- 更新日 : 2025年5月7日
下取りの仕訳とは?パソコンや機械の買い替えなどわかりやすく解説
パソコンや車両、機械などを買い替える際、「下取り」が行われることがあります。古いものを引き取ってもらい、その分を新しい資産の購入代金から差し引くという形です。しかし、経理の立場から見ると売却と購入が同時に行われる複合取引」であり、仕訳をどう処理すればよいか迷うこともあるでしょう。
この記事では、下取りの基本的な仕訳の考え方、処理の流れ、勘定科目、実務でよくある具体例までをやさしく解説します。
目次
下取りの仕訳とは?
「下取り」とは、使っていたパソコンや車両などを引き取ってもらい、その評価額を新たな購入金額から差し引いて取引する方法です。下取り額は実質的には「売却代金」として扱われるため、売却と購入が同時に起きている取引として仕訳を考える必要があります。
特に固定資産を下取りに出した場合には、帳簿上の未償却残高(帳簿価額)との比較により売却益または損失が発生することがあります。これを正しく記録しないと、損益のズレが発生する原因になります。
下取りと通常の売却の違い
通常の売却では、古い資産を第三者に売却して代金を受け取り、その後、新しい資産を購入します。この場合、それぞれの取引が個別に完結しています。
一方で下取りは、「古い資産の売却」と「新しい資産の購入」が一つの契約の中で相殺されるため、帳簿上の処理もやや複雑になります。
たとえば次のようなケースがあったとします。
- 新しいパソコンの購入価格:150,000円
- 古いパソコンの下取り額:30,000円
- 実際の支払額:120,000円
このような取引では、単純な支出だけでなく、「下取り分が売却として処理できるか」「新資産の値引きとして処理すべきか」など、いくつかの判断が必要になります。
下取り時の仕訳の流れ(法人の場合)
下取りの会計処理は、「資産の売却」と「新しい資産の購入」が同時に行われるため、仕訳も少し複雑になります。
特に、下取りに出した資産が固定資産である場合は、未償却残高や売却益・損失の計算が必要になります。
下取りの仕訳は次のような流れで進めるとスムーズです。
- 古い資産の帳簿価額を確認
- 下取り額との差を「売却益」または「売却損」として記録
- 新しい資産を取得原価で帳簿に記録
ここでは、基本的な処理の流れを3つのステップで整理していきます。
1.下取りに出す資産の帳簿価額を確認する
まず、下取りに出す資産の「帳簿価額(未償却残高)」を確認します。
帳簿価額とは、購入価格からこれまでの減価償却費を引いた残りの金額です。
たとえば、購入価格が200,000円で、減価償却累計額が150,000円だった場合、帳簿価額は次のようになります。
この金額が、売却または下取りにおける基準となります。
2.下取り価格との比較で売却益 or 損失を判定する
次に、下取り価格と帳簿価額を比較し、「売却益」または「売却損」を計算します。
- 下取り価格 > 帳簿価額 → 売却益が出る
- 下取り価格 < 帳簿価額 → 売却損が出る
たとえば、帳簿価額が50,000円で、下取り価格が30,000円の場合、差額の20,000円は固定資産売却損として費用計上されます。
逆に、下取り価格が60,000円だった場合は、10,000円の売却益を「固定資産売却益」として収益計上します。
3.新しい資産の取得価額を記録する
最後に、新しい資産の取得価額を帳簿に記録します。
たとえば、新しいパソコンを150,000円で購入し、旧パソコン(購入時に消耗品費として処理したもの)の下取り額30,000円を差し引いた支払額が120,000円だったとします。
この場合、仕訳は次のようになります:
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
備品 | 150,000円 | 普通預金 | 120,000円 |
固定資産売却益 | 30,000円 |
※下取り分を「固定資産売却益」として処理する前提です。
下取りをして新規購入した際の仕訳方法(法人の場合)
下取り付きの資産購入では、①旧資産の売却処理、②新資産の取得という2つを分けて仕訳し、最後に合算すると内容がはっきりします。
ステップ1:古い資産の売却
まず、古い資産の帳簿価額(減価償却後の残高)を帳簿から除き、売却の処理を行います。
例:
古い備品の取得価額 150,000円
減価償却累計額 120,000円 → 帳簿価額は 30,000円、下取り価格は60,000円
このときの仕訳は次の通りです:
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 120,000円 | 備品 | 150,000円 |
普通預金 | 60,000円 | 固定資産売却益 | 30,000円 |
帳簿価額より下取り額が高い場合は、差額を「固定資産売却益」として処理します。
ステップ2:新しい資産の取得
最後に、新しく購入した資産を帳簿に記録します。たとえば、新しい備品を 180,000円で購入した場合:
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
