- 作成日 : 2025年2月5日
圧縮記帳と少額減価償却資産の特例は併用できる?取得価額や仕訳方法も解説
圧縮記帳と少額減価償却資産の特例は併用可能ですが、取得価額や償却資産税の計算には複雑な面もあるため注意が必要です。
本記事では、圧縮記帳と少額減価償却資産の特例それぞれの仕組みや適用条件、併用時の注意点について詳しく解説します。
目次
圧縮記帳と少額減価償却資産の特例は併用できる
法人税法上の圧縮記帳制度と少額減価償却資産の特例は、併用が可能です。圧縮記帳後の金額が30万円未満となる場合、中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例を適用して全額損金算入できます。
ここで、圧縮記帳と少額減価償却資産の特例について、理解しておきましょう。
圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、国や自治体からの補助金や、災害などによる保険金で資産を取得した際に、課税所得を一時的に増やさないために用いられる会計・税務上の方法です。取得した資産の帳簿価額を圧縮(減額)し、その分だけ特別損失(圧縮損)を計上することで、補助金や保険金で増加した利益相当額の課税を繰り延べします。
補助金や保険金に対して一時に課税されてしまうと、その補助金等の目的となる資産の取得資金に不足が生じるなどして資産の取得ができないという事態が起きかねません。そういった場合でも、圧縮記帳によって補助金や保険金への課税を先送りすることが可能です。ただし、あくまでも課税の繰り延べで補助金などの効果を享受できるように配慮したしたものであり、税金が免除されるわけではありません。
少額減価償却資産の特例とは
少額減価償却資産の特例とは、30万円未満の減価償却資産を一括で事業供用時に損金算入できる制度です。これは中小企業などの資金繰りをサポートする目的があり、通常の減価償却のように法定耐用年数にわたって費用を分散せず、事業供用時点で全額を損金に算入できる点が特徴です。
ただし少額減価償却資産の特例を利用できる法人や個人事業主には要件があります。資本金1億円以下、従業員数500人以下の青色申告法人、個人事業主であれば青色申告者であるなど、一定の要件を満たさなければなりません。
また、活用できる金額にも上限があり、1事業年度あたり合計300万円までとなっています。
圧縮記帳について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
圧縮記帳した少額減価償却資産の取得価額
圧縮記帳した少額減価償却資産は、法人税等の計算においては圧縮記帳後の金額が取得価額となりますが、償却資産税においては圧縮記帳の制度がないため取得価額自体は変わりません。つまり、償却資産税の申告においては圧縮記帳前の金額が取得価額になります。
例えば、50万円で資産を取得し、20万円の補助金を受けて圧縮記帳を行った場合、償却資産税の申告におけるその資産の取得価額は50万円のままです。圧縮記帳によって帳簿価額が30万円になったとしても、50万円で申告する必要があります。
償却資産税では圧縮記帳制度が認められていないため、圧縮前の取得価額をベースに申告する必要があります。これは固定資産税が財産課税としての性格を持つため、適正な資産価値を求める観点から、法人税及び所得税で認められている圧縮記帳を認めていないためです。
圧縮記帳した少額減価償却資産の償却資産税の計算方法
圧縮記帳を適用した少額減価償却資産の償却資産税の計算では、圧縮前の取得価額を基準として評価額を算出する必要があります。評価額は以下の計算式で算出します。
- 取得初年度の場合:取得価額 × (1-耐用年数に応ずる減価率 ÷ 2)
- 2年目以降の場合:前年度の評価額 × (1-耐用年数に応ずる減価率)
なお、算出された評価額が取得価額の5%を下回る場合は、取得価額の5%を評価額とします。評価額の合計から1,000円未満は切り捨て、課税標準額が150万円未満の場合は非課税です。
税額の計算式は、次の計算式で算出します。
取得価額50万円の資産を20万円まで圧縮記帳し、少額減価償却資産として損金算入した場合
例えば、取得価額50万円の固定資産について、圧縮記帳により20万円まで圧縮し、中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例を適用して全額損金算入した場合の計算方法は以下のとおりです。
