- 作成日 : 2025年10月6日
税務調査は録音しても大丈夫?合法性・リスク・活用方法を徹底解説
税務調査の連絡を受けたとき、多くの個人事業主が感じるのは、調査官とのやり取りをきちんと残せないかという不安です。特に調査中の会話を録音してもいいのか?という疑問を持つ方が増えています。
録音できれば、後から内容を確認できる安心材料になりますが、一方で違法にならないか、税務署の心証を悪くしないかといった懸念もあります。実際にネット上の情報も賛否が分かれており、判断に迷うケースが少なくありません。
本記事では、税務調査の録音は可能なのかという法律的な位置づけを整理したうえで、録音する際のリスクや注意点、代替手段についても詳しく解説します。
単にできる・できないにとどまらず、調査を円滑に進めるために押さえておきたい実務的なポイントをまとめていますので、不安を感じている方はぜひ参考にしてください。
目次
税務調査における録音は合法か?
税務調査の録音については、法律で明示的に録音を禁止する規定は存在していません。税務調査中の録音は記録行為であるため、問題ないとされています。
また、税務調査の場で自分が同席している状態で録音をする場合は、調査官に録音を伝える義務はありません。
ただし、録音そのものが違法ではないとしても、録音が発覚して調査が進まなくなったり、税務署側の心証が悪化するリスクもあります。以下のように、担当者の求めに応じなかった結果、トラブルにつながったケースもあるので、注意しましょう。
税務調査でのやり取りを録音するメリット3選
税務調査での調査官とのやり取りを録音することには、後々の証拠や確認のために大きなメリットがあります。本章では、税務調査でのやり取りを録音する3つのメリットについて解説します。
① 発言内容の記録になる
録音を行うメリットは、調査官の発言を正確に残せる点です。税務調査では専門的な用語や複雑な説明が多く、当日のやり取りをすべて正確に記憶することは困難です。
人間の記憶は曖昧であり、時間が経つにつれて内容が変化したり、都合よく解釈してしまったりする恐れもあります。録音データは客観的な記録として後から何度でも確認が可能です。
さらに、調査官との間で、言った・言わないといった水掛け論になった場合でも、録音があれば証拠として提示でき、納税者側の立場を守る強力な手段となります。
税務調査は法律上の判断や追徴課税に直結する重要な場面であるため、こうした正確な記録の存在は安心材料となるでしょう。
② 後から専門家に確認できる
税務調査の録音をしておけば、後から税理士や弁護士などの専門家に共有し、助言を得ることができます。
特に、調査官の指摘が正当かどうかを納税者自身で判断するのは難しい場合が多く、その場で曖昧なまま同意してしまうと不利な結果につながる可能性があります。
録音があれば、専門家が客観的に発言内容を確認し、適切な解釈や反論の余地を提示してくれるのです。また、調査官が法的に不適切な発言や圧力をかけている場合も、証拠として活用できるため、専門家が的確な対応策をとることができます。
納税者の主観やメモだけに頼るのではなく、録音データという客観的資料をもとに相談できることは、安心感と信頼性を大きく高める要素といえるでしょう。
③ 心理的な安心感がある
録音を行っているという事実自体が、納税者に大きな安心感を与えます。税務調査は通常の業務とは異なる緊張感があり、調査官との会話で思わず萎縮したり、必要以上に不安を抱えたりするケースも少なくありません。
録音をしていれば、後で確認できるという安心材料となり、冷静に対応する余裕が生まれます。心理的に落ち着いていられることで、調査官の質問に対しても焦らず丁寧に回答でき、余計な誤解や不用意な発言を防ぐ効果も期待できます。
税務調査でのやり取りを録音するデメリット3選
上記で解説したように、録音には証拠保全や後の確認というメリットがある一方、使い方を誤るとリスクが伴います。税務署との関係悪化や情報の管理・漏洩、準備の手間など、録音を行う前に知っておくべきデメリットを3つご紹介します。
① 調査官との関係が悪化する
録音を始めると、調査官との信頼関係に影響を及ぼす可能性があります。調査官は記録が取られているという状況を警戒し、対応が慎重あるいは受け身になることもあるでしょう。
特に録音を事前に告げずに行うと、調査官の心証を悪くしてしまい、調査の進行が遅れたり、協力的でなくなったりするリスクが高まります。
たとえば、調査官が録音機器の存在を理由に、帳簿を見ない、調査を進めないといった対応をとる可能性も出てくるでしょう。最悪の場合、青色申告の承認取消のような税務上のペナルティを引き起こす判例も報告されています。
録音をするなら、あくまで調査を円滑に進めるための手段として行使すべきであり、強硬姿勢をとることは逆効果となる点も念頭に置いておきましょう。
② 録音による情報漏洩のリスクがある
録音データは扱いを誤ると情報漏洩リスクを伴います。たとえ録音目的が正当であったとしても、録音内容に含まれる個人情報や機密事項が外部に漏れると、信頼の失墜や法的トラブルにつながる可能性があります。
さらに、調査官が録音を嫌がる理由の一つに、録音が第三者に流れるリスクがあり、守秘義務やプライバシー保護の観点から敏感に扱われるテーマです。録音をするなら、データの保存先・共有範囲・アクセス制限などを設計しておきましょう。
③ 録音までに手間がかかる
録音を準備し、管理するためには相応の手間とコストもかかります。まず、録音機器を準備する必要があります。スマートフォンやICレコーダーを使う方法が一般的ですが、音質・バッテリー持続時間・録音ファイルの容量なども考慮しておきましょう。
