• 更新日 : 2025年2月20日

イノベーションボックス税制とは?控除対象や事業者への影響を解説

イノベーションボックス税制では2025年〜2032年の間に開始した事業につき、特定の特許権や著作権から生じたライセンス料や譲渡益に所得控除が適用されます。イノベーションを税制の面から後押しする目的をもった制度で、民間の知財開発を促進する期待が大きいです。本記事ではイノベーションボックスの控除対象や、事業者に与える影響を解説します。

イノベーションボックス税制とは

イノベーションボックス税制とは、民間による無形固定資産投資の活発化を目的に、企業が生み出す知的財産(特許権やソフトウェアなど)から生じた所得に減税措置を設ける制度です。イノベーションボックス税制の概要は、以下の通りです。

  • 内容:知財開発に要した拠出に関して所得控除が上乗せされる制度
  • 目的:知的財産の創出において民間の無形資産投資を税制の観点から後押しするため
  • 背景:国際的にイノベーションが活発化する中、海外と比べて遜色ない環境を整備して、立地拠点としての日本の競争力を強化するため
  • 期間:2025年4月1日~2032年3月31日

日本では、イノベーションを促す税制として、研究開発に要した費用を対象とする研究開発税制が採用されてきました。イノベーション税制は2000年代には欧米で導入が開始され、日本でも2025年4月からスタートします。

研究開発税制は研究費に税額控除率を乗じた金額を法人税から控除する制度です。一方のイノベーション税制は、特許権等の譲渡や貸付から生じた所得のうち、一定の割合が所得控除になる仕組みです。

従来の研究開発税制では知的財産を創出するインプットに対してしか税額控除の恩恵は受けられませんでした。本改正によって、アウトプットに対する税制面からの後押しが始まります。

イノベーションボックス税制の対象

イノベーションボックス税制では、青色申告書を提出する法人が特許権譲渡等取引を行った場合に、制度対象所得と当期所得のいずれか少ない金額の30%を損益算入できます。

法人税率に換算すると約7%の所得控除が上乗せされます。制度対象所得は「知財由来の所得」とされ、財産や所得の範囲が決められており、対象から外れると所得控除は受けられません。

イノベーションボックス税制の対象所得や知的財産の範囲を確認しましょう。

対象となる知的財産

イノベーションボックス税制で所得控除が適用される所得の対象は、企業が国内で自ら開発した知的財産(「特定特許権等」)です。

具体的には、2024年4月1日以降に取得・制作した「特許権」および「人工知能関連技術を活用したプログラムの著作物」のうち一定のものと定義されています。

特許権は発明を保護の対象とした権利です。特許庁に出願して審査を通過すると20年の間権利者として侵害者に対して、利用の差し止めや損害賠償を請求できます。

著作権は小説、音楽、ソフトウェア、その他の芸術作品などの著作権者が著作物を無断で利用されることを防ぐ権利です。

イノベーションボックス税制の対象はさまざまな知的財産のうち、特許権や著作権に限定されます。実用新案権や意匠権、営業秘密などは保護の対象に含んでいません。

ただし制度の開始後、財源の調整や施策の効果を踏まえて、対象となる知的財産の範囲は見直される可能性があります。

対象となる所得

イノベーションボックス税制の対象所得は特定特許権等の取引にかかる所得です。具体的には知的財産のライセンス所得(子会社等のものを除く)ならびに知的財産の譲渡所得(子会社等および海外からのものを除く)が該当します。

取引の相手方にも指定がなされ、特定特許権等の譲渡の場合は居住者または内国法人との間で生じた所得、貸付の場合は関連者を除く他の相手との間で生じた所得のみ対象です。

非居住者や外国法人、子会社等への譲渡・貸付で生じた利益についてはイノベーションボックス税制の適用はされません。

さらに対象の特許権やAI関連ソフトウェアの著作権を含む製品の売却益も対象から外れています。

イノベーションボックス税制が適用された場合の税額

イノベーションボックス税制を適用する際の計算式は次の通りです。

知財由来の所得×自己創出比率(知財開発の適格支出÷知財開発に要した支出総額)×30%

自己創出比率とは「国内」かつ「自ら」行った研究開発の割合を表します。分母の知財開発に要した支出総額とは「当期およびその前期以前に投じた研究開発費のうち、特定の特許権譲渡等取引にかかる特定特許権等に直接関連する研究開発にかかる金額の合計額」です。

分子の知財開発の適格支出は適格研究開発費とも呼ばれ、自らが国内で行った研究開発費および外注費が対象です。特定特許権等の取得に要した費用やライセンス料、国外の関連者に対する委託試験研究費、国外事業所等を通じた事業の研究開発費は対象から外れます。

特許権譲渡等取引にかかる所得のうち、国内で自ら拠出した研究開発費のみが所得控除の計算の対象です。自社のリサーチャーやエンジニアを活用して生じた研究開発の他、第三者や国内の関連者への外注費も含みます。

具体例を挙げて説明しましょう。AI関連のソフトウェア開発において著作権の譲渡による所得が800万円、知財開発の適格支出が500万円、知財開発に要した支出の合計が1,000万円だとしましょう。

