- 更新日 : 2024年8月8日
消費税の節税は免税事業者と課税事業者のどちらが効果的?
「消費税を節税する際に気を付けることは?」
「増税や軽減税率はなにか関係がある?」
「インボイス制度の免税事業者と課税事業者の違いは?」
この記事ではこんな疑問を持つ方に向けて、消費税についてベストな判断ができるように解説しています。
「消費税のことを知らなかった!」で損をしないように、大切なポイントを確認しましょう。
目次
消費税の免税事業者とは
消費税の「免税事業者」とは、消費税の納税義務(確定申告と納税)が免除されている事業者のことをいいます。
反対に、消費税の申告納税義務がある事業者のことを「課税事業者」といいます。
インボイス制度導入前においては、免税事業者が以下の納税義務の要件を満たすと課税事業者となり消費税の確定申告と納税の義務が生じます。
納税義務は以下の2つのSTEPで判定します。
はい → 消費税の納税義務があり、確定申告を行う必要があります。
いいえ → 以下のSTEP2へ
条件1:特定期間の課税売上が1,000万円を超える
条件2:特定期間の給与等支払額(給与、賞与等の支払額)が1,000万円を超える
はい → 消費税の納税義務があり、確定申告を行う必要があります。
いいえ → 消費税の納税義務がなく、確定申告を行う必要がありません。
基準期間とは個人の場合、納税義務を判定する年の前々年のことをいいます。法人の場合は、納税義務を判定する事業年度の前々事業年度のことをいいます。
開業したばかりの個人や設立初年度の一定の法人で基準期間がない場合は、免税事業者となります。
特定期間とは個人の場合、納税義務を判定する年の前年の1月1日から6月30日までのことをいいます。法人の場合は原則として、当年度の前の年度の開始の日以後6カ月をいいます。
課税売上高とは、課税事業者の場合は、消費税抜きの売上高のことをいいます。
一方免税事業者の場合は、売上高の中には「消費税」という概念がありませんので、結果的に売上高そのものの金額になります。
また以下に該当すると課税事業者となります。
- 新規設立などで基準期間がない法人の場合、資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である
- 消費税課税事業者選択届出の手続を行う
なお、この項は消費税のインボイス制度導入前の説明となります。インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日から開始されますのでご注意ください。次項からはインボイス制度導入後についても記述しています。
免税事業者における消費税の扱い
免税事業者の制度とは、小規模な事業者を対象に消費税の申告納税・事務負担を免除するための制度です。
免税事業者が取引先へ消費税を請求すると、益税(消費税部分が事業者の利益になること)になりますが、請求することについて問題はありません。インボイス制度導入後も基本的にはこの考え方は変わりません。
インボイス制度開始後においても免税事業者のままでも得意先と問題が生じなければ同じように消費税相当額を請求することはできますが、「適格請求書(インボイス)」は発行できません。
一般に、次のいずれかの場合には基本的には免税事業者のままでも特に問題はないとい言えます。
- 飲食店や小売店など、得意先が消費者である場合や法人の接待などに利用される機会が少ない場合
- 得意先が免税事業者である場合
- 得意先が課税業者であっても、簡易課税制度を選択している場合
など
免税業者においては、インボイス制度開始後も従来どおり消費税の申告納付は不要です。
しかし、上記以外の得意先の場合には、取引条件の見直しなどが考えられます。
独占禁止法違反や下請法違反について
インボイス制度導入にあたって、免税事業者が得意先と比べて取引条件についての情報量、交渉力で格差がある場合、取引が一方的に不利になりやすい状況があります。このような状況に対し、以前は消費税転嫁対策特別措置法が設けられていました。
この措置法は、消費増税によって消費税負担が増える事業者が、取引先へ減額・買いたたき等によって消費税負担を転嫁する行為を防止することを目的とした法律でしたが2021年(令和3年)3月31日に失効しています。
この消費税転嫁対策特別措置法の失効後は、独占禁止法違反行為や下請法違反行為として対処されています。
もしこのような被害にあった場合には公正取引委員会などへ報告し、独占禁止法、下請法、建設業法などに基づいた対応について相談しましょう。その際、報告を行った事業者への報復行為も禁止しています。
参考:消費税転嫁対策特別措置法の失効後における消費税の転嫁拒否等の行為に係る独占禁止法及び下請法の考え方に関するQ&A | 公正取引委員会
免税事業者か課税事業者か
免税事業者か課税事業者かの選択肢は、インボイス制度導入後は次の3つに分かれます。
選択肢 | 概要 | 消費税の申告納税 | |
---|---|---|---|
① | 免税事業者 | 基準期間等の課税売上高1,000万円以下で、かつ、インボイス発行事業者登録をしない | 義務なし |
② | 課税事業者でインボイス発行事業者でない | 基準期間等の課税売上高1,000万円超(※)*であるが、インボイスを発行しない | 義務あり |
③ | 課税事業者でインボイス発行事業者 | 課税売上に関係なく、インボイスを発行する課税事業者 |
※「消費税課税事業者選択届出書」の提出により、課税売上高が1,000万円以下でも課税事業者を選択した者を含みます。
上の表で①に比べ、②や③において消費税を納税する場合は、課税事業者であると納税負担が大きいため、①の免税事業者のほうが節税になります。
インボイス制度導入前は課税事業者から①である免税事業者へ支払った消費税を売上に係る消費税から控除することができますが、この制度によって免税事業者が課税事業者へ支払った消費税について控除が以下のように段階的に認められなくなります。
期間 | 割合 |
---|---|
2023年(令和5年)10月1日から2026年(令和8年)9月30日まで | 仕入税額相当額の 80% |
