- 作成日 : 2025年5月12日
吸収合併の会計処理・仕訳例を3つのケース別にわかりやすく解説
「吸収合併」とは、会社どうしが合併するとき、ある会社が別の会社を取り込む形で一つになることを意味します。合併には契約や登記の手続きが必要ですが、経理担当者にとって一番大切なのは、仕訳や会計処理です。
吸収合併にはいくつかのパターンがあり、のれんが発生する場合や、親子会社どうしの合併など、会計処理のやり方も変わります。この記事では、基本からケース別の仕訳例まで、わかりやすく紹介していきます。
目次
吸収合併の会計処理や仕訳の考え方
吸収合併とは、複数の会社が一つになる「合併」の方法の一つで、消滅する会社の資産や負債を、存続する会社がすべて引き継ぐしくみです。帳簿上では、資産や負債を存続会社が引き継ぐ処理や、株式を発行した場合は純資産項目の処理などが必要になります。
会計処理では「取得」、「逆取得」、「共通支配下の取引」のいずれとして取り扱われるかによって、考え方や仕訳が変わります。
吸収合併の方法
吸収合併は、「存続会社」と「消滅会社」に分かれます。存続会社は、合併後も引き続き営業を行う会社で、消滅会社は法律上および登記上なくなる会社です。会社法上の合併手続きとは別に、会計上では実態に応じて「取得」として処理する場合が多くなっています。
合併によって新たに株式を発行した場合は、資本金や資本準備金への計上も必要になります。
「のれん」と「負ののれん」
合併のときに、消滅会社の資産・負債の評価と、対価として渡した株式などの価値に差がある場合、その差額は「のれん」や「負ののれん」として処理されます。
- のれん:取得価額が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合の当該差額をさし、合併で得た企業価値のうち、目に見えないブランドなどの価値
- 負ののれん:取得価額が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る場合の当該差額をさし、財務諸表に表れないリスクが存在することなどにより、資産価値よりも安く買収できた場合に発生する利益
のれんは無形資産として、一定期間で償却していく必要がある一方、負ののれんは発生した年度の利益として処理されます。
取得による吸収合併の仕訳
取得とは、会計上「実質的に支配している側」が資産や負債を引継ぎ、のれんの計上なども行う一般的な合併の形です。合併対価として新株を発行したり、既存の株を引き渡したりすることがあります。
このパターンでは、取得側が「のれん」や「資産・負債の時価評価」を仕訳に反映させます。
存続会社の仕訳
A社がB社を吸収合併。B社の時価純資産は9,000,000円、対価として発行した新株の時価は10,000,000円。差額をのれんとして処理。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金・預金 | 5,000,000円 | 買掛金 | 1,000,000円 | |
売掛金 | 3,000,000円 | 資本金 | 10,000,000円 | 引き継いだ資産(債権) |
土地 | 2,000,000円 | 引き継いだ資産(固定資産) 簿価1百万円の土地を時価評価して2百万円で引き継ぎ | ||
のれん | 1,000,000円 |
合併により受け取った資産を借方に、引き継いだ負債と新たに発行した株式を貸方に記録し、差額の1,000,000円を「のれん」として資産に計上します。
消滅会社の仕訳
B社がA社に吸収され、合併日をもって解散する。全資産・負債は引き継がれ、帳簿残高を消去。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
買掛金 | 1,000,000円 | 現金・預金 | 5,000,000円 | |
資本金 | 5,000,000円 | 売掛金 | 3,000,000円 | |
繰越利益剰余金 | 3,000,000円 | 土地 | 1,000,000円 |
消滅会社では、全資産・負債・純資産を帳簿から消します。最終的な帳簿残高はゼロになります。
B社株主の仕訳
B社の株主が合併対価としてA社の株式を受け取った。取得価額が2,000,000円のB社株に対し、時価2,500,000円のA社株式を受け取った。なお、当該株主にとって合併の前後ともにA社、B社は子会社でも関連会社でもないとする。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
A社株式 | 2,000,000円 | B社株式 | 2,000,000円 | 合併による株式の交換 |
当該株主にとって合併の前後ともにA社、B社は子会社でも関連会社でもない場合、株式の交換損益は認識せず、B社株式の簿価をそのままA社株式の簿価とします。
逆取得による吸収合併の仕訳
会計のルールでは、合併後の支配関係や実態に応じて、存続会社と消滅会社の立場が「逆転」することがあります。これを「逆取得」といいます。
形式的にはA社がB社を吸収しているのに、消滅するB社の株主がA社を支配することとなるような場合が逆取得に該当し、会計処理上はB社がA社を取得したように処理します。この場合、存続会社であるA社の帳簿に、消滅会社であるB社の資産をもともと持っていたかのように計上する形となり、具体的にはB社の資産・負債をB社での帳簿価額で受け入れます。
存続会社A社の仕訳(形式上の存続会社)
A社がB社を吸収合併したが、実態としてB社が支配していたため、会計上はB社がA社を取得したと見なす(逆取得)。なお、増加する純資産は全額資本金とする。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金・預金 | 5,000,000円 | 資本金 | 10,000,000円 | B社(取得企業)の資産・負債を簿価で受け入れ |
売掛金 | 2,000,000円 | |||
建物 | 3,000,000円 |
