• 更新日 : 2025年9月9日

定率法の残存価額はゼロ?平成19年の税制改正と新旧計算方法を解説

「定率法の残存価額がわからない」「定率法の計算方法が知りたい」

このような悩みをもつ方も多いのではないでしょうか。

結論からいうと、現在の定率法における残存価額は0円です。

これは、平成19年度の税制改正によって減価償却の制度が大きく変更されたためです。

本記事では、定率法のメリット・デメリットや定率法の新旧ルールの違い、定率法の計算方法などを解説します。

この記事を最後まで読めば、あなたも定率法での減価償却費の計算方法がわかり、効果的な節税対策ができるようになるでしょう。

現在の定率法では残存価額ゼロが基本

残存価額とは、耐用年数を過ぎた資産に残る価値のことを指します。

平成19年4月1日以後に税制が改正され、定額法、定率法とともに残存価額という考え方は廃止されました。現在は1円まで減価償却ができ、この1円は帳簿に資産の存在を残しておくための「備忘価格」とよばれます。

旧定率法と定率法の主な違いは、以下の通りです。

旧定率法定率法(現行)
対象となる資産平成19年3月31日以前に取得した資産平成19年4月1日以後に取得した資産
特徴初年度の償却額は多く、年とともに減少する(取得価額の5%まで償却を終えたら、残り5%を翌年以降の5年間で均等に償却する)旧定率法より償却額が緩やか
計算式未償却残高×旧定率法の償却率未償却残高×定率法の償却率
償却可能限度額1円まで1円まで

制度が改正される平成19年3月31日までは、残存価額として資産の10%の金額を残す必要がありました。そのため、旧定率法と現在の定率法では計算式の償却率が異なるのです。

定率法のメリット

定率法の主要なメリットは、以下の3点です。

  • 初年度の費用計上額が大きいため、節税効果が高い
  • 資金繰りに余裕ができる
  • 実際の経済的価値の減少に近い償却ができる

会社の利益に対して課される法人税や所得税は、売上などの収益から経費を差し引いた課税所得を基に計算されます。つまり、費用として計上できる金額が大きいほど課税所得は圧縮され、納税額を抑えられるのです。

この点から定率法は資産導入時の償却額が大きく、節税効果が高いといえるでしょう。納税額を抑えられるため、手元のキャッシュが残り、資金繰りもしやすくなります。

また、一般的にパソコンや製造用機械などの備品は導入当初が一番パフォーマンスが高く、年々その効果は下がってきます。

定率法では初期の減価償却費がもっとも大きく、年々償却額が小さくなるため、実際の資産価値に即した会計記録が可能です。

定率法のデメリット

定率法のデメリットは、以下の2点です。

  • 時間が経つにつれ、税の負担が重くなる
  • 記帳方法が少し複雑である

まず、年数が経つにつれて計上できる減価償却費が小さくなるため、税負担が段々重くなっていくことが挙げられます。

ふたつめに、計算方法がやや難しい点もデメリットです。毎年の未償却残高×償却率で減価償却費が決まるため、毎年金額が変わります。

さらに、定率法には「償却保証額」というものがあります。

償却保証額:定率法で減価償却を行う際に、最低限満たす必要がある減価償却費の基準額。償却費が極端に小さくなることを防ぐために設けられている。

定率法では償却費がこの償却保証額を下回ると計算方法が切り替わることも、記帳が複雑な理由のひとつです。

また、個人事業主でも資産の種類によっては定率法を利用できますが、税務署に届け出が必要であり、手間がかかります。

減価償却方法の変更

減価償却の方法は、資産の種類によって基本的に決まっています。以下はその一例です。

法人個人事業主
定額法
  • 建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェアは必ず定額法
  • 機械設備、車両運搬具、工具器具備品は税務署に届け出れば定額法で計算可能
原則として、すべて定額法で計算
定率法原則として建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェア以外のすべて建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェア以外であれば定率法で計算可能(税務署に届け出が必要)

決められているものと違う償却方法を利用したい、もしくは途中で償却方法を変更したい場合は、税務署長に承認を得るための申請が必要です。

法人の場合は「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」という書類を、事業年度開始の日の前日までに提出しましょう。

ただし、現在の償却方法を採用してから3年が経過していないとき、または変更によって、各事業年度の所得の計算が適正に行われ難いと認められるときは、申請は承認されません。

個人事業主の場合は申請の期日が異なり、償却方法を変更しようとする年の3月15日までが提出期限です。

定率法の償却率

定率法の償却率は、資産の耐用年数に応じて国税庁で決められています。

旧定率法、定率法の償却率等表

耐用年数旧定率法の償却率(平成19年3月31日以前に取得)250%定率法の償却率(平成19年4月1日から平成24年3月31日までに取得)200%定率法の償却率(平成24年4月1日以後取得)
20.6841.0001.000
30.5360.8330.667
40.4380.6250.500
50.3690.5000.400
60.3190.4170.333
70.2800.3570.286
80.2500.3130.250
90.2260.2780.222
100.2060.2500.200

参考:国税庁|減価償却資産の償却率等表

このように、資産の取得時期や耐用年数によって計算に用いられる償却率が変わってきます。

実際の計算には、上記の他に「改訂償却率」や「保証率」も必要になるため、国税庁が公表する最新の償却率表を参照するようにしましょう。

定率法の計算式

定率法では、未償却残高が年度ごとに異なるため、償却金額は毎年異なります。

計算方法は、取得した資産の時期に応じて「旧定率法」「250%定率法」「200%定率法」と3種類の方法があります。

以下は、国税庁の等表よりあらかじめ定められている数値です。

  • 資産の耐用年数
  • 償却率
  • 改定償却率
  • 保証率

定率法の計算式

未償却残高×定率法の償却率=減価償却費(調整前償却額)

