- 作成日 : 2025年9月9日
原価低減とは?トヨタも実践している原価を下げる方法と注意点を徹底解説
企業が成長を続けるためには、売上拡大だけでなく「原価低減」による利益率の向上が欠かせません。
単なる経費削減ではなく、品質や従業員のモチベーションを維持しながら無駄を省くことが重要です。原価を適切に管理できれば、利益率の向上はもちろん、競争力や資金効率の改善、さらには顧客満足度の向上にもつながります。
本記事では、原価低減の基本的な考え方や具体的な方法、実践の際に注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
原価低減とは何か?
原価低減とは、生産活動の中で発生するコストを削減する取り組みを指します。製造原価は主に材料費・労務費・経費の三つに分けられ、それぞれの削減によって企業の利益拡大を目指します。
たとえば、材料費では仕入先や発注方法の見直し、労務費では作業工程の改善、経費ではエネルギーコスト削減などが実施されます。原価低減を行うことで利益率の向上や無駄の削減につながり、経営の安定化を実現できます。
そのため、多くの企業にとって重要な経営戦略のひとつとされています。
原価低減の4つ目的
企業が安定的かつ持続可能な成長を目指す上で、原価低減の取り組みは欠かせません。単なるコスト削減ではなく、利益率向上や競争力強化、顧客満足度の向上、そして資金効率の改善といった多面的な効果をもたらすからです。
景気の変動や人材不足といった外部要因に左右されにくい企業体制を整えるためにも、原価低減には明確な目的と戦略が必要です。ここでは、企業経営における原価低減の4つの主要な目的を詳しく解説します。
会社の利益率を上げる
原価を抑えることにより、売上が同じであっても利益率を高められます。これは企業の経営を安定させ、将来的な投資や人材確保にもつながる重要な要素です。たとえば製造業では、生産効率を高めることで品質を維持したまま原価を下げることが可能です。
また、利益率の向上は経営リスクの低減にも効果を発揮します。万が一、売上が減少しても、原価をコントロールできていれば利益を確保でき、倒産リスクを大きく減らせます。さらに得られた利益を再投資すれば、企業の成長サイクルを強化できます。
競争力を高める
原価低減は価格競争力を高め、他社との差別化を図るための有効な手段です。同じ品質の商品であっても、価格がわずかに異なるだけで消費者の選択が左右される場面は少なくありません。原価を抑えることで、魅力的な価格設定が可能となり、競合他社より優位に立てます。
また、削減した原価分の資金を製品の品質向上やブランディング活動に投資すれば、企業価値の向上にもつながります。結果として、市場における存在感が強まり、競争の激しい業界でも生き残る力が強化されます。
お客様の満足度を上げる
原価を下げつつ品質を維持できれば、価格に対する顧客の満足度が向上します。これは企業に対する信頼感を生み出し、継続的な取引やリピーターの獲得にもつながります。
顧客の信頼を得ることは、広告に頼らずとも評判を高める効果があり、企業のブランド力を強化する重要な要素です。
また、顧客満足度が向上すると、口コミや紹介といった好循環が生まれ、安定した顧客基盤の構築にも寄与します。品質と価格のバランスを適切に保つことは、企業の社会的評価を高めることにもつながります。
資金効率を改善させる
原価を削減することで、毎月の固定支出を抑え、資金繰りを改善することが可能になります。とくに設備投資や新事業の立ち上げには、多額の資金が必要となるため、原価低減によって生まれた余剰資金を戦略的に活用することが求められます。
たとえば、生産設備の更新や自動化ツールの導入に資金を回せば、さらなる業務効率化を促進できます。
これは、企業のキャッシュフローを健全化し、経済環境の変化や緊急事態にも柔軟に対応できる体制づくりに貢献します。資金の使い道に選択肢が生まれることで、経営の自由度も大きく広がります。
原価を減らす方法
企業が利益を拡大するうえで、原価の削減は欠かせない施策です。原価とは、製品を製造する過程で発生するコストのことで、大きく分けて「材料費」「労務費」「経費」の3つに分類されます。
これらを細かく分析し、ムダを見直すことで、製品の品質を維持したままコスト削減を実現することが可能です。本記事では、それぞれのコスト削減方法について、実践的なポイントを踏まえて解説します。
材料費を下げる
材料費とは、製品の製造に必要な原材料や部品、燃料、備品などにかかる費用のことです。製造業においては、原価全体の4〜6割を占めることが多く、削減による効果が大きい項目です。
