• 作成日 : 2025年5月28日

建設業の労務費とは?人件費との違いや計算方法、割合の目安などを解説

建設業において、労務費は工事原価の大部分を占め、経営に大きな影響を与える重要な要素です。しかし、労務費は単に作業員への給与だけを指すのではなく、複雑な内訳があり、その正確な把握と管理には専門的な知識が求められます。

この記事では、労務費の定義や人件費・外注費との違いから、建設業特有の労務費管理の課題、具体的な改善策、関連する法規制や業界動向まで幅広く解説しています。建設業の経営改善を目指すために、ぜひご一読ください。

建設業における労務費とは

建設業において労務費は、工事の原価に占める割合が大きいため、正確に把握し管理することが求められる費用です。ここでは、建設業における労務費の定義を明確にし、混同されやすい人件費や外注費、法定福利費との違いについても解説します。

労務費の定義

労務費とは、建設工事を実施する際に現場で作業を行う作業員や技術者、管理スタッフに支払われる費用のことを指します。具体的には、作業員への給与や日当、各種手当、残業代、賞与などが含まれます。また、これらは工事の施工に直接関わる「直接労務費」と、施工を支援・管理する「間接労務費」の二つに分類されるのが一般的です。

労務費は、工事原価計算の際に明確に区分して把握する必要があり、企業の利益率を左右する重要な費用項目として扱われます。

労務費と人件費の違い

労務費とよく似た用語に人件費があります。

人件費は企業が従業員に支払うすべての費用を指し、作業員の給与だけでなく、本社の管理部門や営業部門など工事に直接関係しない従業員への費用も含まれる広い概念です。それに対して、労務費は工事に関連する作業員やスタッフに支払われる費用を指し、工事原価に関連づけて管理される費用を意味します。

つまり、人件費は企業全体の人材にかかる費用、労務費は工事にかかわる作業員等に限定された費用となります。

労務費と外注費の違い

建設業では、自社の従業員以外にも下請業者など外部の企業に工事を委託することがあります。その際に発生する費用が外注費です。

労務費は自社が直接雇用している作業員に支払う費用であるのに対し、外注費は外部業者に対して契約に基づいて支払う費用です。外注費は、工事原価として労務費とは明確に分けて計上され、税務・会計処理上も異なる扱いをします。

建設業における労務費の種類

建設業の労務費は、工事の実施に直接的に関わるものと、間接的に関わるものとに分類されます。ここでは、それぞれの特徴や具体的な内容について解説します。

直接労務費

直接労務費とは、工事現場で実際の施工を行う作業員や職人などに対して支払う費用のことです。これは工事原価に直接的に結びつき、工事の種類や規模によって変動します。

具体的には、現場で実際に作業をする大工やとび工、土工、電気工事士、配管工、重機オペレーターなどの作業員に支払われる日給や時給、残業代、現場手当、各種割増賃金などが該当します。

間接労務費

間接労務費とは、工事に直接関わる作業員ではなく、工事の管理や施工支援を行うスタッフに対して支払われる費用のことです。これらは工事原価に間接的に関係し、特定の工事だけではなく複数の工事や現場の管理に関わるケースが一般的です。

具体的には、現場監督者、安全管理担当者、施工管理技士、現場事務スタッフなど、現場の作業員を支援・管理する従業員にかかる給与、賞与、各種手当などが含まれます。また、本社に所属しつつも現場支援業務を担当する技術者の費用なども間接労務費として扱われます。

建設業における労務費の内訳

建設業における労務費は、単純な給与や日当だけでなく、さまざまな項目から構成されています。

  • 給与・基本給
    従業員や作業員への月給、日給、時給など
  • 各種手当
    現場手当、通勤手当、資格手当、住宅手当、家族手当など
  • 残業代・割増賃金
    残業代、深夜勤務手当、休日勤務手当など
  • 賞与・特別手当
    業績や個人の貢献に応じたボーナス
  • 社会保険料(法定福利費)
    健康保険、厚生年金雇用保険、労災保険など
  • 退職給付金
    退職金制度のための費用

建設業における労務費の計算方法

建設業で適切な労務費管理を行うためには、労務費を正確に計算することが不可欠です。ここでは、建設業における労務費の計算方法を具体例とともに解説します。

直接労務費の計算方法

直接労務費は、工事に直接従事する作業員や職人にかかる費用であり、基本的には作業時間(または作業日数)と賃金単価を掛けて算出します。

直接労務費の基本的な計算式は次のとおりです。

直接労務費 = 作業員数 × 作業日数(または作業時間) × 日給(または時給)

たとえば、ある現場で作業員5人が10日間作業し、作業員の日給が1人当たり15,000円だった場合の直接労務費は、以下のようになります。

直接労務費 = 5人 × 10日間 × 15,000円 = 750,000円

間接労務費の計算方法

間接労務費は、特定の工事に直接的に関わらず、複数の現場や工事を管理・支援するスタッフ(現場監督、安全管理者など)にかかる費用です。間接労務費は各現場や工事に対して、一定の配賦基準を設けて割り振ることが一般的です。

直接労務費を配賦基準とした間接労務費の配賦計算式は次のとおりです。

間接労務費(配賦額)= 間接部門の総労務費 ×(各工事の直接労務費 ÷ 全工事の直接労務費の合計)

たとえば、ある建設会社で月間の間接部門(現場監督者など)の労務費が500,000円で、ある特定の工事の直接労務費が750,000円、その月の全工事の直接労務費の合計が3,000,000円だった場合は、以下のようになります。

