- 作成日 : 2025年7月1日
優良な電子帳簿とは?会計初心者が知るべきメリット・要件・導入ステップを解説
近年、企業の経理業務において、電子帳簿保存法(電帳法)への対応が不可欠となっています。その中でも特に注目されているのが、優良な電子帳簿の規定です。これは、単に帳簿を電子的に保存するだけでなく、より高い基準を満たす電子帳簿について、税制上のメリットなどが受けられる制度です。
しかし、「優良な電子帳簿って具体的に何?」「普通の電子帳簿と何が違うの?」「導入するにはどうすればいいの?」といった疑問を持つ会計初心者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、優良な電子帳簿の基礎知識から、メリット、満たすべき要件、導入のステップ、そして注意点まで、初心者の方にも分かりやすく、かつ網羅的に解説していきます。この記事を読むことで、優良な電子帳簿への理解を深め、自社での導入検討や実務に役立てていただければ幸いです。
目次
優良な電子帳簿とは
優良な電子帳簿とは、電子帳簿保存法によって定められた、特定の要件を満たす国税関係帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)の電子データを指します。
通常の電子帳簿保存(一般的な要件を満たす電子保存)に比べて、データの検索性や訂正・削除履歴の確保など、より厳格なシステム要件や運用体制が求められます。これは、税務調査などの際に、より信頼性が高く、検証しやすいデータであることを担保するためです。
通常の電子帳簿保存との違い
最大の違いは、満たすべき要件のレベルと、それによって得られるメリットにあります。
- 通常の電子帳簿保存
電帳法で定められた最低限の要件(真実性の確保、可視性の確保など)を満たせば認められます。ペーパーレス化や業務効率化が主な目的です。ここで作成・保存される電子帳簿は、単に「電子帳簿」と呼ばれます。 - 優良な電子帳簿
通常の要件に加え、さらに高度な検索機能、訂正・削除履歴の保存、帳簿間の相互関連性の確保などの「優良要件」を満たす必要があります。この要件を満たしたものが優良な電子帳簿と呼ばれ、後述する税制上の優遇措置が受けられます。
つまり、優良な電子帳簿は、単なる電子化の一歩先を行く、信頼性と透明性の高いデータ管理体制が実現されている電子帳簿であることの証明とも言えるのです。
優良な電子帳簿を導入するメリット
手間やコストをかけてでも優良な電子帳簿に対応する企業が増えているのは、それに見合うだけのメリットがあるからです。主なメリットを具体的に見ていきましょう。
税制上の優遇措置が受けられる
優良な電子帳簿に関する最大のメリットは、税務調査で申告漏れが見つかった場合に課される「過少申告加算税」が5%軽減される点です。通常、過少申告加算税は、追加で納める税額の10%(または15%)が課されますが、優良な電子帳簿の適用を受けていれば、これが5%に軽減されます。
これは、日頃から適正な記帳と透明性の高いデータ管理を行っている企業に対するインセンティブと言えます。万が一のミスがあった場合でも、ペナルティが軽減される可能性があるのは、企業にとって大きな安心材料です。
業務効率が大幅に向上する
優良な電子帳簿の要件を満たすシステムを導入することは、結果的に経理業務全体の効率化につながります。
- 検索性の向上
日付、金額、取引先などで瞬時に必要なデータを検索できるため、過去の取引確認や資料作成の時間が大幅に短縮されます。 - ペーパーレス化の推進
紙の帳簿を印刷・保管する必要がなくなり、ファイリングの手間や保管スペースのコストを削減できます。 - リモートワークへの対応
電子データで管理されているため、場所を選ばずに帳簿の確認や作業が可能になり、多様な働き方に対応しやすくなります。
内部統制を強化できる