さらに、録音した後に重要な部分を聞き返したり、記録を文字起こししたりする作業が発生します。録音内容の聞き返しや編集にかかる時間は意外と大きく、通常の業務の合間では負担がかかります。
また、録音をする際に、どの会話を録音するか線引きをする判断も必要です。録音しすぎると関連しない会話まで含まれてしまい、後で整理が大変になることがあります。
準備にかかる時間と後処理の負荷を見積もったうえで、録音をする目的、どの範囲を録音するかを決めて行動することが実務上の鍵といえます。
税務調査でのやり取りを録音するときの3つの実践ポイント
録音を有効に活用するためには、準備と管理をしっかり行うことが不可欠です。スマートフォンで簡便に録音する方法、録音する範囲の決め方、録音データの保存・管理まで、実務で使いやすいポイントを3つに分けて解説します。
① スマートフォンやICレコーダーで簡単に残せる
スマートフォンやICレコーダーを使うのは現実的で便利な方法です。現在ではスマートフォンの記録機能でも音質が十分なものが多く、出先でのやりとりや調査官との対話を素早く記録できます。
ICレコーダーなら、録音形式や保存先が明示されており、データの取り扱いが比較的安定しています。ただし、機器選定の際は音声がクリアに録れるマイク性能やバッテリーの持続時間、騒音対策などにも注意を払いましょう。
スマートフォンでの録音時には他のアプリの通知音や雑音が入らないよう、録音モードやマナーモードを事前確認し、テスト録音を行っておくと安心です。準備をしておけば、録音が負担にならず、後から聞き直すことも苦にならなくなります。
② 録音する範囲を決めておく
録音を始める前に、どの会話を録るか、何を目的とするかをはっきりしておくことが非常に重要です。たとえば、調査官の指摘内容・質問部分・回答のやりとりなど、後で証拠として活かしたいポイントだけを録音対象とするのがオススメです。
会議の雑談や余談まで録音してしまうと、データ量が増えるだけでなく、後で不要な部分の整理に時間を取られたり、録音内容が誤解を招く文脈で使われたりする恐れもあります。
目的と範囲を決めたら、録音する日時・参加者などを記録しておくことも後でデータを整理するときに役立ちます。
③ データを適切に保存・管理する
録音データは後日使える証拠となるため、保存や管理の方法も慎重に設計する必要があります。録音ファイルに必ず、日付・場所・参加者の情報を付けておき、どの調査の記録かがすぐわかる形式にしておくとよいでしょう。
音声ファイルは本体だけでなく、PCやクラウドストレージにもバックアップを取ることが望ましいです。ただし、クラウドを使う場合はサービスのセキュリティレベルやアクセス権限を適切に設定し、外部流出のリスクを抑えることが重要です。
さらに、重要部分は文字起こしをしてメモを付けておくことで、検索性が高まり情報が活用しやすくなります。不要な録音は削除し、整理も併せて行うことで、後の見返し時に混乱を避けられます。
録音以外にできる税務調査対策
税務調査に臨む際、録音以外の手段として、税理士の同席、帳簿・資料の整備、そして心構えといった基本的な対策を講じることで、調査中のリスクを低く抑えることが可能です。それぞれの実践ポイントを詳しく見ていきましょう。
税理士に同席してもらう
税務調査の通知を受けたら、まず検討すべきなのが税理士に同席してもらうことです。税理士が立ち会うことで、調査官からの質問に対して専門的・法的な視点から適切な回答ができ、誤解を招きにくいです。
税理士は調査前に書類準備を共に確認し、可能性のある指摘事項を洗い出しておくこともできます。さらに、調査中のやり取りで不当な主張や無理な要求があった場合には、代理人として意見を述べたり、調整する役割があります。
実際、税理士を同席させることで、質問対応が正確になる・調査時間を短くできる・安心感が増すといった効果があります。コストはかかりますが、大きな追徴課税ややり取りのトラブルを回避できるようにしておきましょう。
帳簿・資料を正しく整備する
調査官は帳簿や決算書類だけでなく、領収書・請求書・契約書・預金通帳など経理の根拠となる資料の整備状態を細かく確認します。これらの書類は税法で7年間保存する義務があり、電子データも含めて整理・保存が求められます。
帳簿には取引漏れや転記ミスがないかをチェックし、売上/経費の記録が実態と一致しているか、また私用と事業用の混同がないかという点も重視されるポイントです。
整備が甘いと、調査中に資料の提出や説明を求められることで時間ロスが生じます。事前に帳簿類を税理士と確認し、不自然な取引や不整合項目にはメモを付けるなど、説明できる体制を整えておきましょう。
心構えを持つ
税務調査は突発的に通知が来ることもあり、準備不足や焦りが大きなミスを招く原因になります。まずは誠実に対応するという姿勢を持ち、わからないことは曖昧にせず、後で正確に調査官に説明できるようにすることが望ましいです。
また、聞かれたこと以外は余計なことを話さない、感情的にならない、冷静に質問に応答することも大切です。調査の初期段階で誤解を生んだ発言が後々不利な判断につながることがあるため、慎重さが求められます。
さらに、事前に調査の目的・対象期間など通知内容を確認し、税理士と打ち合わせを行うことで、心の準備とともに実務の準備も整えることができます。
心構えが、調査官とのやり取りをスムーズにし、最終的な追徴課税の負担を軽減するための鍵となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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