- 更新日 : 2025年2月28日
原状回復費用と資産除去債務について分かりやすく解説!
原状回復費用とは、借主が物件を借りたときの状態(原状)に戻す(回復)ための費用を言います。一方、資産除去債務とは、企業が保有する固定資産を将来除去するときに発生する費用について、現在の価値に換算して負債として計上したものです。
この記事では、この似たような二つの勘定科目について具体的に解説します。
目次
原状回復費用の処理で資産除去債務を使う場合は?
原状回復費用も資産除去債務も、「将来発生する可能性がある費用について事前に会計処理を行う」という点で共通していると言えます。大まかに言えば、資産除去債務を計上する場合、その中には「現状回復費用」も含まれています。
資産除去債務を計上する企業とは?
2008年、資産除去債務についての会計基準が公表されました。国際会計基準(IFRS)と日本の会計基準の差を縮める動きの中において、「資産除去債務」も検討項目に上がったためです。
資産除去債務会計基準によると、資産除去債務は「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」と定義されます。
出典:企業会計基準第18号資産除去債務に関する会計基準(第3項目)|企業会計基準委員会
ここまでの経緯や定義を見ると、企業規模に関係したものはありません。しかし、「企業会計基準」の適用指針は事実上、上場企業・大会社に重点を置いて適用されるものです。中小企業においても計上を妨げるものはないものの、基本的には上場企業・大会社において計上が求められます。
上場会社とは、その企業の発行株式を証券取引所で売買することができる会社のことで、大会社とは会社法に定められる会社として資本金が5億円以上または負債が200億円以上の会社を指します。
したがって、資産除去債務を計上するのは上場企業・大会社であり、中小企業については計上を義務づけるものではありません。
実際、中小企業が計算関係書類を作成するときの拠るべき指針として作成された「中小企業の会計に関する指針」や、中小企業の実態に即した形で会社法上の計算書類等を作成する際に参照する「中小企業の会計に関する基本要領」においても、資産除去債務の計上を求める記載はありません。
参考:
企業会計基準第18号資産除去債務に関する会計基準|企業会計基準委員会
中小会計指針・中小会計要領|日本税理士会連合会
会社法(第2条ご参照) | e-Gov
そもそも資産除去債務の対象とは?
では、具体的に資産除去債務を計上しなければならないのは、どのような取引が対象なのでしょうか?
前項で示した資産除去債務の定義を具体化すると、次のようになります。
- 有形固定資産の取得、建設、開発や通常の使用で生じるもの
「有形固定資産」とは、会計上の建物、土地、建物付属設備、構築物等だけではなく、建設仮勘定や投資不動産なども対象です。「通常の使用」とは、その資産を意図した目的のために正しく稼働させることとされます。したがって、異常な原因で稼働させたことにより生じた毀損については対象とはなりません。 - 資産の除去に関して法令や契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの
「除去」とは、「有形固定資産を用役から除外」することです。売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分とし、一時的な除去や転用、用途変更、遊休状態などは該当しないとされ、法律上の義務等から生じる除去であることが求められます。したがって、経営上の理由から資産を除去する場合には当てはまらないとされます。また、「それに準ずる」ものは法律上の義務とほぼ同等の避けることが不可能な義務が該当するとされます。
資産除去債務の背景とは?
資産除去債務が生まれた背景には、環境問題や企業の社会的責任の高まりにより、将来の不可避的な「義務」は発生時点で認識する必要があるという考え方があります。特徴的なものとして挙げられるのは、原子力発電所施設の解体などです。
施設解体に伴う環境保全を考慮して、建設時から解体費用を見積もり、会計上適切に負債として計上することは、単に透明性の確保だけでなく、周辺住民への安心、さらには持続可能な発展の観点からも重要視されます。
一方、資産除去債務の計上は中小企業において任意適用です。また、資産除去債務会計と税法の考え方が異なるため、実際に除去するまでは法人税法では損金になりません。ただし、
資産除去債務の計上について、今後変わる可能性もあるでしょう。
原状回復費用の資産除去債務での会計処理(仕訳)例
会計基準の適用指針の事例をもとに、原状回復費用についての仕訳をいくつか見ていきましょう。
ケース1:構築物の原状回復費用計上
原状回復費用を認識し、資産除去債務を計上する一般的なケースを紹介します。
(事例1)
A社は2025年4月に構築物(300万円、耐用年数2年)を取得しました。当構築物は、使用後に原状回復する義務があり、そのための費用として50万円が見込まれることを確認しました。取得時の割引率は2%とし、A社の決算日は3月末とします。なお、この構築物の減価償却にあたっては定額法で計算を行います。
【取得時の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
構築物 | 3,480,584円 | 現預金 | 3,000,000円 |
資産除去債務 | 480,584円 |
資産除去債務を計算するにあたって使用する割引率は、具体的には利付国債の流通利回り等を参考に決定することになっています。取得時の割引率は、財務省が公表する金利情報等で調べます。