優良な電子帳簿の要件には、訂正・削除履歴の保存が含まれています。これにより、「いつ」「誰が」「どのデータを」変更したかが記録されるため、不正の抑止や早期発見につながり、内部統制の強化に貢献します。
また、法改正に対応したシステムを利用することで、常に最新の法規制に準拠した帳簿管理が可能となり、コンプライアンス体制の向上にもつながります。
コスト削減効果がある
長期的に見ると、コスト削減効果も期待できます。
- 紙・印刷コストの削減
帳簿や関連書類の印刷にかかる紙代、インク代、プリンター維持費が不要になります。 - 保管コストの削減
ファイルやキャビネット、倉庫などの物理的な保管スペースが不要になり、オフィススペースの有効活用や倉庫費用の削減につながります。 - 人件費の削減
検索や転記、確認作業にかかる時間が短縮されることで、間接的に人件費の削減効果も期待できます。
優良な電子帳簿として認められるための要件
優良な電子帳簿として認められ、税制優遇を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。通常の電子帳簿保存の要件に加えて、より高度な機能が求められる点がポイントです。
システムに関する要件
使用する会計システムやソフトウェアが、以下の機能を備えている必要があります。
- 訂正・削除履歴の保存
帳簿データの訂正や削除を行った場合、その事実と内容を確認できること。
操作ログが残り、後から追跡できること。 - 帳簿間の相互関連性の確保
例えば、仕訳帳と総勘定元帳など、関連する帳簿間で数字や情報が相互に対応し、確認できること。 - 高度な検索機能
以下の条件でデータを検索できること。- 取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件として設定できること。
- 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できること。
- 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること。
これらの要件を満たすシステムは、多くの場合「JIIMA認証(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会による認証)」を取得しています。システム選定の際には、この認証の有無が一つの目安となります。
運用に関する要件
システムだけでなく、それを運用する体制も重要です。
- タイムリーな入力
取引が発生したら、速やかに(通常、業務サイクルに従った期間内に)正確なデータを入力する体制が整っていること。 - 入力・操作マニュアルの備付け
システムの操作方法や、訂正・削除の手順などを定めたマニュアルを備え付け、それに従って運用すること。 - 見読可能性の確保
保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと。
優良な電子帳簿を導入するステップ
実際に優良な電子帳簿の導入を進める場合、どのような手順で進めればよいのでしょうか。
1. 現状把握と目的の明確化
まず、自社の現在の経理業務プロセス、使用しているシステム、帳簿の管理状況などを把握します。「なぜ優良な電子帳簿を導入したいのか?(税制優遇、業務効率化など)」目的を明確にすることで、システム選定や運用体制構築の方針が決まります。
2. 対応システムの選定・導入
優良な電子帳簿の要件を満たす会計システムやソフトウェアを選定します。JIIMA認証を受けている製品を選ぶと安心ですが、自社の業務規模や必要な機能、予算などを考慮して比較検討しましょう。クラウド型かオンプレミス型かも選択のポイントです。導入に際しては、データ移行や初期設定が必要になります。
3. 税制優遇を受けるための届出
優良な電子帳簿の最大のメリットである「過少申告加算税の軽減措置」を受けるためには、必ず事前に所轄税務署長への届出が必要です。
届出不要は誤解?
