電子帳簿保存法の改正による変更点
2019年(令和元年)に電子帳簿保存法の改正が行われました。この記事では主に改正内容を解説していきます。
電子化して業務を効率化したい方や、電子帳簿保存法がわからないという方でも理解できる内容になっています。やがてくる電子化時代のために、重要なポイントを確認しておきましょう。
目次
電子帳簿保存法を理解するポイント
2019年の改正を解説する前に、何が電子帳簿保存法の対象となるのかを確認しましょう。
電子帳簿保存法の対象は帳簿と書類
電子帳簿保存法の対象は、「帳簿」と「書類」です。さらに電子帳簿保存できるものと、スキャナ保存できるものに分かれます。これらをまとめたのが以下の表です。
【電子帳簿保存の対象】
種別 | 内容 |
---|---|
帳簿 | 開始から一貫してコンピューターを使用して作成する帳簿 |
例:仕訳帳 総勘定元帳 補助簿(経費帳、売上帳など)を含めるかどうかは任意選択 |
|
決算関係書 | 貸借対照表 損益計算書 棚卸表 など 計算、整理または決算に関して作成されたその他の書類 |
【スキャナ保存の対象】
書類 | 内容 |
---|---|
重要書類 | 資金や物の流れに直結・連動する書類 |
例:契約書 納品書 請求書 領収書 など | |
一般書類 | 資金や物の流れに直結・連動しない書類 |
例:見積書 注文書 検収書 など |
2019年(令和元年)の改正内容
2019年(令和元年)の改正内容は以下の通りです。
以下の内容は2019年(令和元年)9月30日以後に行う承認申請から適用されます。
【法令の改正】
・新たに業務を開始した個人事業主の承認申請の提出期限の特例
新規設立の法人は設立日より3カ月以内であれば電子帳簿保存およびスキャナ保存の手続きを行うことが可能でしたが、個人事業に対しては同様の特例がなかったため、追加されています。
新たに業務を開始した個人事業主は、その業務を開始した日から2カ月を経過する日まで、電子帳簿保存およびスキャナ保存の手続きを行うことが可能になりました。
・過去の重要書類(過去分重要書類)のスキャナ保存が可能になる
承認を受ける前に作成または受領(じゅりょう)等をした重要書類について、適用届出書を提出した場合には、一定の要件を満たすことでスキャナ保存をすることが可能となります。
【運用上の見直し】
・承認申請手続きの記載事項や添付書類の一部省略が可能になる
市販のソフトウェアを対象に、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による要件適合性の確認(「認証」)を受けたものを利用する場合については、承認申請書の記載事項や添付書類を一部省略することが可能になります。
・事前相談体制の整備
受託開発されるシステムや自社開発のシステム等を対象に、要件適合性に関する事前相談体制が整備されます。
【入力期間について】
・重要書類の入力期間を「受領後1週間以内」から「おおむね7営業日以内」に改定
・重要書類の入力方式である業務処理サイクル方式において、入力期間を「最長1カ月プラス1週間以内」から「最長2カ月プラスおおむね7営業日以内」に改定
・受領者が読み取る場合のタイムスタンプ期間が「受領後3日以内」から「おおむね3営業日以内」に改定
【その他】
・スキャナ保存制度の定期的な検査の緩和
スキャナ保存制度の定期的な検査は「全ての事業所等を対象として1年に1回以上行う」ことが要件でしたが、「おおむね5年のうちに全ての事業所等の検査を行う」ことも要件として認められました。
・スキャナ保存制度の検索機能の要件緩和
これまでの「書類の種類別」に検索できることに加え、「勘定科目別に検索が可能」な場合も要件として認められました。
適用のためにはどうすればいい?電子帳簿保存法の要件と手続き
電子帳簿保存およびスキャナ保存の承認申請要件と、手続きについて解説していきます。
申請手続きは、電子帳簿保存とスキャナ保存でそれぞれ手続きが分かれており、どちらか一方のみを申請することも可能です。
帳簿を電子保存するための要件
帳簿を電子保存するための要件概要は以下の通りです。
・電子計算機処理システムの開発関係書類等の備え付け
・見読可能装置の備え付け等
・検索機能の確保
・税務署長の承認
(引用:電子帳簿保存法上の電子データの保存要件|国税庁)
上記の要件をより具体的に知りたい方は国税庁による電子帳簿保存法関係パンフレットを参考にしてください。
税務署長の承認とは、以下の2つの書類を税務署に提出し承認を得ることをいいます。
・国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請書
・添付書類(システムの概要、操作説明書、電子計算機処理に関する事務手続きの概要など)
なお、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による認証を受けたソフトウェアを利用する場合は、簡素な様式の申請書で申請することができます。
書類をスキャナ保存するための要件と手続き
スキャナ保存の要件は以下の通りです。
要件 | 重要書類 | 一般書類 | 過去分重要書類 |
---|---|---|---|
入力期間の制限 | 〇 | ― | ― |
一定水準以上の解像度(200dpi以上)による読み取り | 〇 | 〇 | 〇 |
