- 作成日 : 2025年3月31日
IFRSにおける財務諸表とは?日本基準との違いや作成方法を解説
IFRSの財務諸表は、日本基準の財務諸表とさまざまな点で違いがあります。IFRSによる財務諸表を作成する場合、開示チェックリストなどを利用して、IFRSの開示要件に沿った作成が必要です。この記事では、IFRSと日本基準の主な違いやIFRSによる財務諸表の導入のメリット及び注意点などを紹介します。
目次
IFRSにおける財務諸表とは
IFRSとは、国際会計基準審議会が策定する国際財務報告基準のことです。会計基準は日本とは異なり、作成する財務諸表も日本基準のものとは異なります。IFRSにおける財務諸表として定義されているのは、以下の5つです。
貸借対照表(財政状態計算書)
IFRSで財政状況計算書とされている財務諸表は、日本の貸借対照表にあたる書類です。当期の会計情報と前期の会計情報の少なくとも2期分を記載して作成します。財政状況計算書のひな形は特にありませんが、下記の事項については最低限の表示が必要です(ただし、重要性がない場合、表示は強制されない)。
損益計算書(純損益及びその他の包括利益計算書)
純損益及びその他の包括利益計算書は、日本基準の損益計算書にあたる財務諸表です。財政状態計算書と同様に、少なくとも当期と前期の2期分を記載する必要があります。ひな形はなく、少なくとも下記の事項について表示を求められています(ただし、重要性がない場合、表示は強制されない)。
- 収益
- 償却原価で測定される金融資産の認識の中止により生じる利得及び損失
- 財務費用
- 税金費用
- 雑損失
- 持分法投資損益
- FVTPLへの分類変更による損益
- 非継続事業の合計金額
- 純損益
- その他の包括利益
- 包括利益合計
持分変動計算書
持分変動計算書は、日本基準の株主資本等変動計算書にあたる財務諸表です。期首から期末までの資本の変動を記載します。特定のひな形はありませんが、資本取引を個別に区分して表示したり、親会社株主の持分と非支配持分を区分して表示したりするなどの作成のルールがあります。会計方針の変更により遡及修正などが発生した場合は、変更による影響額についても記載しなければなりません。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書は、現金や現金同等物の期首から期末にかけての流れを表した財務諸表です。日本基準のキャッシュ・フロー計算書と類似しており、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3つに区分されます。作成方法も直接法と間接法がある点は同じです。ただし、IFRSでは直接法での作成が推奨されています。また、IFRSでは非継続事業に関するキャッシュ・フローについても開示が求められています。
注記
注記とは、財政状態計算書や純損益及びその他の包括利益計算書などの財務諸表の内容を補足するための書類です。IFRSの注記は、企業間比較ができるように作成します。基本的に日本基準の注記表と類似していますが、データの収集方法など、日本基準にはない開示が必要な事項も存在します。
IFRSと日本基準の財務諸表の違いを比較
IFRSと日本基準の財務諸表では、さまざまな面で違いがあります。代表的なものをいくつかピックアップして、IFRSと日本基準の相違点を紹介します。
収益認識の違い
日本では、取引が実現した時点で収益を認識する「実現主義」が長い間採用されていました。実現主義は包括的な収益認識を認めたものです。商品やサービスの引き渡し時点だけでなく、検収した時点や出荷した時点での収益認識も認められていました。
しかし、法人税等の改正に伴い「収益認識に関する会計基準」が創設されたことで収益認識が変化することになります。収益認識に関する会計基準は、平成30年4月から適用となった新たな収益認識の基準です。企業会計原則に優先される会計基準として位置づけられました。中小企業などでは実現主義による会計も認められていますが、上場企業及び会社法上の大会社等公認会計士監査が義務付けられている会社等においては収益認識に関する会計基準を適用することとなっています。
収益認識に関する会計基準の特徴は、履行義務という新たな概念が設けられたことです。IFRSの収益認識の基準に寄せた内容となっており、基本的な収益認識の手法は同じです。IFRSの収益認識においても、日本の収益認識に関する会計基準においても、以下のステップに従って収益の認識を行います。
- 契約を特定する
- 契約別の履行義務を特定する
- 取引価格を算定する
- 取引価格を各履行義務に割り振る
- 履行義務の充足に伴い収益を認識する
特別損益の違い
損益計算書(純損益及びその他の包括利益計算書)の作成において、大きな違いが認められるのが特別損益です。
日本基準の損益計算書には、特別利益や特別損失といった項目があります。特別損益(特別利益と特別損失の総称)は、企業の営業活動以外で発生した臨時的な収益または費用のことです。固定資産の売却損益や有価証券の売却損益、火災による損失、損害賠償の対応費用などが該当します。
日本基準とIFRSの違いは、日本基準で作成した損益計算書に表示される特別損益の項目が、IFRSの純損益及びその他の包括利益計算書には存在しないことです。これは、IFRSにおいて、収益や費用の異常項目の表示が認められていないことが理由です。日本基準で特別損益に表示している項目は、IFRSでは、利息や配当等の金融取引に関連するものを除き営業利益に含みます。
