• 作成日 : 2025年9月9日

補助金を受けたらチェック!圧縮記帳の適用条件・会計処理を解説

補助金で設備投資を行った企業が見落としがちな制度が、「圧縮記帳」です。適切に適用すれば税負担を抑え、資金繰りを改善できます。しかし、判断を誤ると、税務調査での指摘や追徴課税を受けるリスクもあるでしょう。

本記事では、圧縮記帳の基礎から適用対象、手順を解説します。実際の会計処理方法も紹介するので、実務の参考にしてみてください。

圧縮記帳とは

圧縮記帳とは、本来課税所得になる利益を、将来に繰り延べる制度です。固定資産を取得する際、受け取った補助金や保険金を収益計上せず、資産の取得価額から直接差し引きます。圧縮記帳は、税負担をゼロにする制度ではなく、あくまで課税時期を調整する制度です。

補助金や保険金を受け取った年度は、課税所得が増えるため、法人税が大幅に増えるのが一般的です。しかし、圧縮記帳制度を利用することで、税負担を来期以降に繰り延べ、当期の税負担額を抑えられます。

たとえば、1,000万円の機械を取得し、300万円の補助金を受けたとしましょう。圧縮記帳を適用すると、取得価額と補助金を相殺し、帳簿上の取得価額は700万円です。減価償却費は700万円を基準に計算され、課税を先送りしつつ、キャッシュフローの改善ができます。

圧縮記帳は法人税法第42条等に基づき、認められた制度です。とくに、設備投資を伴う企業にとって、資金繰りを安定させる効果があります。

圧縮記帳に関しては、関連記事も参照にしてください。

関連記事:圧縮記帳の仕組みとは?要件や仕訳、限度額を学ぶ

補助金は圧縮記帳できる?

補助金は原則、収益として計上されるため、法人税などの課税対象となります。圧縮記帳を活用すれば、受給額を固定資産の取得価額から差し引くことが可能です。

ただし、制度の適用には、補助金の受給目的が取得した資産と適合しているかなどの条件があります。

圧縮記帳制度の適用には、専門的な内容を伴います。制度の内容や関連法規を理解したうえで、社内や専門家と連携しながら、検討を進めましょう。

補助金を圧縮記帳するメリット・デメリット

補助金を圧縮記帳すると、税負担を繰り延べ、受給年の税負担を抑制できます。しかし、適用条件を誤解したまま処理すると、制度が適用できません。場合によっては、修正申告や追徴課税が必要になるケースもあるでしょう。

【メリット】税負担軽減とキャッシュフロー改善

補助金を圧縮記帳するメリットは、税負担の繰り延べです。設備投資直後の納税額を抑え、手元資金を確保できます。設備投資の直後に、事業支出と税金両方の支払いに追われる事態を回避できるでしょう。

とくに、中小企業の場合、資金繰りは経営の安定性を大きく左右します。圧縮記帳により納税を抑えることで、キャッシュフローの改善が可能です。運転資金や新たな設備投資、研究開発などに充てる資金を確保できます。

補助金を活用した投資に圧縮記帳を適用すれば、経営に余裕が生まれ、事業の持続性を高められるでしょう。

【デメリット】適用ミス・過大圧縮のリスク

補助金を圧縮記帳する際は、次のリスクが発生します。

  • 要件誤認
  • 過大圧縮

要件誤認とは、適用要件を満たさないまま、圧縮記帳の処理を進めることです。万が一、要件外だと気づかずに処理を進めると、修正申告や追徴課税のリスクがあります。

過大圧縮は、補助金額以上の圧縮を行うことです。限度額を超えた圧縮は損金不算入対象となり、修正申告や追徴課税のリスクがあります。

複数の補助金を同時に利用する場合は、適用範囲や会計処理が混乱するケースもあるでしょう。

上記のリスクを回避するためには、次の対応が効果的です。

  • 補助金交付決定書・契約書を保管する
  • 取得時期・交付時期を税務要件と照合する
  • 経理・現場・経営層で情報を共有する

圧縮記帳の適用対象となる収入代表例

圧縮記帳の適用対象は、特定の収入に限定されます。代表例を以下の表にまとめました。

対象収入概要圧縮の限度・条件
国庫補助金設備投資や事業支援のために交付される補助金。取得資産の取得価額から補助金額を控除して圧縮可能。
工事負担金電力会社やガス会社などが受け取る設備拡張のための負担金。対象設備の取得価額から減額して圧縮可能。
保険差益災害や事故で受け取る保険金と資産簿価との差額。保険金を充当した資産の取得価額を減額して圧縮可能。
交換差益資産交換で生じた時価と簿価の差額。交換により取得した資産の価額から差益分を減額。
特定資産の買換土地や建物を譲渡し、新たに資産を取得した場合の差益。買換資産の価額から差益分を控除して圧縮。
非出資組合の賦課金農協や組合からの賦課金で将来資産を取得するもの。賦課金相当額を圧縮対象とできる場合がある。

圧縮記帳制度における圧縮限度額は、収入ごとに異なります。たとえば、保険差益と交換差益の圧縮限度額は、次の計算式で算出可能です。

対象収入圧縮限度額の計算式
保険差益保険差益金の額×(代替資産の取得などに充てた保険金等の額÷(保険金等の額−減失経費の額))
交換差益取得資産の価額-(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡経費の額)
特定資産の買換圧縮基礎取得価額×差益割合×80%

※圧縮基礎取得価額は「買換資産の取得価額」「譲渡資産の譲渡対価の額」のいずれか少ない金額

ただし、圧縮記帳には、対象外の収入も多く、一定の補助金や収益には適用できません。実務では、交付決定書や契約書などを基に、適用対象か判断しましょう。

圧縮記帳できる補助金5選

圧縮記帳が認められる補助金の代表例は、下表の通りです。

補助金名圧縮記帳の対象・留意点圧縮限度額の計算式
ものづくり補助金
  • 設備(機械装置・システム構築)部分のみ対象
  • 研究開発費や外注費は対象外
  • 圧縮額を超えた処理は否認される
補助金額(ただし取得価額以内)

