- 更新日 : 2025年4月30日
棚卸減耗損の仕訳とは?計算方法や具体例でわかりやすく解説
決算期になると、在庫の棚卸を行って、実際の数量と帳簿の数字を照らし合わせる作業(実地棚卸)が行われます。このときに起きやすいのが「棚卸減耗損(たなおろしげんもうそん)」です。
在庫数量が帳簿上の数量より減っている場合、その差額は会計上の損失として処理しなければなりません。しかし、どの勘定科目で仕訳するのか、売上原価に入れるのか、販売費にするのか、迷うこともあるでしょう。
この記事では、棚卸減耗損の基本から計算方法、会計処理、具体的な仕訳例までをわかりやすく解説します。
棚卸減耗損とは?
棚卸減耗損とは、帳簿上の在庫数量と、実際に数えた在庫数量が一致しなかったときの差額に対して発生する損失のことです。
在庫が帳簿より減っていた場合、その差を「棚卸減耗損」として処理し、帳簿を実際の数量に合わせて修正します。棚卸減耗損の計上によって、帳簿上の在庫と実在庫の差異を解消し、正確な在庫管理を行うことができます。
棚卸減耗損が発生する原因
棚卸減耗損の主な原因には、以下のようなものがあります。
- 商品の盗難・紛失
- 長期間の保管中における自然減(蒸発、乾燥、破損など)
- 数え間違い、記帳漏れなどの人的ミス
- 倉庫移動などで発生する移送ロス
これらは、日常的な業務で完全には防げないものも多いため、決算時の実地棚卸で必ず確認しておくべき項目といえます。
棚卸減耗損と棚卸評価損の違い
混同されやすいのが「棚卸評価損」との違いです。
- 棚卸減耗損:数が減っていたときの損失(数量差)
- 棚卸評価損:在庫数は一致しているが、時価が下がって価値が下がったときの損失(価格差)
たとえば、帳簿上100個あった在庫が実地棚卸で95個しかなかった場合は「棚卸減耗損」です。
逆に100個の在庫はあるが、仕入価格よりも時価が低くなってしまった場合は「棚卸評価損」として処理します。
この2つは発生の理由も会計処理の考え方も異なるため、経理処理上はきちんと区別して対応することが必要です。
棚卸減耗損の計算方法
棚卸減耗損は、棚卸資産の帳簿上の数量と、実地棚卸で数えた在庫数との差分に単価をかけることで金額を求めます。
この差額は、販売活動に使えるはずだった資産が失われていることを意味するため、帳簿にきちんと反映させる必要があります。
棚卸減耗損の計算は、次の手順で行います。
1. 帳簿数量と実地棚卸数量の差を求める
まず、在庫の帳簿残高と、実地棚卸によって数えた在庫数量を比較します。
たとえば、帳簿上は120個あることになっていた商品が、実際には115個しかなかった場合、差は5個となります。この差が「棚卸減耗数量」です。
例)
帳簿数量 :120個
実地数量 :115個
差額 :5個(棚卸減耗数量)
2. 単価をかけて減耗損の金額を計算
次に、この減耗数量に商品1個あたりの評価単価をかけて、棚卸減耗損の金額を求めます。
単価の例:1個あたり500円
この2,500円が、仕訳上「費用」として計上する金額になります。
3. 在庫残高の修正も忘れずに
棚卸減耗損を計上するということは、在庫が減ったことを帳簿にも反映させる必要があるということです。
したがって、商品の残高勘定(商品棚卸高など)からも、該当する数量分の金額を減額して記録します。
計上される金額は、通常は税込または税抜の評価単価を使って算出します。消費税の処理方法はそれぞれの会社の会計処理基準により異なるため、社内ルールに従ってください。
(参考)減耗損の評価単価の決め方
在庫の単価には、次のような方法があります。
- 移動平均法:在庫が動くたびに単価を平均して更新
- 総平均法:期末に在庫全体の平均単価を計算
- 個別法:品目ごとに単価を管理(高額商品の場合など)
在庫管理の方法と一致する単価で計算しないと、実際の棚卸減耗損と金額がずれてしまうため、社内で決められた在庫評価方法に合わせて計算することが大切です。この評価単価は、事業や棚卸資産の種類、商品の性質等を考慮し、区分ごとに選択し、継続して適用することとなっています。
棚卸減耗損の仕訳とは?