逆取得では、消滅会社となる取得企業(ここではB社)の資産や負債を「取得」したものとして借方に記録し、発行済株式などの純資産は貸方に計上します。
消滅会社の仕訳(実質的な取得企業)B社がA社に吸収され、合併日をもって解散する。全資産・負債は引き継がれ、帳簿残高を消去。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
資本金 | 5,000,000円 | 現金・預金 | 5,000,000円 | 解散にともなう資産・負債の消去 |
繰越利益剰余金 | 5,000,000円 | 売掛金 | 2,000,000円 | |
建物 | 3,000,000円 |
B社株主の仕訳
B社株主にとってB社が、子会社、関連会社、そのいずれにも該当しないのどれに分類されるかで会計処理が変わり、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」に沿って処理する必要があります。本記事では詳細は割愛します。
共通支配下の取引ー親会社が完全子会社を吸収合併する場合
親会社が完全子会社を吸収合併するときは、すでに子会社株式を100%保有しているため、通常は新株を発行しない無対価合併となります。これにより、通常の合併とは異なる仕訳や会計処理が求められます。
このようなケースを「共通支配下の取引」と呼び、消滅会社である子会社の資産・負債は時価評価せず帳簿価額で受け入れます。
親会社が完全子会社を吸収合併した場合の仕訳
親会社が完全子会社を吸収合併する場合、すでに子会社株式は親会社がすべて保有しているため、合併対価として株式を発行する必要がありません。 子会社の資産・負債は子会社側での帳簿価額をそのまま引き継ぐこととなり、子会社株式の簿価と引き継ぐ資産・負債の簿価に差がある場合は抱き合わせ株式消滅差損益として計上します。
親会社(存続会社)の仕訳
子会社B社の簿価純資産は10,000,000円、親会社A社のB社株式の帳簿価額は9,000,000円。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金・預金 | 5,000,000円 | 子会社株式 | 9,000,000円 | 子会社株式と引き換えに資産を引継ぎ |
売掛金 | 2,000,000円 | 買掛金 | 1,000,000円 | |
備品 | 4,000,000円 | 抱合せ株式消滅差益 | 1,000,000円 |
このように、子会社の資産・負債は子会社側での帳簿価額で受け入れ、子会社株式の帳簿価額と差がある場合、その差は「抱合せ株式消滅差益」として処理され、のれんは計上されません。
子会社(消滅会社)の仕訳
B社がA社に吸収され、解散処理を行う。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
買掛金 | 1,000,000円 | 現金・預金 | 5,000,000円 | 解散にともなう帳簿からの消去 |
資本金 | 5,000,000円 | 売掛金 | 2,000,000円 | |
繰越利益剰余金 | 5,000,000円 | 備品 | 4,000,000円 |
100%子会社の合併でも、子会社側は他の合併と同じように、帳簿残高をゼロにする処理が必要です。
B社株主の仕訳(該当なし)
100%子会社の合併では、親会社が唯一の株主であるため、株主側の処理は不要です。
吸収合併の会計・税務上の注意点
吸収合併の仕訳が完了しても、それだけで終わりではありません。会計処理と税務処理のズレや、法的な手続き漏れがあると、後から修正や追徴課税が発生することもあります。ここでは、注意しておきたいポイントを4つ紹介します。
① のれんの償却・負ののれんの処理
取得によって発生した「のれん」は、会計上は20年以内の一定期間(5年など)で規則的に償却します。反対に、安く取得できたときに出てくる「負ののれん」は、発生時に一括して利益として計上する必要があります。
会計方針を決めていないと、のれんの償却年数をどうするかで年度末決算時に困ることとなるため、社内ルールを整備しておきましょう。
② 税務上の適格合併かどうかを確認する
合併が適格合併(税制適格)に該当すると、消滅会社の資産・負債を時価評価しなくて良いなどのメリットがあります。ただし、適格合併にするにはいくつかの条件を満たす必要があります。
主な条件(例):
- 会社間に一定の支配関係がある
- 合併対価がすべて株式である
- 合併後の事業が継続される
適格要件を満たしていない場合、資産の時価評価が必要になり、税金の計算が大きく変わることがあります。
③ 契約書・株主総会議事録・登記などの整理も必要
合併は経理だけで進められる手続きではありません。以下のような書類も、必ず整えておく必要があります。
- 合併契約書
- 合併承認の株主総会議事録
- 合併登記の完了証明
- 税務署への届出
経理と法務、総務などの連携がスムーズに進まないと、会計処理や税務処理を誤るリスクがあるため注意が必要です。
④ 連結会計との整合性をチェック
親会社が連結決算をしている場合、合併の影響が連結財務諸表にも出てきます。とくに子会社を吸収した場合などは、資本連結の処理もあわせて必要になります。連結チームや監査法人との事前調整が大切です。
実態に応じて吸収合併の仕訳を正しく処理しよう
吸収合併では、会社の登記上の変化だけでなく、経理としても資産や負債の引継ぎ、新株発行、「のれん」など、さまざまな仕訳を計上する必要があります。とくに、実態に応じた取得の見方や税務上の適格・非適格の判断などは、間違えると後の処理が大変になります。
この記事では、取得・逆取得・共通支配下の取引など、ケース別に吸収合併の仕訳を解説してきました。実務で役立つ仕訳例を参考にしながら、会計と税務の処理の違いも意識しつつ、吸収合併の仕訳を正しく処理していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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