手形の廃止が2026年度末である以上、その1〜2年前から準備を始めることが理想的です。すでに2025年を迎えるにあたり、残された準備期間は決して長くはありません。
システムの見直し、取引先との協議、代替手段の導入など、検討・実行に時間のかかる対応が多いため、「ギリギリでなんとかする」という考えでは間に合わない可能性があります。
むしろ、早めに対応を始めることで、コストを抑えたり、取引先との関係を円滑に保つことにもつながります。多くの先進的な企業はすでに、手形から電子決済へと移行を進めており、その流れに遅れず対応することが重要です。
現状の把握と影響の分析
まず最初に行うべきは、自社における約束手形の利用状況の確認です。どの取引先に対して、どのくらいの頻度で、どれだけの金額を約束手形でやり取りしているのかを正確に把握する必要があります。
発行側か受取側かによって対応方針が異なるため、立場ごとの影響を分析し、どの程度業務や資金繰りに影響が出るのかを数値で見積もることが重要です。特に受取側として手形を多く受け取っている場合は、現金化の時期が早まることを想定した資金管理が必要となります。
また、現在利用している会計システムや取引管理システムが、今後の電子決済手段に対応しているかどうかも確認しておくべきです。
取引先との協議と合意形成
取引先との連携は、移行を円滑に進める上で非常に重要です。これまで約束手形を用いていた取引先に対し、今後の決済方法の変更について早めに連絡を取り、代替手段に関する意向を確認する必要があります。
取引先によっては、電子記録債権や銀行振込への移行に積極的でない場合も考えられます。そのような場合でも、政府方針や法改正の動向を丁寧に伝えながら、支払条件や運用ルールについて話し合い、無理のない範囲で合意形成を進めていくことが求められます。
また、支払サイト(支払までの期間)についても、できる限り60日以内とする方向で見直しを提案していくことが望まれます。
代替手段の選定や導入準備
自社の取引形態に合った代替手段を選定することは、対応の中核となる部分です。銀行振込、電子記録債権(でんさい)、ファクタリング、クレジットカード決済、オンライン決済サービスなど、複数の選択肢から自社にとって最適なものを検討します。
電子記録債権を導入する場合は、取引銀行を通じて申し込み、でんさいネットへの登録手続きを行う必要があります。また、導入後は、社内での運用方法やルールを明確化し、経理部門への説明やマニュアル作成も進めるべきです。
特定の取引だけに一部導入し、段階的に広げていく方法も現実的です。すべての取引を一気に変えるのではなく、優先順位を決めて順次対応していくことで、社内の負担を軽減しながら確実に移行できます。
資金繰り計画の見直し
約束手形が使えなくなることで、支払期日が早まる可能性があるため、資金繰りの見直しは非常に重要です。特に発行側の企業は、支払いタイミングの前倒しに備えた運転資金の確保が求められます。
資金繰り表を再作成し、入出金のバランスが崩れないかを予測しておくことが必要です。不足が見込まれる場合は、融資の申請準備や、ファクタリングの活用、他の資金調達手段の検討も同時に進めておくと安心です。
また、売上回収の早期化や在庫管理の見直しなど、資金効率を高める社内施策も積極的に導入していくことが望まれます。
社内体制と業務フローの見直し
決済方法の変更に伴い、経理や財務部門の業務フローも見直しが必要です。紙の手形を扱う前提で構築されていた作業手順は、電子決済に適したものへと変更していく必要があります。
具体的には、支払い・受け取りの処理、記帳のルール、証憑の保存方法、経理ソフトの設定など、細かな部分まで検証し、無理のない運用体制を整えることが求められます。
また、従業員に対しては、変更内容をしっかり周知し、必要な研修や説明会を実施することも大切です。現場での混乱を防ぐためにも、業務マニュアルの更新や問合せ対応窓口の設置などを準備しておくと効果的です。
2026年の約束手形廃止に向けて準備を進めましょう
約束手形はかつて、企業の資金調達や信用取引を支える大切な仕組みでしたが、現在のビジネス環境にはそぐわない課題が多く、廃止が現実のものとなろうとしています。紙による非効率な処理や不渡りのリスク、長期支払サイトの慣習などが見直され、今後は電子記録債権や銀行振込といったより安全・迅速な決済方法への移行が求められます。2026年度末の廃止に向けて、各企業は早めに準備を進め、取引先と協力しながら、持続可能で公平な取引環境を構築していくことが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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