• 更新日 : 2021年5月31日

退職給付会計とは?退職給付債務の計算や会計基準をわかりやすく解説

退職給付会計とは?退職給付債務の計算や会計基準をわかりやすく解説

退職給付会計は、会計処理のなかでも専門用語の頻出度や計算の複雑さから、理解が難しい会計処理と言われています。

しかし、目的はシンプルです。

最終的に「退職給付引当金」と「退職給付費用」を算出し、計上するために行います。

当記事では退職給付会計の概要や会計処理の流れ、計算方法を解説します。

退職給付会計とは?

退職給付会計とは退職する従業員のこれまでの労働提供の対価として支払われる、退職金に関係する会計のことです。

一般的に退職給付は、会社にとっては従業員へ支払う必要のある負債として計上されます。つまり、従業員の会社での在籍期間が長くなればなるほど、退職給付の支払額が増えていくというわけです。

退職給付会計では、会社の従業員が退職した時に支払うべき退職金の金額と、現時点までに生じた退職金の金額を会計上で計上することになります。

このように退職給付会計は、会社が将来支払うべき年金にかかるコストを時価評価する制度です。

しかし、会社が退職金を支払うまでには何年もの期間がかかることもあります。そこで、毎期の退職給付額を正確に見積もる目的で、退職給付会計が規定されているのです。

退職金には退職一時金や退職年金がありますが、従業員が自分の都合で退職する場合と定年退職では、退職金支給の給付方法や計上方法がそれぞれ異なります。

確定給付制度とは

退職給付は支給方法や積立方法によって、「確定給付制度」と「確定拠出制度」に分けられます。

確定給付制度とは、勤続期間や給与水準に基づいて事前に金額が決まっている退職金制度です。

具体的には以下の制度が当てはまります。

確定給付制度概要
退職一時金制度
  • 企業の内部積立のみで一時金を支払う制度

  • 原資はすでに計上されている
厚生年金基金制度
  • 企業が設立した厚生年金基金から支払われる手厚い制度

  • 企業が負担する掛金は全額損金算入が可能
確定給付企業年金制度
  • 確定給付企業年金法に基づいた確定給付型の年金制度

  • 企業が負担する掛金は全額損金算入が可能

確定給付制度による退職金を支払うタイミングは、従業員の労働提供の時間が確定してからです。従業員の退職日が決まるまで、支払額は確定しません。

とはいえ、このまま計上しないのは問題です。

そのため、従業員が提供している労働時間分の対価は、企業が従業員に対して「退職金支払い分だけの債務を負っている」という会計処理になります。

具体例

  • 10年間勤務している従業員は、「1年間の退職金分の労務提供」を10年分行っているという扱いになる
  • 実際は退職するまで退職金は支払われないので、企業は従業員に対して「1年間分の退職金を支払う義務」を10年分を負っている
  • 企業側は退職金の支払い義務を一旦債務として扱い、将来支払うべき負債として毎年見積計上