棚卸減耗損が発生した場合は、その金額を費用として処理し、在庫残高を減らす仕訳を行います。
費用として処理する際に使う勘定科目や費用区分には、一定のルールがあります。
売上原価か販売費および一般管理費に計上
棚卸減耗損を仕訳する際にまず迷うのが、「どの費用区分で処理すべきか」という点です。
原則として、棚卸減耗損は売上原価に含めて処理するのが通常の対応です。
これは、販売活動のために用意した商品が、販売されずに失われてしまった場合、広い意味では「売上原価の一部」とみなされるためです。
ただし、棚卸減耗損が次のような要因で発生している場合には、販売費および一般管理費(販管費)または営業外損失等として処理することも認められています。
- 異常なロス(盗難、災害など)
- 数量や金額の大きい棚卸差異
- 記帳ミスが原因の在庫差異
このような場合、棚卸減耗損を「棚卸減耗損費用」などの名称で販管費に計上し、損益計算書の中で目立つように表示することもあります。
会計基準では、通常の範囲内の棚卸減耗損は売上原価、異常なものは販管費等という考え方が一般的です。
棚卸減耗損の特例
会社によっては、棚卸減耗損を「営業外損失」や「特別損失」として処理することがあります。これは、棚卸の結果として発覚した在庫の喪失が大きく、かつ通常の業務とは関係のない場合(たとえば盗難被害や自然災害など)に用いられます。
この場合は、会計上の表示方法として損益計算書の営業外損失や特別損失の欄に表示するなど、他の費用と区別して処理することになります。
ただし、これはあくまで例外的な扱いであり、基本は売上原価または販管費に含める方が自然です。
棚卸商品が多かった場合の処理
実地棚卸を行った結果、帳簿よりも実地の在庫の方が多かったというケースもあります。これは「棚卸益」と呼ばれる状態ですが、通常はすぐに利益として処理するのではなく、記帳ミスや棚卸方法の確認を行うことが先決です。
それでも明らかに帳簿のミスや過少記帳だったことが判明した場合には、次のような仕訳で在庫を増やすことも考えられます。
例)差額3,000円分、在庫が増えていたとき
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
商品 | 3,000円 | 雑収入または棚卸益 | 3,000円 |
ただし、金額が小さい場合や記帳の誤差の範囲である場合は、期中にその都度修正することも多く、必ずしも利益として認識するわけではありません。
【ケース別】棚卸減耗損の仕訳の具体例
棚卸減耗損は、在庫の種類や業種、原因によって処理方法が少しずつ異なります。ここでは代表的な5つのケースでの棚卸減耗損の仕訳を紹介します。
例① 通常の棚卸で減耗が発覚(売上原価として処理)
帳簿上は在庫が150個(1個500円)あるはずが、実際は145個しかなかった
減耗数5個 × 500円 = 2,500円の棚卸減耗損を売上原価で処理するケース
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
売上原価 | 2,500円 | 商品 | 2,500円 |
棚卸によって自然減が発覚した場合、通常は売上原価に含めて処理します。営業活動の一環と見なされるため、費用の分類としては自然と言えます。
例② 棚卸減耗損を販売費および一般管理費として処理(異常減)
盗難により商品5個(単価600円)が消失し、棚卸時に判明
3,000円を販管費で処理
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
棚卸減耗損(販管費) | 3,000円 | 商品 | 3,000円 |
異常な原因(盗難・火災など)による場合は、販売費および一般管理費として処理することも認められています。
例③ 期末棚卸で大量のロスが出たため特別損失で処理
在庫500個のうち、20個(単価400円)が破損・汚損で使えなくなっていた
8,000円分を特別損失として処理
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
棚卸減耗損(特別損失) | 8,000円 | 商品 | 8,000円 |
棚卸の減耗が異常に大きく、かつ明らかに一時的な要因である場合、特別損失等として表示することで財務諸表の透明性を高めます。
例④-1 棚卸時に帳簿より在庫が多く、棚卸益が発生したケース
帳簿では在庫120個だったが、実地では125個あった(単価500円)
差額5個 × 500円=2,500円の棚卸益として処理
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
商品 | 2,500円 | 雑収入または棚卸益 | 2,500円 |
例④-2 棚卸時に帳簿より在庫が多く、売上原価で調整するケース
帳簿では在庫120個だったが、実地では125個あった(単価500円)
