- 更新日 : 2024年8月8日
賞与引当金とは?仕訳例とともに会計処理方法や税務上の取り扱いを紹介
「賞与引当金」は、決算時、適正な期間損益計算により財務諸表を作成するときに必要な勘定科目です。名称どおり、発生する可能性が極めて高い翌期の「賞与」に備え、引当金として計上します。この記事では、賞与引当金の意味と会計処理、具体的な仕訳の方法、税務上の取り扱いをわかりやすく解説していきます。
目次
賞与引当金とは?
賞与引当金とは、引当金の一つであり、会社が従業員などに支払う賞与を前期に準備して、計算しておくための勘定科目です。
引当金とは、将来発生する可能性の高い費用や損失のことをいいます。引当金のうち、適正な期間損益計算の観点から、当期に属すると考えられる合理的な金額を引当金に繰り入れます。
賞与引当金については、適正な期間損益計算から導かれる、適切な財務諸表を作成するために必要な科目です。投資家などに対し、将来負担する可能性が高い賞与の額を明確にすることで、有用な情報を提供できます。
また、会社を経営する上で、従業員に対して給与や賞与の支払いを確実に行う必要があるため、会社にとっても翌期の支給が予測される賞与を準備することは重要です。
特に労働契約書などで賞与の支給が定められている場合には、当期の費用として賞与引当金を前もって計算しておく必要があります。前期に準備しておくことで、賞与を支給すべき時期に、支給すべき金額を確実に支払うことができます。
翌期に支給する賞与についてはその支給額や支給日が確定しているわけではないため、確定債務には該当しません。
賞与引当金は、前期の支給実績などと照らし合わせて、翌期に支給する賞与のうち当期の負担に属する金額を合理的に計算して導き出します。
賞与引当金の具体的な仕訳例
賞与引当金にはどのような意味があるのか、具体的な計算と勘定科目を使って説明します。
賞与引当金繰入額の計算
賞与引当金として繰り入れるのは、翌期の賞与のうち当期に対応する部分です。支払予定の賞与のうち、支給対象期間が決算をまたぐ賞与について、賞与引当金として計上します。
年2回賞与を支給する企業も多いですが、たとえば賞与支給日が7月と1月であった場合、決算日に近い賞与が引当金の対象となることが多いです。以下、具体例で賞与引当金繰入額を計算してみます。
【計算】
1,200,000円×(3カ月/6カ月)= 600,000円
【解説】
3月が決算となるため、翌期の7月支給予定の賞与のうち当期に対応するのは、支給対象期間は1~3月です。細かく計算すると複雑になるため、通常は翌期の賞与を支給対象期間の月数で割り、当期の決算までに対応する月数分の額を賞与引当金に繰り入れます。
例の場合、60万円が賞与引当金として繰り入れる必要がある金額です。賞与積立金の指標として使いたい場合は、毎月、賞与引当金を計算すると便利です。
賞与引当金繰入の計上
賞与引当金繰入では、「賞与引当金」、「賞与引当金繰入額」の2つの勘定科目を使います。
1,200,000円であった。当社の決算は3月である。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 賞与引当金繰入額 600,000 | 賞与引当金 600,000 |
【解説】
「賞与引当金」は、貸借対照表の負債にあたり、「賞与引当金繰入額」は、損益計算書の費用(販売費及び一般管理費)に分類されます。賞与引当金を計上することによって、会計上は、翌期支給の賞与のうち、支給対象期間が当期に対応する部分を費用として認識するということです。
賞与引当金戻入の計上
賞与引当金は、あくまで翌期の賞与に対して、当期対応分を計上するものです。翌期に賞与を支給した場合、賞与引当金を解消する必要があります。以下、具体例で賞与引当金の戻し入れを見ていきましょう。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 賞与引当金 600,000 | 現金預金 1,200,000 |
| 賞与 600,000 |
【解説】
前期に賞与引当金として計上した額について賞与の支給を行ったとき、今期に戻し入れの仕訳を行います。例1の場合、60万円がすでに負債として計上されていますので、借方に仕訳することで賞与引当金60万円は解消されます。支給額のうち、残り(今期に対応する分)は、費用項目である「賞与」として仕訳します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 賞与引当金 600,000 | 現金預金 1,500,000 |
| 賞与 900,000 |
【解説】
前期の時点で発生の可能性が高い賞与については、賞与引当金として計上しているはずです。賞与自体がなくなることはほぼないとして、業績によって見積額より賞与支給額が多少変動することは考えられます。賞与額に変動があった場合も、基本的な仕訳の形は同じです。
賞与引当金の税務上の取扱とは?
