• 更新日 : 2025年9月3日

システム導入費用の相場はいくら?コストの内訳から会計処理まで解説

企業の競争力強化や業務効率化にシステム導入を考えるとき、費用の全体像が見えないままでは、適切な投資判断はできません。

この記事では、システム導入にかかる費用の相場を開発手法ごとに解説し、コストの内訳、費用の妥当性を見極めるポイント、そして複雑になりがちな会計処理までをわかりやすく解説します。最適なIT投資を実現するために、ぜひご活用ください。

システム導入費用の相場は開発手法で大きく変わる

システム導入にかかる費用は、どのような手法で開発するかによって大きく異なります。既製品を利用するのか、自社に合わせて一から作り上げるのかで、場合によっては数倍から数十倍の差が生じることもあります。まずは代表的な3つの開発手法と、それぞれの費用相場を見ていきましょう。

手軽に始められる「SaaS・クラウド型」の費用相場

SaaSやクラウド型のシステムは、月額数千円から数万円程度の料金で利用できるものが多く、初期費用も0円から数十万円程度となることが一般的です。

SaaS(Software as a Service)とは、インターネット経由で提供されるソフトウェアのことです。自社でサーバーを用意したり、ソフトウェアをインストールしたりする必要がなく、アカウントを契約すればすぐに使い始められる手軽さが魅力ではないでしょうか。会計ソフトの「freee」や業務改善プラットフォームの「kintone」などが、代表的なSaaSにあたります。

導入が早く、コストを低く抑えられる点が大きなメリットといえるでしょう。一方で、提供されている機能の範囲でしか利用できず、自社の業務に合わせた細かなカスタマイズは難しい傾向にあります。

既存の機能を活用する「パッケージ型」の費用相場

パッケージ型のシステム導入は、ライセンス費用として数十万円から数百万円ほどかかるのが相場です。これに加えて、自社の業務に合わせて機能を調整(カスタマイズ)するための費用が発生します。

パッケージ型とは、特定の業種や業務向けに作られた既製のソフトウェア製品を、自社のサーバーにインストールして利用する形態です。販売管理や在庫管理、会計といった基幹業務システムでよく見られます。

SaaSよりも自社の業務に合わせたカスタマイズがしやすい点がメリットです。ただし、カスタマイズの範囲には限界があり、大規模な変更には対応できない場合もあります。

自由に設計できる「スクラッチ開発」の費用相場

スクラッチ開発の費用は、小規模なものでも数百万円から、企業の基幹システムのような大規模なものになると数千万円から数億円以上にのぼることもあります。

スクラッチ開発とは、既存の製品を使わずに、ゼロからオリジナルのシステムをオーダーメイドで作り上げる手法です。自社の業務フローや要望に合わせて、必要な機能を自由に設計できるため、最も理想に近いシステムを実現できます。

他にはない独自のサービスを展開したい場合や、複雑な業務要件に完全に対応させたい場合には、この手法が選ばれるでしょう。しかし、その分、費用は最も高額になり、開発期間も長期化する傾向にあります。

システム導入費用の大部分を占めるコストの内訳

システム開発の見積もりを見たとき、なぜこれほど高額になるのか疑問に思うかもしれません。その費用の多くは、システムのプログラムを作る技術者の人件費です。ここでは、費用の内訳を詳しく分解し、どのようなコストで構成されているのかを解説します。

費用の約8割を占める「人件費(エンジニアの人月単価)」

システム開発費用の内訳で最も大きな割合を占めるのは、エンジニアの人件費です。一般的に、開発費全体の約8割にもなるといわれています。

この人件費は「人月(にんげつ)」という単位で見積もられるのが通例です。人月とは、1人のエンジニアが1ヶ月間作業した場合の費用を指し、「人月単価 × 開発期間(月数)」で算出されます。たとえば、人月単価80万円のエンジニアが3人で2ヶ月かけて開発する場合、80万円 × 3人 × 2ヶ月 = 480万円が人件費の目安となります。

エンジニアの単価は、スキルや経験によって変わります。

スキルレベル人月単価の目安主な役割
上級エンジニア
(PMクラス)
100万円~160万円プロジェクト全体の管理、要件定義、設計
中級エンジニア
(リーダー)
80万円~120万円中心的な開発、後輩の指導
初級エンジニア
(プログラマー)
60万円~100万円指示にもとづくプログラミング、テスト

開発に必要な「ハードウェア・ソフトウェア費用」

システムを動かすためには、物理的な機器やソフトウェアライセンスも必要になります。

自社内にサーバーを設置してシステムを運用する場合(オンプレミス)、サーバー機器やネットワーク機器の購入費用がかかります。また、開発に使うパソコンや、OS、データベースといったソフトウェアのライセンス費用も発生するでしょう。

近年では、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureのようなクラウドサービスを利用するケースが増えています。この場合、自社でハードウェアを持つ必要はなく、利用した分だけ料金を支払う従量課金制となるため、初期費用を抑えられます。