このように、確定給付制度の退職金は将来支払うべき金額としてある程度予想し、毎年期末に見積額を負債(引当金)扱いで計上しているのです。

退職金の支払い義務を「退職給付債務」、負債として計上する債務を「退職給付引当金」と呼びます。

退職給付会計はこちらの確定給付制度で発生する退職金を取り扱います。

確定拠出制度とは

確定拠出制度とは、企業の外部で掛金積立を行う制度です。

具体的な制度について確認しておきましょう。

確定拠出制度概要
確定拠出年金制度
  • 企業または従業員が掛金を拠出して積み立てる制度

  • 企業型の場合は掛金の損金算入が可能
中小企業退職金共済制度
  • 中小企業退職金共済法に基づいた国の退職金制度

  • 企業が負担する掛金分は損金算入が可能
特定退職金共済制度
  • 商工会等が設立する特定退職金共済団体に積み立てる制度

  • 企業が負担する掛金分は損金算入が可能

拠出掛金と掛金の運用収益によって給付額が決まることから、労働提供の時期と労働に対する金額の支払時期が一致します。

なぜなら、企業側は拠出した金額以上の支払い義務を負わないため、拠出した時点で金額が確定するためです。

そのため、会計上は給与と同じような扱いができます。確定給付制度のように、将来の支払額を見積もる必要がありません。

金額が確定した時点で、費用として計上します。

退職給付会計の流れ

退職給付会計の大きな目的は、貸借対照表(B/S)へ記載する「退職給付引当金」と、損益計算書(P/L)へ記載する「退職給付費用」を計算することです。

そのためには退職給付債務や年金資産勤務費用などの専門用語を理解し、計算の流れをつかむことが大切です。

以下では、退職給付会計のおおまかな流れを解説します。

退職給付債務を計算する

退職給付会計を行うには、まず退職給付債務の計算を行います。

退職給付債務とは、現時点で発生している「従業員に支払う退職金」を現在の価値で評価したものです。

例えば5年間勤務している従業員の退職給付債務の額は、「勤務した5年間分の退職金」というイメージが近くなります。

ちなみに、1年間分の退職給付債務を「勤務費用」、退職給付債務に対してかかる利息を「利息費用」と呼びます。

イメージ的に退職給付債務は、過去の勤務費用と利息費用の累積額ともいえるでしょう。

正確な額を算出するには「割引率」呼ばれる、将来予想される価値を現在価値に直すための比率を用いて計算する必要があります。

さらに、そのほかの差異の調整が必要になるので、実際には毎期ごとの勤務費用や利息費用の数値は変化します。よって、上図はあくまでイメージとお考えください。

年金資産を確認する

年金資産とは従業員へ支払う退職金として使うことのみを目的として、企業外で積み立てた資産のことです。

具体的には、厚生年金基金制度や確定給付企業年金のほか、保険会社や信託銀行などへ拠出し運用された金額になります。

年金資産は退職給付引当金の算出に必要な要素です。

勤務費用・利息費用・未認識債務などを確認する

退職給付会計に加えて、さらに勤務費用・利息費用・未認識債務・期待運用収益の確認が必要になります。

未認識債務とは当期末時点でまだ費用処理されていない数理計算上の差異と、過去勤務費用のことです。

それぞれの詳細を見ていきましょう。

退職給付会計に必要な項目概要
利息費用期首(前期末)における退職給付債務をもとに発生する計算上の利息
数理計算上の差異退職給付の見積数値と実績数値の差
過去勤務費用退職給付水準の改訂によって発生した退職給付債務の増減のうち当期費用として処理したもの
期待運用収益年金資金によって当期に発生が期待される運用収益の見積額

ここまでを一旦確定させることで、退職給付引当金と退職給付費用が算出できます。

退職給付引当金・退職給付費用を計算する

退職給付引当金とは「将来見込まれる退職給付支払額」のうち、当期末までで発生している分を見積もり計上した金額です。

一方、退職給付費用とは退職給付に関する全般的な費用を意味します。

退職給付会計はこの2つの勘定科目を確定し、計上するための会計処理ともいえます。

【関連記事】退職給付費用とは

貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)へ反映させる

退職給付引当金と退職給付費用を計算したあとは、それぞれ決算書へ反映させます。

退職給付引当金は貸借対照表(B/S)、退職給付費用は損益計算書(P/L)です。

退職給付債務の計算

ここからは実際に、退職給付会計の流れに沿いながら各要素の具体的な計算方法をご紹介します。

まず算出するのは、退職給付債務です。

計算する場合には、まず「将来見込まれる退職給付支払額(退職給付見込額)」を算出し、そのうち「期末までに発生していると認められる額」を割り出します。

その後、期末までに発生していると認められる額をもとにして、退職給付債務を計算します。

「将来見込まれる退職給付支払額」は、当該従業員の昇給・退職率・死亡率などの変動要因を加味して割り出さなければなりません。

将来見込まれる退職給付支払額=「予想退職時期ごとに従業員へ支給される一時金見込額・退職時点における年金現価の見込額」に退職率や死亡率を加味したもの。昇給などの合理的に見込まれる退職給付の変動要因も含む必要がある。

次に「期末までに発生していると認められる額」を算出する方法ですが、「期間定額基準」と「給付算定式基準」の2つが存在します。

どちらを選択するかは、企業側の会計方針次第です。ただし一度選択すると、その後変更はできません。

そして最後に、期末までに発生していると認められる額を、現在価値に割引きすることで退職給付債務が算出可能です。値引きには割引率を用います。

なお、この割引率を用いた計算を行い算出された各期への配分の金額が勤務費用です。

期間定額基準での計算方法

期間定額基準は、将来見込まれる退職給付支払額を従業員の勤務期間で割って出した金額を毎期の発生額とする方法です。

計算式は次のとおりになります。

退職給付債務=将来見込まれる退職金見込額×(勤務期間÷予想退職時期までの勤務期間)×({1÷1+割引率}に予想退職時までの残存年数だけ累乗した数値)