材料費を削減するためには、まず使用している原料や部品の価格を見直し、より安価で品質を満たす代替品がないかを検討します。次に、発注頻度や量の見直しを行い、無駄な在庫や発注コストを減らします。仕入先の再選定による価格交渉の強化も有効です。
さらに、製造時に発生する材料ロスや不適切な使用についても社内で検証し、無駄な使用を抑えることで、コストを効果的に削減できます。
労務費を下げる
労務費とは、製品の製造に従事する従業員に支払う給与や手当などの人件費のことです。企業が労務費を抑えるには、単なる人員削減ではなく、作業の見直しと効率化が求められます。
まず、作業工程を細分化することで、不要なフローや二重作業を明確化し、改善の余地を見つけやすくなります。次に、従業員の配置が適切かどうかを確認し、人的リソースが過不足なく活用されているかを検証することが重要です。
これにより、生産性を維持しながら人件費や残業代を抑えられます。効率的な人員配置と工程改善によって、無理のない形での労務費削減が実現できます。
経費を下げる
経費とは、材料費や労務費以外に分類される、間接的に製造に関わる費用のことです。たとえば、水道光熱費、工場や倉庫の賃貸料、設備の減価償却費などが含まれます。
経費を削減するには、まず水道光熱費の使用状況を見直し、無駄なエネルギー使用を抑える必要があります。契約している電力プランの変更や、不要な稼働時間の見直しも有効です。
また、工場や倉庫の賃料が適正かを検討し、必要に応じてよりコストパフォーマンスの高い物件への変更を検討します。さらに、老朽化した設備を更新することで、エネルギー効率を改善し、長期的に経費削減につなげることが可能です。
原価低減を行うメリット
企業にとって原価低減は単なるコストカットではなく、経営基盤を強化し持続的な成長を実現するための重要な戦略です。原価を下げることで利益率が向上し、経営の安定性や資金繰りが改善されます。
その結果、リスクへの耐性が高まり、新たな事業や人材育成への投資が可能になります。また、業務プロセスの効率化やIT活用によって働き方改革を推進できる点も大きなメリットです。
会社の経営が安定する
原価低減を進めることで、売上が変わらなくても利益率を高められます。利益が増えれば資金繰りに余裕が生まれ、景気の変動や不測の事態に対して柔軟に対応可能です。
しかし、在庫の増加や設備投資を伴う場合には、短期的には資金繰りが悪化することもあるため、キャッシュフロー管理も重要です。
さらに利益剰余金の蓄積によって自己資本比率が高まり、財務体質の強化につながります。資本金が潤沢であれば災害や経済危機といった緊急時にも立て直しがしやすく、企業の存続性が向上します。
また資金的な余裕が確保されることで、人材育成や教育に投資しやすくなり、従業員のスキル向上や組織の基盤強化にも効果的です。
企業の成長につながる
原価を抑えて得られた利益は、新たな投資や事業拡大に振り分けられます。たとえば、新製品や新サービスの開発、さらにはマーケティング施策への投資が可能となり、新しい顧客層を獲得する機会が広がります。その結果、企業規模や市場シェアを拡大できるだけでなく、競争力を高めることも可能です。
従業員にとっても、成長を背景にしたキャリアアップの機会が増加し、働きがいやモチベーションの向上につながります。原価低減は単なる経費の圧縮ではなく、企業が継続的に発展するための資源を生み出す役割を果たすのです。
働き方改革が促進される
原価低減の取り組みは、業務プロセスの効率化や自動化を推進し、働き方改革の実現に直結します。従来、人手に依存していた作業をITツールや機械によって自動化することで、従業員の業務負担を軽減可能です。これにより、長時間労働の削減やワークライフバランスの改善が期待されます。
さらに、効率化によって空いた時間を高付加価値業務に振り分けることで、社員一人ひとりのスキルアップや創造的な取り組みを支援できます。こうした取り組みは、生産性の向上と従業員満足度の改善を同時に実現し、企業全体の持続的な成長にもつながります。
原価低減を行う際のポイント
原価低減は、企業が利益率を高め競争力を維持するために欠かせない取り組みです。
しかし単にコストを削減するだけでは、品質低下や社員のモチベーション低下などの副作用が生じ、長期的な利益拡大にはつながりません。法令遵守や全従業員の意識共有、継続的な改善を重視することが求められます。
また、管理システムの導入によって効率的かつ正確に原価を把握することで、持続的なコスト削減と安定した経営を実現することが可能です。
品質を落とさないようにする
原価低減を進める際には、品質を犠牲にしないことが重要です。
