- 作成日 : 2025年9月9日
先行取得した場合でも圧縮記帳は可能?仕訳方法や具体例、注意点を解説
圧縮記帳の適用のひとつとして、譲渡資産の代わりに取得した資産に対して、その取得価額の一部を損金算入できる税務上の特例があります。
多くのケースでは「資産を売却した後に買換資産を取得する」流れを想定していますが、事前に買換資産を取得していた(先行取得)場合でも、条件を満たせば圧縮記帳の適用は可能です。
本記事では、先行取得における圧縮記帳の対象や計算方法・届出書類・仕訳例まで、制度の全体像をわかりやすく整理しました。
これから申告を行う担当者や税務顧問との確認に役立つ内容をお届けします。
目次
買換資産を先行取得した場合も圧縮記帳は適用される
買換資産を譲渡前に取得していた場合でも、一定の条件を満たせば圧縮記帳の適用が認められます。
適用の可否は、取得時期や用途、届出の有無など租税特別措置法上の規定にもとづいて判断されます。
国税庁が示す先行取得の要件や、対象資産の種類に関する詳細を理解しておくことが重要です。
先行取得とは
先行取得とは、譲渡資産を売却する前に買換資産を取得することを指します。
圧縮記帳における先行取得の適用要件は、譲渡が行われる事業年度の開始日前1年以内(やむを得ない場合は3年以内)に買換資産を取得していることです。
また、取得後1年以内に事業に供している、または供用見込みがあることも必要です。
圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、資産の譲渡によって生じた利益(譲渡益)を、再取得した資産の取得価額から控除し、その金額を損金として計上することで課税を繰り延べる制度です。
適用方法には、取得価額を直接減額する「直接減額方式」と、別勘定で積み立てる「積立金方式」があります。
先行取得の場合でも、要件を満たせばこれらの方法で圧縮記帳を行うことが可能です。
なお、譲渡資産と買換資産の用途や資産区分が対応していることも、適用可否を判断する重要なポイントです。
参考:No.5651 特定資産を買換えた場合の圧縮記帳|国税庁
先行取得した場合に圧縮記帳できる対象資産
圧縮記帳の対象となる資産の譲渡前に買換資産を取得していても、取得時期や用途の要件を満たせば圧縮記帳の対象となります。
対象となる資産は、「土地」「建物(附属設備を含む)」「構築物」「機械および装置」「船舶」等が対象となります。
これらの資産であっても、事業供用の目的や取得時期が要件を満たさなければ適用できないため、取得計画の段階で確認しておくことが重要です。
先行取得した場合に圧縮記帳できる取得原資の種類
先行取得した買換資産については、取得原資が自己資金であっても借入金であっても、原則として圧縮記帳の対象になります。
代表的な取得原資は以下の通りです。
区分 | 具体例 |
---|---|
自己資金 | 会社の内部留保、現預金 |
補助金 | 国庫補助金 |
保険金 | 火災保険金、地震保険金 |
その他外部資金 | 工事負担金、寄付金 |
国庫補助金や保険金など外部からの資金で取得した場合も対象となりますが、この場合は「国庫補助金等の圧縮記帳」との整理が必要です。
補助金や保険金を活用する場合は、適用要件や手続きが異なるケースがあるため、事前に制度間の関係を整理しておくことが求められます。
先行取得した場合の圧縮記帳の具体的な事例
ここでは、買換資産を譲渡前に取得した場合でも圧縮記帳が適用できた事例を紹介します。
補助金や保険金、収用補償金など取得原資が異なる場合でも、取得時期や要件を満たせば適用可能です。
補助金を原資として先に設備を取得したケース
設備投資補助金(ものづくり補助金・事業再構築補助金など)は、交付決定から入金まで数ヶ月〜半年以上かかることも珍しくありません。
中堅の金属加工メーカーを例にします。
老朽化した機械装置の更新を急ぐ必要があったため、補助金交付決定前に自己資金で1,000万円の新設備を購入(先行取得)。
翌期に補助金500万円が入金されました。
このケースでは、補助金は資産取得の原資として扱われ、交付が期をまたいでも交付年度において、圧縮記帳の対象になります。
会計処理としては、取得時に全額資産計上し、補助金収入があった期に圧縮損を計上することで課税を繰り延べます。
資産の取得時期と補助金交付決定通知の保存が重要です。
関連記事:補助金とは?助成金との違いや種類・給付までの流れをわかりやすく解説
