- 更新日 : 2025年2月19日
商品有高帳とは?先入先出法と移動平均法や記入例、簿記3級向け練習問題も
企業が商品を仕入れて販売する過程の中で、出荷するまでの間、一時的に商品が社内に滞留する状態があります。これを「在庫」と呼びます。「在庫」がいまどれくらい手元に残っているかを把握するための帳簿が「商品有高帳」です。今回は「商品有高帳」の考え方や記入方法について解説していきます。
目次
商品有高帳とは?
商品を仕入れて販売する場合、販売する商品を自社に納品(入庫)してもらった後に得意先に納品(出庫)することがあります。入庫してから出庫するまでの間、販売商品は社内に留まることになりますが、これを「在庫」と呼びます。
「商品有高帳」は、社内に残っている「在庫」を商品の種類別に記録する帳簿のことです。
記帳する内容は「入出庫の日付」「入庫した数量・単価・入庫額」「出庫した数量・単価・出庫額」「商品ごとの有高(残高)」など。
商品ごとの数量・単価・金額(原価)を入出庫の都度、記入していくわけです。
「商品有高帳」作成の目的
「商品有高帳」を記帳する目的としては次のようなものがあります。
1.商品ごとの在庫状況をリアルタイムで把握することで、欠品や過剰在庫などが管理できる
2.会社全体の在庫有高を把握することにより、正しい損益計算が可能となる
3.実地棚卸高との差異を計算するための根拠となる
実務においては「紛失」「盗難」「記帳忘れ」「記帳間違い」などが原因で、「商品有高帳」の帳簿残高と実際にある商品有高(実地棚卸高)に差異が生じることがあります。
「商品有高帳」の残高は、実地棚卸との差異を計算する際の根拠資料となります。
「商品有高」の捉え方
「商品有高」は次の算式により求めることができます。
ここで問題となるのが「単価」です。
同じ商品を仕入れたとしても仕入時期が違えば当然「単価」も変動していきます。
仕入単価が複数ある場合の商品有高を計算する際には、単価の捉え方が重要となります。
今回は代表的なものとして「先入先出法」「移動平均法」の2つを紹介します。
先入先出法
「先入先出法」とは、「先に入庫した商品から順番に出庫する」ことを前提として出庫単価を決定する方法です。
具体的には商品を出庫する際、一番古い入庫単価から順に出庫単価とします。
「先入先出法」を用いて商品有高を計算する場合は、単価ごとに分けて計算を行います。
なお「先入先出法」の概要については下記のリンクをご参照ください。
移動平均法
「移動平均法」は「単価の異なる商品を仕入れる都度、平均単価を計算」して出庫単価とする方法です。
「移動平均法」で商品有高を計算する場合は、平均単価を用いて計算を行います。
なお「移動平均法」の概要については下記のリンクをご参照ください。
商品有高帳の記入方法
「商品有高帳」の定型フォーマットというのは特にありませんが、必須項目として「日付」「摘要」「受入(入庫)」「払出(出庫)」「残高」が必要です。
以下のページから商品有高帳のエクセルテンプレートを無料でダウンロードできますので、こちらもぜひご活用ください。
それでは具体的な記載内容について説明していきます。前段で解説した「先入先出法」や「移動平均法」などに応じて記帳方法が変わってきます。
先入先出法の場合
- 「日付」欄には入出庫の日付を記入します。
- 「摘要」欄には「○○商事より仕入」や「(株)○○に販売」など、商品の受入もしくは払出の内容を記入します。
- 「受入」欄には仕入れ商品の数量・単価・金額を記入します。
- 「払出」欄には販売した商品の数量・単価・金額を記入します。
ここで注意したいのが、記入する「単価」です。
「先入先出法」では一番古い仕入商品から出庫するルールですから、上図の「4月3日(株)○○への販売」の場合、一番古い「前月繰越」の単価「200円」を記入することになります。 - 「残高」欄には在庫数量・在庫単価・在庫金額を記入します。
「残高」は単価の異なるものごとに記入します。
上図の「4月3日販売後」には「200円」「180円」2種類の単価が残りますので、残高を2段書きで記入することになります。 - 「仕入の返品(仕入戻し)」や「売上の返品(売上戻し)」があった場合にも商品有高帳へ記入しなければなりません。
「仕入戻し」であれば「払出」に、「売上戻し」であれば「受入」欄にそれぞれ記入します。
この場合に記入する「単価」は「返品直前の入出庫単価」である点に注意が必要です。
移動平均法の場合
- 「日付」欄には入出庫の日付を記入します。
- 「摘要」欄には「○○商事より仕入」や「株式会社○○に販売」など、商品の受入もしくは払出の内容を記入します。
- 「受入」欄には仕入れ商品の数量・単価・金額を記入します。
ここで注意したいのが、「残高」に記入する「単価」です。
「移動平均法」では仕入の都度、平均単価を求めるルールですから、上図の「4月2日○○商事より仕入」の時点で、平均単価を求めなければなりません。
( 500個 × 200円 )+( 100個 × 260円 )÷ 600個 = 210円
- 「払出」欄には販売した商品の数量・単価・金額を記入します。
ここで注意したいのが、記入する「単価」です。
上図の「4月2日○○商事より仕入」の時点で計算した平均単価>210円を記入します。 - 「残高」欄には在庫数量・在庫単価・在庫金額を記入します。
「移動平均法」の場合、単価の異なるものごとに記入する必要はありません。
平均単価である210円を用いて残高を計算します。 - 「仕入の返品(仕入戻し)」や「売上の返品(売上戻し)」があった場合にも商品有高帳へ記入しなければなりません。
「仕入戻し」であれば「払出」に、「売上戻し」であれば「受入」欄にそれぞれ記入します。
この場合に記入する「単価」は「返品直前の平均単価」である点に注意が必要です。
【簿記3級の方向け】商品有高帳についての練習問題・解説