一部の電子帳簿保存(スキャナ保存など)では、以前必要だった事前承認が不要になりましたが、優良な電子帳簿に係る税制優遇(過少申告加算税の軽減)を受けるためには、現在も事前の届出が必須です。
たとえ優良な電子帳簿の要件を満たすシステムで帳簿を作成・保存していても、この届出を行わなければ、税制優遇は適用されません。 十分注意してください。
届出方法・期限
- 提出先
納税地を所轄する税務署長 - 提出方法
e-Taxでの提出が推奨されていますが、郵送または税務署窓口での提出も可能です。 - 提出期限
適用を受けようとする国税関係帳簿の備付けを開始する日(通常は、適用を受けたい課税期間の開始の日)までに提出する必要があります。
例えば、2026年4月1日から始まる事業年度(課税期間)から適用を受けたい場合、2026年4月1日までに届出書を提出します。
届出書の様式・記載事項
- 様式名
「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」 - 入手方法
国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。 - 主な記載事項
納税者情報(氏名、住所、法人名、所在地など)、適用を受けようとする帳簿の種類(仕訳帳、総勘定元帳など)、帳簿の備付けを開始する日など
4. 社内規程・マニュアルの整備
新しいシステムや運用方法に対応した社内規程や業務マニュアルを作成・整備します。データの入力ルール、訂正・削除の手順、管理責任者などを明確に定めます。
5. 従業員への周知・教育
経理担当者をはじめ、関連する従業員に対して、新しいシステムの使い方や運用ルールについて十分な説明とトレーニングを行います。スムーズな移行と定着のためには、丁寧な教育が不可欠です。
優良な電子帳簿は個人事業主も導入できる
優良な電子帳簿の制度は、法人だけでなく、個人事業主の方も利用できます。事業規模が小さくても、税制優遇のメリットは受けられますし、日々の記帳や確定申告の効率化、データ管理の安全性向上といった恩恵があります。
青色申告・白色申告を問わず、すべての個人事業主が優良な電子帳簿の制度を利用し、要件を満たして届出を行えば、過少申告加算税の軽減措置を受けることが可能です。
個人事業主が導入する際のポイントは、以下の通りです。
青色申告特別控除(65万円・55万円)との関係
青色申告で65万円または55万円の特別控除を受けるためには、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)による記帳と、貸借対照表・損益計算書の添付が必要です。
優良な電子帳簿の要件は、この青色申告特別控除(65/55万円)の記帳要件を基本的に満たします。 そのため、優良な電子帳簿に対応した会計ソフトを利用することは、青色申告の要件充足にも繋がります。(ただし、優良な電子帳簿の届出と青色申告の承認申請は別個の手続きです。)
会計ソフトの選定ポイント
個人事業主向けの機能が充実し、「優良な電子帳簿対応」を明記している会計ソフトを選ぶことが重要です。操作性やサポート体制、費用などを比較検討しましょう。
優良な電子帳簿を導入するデメリット・注意点
優良な電子帳簿はメリットが多い一方で、導入や運用にあたって留意すべき点もあります。
初期コストと導入の手間
優良要件を満たす高機能なシステムの導入には、初期費用(ライセンス料、導入支援費用など)がかかります。また、システムの選定、データ移行、規程整備、従業員トレーニングなど、導入には相応の時間と労力が必要です。
継続的な運用と管理の必要性
導入して終わりではありません。法改正への対応(システムのアップデートなど)、ルールの遵守状況の確認、従業員の入れ替わりに伴う再教育など、継続的な管理と運用体制の維持が求められます。
システム選定の重要性
自社の業務フローや規模に合わないシステムを選んでしまうと、かえって業務が非効率になったり、宝の持ち腐れになったりする可能性があります。また、要件を満たしていないシステムでは、優良な電子帳簿として認められず、税制優遇も受けられません。慎重な比較検討が重要です。
要件の理解不足によるリスク
優良な電子帳簿の要件を正しく理解せずに運用してしまうと、税務調査などで指摘を受け、想定していたメリット(特に税制優遇)が得られないリスクがあります。不明な点は、税理士などの専門家やシステムベンダーに確認することが大切です。
優良な電子帳簿の導入で経理業務を効率化しましょう
優良な電子帳簿は、単なるペーパーレス化を超え、企業の経理業務の信頼性、透明性、効率性を高めるための重要な取り組みです。過少申告加算税の軽減という直接的な税制メリットに加え、業務効率化や内部統制強化といった副次的な効果も期待できます。
導入にはコストや手間がかかりますが、長期的な視点で見れば、企業の競争力強化や持続的な成長に貢献する投資と言えるでしょう。
会計初心者の方にとっては、少し難しく感じる部分もあるかもしれませんが、まずは基本的な仕組みとメリット・デメリットを理解することから始めてみてください。そして、自社にとって優良な電子帳簿を導入する価値があるかどうか、具体的な検討を進めてみてはいかがでしょうか。
デジタル化が進む現代において、適正で効率的な帳簿管理体制を構築することは、企業経営の基盤を強化することに他なりません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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