当期の所得金額が1,500万円の場合、制度対象所得の800万円×0.5(500万円÷1,000万円)=400万円です。最後に30%の所得控除率を乗じて、400万×30%=120万円が所得控除に上乗せされます。

日本の法人税の実効税率は2024年1月現在、29.74%です。イノベーション税制を適用した場合、新たに7%程度の節税効果が付与され、法人税の負担が20%に近い水準に低下します。

平成の末期から現在(2024年)にかけて我が国における法人税の実効税率は低下の一途を辿っていますが、それでも諸外国と比較して高い状況が続いています。現状のままでは税負担の大きさを苦慮し、国内で知的財産の開発に取り組むインセンティブがありません。

イノベーション税制が開始されれば、海外と比べて遜色ない環境の整備につながり、国内におけるイノベーションの活発化につながると期待されています。

事業者が取るべき対応

イノベーションボックス税制は、2025年4月1日〜2032年3月31日の間に開始する事業年度に適用されます。公的機関の承認や事前確認は要件ではなく、利用のハードルは決して高くありません。

対象の所得がある法人は積極的に活用したほうが良いでしょう。ただし制度が複雑で利用条件も細かいため、イノベーションボックス税制に関する深い理解が必要です。

今後政府から具体的な手引きが発出される可能性が高いため、最新の情報を確認する手間も惜しまないほうが良いでしょう。イノベーションボックス税制の適用にあたり、事業者が取るべき対応を解説します。

発生した研究開発費の額を正確に把握する

知財由来の所得から控除する研究開発費や適格研究開発費の正確な金額の把握に努めましょう。当期および前期以前の研究開発費を判断する際にはIP資産(知的財産)の取得費用やライセンス料を含みますが、これらは適格研究開発費には含められません。

研究開発費の金額は、控除額の算定に影響するイノベーションボックス税制の重要な要素です。漏れやダブりのない正確な計上のためにも、国税庁や税理士法人などの資料を読み込み、正しい制度の理解に努めましょう。

特許権譲渡等取引の具体的な範囲を確認する

対象となる知的財産の特定特許権等の範囲を正確に把握する必要があります。具体的には、「特許権および人工知能関連技術を活用したプログラムの著作権で一定のもの」です。

「一定のもの」の範囲がどこまで認められるかは控除の金額に直接影響する事項です。研究開発費同様、政府や専門家が発する資料ベースのルールに則った会計処理が求められます。

自己創出比率は特許権譲渡取引ごとに算出する点にも注意が必要です。例えば、AI関連ソフトウェアの著作権によるライセンス料と、その他の特許権から生じた利益を合算するのではありません。

経過措置や更生期限の延長措置を正しく理解する

イノベーションボックス税制には経過措置が設けられています。原則として制度対象所得や自己創出比率は特許権譲渡等取引ごとに算出しますが、以下のいずれにも該当するときは合算する扱いが認められます。

  • 当期の特許権譲渡等取引にかかる特定特許権等のうち、2025年4月1日前に研究開発を開始した直接関連する費用があるとき
  • 2027年4月1日前の事業年度に該当するとき

上記の場合、当期、前期、前々期に生じた研究開発費の合計額ならびに当期、前期、前々期に生じた研究開発費の合計額を自己比率の算出に用います。また所得の金額は特許権譲渡等取引を個別に測定するのではなく、当期の特許権譲渡等取引にかかる所得の金額の合計額になります。

開始初年度から適用する3月期決算の企業は早期の対応が必要になる

3月期決算の企業が初年度(2025年度)から制度の適用を受ける場合、2024年度中の対象所得や研究開発費の額を調べる必要があります。特許権譲渡等取引ごとの所得や適格研究開発費、直接関連する研究開発費をいち早く精査して、控除対象所得を計算できなくてはいけません。

イノベーションボックス税制では更生期限の延長の特例や同業者に対する質問検査権をはじめ、所要の措置が規定されています。概要の理解にとどめず法律の条文にも目を通し、できる限り制度の詳細を把握したほうが良いでしょう。

関連者(取引相手の法人が発行した株式の50%以上を保有する法人)との間で特許権譲渡等取引が行われた場合、適用対象法人の支払う対価が独立企業間価格に満たないときは、その取引は独立企業間価格でなされたとみなします。対象の取引がある企業は独立企業間価格の定義や算定方法への理解が必要です。

国税庁から情報の公表がないか逐一確認する

政府は執行状況や効果を検証の上、国際ルールとの整合性や官民の事務負担などの事情を踏まえ、財務当局の執行可能性等の観点から適宜、見直しを検討するとしています。

特定特許権等の一定のものの範囲や譲渡の対象に関して、今後国税庁から通達が発せられる可能性が高いです。追加の情報がないか、公的な情報源を適宜チェックする癖をつけましょう。

対象所得がある企業はイノベーションボックス税制を積極的に活用しよう

イノベーションボックス税制では、知財由来の所得に一定の研究開発費を控除した金額に30%を乗じた金額につき、所得控除が適用されます。法人税率を7%以上軽減する効果があると試算されており、適用企業にメリットが大きいのはいうまでもありません。

イノベーションボックス税制では公的機関の承認や事前確認は課されておらず、利用のハードルは低めです。対象所得や知財の範囲を把握して、取り入れる余地があれば積極的に活用しましょう。


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