カラー画像による読み取り (赤・緑・青それぞれ256階調<約1677万色>以上) | 〇 | ※1 | 〇 |
タイムスタンプの付与 | ※2 | ※3 | 〇 |
解像度および階調情報の保存 | 〇 | 〇 | 〇 |
大きさ情報の保存 | ※4 | ー | 〇 |
バージョン管理 (訂正または削除の事実および内容の確認) | 〇 | 〇 | 〇 |
入力者等情報の確認 | 〇 | 〇 | 〇 |
適正事務処理要件 | ※5 | ー | ※6 |
スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持 | 〇 | 〇 | 〇 |
見読可能装置(14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識等)の備え付け | 〇 | ※1 | 〇 |
整然・明瞭出力 | 〇 | 〇 | 〇 |
電子計算機処理システムの開発関係書類等の備え付け | 〇 | 〇 | 〇 |
検索機能の確保 | 〇 | 〇 | 〇 |
税務署長の承認 | 〇 | 〇 | ※7 |
※1:一般書類の場合、カラー画像ではなくグレースケールでの保存可
※2:受領者等が読み取る場合、受領後、受領者等が署名の上、特に速やか(おおむね3営業日以内)に付す必要あり
※3:受領者等が読み取る場合は読み取る際に付す、または受領等後、受領者等が署名の上、特に速やか(おおむね3営業日以内)に付す必要あり
※4:受領者等が読み取る場合、A4以下の書類の大きさに関する情報は保存不要
※5:小規模企業者の特例の適用を受ける場合(税務代理人が定期的な検査を行う場合)、相互けんせいの要件は不要
※6:過去分重要書類の場合、国税関係書類の入力に関する事務について、当該事務の係る処理の内容を確認するための検査を行う体制および手続きに関する規定を定めるとともに、これに基づき当該事務を処理することをいう。
※7:過去分重要書類については所轄税務署長等あてに適用届出書の提出が必要
引用:国税庁 電子帳簿保存法一問一答 問12※
※. 掲載当時。最新の情報は国税庁の Web サイトでご確認ください。
スキャナ保存における税務署長の承認要件は、以下の2つの書類を税務署に提出し承認を得ることをいいます。
・国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請書
・添付書類(システムの概要、操作説明書、電子計算機処理に関する事務手続きの概要など)
過去分重要書類のスキャナ保存については、以下の書類で申請します。
・国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の適用届出書(過去分重要書類)
こんな場合は注意!電子帳簿保存法で気をつけること
電子帳簿保存およびスキャナ保存の注意点を解説していきます。
スキャン保存について
スキャン保存については以下の3つに気を付けましょう。
2:書類が大きく、一度にスキャンできない場合は複数回のスキャンが可能
3:スキャンした書類はすぐに破棄せず一定期間保持しておいたほうがいい
1について、グレースケール(白黒)でスキャンすることが可能なのは一般書類のみです。特に重要書類(資金や物の流れに直結・連動する書類)はカラーでスキャン、または撮影しなければいけません。
2について、契約書や請求書などが複数ページに渡る書類をスキャンする場合は、複数回に分けてスキャンすることが認められています。また、一度にスキャンできないからといって、書類の原本の大きさを変更した「コピー」をスキャンすることはできません。
あくまでも、書類の原本を複数回に分けてスキャンしましょう。
3について、スキャン後すぐに書類を破棄すると以下のケースで困る場合があります。
・入力期間を経過してしまった場合
・備え付けられているプリンターの最大出力より大きい書類を読み取った場合
・定期的な検査で不備があった場合
上記のケースで困らないために、定期的な検査までの期間は原本(紙)の破棄をしないよう気を付けましょう。
承認申請の時期について
電子帳簿保存およびスキャナ保存の申請は、その申請を行った直前の電子帳簿保存法の要件が適用されます。そのため、電子帳簿保存およびスキャナ保存の申請を2019年(令和元年)9月30日以前に行っている場合は、本記事で解説した要件での運用をすることができず、過去の要件に従った運用を行うことになります。
電子帳簿保存法の改正は要件が緩和される方向の内容ですので、過去の要件を満たしている場合は改正後も問題ありません。
会計ソフトやクラウドサービスについて
電子帳簿保存法の適用を受けようとする場合に、市販の会計ソフトやクラウドサービスを使用することができます。
このような場合は、会計ソフトやクラウドサービスが公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による認証を受けたものであるかを確認しましょう。
まとめ
2019年(令和元年)に行われた電子帳簿保存法の改正について解説しました。
紙の書類と比較すると、電子データには「場所をとらない」「検索ですぐに見つけやすい」という特長があります。
紙の書類の保管スペースに困っている場合や、目的のデータを探すのに時間がかかっている場合は、データの電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。