- 圧縮前の取得価額50万円をベースに評価額を算出
- 算出された評価額から課税標準額を算定
- 課税標準額に税率1.4%を乗じて税額を計算
圧縮記帳した少額減価償却資産の償却資産税の仕訳例
圧縮記帳を行い少額減価償却資産として処理した場合、その資産に係る償却資産税の会計処理も適切に行う必要があります。ここでは、圧縮記帳した少額減価償却資産として処理した場合の償却資産税に関する仕訳例を紹介します。
【償却資産税15万円の賦課決定時の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
租税公課 | 150,000円 | 未払金 | 150,000円 | 償却資産税納付決定通知 |
この仕訳は、市町村から償却資産税の納付決定通知を受けた際に行います。租税公課として経費を計上し、同時に未払金として負債を記録します。
【上記の支払い時の仕訳】
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未払金 | 150,000円 | 現金 | 150,000円 | 償却資産税支払 |
実際に償却資産税を支払った際の処理です。未払金の減少を示す仕訳を行い、現金での支払いを反映させます。
圧縮記帳と少額減価償却資産の特例は併用可能
圧縮記帳と少額減価償却資産の特例は、原則として併用可能です。圧縮記帳後の帳簿価額が30万円未満となれば、少額減価償却資産の特例を適用して全額損金算入が可能です。
ただし、償却資産税では圧縮記帳が認められないため、圧縮前の取得価額で申告する必要があります。また圧縮記帳を適用した少額減価償却資産の償却資産税の計算は評価額の算出が必要で複雑になるため、不安があれば専門家への相談をおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
会計の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
10年落ちの中古車を減価償却するには?計算方法や耐用年数を解説
中古車を減価償却する場合には、新規登録をした時期から月数を確認して耐用年数を求めることが重要です。また、中古車の価格によっても対応が異なるため、注意が必要です。 本記事では、10年落ちの中古車を減価償却する方法や耐用年数を計算する方法、減価…
詳しくみる開発費の償却方法は?償却年数や仕訳・勘定科目、任意償却できる場合も解説
開発費とは、企業が新製品・新サービスの研究開発を行う際に投じる費用のことです。この開発費の会計処理には、発生時に全額を費用として計上する方法と、複数年にわたって償却する繰延資産として処理する方法があります。本記事では、開発費の基本的な考え方…
詳しくみる【新リース会計基準】不動産関連の取引における影響・実務ポイント
2027年4月から本格導入される「新リース会計基準」によって、現行のリースの範囲が拡大され、各企業は対応に追われています。 特にこれまでは事務所や店舗として物件を賃借する場合でも、新基準ではオンバランス化が求められるなど、不動産にまつわる変…
詳しくみる棚卸マニュアルとは?作り方・手順やポイントを解説!無料テンプレートつき
棚卸とは、会社の有する在庫数を数えて、帳簿の記録との間にズレがないか確認・修正する作業のことです。棚卸マニュアルがあれば、誰が棚卸しを行っても同じように作業できるようになります。 本記事では、棚卸マニュアルの概要やマニュアルを作成する目的、…
詳しくみる太陽光発電の減価償却費計算をわかりやすく解説
太陽光発電設備を導入した場合、法定耐用年数に従って減価償却できます。本記事では、太陽光発電の減価償却費の計算方法と仕訳を紹介します。減価償却を行う際の注意点も解説しているので、併せて参考にしてください。 太陽光発電は減価償却が可能? 太陽光…
詳しくみるオペレーティング・リースは解約可能?仕訳や消費税について解説!
オペレーティング・リースは、市場環境の変化などにより、中途解約されるケースも少なくありません。 中途解約時には、残存リース料や違約金の支払いが発生するケースが多く、消費税の取扱いも異なる場合があるため、正確な会計処理が求められます。 ここで…
詳しくみる