保険金を受け取って先に資産を再取得したケース
火災・地震・水害などで資産を喪失した場合、営業再開を最優先するため保険金確定前に代替資産を購入するケースがあります。
法人化済みのレストランを例にします。
火災で厨房設備が全損。保険金の入金には半年以上かかる見込みでしたが、営業停止による損失を避けるため、見込み額をもとに同等の新設備を先行取得しました。
保険金は収益ではなく取得原資として扱われ、先行取得であっても圧縮記帳が可能です。
入金時期が翌期となっても、保険金等が確定した事業年度に圧縮処理を行うことで課税の繰り延べ効果を得られます。
処理時には保険金請求書や損害調査報告書などの証拠資料の保管が必須です。
収用により資産譲渡前に買換資産を取得していたケース
公共事業等による収用では、受領した補償金が課税対象になります。
地方の建設業者を例にします。
本社用地の収用計画が正式決定する前に、事業継続のための代替地を購入していました。
収用等のあった日の事業年度開始の1年以内に取得していたため、国税庁が定める先行取得要件を満たし、収用特例を活用して圧縮記帳を適用。
結果として、補償金相当額の課税繰り延べができました。
収用案件では取得時期や事業供用の有無に加え、自治体からの収用通知や補償契約書の写しを確実に残すことが重要です。
先行取得した場合の圧縮限度額の計算方法
特定資産の買換えの場合の圧縮記帳は、先行取得であっても、圧縮限度額の計算方法は通常の買換資産取得時と同様です。
計算の基本は、譲渡対価のうち取得資産に充てる金額に差益割合を掛け、さらに80%(または60〜90%の特例割合)を乗じる方法です。
圧縮基礎取得価額は、「譲渡対価」または「取得価額」のうち少ない金額を採用します。差益割合は次の式で求めます。
この計算式と条件は通常の買換えと同じですが、先行取得の場合は「取得のタイミング」が適用可否に影響します。
また、補助金や保険金など外部資金を活用して取得した場合は、「国庫補助金等の圧縮記帳」や「保険金による圧縮記帳」の要件と重複するため、適宜整理が必要です。
どの場合も、圧縮限度額は計算式にもとづいて求め、その範囲内で直接減額方式または積立金方式による仕訳を行います。
先行取得した場合の圧縮記帳の仕訳例
ここでは、先行取得を行った際の圧縮記帳の代表的な仕訳例を紹介します。
圧縮記帳には「直接減額方式」と「積立金方式」の2つがあり、さらに補助金など外部資金を活用する場合は期をまたいだ処理も必要になる場合があります。
直接減額方式の仕訳例
直接減額方式は、資産の取得価額から補助金や保険金などの圧縮額を直接差し引く方法です。
先行取得した場合の直接減額方式での仕訳例は以下の通りです。
◼︎ 前提条件
先に買換資産(機械)を1,000万円で取得
譲渡資産の売却による譲渡益が800万円
差益割合を80%(=800万円 ÷ 1,000万円)と仮定
この場合、圧縮限度額は800万円 × 80% = 640万円となります。
取得時に資産を計上し、譲渡益発生後に圧縮損として資産から直接控除します。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
機械装置 | 10,000,000 | 現預金 | 10,000,000 |
圧縮損 | 6,400,000 | 機械装置 | 6,400,000 |
積立金方式の仕訳例
積立金方式では、圧縮限度額を一旦「圧縮積立金」として繰越利益剰余金から振り替え、その後、減価償却などに合わせて取崩します。
取得時は通常の資産計上を行い、譲渡益発生時に積立金を計上、その後償却に応じて取崩します。
先行取得した場合の積立金方式の仕訳例は以下の通りです。
◼︎ 取得時
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
機械装置 | 10,000,000 | 現預金 | 10,000,000 |
◼︎ 譲渡益発生時:積立金計上
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 6,400,000 | 圧縮積立金 | 6,400,000 |
◼︎ 後日:償却などに合わせて圧縮積立金の取崩し
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
圧縮積立金 | 640,000 | 繰越利益剰余金 | 640,000 |