見落としがちな「プロジェクト管理費」や「諸経費」

エンジニアの人件費以外にも、プロジェクトを円滑に進めるための管理費用や、その他の経費がかかります。

プロジェクト管理費とは、プロジェクトマネージャー(PM)の費用や、進捗管理、品質管理にかかるコストのことです。一般的に、開発費全体の10%から20%程度が目安とされています。

その他、開発者との打ち合わせのための交通費通信費なども諸経費として計上されることがあります。見積もりを確認する際には、これらの費用が含まれているかどうかもチェックしましょう。

導入後に発生する「保守・運用費用」

システムは、完成して導入したら終わりではありません。安定して使い続けるためには、保守・運用が必要不可欠です。

この費用には、サーバーやドメインの維持費、データのバックアップ、セキュリティ対策、OSやソフトウェアのアップデート対応、操作方法に関する問い合わせ対応などが含まれます。

保守・運用にかかる費用は、一般的に開発費用の年額で約5~15%程度が目安とされます。月額にすると開発費用の約1〜2%です。たとえば、1,000万円かけて開発したシステムであれば、年間150万円程度の保守・運用費がかかると考えておくとよいでしょう。このランニングコストをあらかじめ考慮しておかないと、後々の資金繰りに影響をおよぼすかもしれません。

システム導入費用の会計処理と資産計上の基本

システム導入にかかった費用は、経費として一括で計上できるものと、資産として計上し、数年にわたって費用化していくものがあります。とくに経理担当者にとっては、この会計処理のルールを正しく理解しておくことが大切です。ここではその基本的な考え方を解説します。

費用か資産か?会計処理の判断基準

自社で利用するために開発したソフトウェアは、原則として「無形固定資産」として資産計上します。

国税庁の指針では、取得価額が10万円以上のソフトウェアは資産として扱うことになっています。ただし、中小企業者等の特例を使えば、30万円未満のものは一括で費用として計上することも可能です。

一方で、SaaSのように利用権を購入して月額料金を支払うサービスは、資産の購入ではなくサービスの利用とみなされるため、その支払額を「費用」として計上するのが一般的です。

出典:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁

ソフトウェアは「無形固定資産」として減価償却

資産として計上したソフトウェアは、時の経過とともに価値が減少していくという考え方にもとづき、減価償却を行います。

減価償却とは、取得にかかった費用を一度に計上するのではなく、定められた年数(法定耐用年数)にわたって分割して費用計上していく会計処理のことです。ソフトウェアの法定耐用年数は、その目的によって異なり、自社で利用する目的のものは「5年」と定められています。

たとえば、500万円で開発したソフトウェアは、5年間にわたり、毎年100万円ずつ費用として計上していくイメージです。

出典:No.5461 ソフトウェアの取得価額と耐用年数|国税庁

システム費用の勘定科目と仕訳例

会計処理を行う際には、適切な勘定科目を使う必要があります。システム開発の場合、以下のような勘定科目が使われるのが一般的です。

  • ソフトウェア仮勘定:システムが完成するまでの間に支払った費用を一時的に計上する科目です。
  • ソフトウェア:システムが完成し、利用を開始した際に「ソフトウェア仮勘定」から振り替える資産科目です。
  • 通信費、支払手数料:SaaSの月額利用料などを費用として計上する際に使います。
  • 減価償却費:資産計上したソフトウェアを、決算時に費用化する際に使う科目です。
手順借方(デビット)貸方(クレジット)
1. 開発中に中間金を支払いソフトウェア仮勘定

2,000,000

現金預金

2,000,000

2. 完成時に残金を支払いソフトウェア仮勘定

3,000,000

現金預金

3,000,000

3. 利用開始時に資産へ振替ソフトウェア

5,000,000

ソフトウェア仮勘定

5,000,000

機能追加や保守費用はどう処理する?

導入後の支出も、その内容によって会計処理が異なります。

システムの価値を高めるような大幅な機能追加や改良は「資本的支出」とみなされ、新たに追加資産として計上します。一方、システムの現状を維持するための軽微なバグ修正やメンテナンス費用は「修繕費」として、発生した期の費用として処理できます。

どちらに該当するかの判断は難しい場合もあるため、迷った際は顧問税理士などに相談するのがよいでしょう。

出典:No.5402 修繕費とならないものの判定|国税庁

なぜ価格に幅が?システム導入費用を左右する要因

同じようなシステムに見えても、開発会社から提示される見積金額が大きく異なることがあります。その価格差はどこから生まれるのでしょうか。ここでは、システムの費用を変動させる主な要因について解説します。価格の背景を理解することで、見積もりの内容をより深く読み解けるようになるでしょう。

システムの規模と機能の複雑さ

システムの費用を決定する最も大きな要因は、その規模と機能の複雑さです。

たとえば、単純な顧客データの登録・検索機能だけのシステムと、それに加えてメルマガ配信機能、ポイント管理機能、分析レポート機能などを盛り込んだシステムとでは、開発にかかる手間(工数)が全く違います。