仕入先を変更して一時的にコストを下げたとしても、品質が低下すれば顧客満足度の低下につながります。その結果、信頼を失い売上減少を招く恐れがあります。とくに短期的な利益を優先して品質を軽視すると、長期的には大きな損失に発展します。
そのため、コスト削減の施策を検討する際には、品質の維持と改善を両立させる視点を持つことが不可欠です。顧客からの信頼を維持することが、原価低減の本来の目的である利益拡大につながります。
社員のモチベーションを低下させない
過度なコスト削減は社員のモチベーション低下を招くため注意が必要です。
現場の声を無視した減給や無理な要求は、生産性の低下や離職率の上昇を引き起こします。その結果、新たな採用コストが発生し、むしろ経営効率が悪化することもあります。
原価低減を進める際には、現場の従業員の意見を取り入れながら、無理のない改善策を実施することが重要です。従業員が安心して働ける環境を維持することで、モチベーションを高めながら効率化を実現し、結果として持続的なコスト削減につなげましょう。
法律違反にならないようにする
原価低減を進めるにあたり、法令遵守は絶対条件です。
たとえば、原材料費が市場動向により高騰している場合には、無理にコストを削減することが難しいケースもあります。また、労務費を削減しようとして法律や規制で定められた水準を下回る形で人件費を抑えると、労働基準法などに抵触する可能性があります。
違法な手法による原価低減は企業の信頼を失うだけでなく、社会的信用の失墜や法的リスクも注意しなければなりません。そのため、専門家の助言を受けながら、合法的かつ持続可能な施策を選択することが求められます。
全従業員がひとつになって課題に取り組む
原価低減を成功させるためには、一部の担当者だけではなく全社員が取り組みに参加することが大切です。
企業全体で取り組むことで、業務の無駄を発見しやすくなり、継続的な改善につながります。そのためには、原価低減の目的や必要性を全社員に周知し、具体的な数値目標を明確に設定することが効果的です。
また、成果を上げた社員を適切に評価する仕組みを整えることで、モチベーション向上と取り組みの継続性を確保できます。組織全体が一丸となることで、大きな成果を生み出せるでしょう。
改善は定期的に行う
原価低減は一度実現すれば終わりではなく、継続的な取り組みが不可欠です。
短期間で成果を得られる場合もありますが、その効果が長続きするとは限りません。市場環境や経営状況は常に変化するため、定期的に見直しを行い改善を積み重ねる必要があります。
その際には、PDCAサイクルを活用して仕組み化し、改善を定着させることが有効です。定期的な改善活動を継続することで、原価低減の効果を最大化し、安定した経営基盤を築きましょう。
管理システムを取り入れる
原価低減を効率的に行うためには、管理システムの導入が効果的です。
原価管理システムを利用することで、材料費や労務費などを正確に把握でき、過剰在庫や欠品といったリスクを未然に防ぐことが可能になります。また、業務の効率化によって従業員の負担を軽減し、作業工数の削減にも効果的です。
従来は属人化しがちだった原価計算や購買管理を標準化することで、精度の高いコスト管理が実現できます。管理システムは、原価低減を持続的に推進する上で欠かせない支援ツールと言えるでしょう。
目標を明確に設定する
原価低減の効果を最大化するためには、明確な目標を設定することが重要です。
利益率の向上や競争力の強化など、企業の方向性に合わせた具体的な目標を掲げることで、取り組みの指針が明確になります。数値化されたロードマップを設定すれば、進捗状況を客観的に把握でき、改善の優先順位をより正確に判断可能です。
また、目標達成の過程で得られる成果を共有することで、従業員の意識向上にもつながります。明確な目標は、原価低減活動を継続的かつ効果的に進めるための基盤となります。
原価低減の事を理解して、企業の利益をあげよう
原価低減は、企業が安定した利益を確保し、持続的な成長を実現するための重要な経営戦略です。材料費・労務費・経費といった主要コストを適切に削減することで、利益率が高まり、資金繰りの改善や競争力強化につながります。
ただし、品質低下や社員の負担増といったリスクを回避するためには、法令遵守や全従業員の協力、定期的な改善活動が不可欠です。さらに、原価管理システムの導入や明確な目標設定によって、効率的かつ継続的なコスト削減を実現できます。
原価低減の意義を正しく理解し、実践に活かすことで、企業は安定した利益基盤を築けるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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