平成19年4月1日以降に取得した資産の場合は、上記の計算で求められる調整前償却額が「償却保証額」に満たない場合、計算式が変わります。

調整前償却額が償却保証額に満たない場合の計算式
改定取得価額×改定償却率=減価償却費
改定取得価額:調整前償却額が、はじめて償却保証額に満たないこととなる年の期首未償却残高のことを指す。

減価償却費の計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

【種類別】定率法での減価償却費の計算例

定率法の実際の計算例を「200%定率法」、「250%定率法」、「旧定率法」に分けて見ていきましょう。

200%定率法の計算例

200%定率法は、平成24年4月1日以降に取得した資産に適用されます。

(例)500万円の社用車(新車)を6年で償却する場合

減価償却費=未償却残高×200%定率法の償却率
  • 償却率:0.333
  • 改定償却率:0.334
  • 保証率: 0.09911
償却保証額=取得価額×対象資産の耐用年数に応じた保証率
5,000,000円 × 0.09911=495,550円

※小数点以下は切り上げ処理

1年目の減価償却費 5,000,000×0.333=1,665,000円 期末帳簿価額=3,335,000円

2年目の減価償却費 3,335,000×0.333=1,110,555円 期末帳簿価額=2,224,445円

3年目の減価償却費 2,224,445×0.333=740,741円 期末帳簿価額=1,483,704円

4年目の減価償却費 1,483,704×0.333=494,074円 この年度で減価償却費が償却保証額の495,550円を下回るため、計算方法が変更になる。

4年目の減価償却費 1,483,704×0.334=495,558円   期末帳簿価額=988,146円

5年目の減価償却費 1,483,704×0.334=495,558円   期末帳簿価額=492,588円

6年目の減価償却費 492,588-1=492,587円       期末帳簿価額=1円(備忘価額1円を残す)

参考:国税庁|主な減価償却資産の耐用年数表
参考:国税庁|減価償却資産の償却率等表

250%定率法の計算例

250%定率法は、平成19年4月1日から平成24年3月31日までの間に取得した資産に適用されます。

(例)500万円の社用車(新車)を6年で償却する場合

減価償却費=未償却残高×250%定率法の償却率
  • 償却率:0.417
  • 改定償却率:0.500
  • 保証率: 0.05776
償却保証額=取得価額×対象資産の耐用年数に応じた保証率
5,000,000円 × 0.05776=288,800円

※小数点以下は切り上げ処理

1年目の減価償却費 5,000,000×0.417=2,085,000円 期末帳簿価額=2,915,000円

2年目の減価償却費 2,915,000×0.417=1,215,555円 期末帳簿価額=1,699,445円

3年目の減価償却費 1,699,445×0.417=708,669円 期末帳簿価額=990,776円

4年目の減価償却費 990,776×0.417=413,154円        期末帳簿価額=577,622円

5年目の減価償却費 577,622×0.417=240,869円 この年度で減価償却費が償却保証額の288,800円を下回るため、計算方法が変更になる。

5年目の減価償却費 577,622×0.500=288,811円 期末帳簿価額=288,811円

6年目の減価償却費 288,811-1=288,810円 期末帳簿価額=1円(備忘価額1円を残す)

参考:国税庁|主な減価償却資産の耐用年数表
参考:国税庁|減価償却資産の償却率等表

旧定率法の計算例

旧定率法は、平成19年3月31日以前に取得した資産に適用されます。

(例)500万円の社用車(新車)を6年で償却する場合

減価償却費=未償却残高×旧定率法の償却率

旧定率法の場合は、一旦取得価額の5%まで償却し(耐用年数6年を超えても償却する)、翌年以降残りの5%の金額を5年間(60ヶ月)で備忘価額1円まで均等償却します。

償却限度額=取得価額×5%
5,000,000円×5%=250,000円

償却率:0.319

※小数点以下は切り上げ処理

1年目の減価償却費 5,000,000×0.319=1,595,000円 期末帳簿価額=3,405,000円

2年目の減価償却費 3,405,000×0.319=1,086,195円 期末帳簿価額=2,318,805円

3年目の減価償却費 2,318,805×0.319=739,699円        期末帳簿価額=1,579,106円

4年目の減価償却費 1,579,106×0.319=503,735円        期末帳簿価額=1,075,371円

5年目の減価償却費 1,075,371×0.319=343,044円        期末帳簿価額=732,327円

6年目の減価償却費 732,327×0.319=233,613円        期末帳簿価額=498,714円

7年目の減価償却費 498,714×0.319=159,090円        期末帳簿価額=339,624円

8年目の減価償却費 339,624×0.319=108,341円  期末帳簿価額=231,283円 この年度で期末帳簿価額が償却限度額の250,000円を下回るため、計算方法が変更になる(一旦、250,000円まで償却する)。

8年目の減価償却費 339,624-250,000=89,624円(期末帳簿価額が250,000円になるように償却) 期末帳簿価額=250,000円

償却限度額まで達したため、ここから5年間で均等償却する。

9年目の減価償却費 250,000÷5=50,000円 期末帳簿価額=200,000円

10年目の減価償却費 250,000÷5=50,000円 期末帳簿価額=150,000円

11年目の減価償却費 250,000÷5=50,000円 期末帳簿価額=100,000円

12年目の減価償却費 250,000÷5=50,000円 期末帳簿価額=50,000円

13年目の減価償却費 50,000-1=49,999円 期末帳簿価額=1円(備忘価額1円を残す)

参考:国税庁|主な減価償却資産の耐用年数表
参考:国税庁|減価償却資産の償却率等表


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事

会計の注目テーマ