将来の構築物除却時に支出見込みとなる500,000円の現在価値は、次のように計算します。
【決算時の仕訳】
① 時の経過による資産除去債務の増加
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
利息費用 | 9,611円 | 資産除去債務 | 9,611円 |
資産除去債務については、取得当初の現在価値で計上しているため、時が経過したことによる資産除去債務の増加分を計上します。
② 構築物の減価償却費
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 1,740,292円 | 構築物 | 1,740,292円 |
構築物の減価償却は定額法にて実施します。
(構築物分)
(資産除去債務対応する除去費用分)
(減価償却費合計)
このケースにおいては、資産の除去は耐用年数が到来した時点で行うため、構築物本体と資産除去債務対応分については同じ償却率となります。
ケース2:構築物の除却実行
原状回復を実施し、資産除去債務を取り崩す一般的なケースを紹介します。
(事例2)
上記事例1の構築物にて、取得から2年後に除却処理をしました。除却にあたっては55万円の費用がかかりました。
除却処理
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資産除去債務 | 500,000円* | 現預金 | 550,000円 |
除却費用(履行差額) | 50,001円 | 構築物 | 1円 |
*資産除去債務について、取得時は480,584円、1年目に9,611円を追加しているため、2年目は(480,584円+9,611円)× 2% = 9,804円となります。したがって、除却直前の資産除去債務は、480,584円 + 9,611円 + 9,804円 ≒ 500,000円です。
資産除去債務に実際に支払った差額は、原則として除去費用に含めます。
ケース3:賃貸建物の原状回復
原状回復費用を認識するも、資産除去債務としては負債計上しないケースを紹介します。
(事例3)
X社はB社と建物賃借契約をかわし、2025年4月より建物を賃借しました。契約時にX社はB社に敷金として50万円支払い、X社は同種の建物の賃借期間については平均5年間と見積もっています。なお、X社の決算日は3月末とします。
【契約時の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
敷金 | 500,000円 | 現預金 | 500,000円 |
X社においては、「敷金」支払時に敷金を資産とする仕訳をします。賃借物件の契約時に支払う敷金は、一般に将来発生する可能性のある(貸主から見た)不利益に対する保証金として機能し、借主による損傷等に対する退去時の費用補填として利用されます。
このように契約時においては「敷金」を計上することで、資産除去債務やこれに対する除去費用の資産計上を行わないケースもあります。
【決算時の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
敷金の償却 | 50,000円 | 現預金 | 50,000円 |
X社は決算にあたり、敷金のうち1/2については原状回復費用に充当され、返還は見込めないため、入居期間で按分して敷金を償却します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社用車を減価償却するには?耐用年数や計算方法、中古車の場合も解説
社用車の取得価額はその事業年度で一括費用処理するのではなく、耐用年数にしたがって減価償却の処理を行わなければなりません。耐用年数は車の大きさや種類によって異なり、新車と中古車により異なりでも違います。 本記事では、社用車を購入したときの減価…
詳しくみる耐用年数とは?償却資産別や中古資産の年数、減価償却の計算方法も解説
減価償却費を算出するには、固定資産の「耐用年数」が必要です。しかし、耐用年数は償却資産の種類によって細かく設定されており、建物や車両、工具などそれぞれ異なります。 そのため、確定申告のたびに耐用年数を確認しているという方も多いでしょう。そこ…
詳しくみる「リース資産を計上しない」とは?中小企業における会計上の正しい取扱い
新たなリース会計基準が、2027年4月開始の事業年度から強制適用となります。しかし、新たな基準の対象は上場企業や大会社等に限られるため、会計基準適用が強制とならない中小企業等では、従来どおりのリース会計で問題ありません。 この記事は、今後、…
詳しくみる消費税の税込経理と税抜経理で少額減価償却資産の判定は違う?
消費税を入れて会計処理をするか、税抜きで会計処理をするかによって少額減価償却資産の判定が異なることがあります。 例えば、取得価額が9万8,000円のものであれば、税込みでは10万円以上、税抜きでは10万円未満です。この場合、税込経理において…
詳しくみる固定資産を除却し忘れるとどうなる?仕訳方法や対策を解説
固定資産は、除却を忘れると税金の負担増をはじめ、さまざまな不利益を被ることになります。本記事では、固定資産の除却の概要をはじめ、除却のタイミングや忘れないためのポイントについて解説します。 また、除却を忘れたときの仕訳の方法も一緒に取り上げ…
詳しくみる定額法と定率法による減価償却費の計算方法を解説
減価償却費は、償却期間に応じて毎期の償却額を決めます。この償却額を決める方法には定額法と定率法などの償却方法があり、状況に応じて正しい方法で計算しなくてはいけません。減価償却費の計算方法や仕訳方法について具体例を挙げてわかりやすく解説するの…
詳しくみる