差額5個 × 500円=2,500円について、仕入の戻りとして処理
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
商品 | 2,500円 | 売上原価 | 2,500円 |
棚卸差異が利益になることもありますが、原因が記帳漏れや記数ミスであれば、慎重に対応し、根本原因を確認する必要があります。
例⑤ 減耗損が免税商品の在庫に関するもので、消費税なし
実際の在庫が少なく、帳簿との差額が5,000円だが、対象が非課税商品だった場合
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
売上原価 | 5,000円 | 商品 | 5,000円 |
税込み経理をしている場合であっても、 消費税の計算対象とならない商品(教科用書籍で非課税となるもの、非課税医薬品など)の場合は、消費税を含めずに処理します。
仕訳の単価設定時に税抜/税込だけでなく、非課税や不課税の判断をあらかじめしておくことが大切です。
棚卸減耗損時の会計処理や仕訳のポイント
棚卸減耗損は決算時に見落とされがちな科目のひとつです。原因や金額によって処理方法が異なるため、毎年同じルールで処理するとは限らず、判断が求められる項目でもあります。
ここでは、実務で押さえておきたい棚卸減耗損のポイントを6つご紹介します。
まずは原因を特定する
帳簿と実地棚卸の差が出た場合は、すぐに仕訳を切るのではなく、なぜ差が出たのかを確認することが大切です。
- 自然減(乾燥・蒸発・破損)であれば通常の減耗損
- 記帳ミスや人的ミスの場合は、経理上の修正対応が先
- 盗難や火災などの場合は、異常損として別処理の検討
原因によって処理先(売上原価、販管費、営業外費用、特別損失)が変わるため、まずは現場との連携が必要です。
減耗損の金額が小さい場合はまとめて処理してもよい
実務では、商品ごとに減耗損を仕訳するのが理想ですが、金額が小さければ科目ごとにまとめて処理することもあります。
たとえば食品や雑貨など小売業の場合は、「減耗損まとめて15,000円」など、1行で処理するケースも一般的です。ただし、まとめる前の明細は保存しておきます。
ただし、金額が大きいものや傾向的にロスが多い商品がある場合は、内訳を管理し、決算時の根拠資料とすることが望ましいです。
勘定科目の使い分けを統一しておく
会社によっては「棚卸減耗損」専用の費用科目を設けている場合もありますが、なければ、原価性の有無を判断し、次のように分けて使うとわかりやすくなります。
- 通常の自然減:売上原価
- 異常な減耗:販売費および一般管理費(または営業外損失や特別損失)
- 管理ミスや盗難:雑損失・特別損失など
同じような取引でも、部門によって仕訳が異なっていると決算時に混乱するため、社内のルールを確認しておくことが大切です。
消費税処理を忘れない
棚卸減耗損の処理においても、仕入税額控除の対象外となる点に注意が必要です。
参考:消費税基本通達第2節 資産の譲渡の範囲(5-2-13)|国税庁
棚卸減耗損が発生した分は「課税仕入れ」ではないため、通常の仕入とは税区分を別にして処理しなければなりません。
経費処理で「仕入」と同じ税区分を適用してしまうと、消費税の申告時に誤りが出ることもあるので、税区分も合わせてチェックしましょう。
棚卸益が出た場合は慎重に判断
在庫が帳簿より多かったときに「棚卸益」として収入計上するのは一つの方法ですが、一時的な誤差やミスの可能性もあるため、すぐに収益化するのは避けた方がよいケースもあります。
本当に利益なのか、それとも記帳の誤りか、倉庫の移動記録漏れかを慎重に見極めた上で処理を行いましょう。
決算整理仕訳として処理する場合もある
棚卸減耗損は、期中に見つかることもありますが、多くの場合は決算整理仕訳として処理されることになります。
この場合、会計システム上では、他の決算整理と同じように「仮計上 → 承認 → 確定仕訳」という流れを踏むことが一般的です。
処理のタイミングや決算書等への反映時期も合わせて確認しておくと、税務処理までスムーズにつながります。
棚卸差異を見落とさずに処理できるようにしよう
棚卸減耗損は、日々の帳簿では見えにくい「在庫のズレ」を数字で明らかにする項目です。決算時に在庫をしっかり確認し、帳簿と実地の差を丁寧に処理することで、資産と利益のズレを防げます。減耗の原因や金額に応じた適切な勘定科目を使い、仕訳も明確に残しておくことで、後からの確認や税務対応もスムーズになります。毎年の実地棚卸を、会計と在庫管理を見直すよい機会として活用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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