※10年で均等取崩しの場合
補助金を使った資産取得が期をまたぐ場合の仕訳例
補助金収入と資産取得が異なる期に発生する場合、まずは全額を資産計上し、補助金を受領した期に圧縮記帳を適用します。
補助金を使った資産取得が期をまたぐ場合の仕訳例は以下の通りです。
(内容をわかりやすくするため、減価償却は考慮せずに記載しています。)
◼︎ 前提条件
買換資産(機械)を1,000万円で取得
補助金収入500万円を次期に受領(圧縮限度額は補助金額まで)
◼︎ 当期(資産取得時)
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
機械装置 | 10,000,000 | 現預金 | 10,000,000 | 買換資産(機械)の取得 |
◼︎ 翌期(補助金収入+圧縮記帳)
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
現預金 | 5,000,000 | 雑収入 | 5,000,000 | 補助金収入の計上 |
圧縮損 | 5,000,000 | 機械装置 | 5,000,000 | 補助金額を圧縮記帳で控除 |
先行取得した場合に圧縮記帳をする際の注意点
先行取得による圧縮記帳は、譲渡前に買換資産を取得していても節税が可能になる制度ですが、要件や手続きに不備があると適用が認められないリスクがあります。
原則、譲渡の1年前までしか遡れない
買換資産を先行取得できる期間は、原則、譲渡日を含む事業年度開始日の1年前までと定められています。
つまり、譲渡前に取得していればいつでも適用できるわけではなく、取得から譲渡までの期間が1年を超えると原則として圧縮記帳の対象外となるのです。
やむを得ない事情がある場合には3年まで遡ることも可能ですが、その際は「資産の敷地の用に供するための造成に要する期間が通常1年を超えると認められる事情等」があります。
実務では、設備投資のタイミングが年度をまたいで長期化するケースや、補助金交付の関係で取得が早まるケースが多く、結果的に1年ルールを超えてしまうことがあります。
そのため、譲渡日と取得日の両方を早期に確定させ、スケジュールを逆算して管理することが不可欠です。
圧縮後の取得価額で減価償却を行う必要がある
圧縮後の取得価額で減価償却を行う必要があります。
圧縮記帳を適用した場合、資産の帳簿価額=実際の取得価額から、圧縮額を控除した金額です。
減価償却を行う場合、圧縮後の価額が基準となるため、償却費も少なくなります。
一時的な課税の繰り延べ効果が得られる一方、将来の経費計上額が減少することになります。
たとえば、1,000万円の機械装置を取得し、圧縮記帳で400万円を控除した場合、減価償却の総額は600万円です。
結果、初年度以降の償却費は圧縮前よりも少なくなり、キャッシュフローや利益計画に影響します。
短期的な税負担の緩和だけでなく、数年先の資金繰りや税負担を見越して圧縮額を設定することが重要です。
関連記事:減価償却のしくみとは?減価償却費計算や仕訳を基本から解説
事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内に届出を提出する
先行取得であっても、圧縮記帳の適用を受けるためには「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」を期限内に提出しなければなりません。
提出期限は、買換資産を取得した事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内と明確に定められており、この期限を過ぎると原則として適用が認められません。
届出書には、取得資産の内容や取得日、取得価額などを記載し、必要に応じて取得見積書や契約書を添付します。
先行取得の場合は、譲渡予定の資産や時期が明確でない段階で手続きを進める必要があるため、経理部門と現場担当者、税理士の間で早めに情報を共有しておくことが大切です。
参考:C1-57 特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出|国税庁
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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