機能の数が多くなればなるほど、また、一つひとつの機能の処理が複雑になればなるほど、開発に必要なエンジニアの人数や期間が増え、結果として人件費がかさみ、費用は高くなっていきます。見積もりを検討する際には、どのような機能にどれくらいの工数がかかっているのかを確認することが大切です。

デザイン(UI/UX)への要求レベル

ユーザーが直接触れる画面のデザインも、費用を左右するポイントです。

UI(ユーザーインターフェース)は画面の見た目やレイアウト、UX(ユーザーエクスペリエンス)は使いやすさや満足度といった「体験」を指します。誰が見ても直感的に操作できるわかりやすい画面や、洗練されたデザインを追求すれば、専門のUI/UXデザイナーのアサインが必要になります。

もちろん、その分デザイナーの人件費が追加されるため、費用は上昇します。とくに、一般消費者向けのサービスや、ITに不慣れな従業員が使うシステムの場合、このUI/UXへの投資はシステムの定着や満足度に大きく影響するでしょう。

連携する外部システムの有無

開発するシステムを、単体で完結させるのか、それとも他のシステムと連携させるのかによっても費用は変わってきます。

たとえば、ECサイトにクレジットカード決済システムを連携させたり、顧客管理システム(CRM)に会計ソフトを連携させたりするケースが考えられます。こうした外部システムとの連携には、API(Application Programming Interface)という仕組みを利用した追加の開発作業が必要です。

連携先のシステムが複雑であったり、複数のシステムと連携させたりする場合には、その分、設計やテストの工数が増加し、費用も高くなる傾向にあります。

システム導入費用を賢く抑えるコツ

システム導入は大きな投資だからこそ、費用はできるだけ抑えたいと考えるのが自然でしょう。また、提示された見積もりが本当に適正な価格なのか、判断に迷うことも少なくありません。ここでは、費用を賢く抑えつつ、その妥当性を見極めるための実践的なコツを紹介します。

IT導入補助金などの公的支援を最大限に活用する

システム導入の費用負担を軽減するために、国や地方自治体が提供する補助金・助成金の活用を検討しましょう。

とくに中小企業向けには「IT導入補助金」という制度があります。これは、業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのITツール(ソフトウェア、SaaSなど)の導入費用の一部を補助してくれるものです。

対象となるITツールや補助率は申請枠によって異なりますが、費用の2分の1から4分の3程度が補助される場合もあり、大きな助けとなるのではないでしょうか。

2025年も制度は継続されていますが、公募期間や要件は随時更新されます。常に最新の情報を公式サイトで確認し、活用できるものがないか調べてみることをおすすめします。

出典:IT導入補助金2025|中小企業庁

複数社から相見積もりを取得し比較検討する

1社だけの見積もりで導入を決めてしまうと、その金額が高いのか安いのか、客観的な判断ができません。必ず複数の開発会社から見積もり(相見積もり)を取得しましょう。

目安として、少なくとも3社程度から話を聞き、提案内容と見積もりを比較することをおすすめします。その際、単純な金額の安さだけで選ぶのは避けるべきです。安いのには安いなりの理由があるかもしれません。

各社の提案内容、開発体制、実績、そして担当者とのコミュニケーションのしやすさなども含めて、総合的に比較検討することが、納得のいくパートナー選びにつながります。

自社の要件を明確にし、優先順位をつける

システム開発の費用は、搭載する機能の数に比例して高くなります。費用を抑えるためには、本当に必要な機能は何かを事前にしっかりと見極めることが大切です。

打ち合わせをしていると、「あれもできたら便利」「この機能もあるとよさそう」と、つい要望が膨らみがちです。しかし、すべての要望を盛り込むと、費用が高騰するだけでなく、かえってシステムが複雑で使いにくくなるおそれもあります。

まずは「この機能がなければ業務が成り立たない」というMust要件と、「あると嬉しいが、なくてもなんとかなる」というWant要件に整理してみましょう。そして、最初はMust要件に絞ってスモールスタートし、運用しながら必要に応じて機能を追加していくという進め方も、賢い方法の一つです。

システム導入費用を理解し最適なIT投資を実現する

システム導入の費用は、決して安いものではありません。しかし、その金額の背景にある内訳や相場観を正しく理解することで、単なる出費ではなく、将来の業務効率化や生産性向上に向けた「投資」として捉えられるようになるでしょう。

見積もりを比較する際には、表面的な金額だけでなく、人件費の算出根拠や導入後の保守・運用といった長期的なコストまで含めて検討することが求められます。また、IT導入補助金のような公的支援をうまく活用したり、自社の要件に優先順位をつけたりすることで、費用負担を抑えながら効果的なシステム導入ができます。

この記事で得た知識を踏まえ、自社に合った最適なIT投資判断を下し、事業の成長へとつなげてください。


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