上図の「商品有高帳」を設問として、「先入先出法」と「移動平均法」それぞれの売上総利益額を求めてみましょう。
1.先入先出法
- A商品の前月繰越高は100,000円(@200円で500個)である。
- 令和3年4月に次のとおり取引を行った。
令和3年4月2日 ○○商事より100個仕入した(仕入金額18,000円⇒@180円で100個)
令和3年4月3日 (株)○○へ400個販売した(売価@500円)
令和3年4月4日 ○○建設へ160個販売した(売価@600円)
商品有高の前月繰越
○○商事より100個仕入した
(株)○○へ400個販売した(売価@500円)
当該取引の売上原価は @200円 × 400個 = 80,000円 となります。
○○建設へ160個販売した(売価@600円)
当該取引の売上原価は単価が2種類ありますので以下のとおりとなります。
@200円 × 100個 = 20,000円
@180円 × 60個 = 10,800円 合計 30,800円
令和3年4月分の売上高 200,000円 + 96,000円 = 296,000円 (a)
令和3年4月分の売上原価 80,000円 + 30,800円 = 110,800円 (b)
令和3年4月分の売上総利益額 (a)-(b) 185,200円
2.移動平均法
- A商品の前月繰越高は100,000円(@200円で500個)である。
- 令和3年4月に次のとおり取引を行った。
令和3年4月2日 ○○商事より100個仕入した(仕入金額26,000円⇒@260円で100個)
令和3年4月3日 (株)○○へ400個販売した(売価@500円)
令和3年4月4日 ○○建設へ160個販売した(売価@600円)
商品有高の前月繰越
○○商事より100個仕入した
移動平均法により平均単価を求めます。
( 500個 × @200 )+( 100個 × @260 ) ÷ 600個 = @210円
(株)○○へ400個販売した(売価@500円)
当該取引の売上原価は @210円 × 400個 = 84,000円 となります。
○○建設へ100個販売した(売価@600円)
当該取引の売上原価は @210円 × 100個 = 21,000円 となります。
令和3年4月分の売上高 200,000円 + 60,000円 = 260,000円 (a)
令和3年4月分の売上原価 84,000円 + 21,000円 = 105,000円 (b)
令和3年4月分の売上総利益額 (a)-(b) 155,000円
簿記の必須項目・商品有高帳もこれでばっちり!
先にも述べたとおり、正確な在庫計算は正確な損益計算に直結しています。税金の計算は勿論のこと、会社が適正な利益を稼ぎ出しているか?といった経営分析にも欠かせない重要な項目です。「商品有高帳」を正確に理解し、正しい在庫計算を行いましょう。
なお、補助元帳と補助記入帳の役割については以下で詳しくご紹介しています。
よくある質問
商品有高帳とは?
社内に残っている在庫を商品の種類別に記録する帳簿のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
商品有高帳の記入方法は?
先入先出法の場合と移動平均法の場合で異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
簿記3級向け練習問題
商品有高帳を設問として、先入先出法と移動平均法それぞれの売上総利益額を求めてみましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
新着記事
架空外注費とは?不適切なケースや税務署の視点、ペナルティ、防止策を解説
外注費は、業務の一部を社外に委託した際に発生する経費です。しかし、存在しない取引を装って外注費を計上する「架空外注費」は、税務上の重大な問題となります。うっかりミスだけでなく、意図的に処理を誤ることで、追徴課税や重加算税などの大きなペナルテ…
詳しくみる商品評価損の仕訳とは?計算方法や会計処理を具体例でわかりやすく解説
在庫は、企業にとって大切な資産です。しかし、商品の価値は常に一定ではありません。例えば、流行の変化や商品の劣化によって、仕入れたときよりも価値が下がることがあります。このようなケースでは「商品評価損」の計上が必要になります。 この記事では、…
詳しくみる連結決算の開始仕訳とは?2年目以降の処理や修正方法をわかりやすく解説
企業グループで決算をまとめる「連結決算」は、親会社と子会社をひとつの会社のように見なして、グループ全体の財政状態や経営成績を明らかにするものです。その中で「開始仕訳(かいししわけ)」はとても大切な作業になります。この記事では、開始仕訳の意味…
詳しくみる不動産売却の仕訳はどうする?個人と法人のやり方を具体例つきで解説
不動産を売却したとき、収入や経費が大きく動くため、仕訳も複雑になりがちです。土地や建物を売った場合、どの勘定科目を使えばよいのか、減価償却はどこまで行うのか、仲介手数料や登記費用はどう処理するのかなど、迷う場面も多いでしょう。さらに、法人と…
詳しくみる未払利息の仕訳とは?勘定科目や計上時期をわかりやすく解説
借入金や社債があると、月末や決算日までに発生している利息が、まだ支払われていないというケースがあります。このとき使われるのが「未払利息」という勘定科目です。実際にはまだ支払いをしていなくても、発生している利息は費用として計上し、同時に負債と…
詳しくみる法人成りの仕訳とは?資産・負債の引継ぎや税務処理をわかりやすく解説
個人事業から株式会社や合同会社へと形態を変える「法人成り」は、節税対策や信用力向上のために実施されることが増えています。しかし、会計処理の面では、個人の支出と法人の帳簿をしっかり切り分ける必要があり、資産や負債の引継ぎ、設立時の費用、税金の…
詳しくみる