例:設備2,000万円、補助金1,000万円 → 圧縮額1,000万円

小規模事業者持続化補助金
  • 店舗改装や備品購入など、固定資産計上する経費のみ圧縮対象
  • 広告費や消耗品費は対象外
固定資産に充当した補助金額

例:改装費300万円、補助金150万円 → 圧縮額150万円

既存建築物省エネ化推進事業
  • 資本的支出に該当する工事費が対象
  • 修繕費処理に該当する場合は対象外
  • 省エネ関連の証憑を保存する必要あり
補助対象経費×補助率(取得価額以内)

例:改修費1,000万円、補助率1/2 → 圧縮額500万円

事業再構築補助金
  • 新規事業用設備や建物改修費用が対象
  • 業態転換のためのソフトウェア取得も対象
  • 金額規模が大きく、圧縮限度額を誤ると追徴リスク大
補助金額 ≤ 取得価額

例:建物5,000万円、補助金3,000万円 → 圧縮額3,000万円

IT導入補助金
  • 資産計上するソフトウェアのみ対象
  • クラウド利用料や保守費は対象外
  • 無形固定資産として計上される
補助対象ソフト費用×補助率(50%程度)

例:ソフト費用400万円、補助金200万円 → 圧縮額200万円

圧縮記帳制度の限度額や受給条件は、補助金によって異なります。自社の実態に適した補助金・金額で、受給申請を行いましょう。

圧縮記帳の判断手順とチェックポイント

圧縮記帳制度を適用する際は、補助金・保険金の交付と、固定資産取得のタイミングが税務要件に合致するか確認しましょう。

また、特別償却・税額控除など他の優遇制度との併用可否、資産取得価額や差益の性質によって異なる計算式など、つまずきやすいポイントが多くあります。いずれも税務リスクに直結するため、事前準備と定期的なチェックが欠かせません。

他の税制優遇制度との併用可否

圧縮記帳は、他の優遇制度と併用できない場合があります。同じ資産において、税務メリットを二重に受けられないよう、一部の場合は併用を禁止されているのです。たとえば、租税特別措置法の圧縮記帳を適用した設備投資に対して、同じ租税特別措置法の特別償却や税額控除は適用できません。

一方で、法人税法の圧縮記帳を適用した場合、特別償却や税額控除と併用できる制度もあります。

圧縮対象の資産や、併用の可否は、仕訳段階で区分するのが重要です。複数の制度を利用する場合は、適用順序や制度の優先度を適切に設定しましょう。

圧縮限度額と計算方法

圧縮記帳で圧縮できる金額には、限度額が定められています。基本の限度額は、次のいずれか少ない方です。

  • 資産の取得価額
  • 補助金や保険金などの収入額

たとえば、設備を1,000万円で取得した場合を考えましょう。補助金額による圧縮限度額の違いは、下表の通りです。

取得価額(購入費)補助金額圧縮限度額
1,000万円400万円

(資産の取得価額>

補助金の収入額)

400万円
(補助金の収入額まで)
1,500万円

(資産の取得価額<

補助金の収入額)

1,000万円

(資産の取得価額まで)

補助金または取得価額が圧縮限度額となります。

限度額を超えた圧縮は、税務調査で否認されるリスクがありますので、ルールに基づき処理をしましょう。

圧縮記帳の手続きと必要書類

圧縮記帳の手続きには、補助金交付決定通知書や、資産取得に関する契約書・領収書等が必要です。補助金の交付が決定したら、固定資産を取得し、会計処理を行う流れになります。

手続きの全体フロー

圧縮記帳の流れは、次の通りです。

  1. 補助金の交付決定
  2. 固定資産の取得
  3. 会計処理
  4. 申告書の作成

圧縮記帳の対象となる固定資産は、補助金の交付が決定した後に取得するのが一般的です。交付決定通知書を受け取ったタイミングで、圧縮記帳の対象となるか判定します。

補助金を受け取り、固定資産を取得する際は、取得日・交付日を証明できる契約書や領収書を保管しましょう。

また、会計処理の際は、「直接減額方式」または「積立金方式」を選択する必要があります。後から処理方法を変更することはできないため、あらかじめ判断しましょう。

圧縮記帳の処理方式については、別記事をご参照ください。

必要書類と役割

圧縮記帳を適用するには、次の書類が必要です。

書類の種類役割
補助金交付決定通知書補助金交付が正式に決定したことを証明
固定資産の契約書・領収書資産の取得日・取得価額を明確化
会計処理記録

仕訳帳・補助簿等)

圧縮記帳の仕訳内容を証明
法人税申告書別表13(1)等圧縮記帳の適用内容を申告書に添付

添付や保管漏れが無いように注意をしましょう。

提出期限と留意事項

圧縮記帳を適用する場合は、法人税の申告期限までに手続きを済ませましょう。申請期限は決算日から2か月以内で、税務署に申請すれば1か月の延長が認められるケースもあります。また、別途必要書類を提出するケースもあるため、必ず期限内に手続きを行いましょう。

また、補助金の交付が年度をまたいだ場合は、固定資産を取得した年度に計上するのが原則です。たとえば、補助金交付決定が3月で、設備の取得が4月にずれ込んだ場合は、翌年度に圧縮記帳を計上する必要があります。

交付日や取得日の整理が不十分だと、修正や否認の原因になりかねません。提出までのスケジュールを逆算し、処理漏れが無いように手続きを終わらせましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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