減損処理の違い
減損とは、所有する資産の価値が帳簿価額より下回り、さらに投資による回収の見込みがなくなったときに、資産の帳簿価額を切り下げることです。日本基準でもIFRSでも固定資産の減損会計は認められています。ただし、日本基準とIFRSでは減損の認識や算定など、複数の相違点があります。
まず、日本基準とIFRSの違いとして挙げられるのが、減損の兆候がある資産の認識・測定です。日本基準では、2つのステップで減損の兆候を認識し測定します。まず、割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額の比較を行い、減損の兆候があるか判定します。減損の兆候が認められた場合、回収可能価額(使用価値と正味売却価値のいずれか高い金額)まで帳簿価額を切り下げます。
IFRSでは減損の認識に該当するステップはありません。資産の帳簿価額と回収可能額(処分コストを控除した公正価値と使用価値のいずれか高い金額)と比較して、回収可能額が帳簿価額を下回るときは、回収可能額まで帳簿価額を切り下げます。
日本基準とIFRSの相違点としては、減損の戻し入れも大きな違いといえます。日本基準では、減損の戻入れは認められていません。一方IFRSでは、のれんを除き、戻し入れの兆候がある資産については回収可能額まで帳簿価額を戻し入れることとなっています。
金融商品の評価方法の違い
日本基準では、金融商品を金融資産と金融負債、さらに金融資産を債権と有価証券に区分します。また、有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券に区分します。
債権(売掛金や貸付金など)の評価は債権額、債務(買掛金や借入金など)の評価は債務額です。売買目的有価証券は時価、満期保有目的の債券は取得原価または償却原価、子会社株式及び関連会社株式は取得原価、その他有価証券は時価で評価します。
一方、IFRSでは、金融商品は、資本性金融商品、負債性金融商品、デリバティブの3つに区分します。評価方法は、償却原価、FVOCI、FVTPLの3パターンです。
- 償却原価
日本基準の償却原価に類似する方法です。債権や満期保有投資などに適用される評価方法で、日本基準で認められる定額法は適用できません。 - FVOCI
日本基準のその他有価証券の時価評価に類似する方法です。時価と帳簿価額の差額を、その他の包括利益に含めます。売却可能金融資産の評価に適用されます。 - FVTPL
日本基準の売買目的有価証券の時価評価に類似する方法です。時価と帳簿価額の差額を純損益に含めます。トレーディング目的の資産など、公正価値で測定される金融資産または金融負債に適用される方法です。
財務諸表の表示・開示要件の違い
財務諸表のうち、貸借対照表(財務状態計算書)と損益計算書(純損益及びその他の包括利益計算書)では、IFRSと日本基準の間に表示方法の違いがあります。
まず、貸借対照表について、日本基準では、原則として、資産を流動資産・固定資産・繰延資産、負債と流動資産・固定資産に区分して表示することと定められています。一方、IFRSの財務状態計算書では、原則として、資産を流動資産・非流動資産、負債を流動負債・非流動負債に区分して表示しなければなりません。
損益計算書(純損益及びその他の包括利益計算書)については、日本基準では、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益を表示することが求められます。IFRSでは、段階別に利益を表示する規定はありません。ただし、純損益とその他の包括利益の合計を表示することが求められます。
情報の開示要件についても、日本基準とIFRSでは異なります。特にIFRSでは、重要性のある情報が重要度の低い情報で埋もれないように、情報開示のレベルを適切に設定することが必要です。
IFRS第18号による財務諸表の変更点
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の公表による財務諸表の主な変更点を解説します。
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」とは
IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」とは、2024年4月に国際会計基準審議会より公表された新たなIFRSの会計基準です。財務諸表の透明性や比較可能性を高める目的で策定されました。IFRS第18号は、2027年1月1日以降に開始する年次報告期間からの適用になります。次に、従来の財務諸表における表示及び開示との主な変更点を紹介します。
損益計算書の小計及び区分表示の変更
IFRS第18号では、新たに「営業利益」と「財務及び法人所得税引前利益」の表示が要求されています。これに伴い、営業、投資、財務の3つの区分が追加されました。すでに要求されている区分を含め、営業区分、投資区分、財務区分、法人所得税区分、非継続事業区分に分けて「純損益及びその他の包括利益計算書」を作成することが求められます。
営業区分は、ほかに分類されない収益・費用項目を表示する区分です。営業区分の下には「営業利益」の表示が今後要求されることになります。日本基準の営業利益とは異なり、IFRSで表示が認められない特別損益を含んだ金額が営業利益として表示されることに注意が必要です。
投資区分は関連会社等への投資や金融資産の収益などを表す区分です。IFRS第18号に基づき、投資区分の下に「財務及び法人所得税引前利益」表示が求められます。財務区分は、資金調達に関連する収益や費用を表示する区分です。