間接労務費(配賦額)= 500,000円 ×(750,000円 ÷ 3,000,000円)= 125,000円

建設業における労務費の仕訳

建設業では、労務費を適切に管理し、正確な原価計算を行うために、正しい会計上の仕訳が必要となります。ここでは、建設業における労務費の具体的な仕訳方法を解説します。

直接労務費の仕訳

直接労務費は、工事原価の中で「労務費」という勘定科目を使用して仕訳します。たとえば、現場作業員に日当や給与として現金500,000円を支払った場合の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
労務費500,000円現金500,000円

間接労務費の仕訳

間接労務費の勘定科目も現場監督者であれば「労務費」、本社の技術者であれば「給料手当」などの勘定科目を使いますが、これらを対象となる現場やプロジェクトに配賦することになります。

たとえば、現場監督者に給与として銀行振込で300,000円を支払った場合の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
労務費(間接労務費)300,000円普通預金300,000円

その後、間接労務費を、各工事への配賦計算を行い、適正な工事原価として仕訳します。間接労務費を複数の工事に配賦する場合は、配賦の割合に応じて各工事の原価に振り替える仕訳が必要となります。

建設業の労災保険料算定に使用する労務費率とは

厚生労働省は、労災保険料の計算にあたり、請負による建設事業など賃金の把握が困難な場合に使用する労務比率を定めています。

建設業における労務費率は、毎年、工事の種類や社会情勢を考慮して見直され、厚生労働省から発表されています。令和6年度(2024年度)における代表的な労務費率は以下のようになっています。

  • 建築事業(既設建築物設備工事業を除く):23%
  • 道路新設事業:19%

建設業の労災保険料は、次の計算式によって算出されます。

労災保険料 = 請負金額 × 労務費率 × 労災保険率

つまり、厚生労働省が定めた労務費率が上昇すれば、その分企業の労災保険料負担も増加します。企業としては、この労務費率を常に把握し、労災保険料の負担を見込んだ経営計画や見積りを行う必要があります。

労務費率を正確に理解し、労災保険料を適切に管理することは、建設業の健全な経営を行う上で重要な要素の一つです。

建設業における労務費率の目安

建設業の労務費率は、工事の種類や現場の状況、人件費の変動などによって大きく変わります。この章では、建設業における労務費率の目安や近年の推移について具体的に解説します。

建設業の労務費率の目安

建設業の労務費率の目安は、以下のとおりです。

  • 建築工事:約25%前後
  • 土木工事:約20%前後
  • 内装・仕上げ:約25%前後

とくに内装や仕上げ工事のような作業者の技術や手作業が求められる工事では、労務費率は高くなりやすくなります。反対に、重機や機械を多用する土木工事では比較的労務費率は低くなる傾向があります。

建設業の労務費率の推移

近年、建設業の労務費率は上昇傾向にあります。主な理由は、作業員や技術者不足による人件費の上昇です。また、働き方改革の推進により残業管理が厳格化され、残業代が増加したことも、労務費率を押し上げる要因となっています。

建設業における労務費管理の課題

建設業は他の業界に比べ、人件費の占める割合が高く、また作業が現場ごとに異なるため、労務費の管理には特有の難しさがあります。ここでは、建設業においてとくに問題となりやすい労務費管理の課題について解説します。

技能労働者不足により人件費が高騰している

建設業界では、深刻な技能労働者不足が続いており、人材を確保するために他社との競争が激化しています。その結果、給与や手当などの人件費が上昇し、企業の労務費率が上昇する要因となっています。とくに大都市圏や大規模プロジェクトにおいて、この傾向が顕著であり、人件費の高騰が工事の収益性を圧迫しています。

間接労務費の配賦基準が曖昧になりやすい

現場監督者や安全管理担当者などの間接労務費は、複数の工事にまたがって業務を行うことが多く、どの現場にどの程度費用を配分すべきかが曖昧になりがちです。配賦基準が曖昧なままでは、工事ごとの正確な原価計算が難しく、採算性を把握することができなくなります。そのため、間接労務費の配賦方法を明確にする必要があります。

建設業の労務費を抑えるための具体的な対策

建設業では労務費が工事原価に占める割合が高いため、そのコントロールが経営改善の重要なポイントとなります。ここでは、建設業において労務費を抑えるための具体的な対策を解説します。

歩掛(ぶがかり)を活用した工程管理

建設業における労務費削減の基本的な対策の一つが、歩掛の活用です。歩掛とは、特定の作業を完了させるのに必要な作業員数や作業時間の標準的な目安を指します。歩掛を活用することで、工事ごとに適正な人数・作業時間を割り出し、現場作業員の無駄な配置や稼働の非効率を防ぐことができます。

業務効率化による労務費の削減

労務費を抑えるためには、単に人員数を減らすのではなく、作業効率を向上させることが重要です。作業効率が上がれば、同じ工事を少ない人数や短い時間で完了できるため、結果的に労務費が抑制されます。

ITツール活用による労務管理の効率化

近年、建設業でもITツールやシステムの導入が進んでおり、労務費削減にも大きな効果を発揮しています。とくに労務管理に特化した勤怠管理システムや現場管理アプリを導入することで、作業員一人ひとりの勤務状況や稼働時間をリアルタイムで正確に把握できるようになります。

建設業の労務費を管理して経営を改善しましょう

建設業における労務費は、工事原価の大部分を占める重要な費用項目です。単なる給与にとどまらず、手当、賞与、社会保険料、退職金など多岐にわたり、直接労務費と間接労務費に分類されます。また、外注費とは異なる扱いが必要で、正確な配賦と仕訳が不可欠です。労務費率の上昇や人材不足、管理の複雑さといった課題に対応するには、歩掛の活用やITツールによる効率的な労務管理が求められます。


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