期間定額基準の場合は、1期毎の退職給付債務(勤務費用)がすべて同じ数値になるのが特徴です。

給付算定式基準での計算方法

給付算定式基準は給付算定式に従って、各勤続期間に帰属させた給付をもとにして見積もった額を、各期の発生額として算出する方法になります。

例えば、退職一時金に関して以下の規定がある企業を想定します。

  • 勤続10年未満だと退職一時金ゼロ
  • 勤続10年以上20年未満での退職だと600万円支給
  • 勤続20年以上だと800万円支給

この場合は、次のように帰属させていきます。

  • 最初の10年間で隔年に60万円ずつ帰属させる
  • 次の10年間で800万円-600万円=200万円を20万円ずつ帰属させる

上記のように見積もった場合、最初の10年間は「60万円×割引係数」で計算、その後の10年間は「80万円×割引係数」で計算します。

退職給付債務から未認識項目と年金資産を差引いて退職給付引当金残高を求める

退職給付債務を計算したあとは、退職給付引当金と退職給付費用を求めます。

以下では退職給付引当金と退職給付費用の計算、退職給付制度の終了について解説します。

年金資産・未認識項目(数理上の差異・過去勤務費用)を差し引いて退職給付引当金を求める

まず、退職給付引当金残高と退職給付債務の関係を見ていきましょう。

年金資産退職給付債務
未認識数理計算上の差異
未認識過去勤務費用
退職給付引当金(期末残高)

このように年金資産・未認識数理計算上・未認識過去勤務費用の数値を加味したのち、「退職給付債務に対して足りない分を退職給付引当金として計上する」というイメージです。

計算式に表すと次のようになります。

退職給付引当金残高=退職給付債務-年金資産±未認識事項(未認識数理計算上の差異-未認識過去勤務費用)

勤務費用・利息費用などを用いて退職給付費用を求める

続いて退職給付費用を求めます。

退職給付費用の内訳は次のとおりです。

勤務費用期待運用収益
利息費用退職給付費用(差額)
未認識数理計算上の差異
未認識過去勤務費用

計算式で表すと次のようになります。

退職給付費用=勤務費用+利息費用+未認識事項(未認識数理上の差異+未認識過去勤務費用)-期待運用収益

勤務費用は、退職給付債務の計算で算出した、各期への配分した金額です。

利息費用は、「期首の退職給付債務×割引率」で計算します。

退職給付制度の終了処理とは?

退職給付制度を確定給付型から確定拠出型へと完全移行するときや、企業の退職金規定がなくなったり厚生年金基金が解散したりなどで、退職給付制度自体が廃止されるときは、終了に伴う減少相当額分の支払い分だけ退職給付債務も減少します。

制度の終了に伴う退職給付債務の減少額は次のとおりです。

  • 年金資産からの支給や分配
  • 事業主からの支払いや現金拠出額の確定
  • 確定拠出年金制度への資産転換

終了した時点で、終了した分にかかる退職給付債務と終了に伴う減少相当額分の支払い分との差額は損益として会計処理を行います。

【関連記事】退職給与引当金とは?損益算入は廃止!具体例と計算方法

退職給付引当金・退職給付費用の計算・計上

退職給付引当金と退職給付費用が計算できたら、それぞれ計上を行います。

当期分の従業員の労働力への対価を退職給付費用として計上し、同時に退職給付引当金も増加するという仕訳を行います。

仕訳に使用される金額は、上記で計算された退職給付費用の額です。その結果、退職給付引当金は期末時点での将来支払うことになる退職金の額へと金額が修正されます。

退職給付債務に対する積み立て不足分である退職給付引当金は、貸借対照表へ負債として計上します。

一方、退職給付債務への増額としての退職給付費用は、損益計算書へ当期の費用として計上します。

借方
貸方
退職給付費用
4,500,000円
退職給付引当金円
4,500,000円

退職給付会計についてご理解いただけましたでしょうか?

退職給付会計は、数ある会計処理のなかでも複雑で理解が難しい分野です。

毎期ごとに退職金額を見積りつつ、決算書へ記載する内容をさまざまな収益・費用などを用いて計算しなければなりません。

退職金制度の導入を考えている経営者や企業の経理担当者は、大体の流れや会計処理の手法を知っておくことで、普段の実務作業にプラスになるはずです。
頭に入れておくことをおすすめします。

よくある質問

退職給付会計とは?

退職する従業員のこれまでの労働提供の対価として支払われる、退職金に関係する会計のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

退職給付会計の大きな目的は?

貸借対照表(B/S)へ記載する「退職給付引当金」と、損益計算書(P/L)へ記載する「退職給付費用」を計算することです。詳しくはこちらをご覧ください。

退職金の計算方法とは?

まず、退職給付債務を計算し、そこから未認識項目と年金資産を差引いて退職給付引当金残高を求めます。詳しくはこちらをご覧ください。


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