経営者業績指標(MPM)の開示
IFRS第18号により、MPMの注記での開示が求められるようになります。MPM(Management – defined Performance Measures)は、日本語で経営者業績指標といいます。企業の経営者が独自に定義したコア営業利益などの業績指標のことです。
MPMの定義づけについては、IFRSに沿って財務諸表を開示する企業に委ねられます。今回新たに要求されているのは、企業によって異なるMPMを明確にすることです。注記によって、計算方法や選定の理由、純損益及びその他の包括利益計算書に表示される類似の小計との調整額の開示が求められます。調整表の変更や追加などが生じる場合は、その影響や修正再表示前後の比較情報の開示も必要です。
情報のグルーピング(集約及び分解)の明確化
従来のIFRSに沿った財務諸表については、企業が情報を詳細に提供し過ぎているせいで重要な情報がわかりにくい、あるいは、企業が詳細な情報を十分に提供していないとの指摘があります。
IFRS18号では、投資情報の透明化や有用性の向上を図るべく、情報のグルーピングに関するガイダンスが拡充されました。これにより、財務諸表と注記のどちらに情報を含めるべきか、共通の特性を持つ項目の集約や分解はどのように行うべきかがより明確になりました。
IFRSによる財務諸表の作成方法
任意でIFRSを適用する場合、企業単体の財務諸表は日本基準を適用して、連結財務諸表はIFRSを適用して作成します。企業別の財務諸表を日本基準で作成するのは、利害関係者に日本の慣習や会計基準に沿って作成された財務報告を行う必要があるためです。
そのため、IFRSを適用した財務諸表の作成パターンとしては2パターン考えられます。1つは、企業が個別に日本基準の財務諸表とIFRSに沿った財務諸表の2種類を作成する方法です。この場合、日本基準(外国にある子会社などは現地基準)で作成してIFRSに組み替える方法、あるいはIFRSベースで作成して日本基準(外国にある子会社などは現地基準)に組み替える方法が考えられます。
作成方法のパターンとして、各企業で日本基準(または現地基準)による財務諸表を作成し、連結決算の際に親会社がまとめてIFRSに組み替えることにより連結財務諸表を作成する方法もあります。
IFRSによる財務諸表の開示チェックリスト
日本基準の財務諸表とIFRSの財務諸表では、最低限開示しなければならない事項などが異なります。大手監査法人や大手の税理士法人では、IFRSによる財務諸表の開示リストが公開されています。IFRSの財務諸表を作成する際には、IFRSに準拠した財務諸表になるように、IFRS開示チェックリストを活用すると便利です。
IFRSによる財務諸表を導入するメリット
IFRSによる財務諸表の導入のメリットとして、経営管理の高度化が挙げられます。経営管理の高度化とは、経営情報の可視化や比較可能性を高めることです。海外を含めた子会社から収集する決算データをIFRSベースにすることで、財務状況の可視化が行われ、迅速な経営判断が可能になります。
IFRSによる財務諸表にすることで、国外の競合他社の財務諸表との比較可能性が向上するのもメリットといえるでしょう。EUが域内の上場企業にIFRSの適用を義務付けていることもあり、特にヨーロッパではIFRSの導入が進んでいます。IFRSを取り入れることによって、競合他社との比較がしやすくなり、経営戦略をより具体的に立てられるようになったり、海外投資家に向けての説明がしやすくなったりするメリットが期待できます。
資金調達に関してもIFRSの導入は有効です。国際基準のIFRSを適用した財務情報が公開されることで、海外投資家による資金調達を取り付けやすくなるメリットもあります。
IFRSによる財務諸表を導入する場合の注意点
日本企業がIFRSによる財務諸表を導入する場合、作成する財務諸表をすべてIFRSにすることは認められません。公表する財務諸表でIFRSの適用が認められているのは連結財務諸表です。個別の財務諸表については日本基準で作成する必要があります。
そのため、IFRSを導入する場合、日本基準の財務諸表とIFRSの財務諸表の両方の作成が必要です。連結財務諸表にのみIFRSを導入する場合でも、日本基準または現地基準の財務諸表をIFRSの財務諸表に組み替える作業を要します。
IFRSベースの財務諸表の作成やIFRSに準拠した財務諸表に組み替える際に求められるのが、知識や経験のある人材の確保です。適切な会計処理が実行できるように社内の体制を整えておく必要があります。
また、IFRSの導入にあたっては、IFRSに対応したシステムの移行なども生じる可能性があります。経営管理の高度化を目的にシステムの見直しを行う場合、移行コストが多額になることもあるため注意しましょう。
IFRSの財務諸表は日本基準と複数の相違点がある
IFRSとは、国際会計基準審議会の定める国際財務報告基準のことです。日本で適用される会計基準とは異なる部分が複数あります。IFRSによる財務諸表を作成する場合、相違点を踏まえて適切に作成することが重要です。IFRSを取り入れることで、財務諸表の国際的な比較可能性が高まるなどのメリットがあります。ただし、公開する個別の財務諸表については日本基準の適用が必要であることに注意しましょう。
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