会計上、必要とされる「賞与引当金」ですが、税務上は扱いが異なります。
賞与引当金は損金には含まれない
会計上の費用と収益は、税務上は損金と益金です。費用と損金、収益と益金は概ね同じですが、異なる部分もあります。費用であるものの損金にならないもの、損金であるものの費用にならないもの。さらに、収益であるものの益金にならないもの、益金であるものの収益にならないものがあるためです。
費用であるものの損金にならないものの例が、「賞与引当金繰入額」です。税務上は、将来の見積りではなく、賞与の支給をベースにします。会計上は適切であっても、税務上、不確定要素のあるものを損金とすると、課税標準額を不当に下げてしまう恐れがあります。
そのため税務上は、賞与引当金繰入額は損金としません。税務上は、賞与を支給したときに、その支給額を損金とします。
過去には税務上、賞与引当金を損金にできましたが、平成10年を境に段階的に廃止されていきました。会計上と税務上とでは、賞与引当金の扱いに違いがあるので注意しましょう。
賞与引当金の会計処理のポイントをおさえよう!
賞与引当金は、適切な財務諸表を作成し、将来支給が予定されている賞与の積み立てをするために重要な勘定科目です。賞与引当金繰入と賞与引当金の戻し入れについて、仕訳の仕方を押さえておきましょう。
なお、会計上は計上が必要な科目ですが、税務上は損金不算入となります。混同しないためにも、会計上と税務上の違いもよく理解しておくことをおすすめします。
よくある質問
賞与引当金とは?
引当金の一つであり、会社が従業員などに支払う賞与を前期に準備して、計算しておくための勘定科目です。詳しくはこちらをご覧ください。
賞与引当金の会計処理方法は?
賞与引当金繰入と賞与引当金の戻し入れについて、仕訳の仕方を押さえておきましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
賞与引当金の税務上の取扱は?
「賞与引当金繰入額」は費用であるものの損金にならないため注意が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
返金の勘定科目・仕訳は?返品やキャンセルによる会計処理について解説!
商品の販売やサービスの提供を行う企業や個人事業では、さまざまな返金処理が発生します。例えばクレームによる返金や、クレジットカード決済のキャンセルによる返金などです。返金という事実だけであれば、敷金や保証金の返金もあります。商品に欠陥があった…
詳しくみる農業簿記とは?一般の簿記との違いや特有の勘定科目などを解説
農業簿記とは農業を営む個人事業主や農業法人向けの会計の手法です。農産物を生産して販売し、売上が生じている場合には農業簿記をつけることができます。一般的な簿記とは何が異なるのか、また、農業簿記に用いる勘定科目には何があるのかまとめました。農業…
詳しくみるインボイス制度で控除対象外になった消費税の勘定科目は?
インボイス制度においては、取引先から適格請求書を受け取れば仕入税額控除の適用を受けられます。しかし、取引先の中にはインボイス登録を行っておらず適格請求書が発行できない事業者がいることも予想されます。 適格請求書がなく仕入税額控除対象外となる…
詳しくみる為替手形とは?仕組みや仕訳例、印紙税の金額などを解説
為替手形という手形がありますが、通常の約束手形や工業手形とは何が違うのでしょうか。今回は為替手形という手形独特の仕組みと流れと項目を説明した上で、為替手形を理解するために必要な、支払人・受取人・振出人の役割や裏書、印紙税の取扱いなど、為替手…
詳しくみる商品有高帳とは?先入先出法と移動平均法や記入例、簿記3級向け練習問題も
企業が商品を仕入れて販売する過程の中で、出荷するまでの間、一時的に商品が社内に滞留する状態があります。これを「在庫」と呼びます。「在庫」がいまどれくらい手元に残っているかを把握するための帳簿が「商品有高帳」です。今回は「商品有高帳」の考え方…
詳しくみる固定資産台帳とは?作成方法や記入例、見方を項目別に解説
固定資産を購入した場合に取得時の状況やその後の減価償却の状況を記録する固定資産台帳について、その役割や作り方、記入方法を解説します。 固定資産台帳とは 建物や車両などの固定資産を取得した際は、その取得のための費用をその年度の費用とするのでは…
詳しくみる