2026年(令和8年)10月1日から2029(令和11年)9月30日まで | 仕入税額相当額の 50% |
参考:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁
消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A(問127参照)
課税事業者と消費税の観点からインボイス制度をまとめると以下になります。
- インボイス発行事業者間の取引であれば以前と変わらない
- 免税事業者への消費税支払額は経過措置があるものの、原則として仕入税額控除が受けられない
- 免税事業者への消費税支払額について仕入税額控除の経過措置を受ける場合は別途、帳簿に記帳する必要がある
上記のことを踏まえると、売上先のほとんどが課税事業者である場合は、取引先からインボイスを発行できるように求められる可能性があります。
課税事業者を選ぶメリット
基本的に「支払った消費税 > 預かった消費税」となる場合、課税事業者は還付を受けることができるため、場合によっては課税事業者を選ぶメリットは大きいこともあります。
この場合は一過性の課税事業者である場合が多いので、インボイス制度導入についてはよく検討するようにしましょう。
新規開業や設立初年度で多額の設備投資をしたのに、売上が少なかった
先述のとおり、新たに開業した個人事業者や資本金1,000万円未満の設立初年度の法人などは、基準期間等がないため免税事業者となります。
この場合は、多額の初期設備投資などで消費税を多く支払い、売上に対する消費税が少ない状態になることが多いといえます。したがって「支払った消費税 > 預かった消費税」となり、免税事業者よりも課税事業者になるほうが還付を受けられるため、メリットになります。この場合は課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になっておいたほうが良いでしょう。
設備投資や建物購入などの支出が多かった
上記の設立初年度のケースと同様に、免税事業者でもある年度においては「支払った消費税 > 預かった消費税」となった場合、課税事業者だと還付を受けられるため、課税事業者になることはメリットになります。
売上が免税となる輸出取引
輸出取引による売上は、消費税が免除されます。
売上に対して国内における仕入や経費では消費税を支払うため、「支払った消費税 > 預かった消費税」となり、課税事業者になることで還付を受けられるため、課税事業者になることはメリットになります。
免税事業者のインボイス導入判断はよく確認を
消費税の免税事業者と課税事業者、そしてインボイス発行事業者について説明しました。
従来は課税売上高が1,000万円を超えるかどうかが主な境界線となっていましたが、今後はこれに加え、インボイスの発行可否が重要な判断基準になります。
それを踏まえて「課税事業者になったら、どのぐらいの消費税を支払うか?」「得意先はインボイスを求めているのか?」を改めて確認してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
消費税の免税事業者とは
消費税の納税義務が(確定申告と納税)が免除されている事業者のことをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
課税事業者を選ぶメリットは?
主に「設立初年度で多額の設備投資をしたのに、売上が少なかった」「設備投資や建物購入などの支出が多かった」「売上が免税となる輸出取引」などのメリットがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
法人の節税の関連記事
新着記事
小切手の銀行渡りとは?メリットや手続き、必要書類、廃止の方針などをわかりやすく解説
「銀行渡り」という言葉を聞いたことはあっても、その仕組みや使い方について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。銀行渡りとは、小切手をより安全に利用するための仕組みで、企業間の取引や高額な決済などで広く使われています。本記事では、銀行渡…
詳しくみる小切手は2026年度末までに廃止予定!理由や電子記録債権(でんさい)などの代替手段を解説
2026年度末(2027年3月末)に、紙の小切手が完全に廃止されます。小切手は日本企業の取引で長年使われてきましたが、効率性の問題や不渡り・紛失などのリスクから電子決済への移行が求められています。この変化は、企業だけでなく、小切手を使ってい…
詳しくみる小切手とは?仕組みや種類、メリット、換金方法、廃止の方針などをわかりやすく解説
小切手は、主に企業間取引で利用される、現金に代わる便利な決済手段です。しかし、普段の生活では使う機会が少ないため、詳しい仕組みや使い方がよくわからないという人も多いかもしれません。本記事では、小切手の基本的な仕組みや手形との違いをはじめ、小…
詳しくみる約束手形の支払期日は60日に短縮!当日持ち込みの方法や3営業日を過ぎた場合の対応も解説
約束手形は日本の企業間取引で広く使われていますが、その取り扱いを誤ると資金繰りや信用に大きな問題が生じます。特に、支払期日のルールや銀行への持ち込み手続きを正確に理解しておかないと、思わぬトラブルに発展することがあります。この記事では、約束…
詳しくみる約束手形の銀行持ち込みはいつまで?期限を過ぎた場合の対応や廃止に向けた方針も解説
約束手形は、企業間取引における信用決済の手段として長年利用されてきた有価証券です。買掛金の支払いを一定期間先に延ばすことができるため、資金繰りの調整や信用取引の証として機能してきました。一方で、手形の管理や取り扱いには専門的な知識が必要であ…
詳しくみる約束手形の裏書とは?書き方や譲渡するメリット・デメリット、仕訳などをわかりやすく解説
約束手形は商取引で多く利用される信用取引の代表的な手段です。その中でも「裏書」は、手形を他者に譲渡するための重要な手続きであり、資金流動性や企業間信用の強化に大きく関わります。 この記事では、約束手形の裏書の基本的な内容から、メリット・デメ…
詳しくみる