備品 | 180,000円 | 普通預金 | 180,000円 |
最後に2つの仕訳を合算します。
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
備品 | 180,000円 | 普通預金 | 120,000円 |
減価償却累計額 | 120,000円 | 備品 | 150,000円 |
固定資産売却益 | 30,000円 |
ステップ1で発生した下取り額 60,000円を充当することで、実質的に支払額が 120,000円になります。帳簿上では、下取りは売却として扱うため、「購入額から下取り額を引く」という考え方ではなく、新しい資産はそのまま総額で計上し、下取りは別取引として処理することがポイントです。
下取りで売却益が出た場合の仕訳(法人の場合)
下取り処理では、古い資産を「売却」として扱います。そのため、下取り価格が帳簿価価額(未償却残高)を上回ると、売却益が発生します。
この売却益は「固定資産売却益」として収益に計上します。
例として、古いパソコンを次の条件で下取りに出した場合を考えてみます。
- 取得価額:120,000円
- 累計減価償却費:100,000円
- 帳簿価額(未償却残高):20,000円
- 下取り額:40,000円
下取り額が帳簿価額を20,000円上回っているため、この差額が売却益になります。
仕訳例:下取り額が帳簿価額より高いケース
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 100,000円 | 備品 | 120,000円 |
普通預金または未収入金 | 40,000円 | 固定資産売却益 | 20,000円 |
- 「備品」120,000円は取得原価です。
- 「減価償却累計額」100,000円で帳簿価額が20,000円。
- 下取り額40,000円に対して、帳簿価額との差額20,000円が売却益として計上されます。
- 現金受領がない場合は未収入金とする場合もあります。
会計上の注意点
【ケース別】下取り仕訳の具体例(法人の場合)
下取りが使われる場面はさまざまですが、よくあるのはパソコンや電化製品、機械設備、車両などの買い替え時です。
それぞれのパターンで、仕訳例とその解説を紹介します。
パソコン・電化製品の下取り
古いノートパソコン(取得価額:100,000円、減価償却:80,000円)を下取りに出し、新品のパソコンを150,000円で購入。
下取り額は30,000円、差額120,000円を支払い。
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
備品 | 150,000円 | 普通預金 | 120,000円 |
減価償却累計額 | 80,000円 | 備品 | 100,000円 |
固定資産売却益 | 10,000円 |
古いパソコンの帳簿価額は20,000円。下取り額がそれを上回っているので、差額10,000円が「固定資産売却益」となります。
機械設備の下取り
旧型の製造機械(取得価額:1,000,000円、減価償却累計額:850,000円)を新型に買い替え。
下取り価格100,000円、新しい機械の購入価格は1,200,000円。差額1,100,000円を支払う。
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
機械装置 | 1,200,000円 | 普通預金 | 1,100,000円 |
減価償却累計額 | 850,000円 | 機械装置 | 1,000,000円 |
固定資産売却損 | 50,000円 |
帳簿価額が150,000円に対して下取り額100,000円 なので、売却損が50,000円となります。
車両の下取り
社用車(取得価額:2,000,000円、減価償却累計額:1,800,000円)を下取りに出し、新車(3,000,000円)を購入。下取り額は300,000円、実際の支払額は2,700,000円。
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
車両運搬具 | 3,000,000円 | 普通預金 | 2,700,000円 |
減価償却累計額 | 1,800,000円 | 車両運搬具 | 2,000,000円 |
固定資産売却益 | 100,000円 |
車両の帳簿価額が200,000円。下取り額がそれを上回るため、売却益100,000円が発生します。
個人と法人の下取りの仕訳
下取りの会計処理は、基本的には「資産の売却」と「新しい資産の取得」という2つの要素から成り立っています。この考え方は、法人でも個人事業主でも共通しています。
ただし、処理の際に使う勘定科目や税務上の処理に違いがあります。ここではそれぞれの立場に分けて解説していきます。
法人の場合
法人では、固定資産台帳や減価償却累計額の管理が必須です。
これまでに記載してきた仕訳例はすべて法人の仕訳ですので、そちらをご覧ください。
個人事業主の場合
個人事業主の場合、下取りは譲渡所得として申告することとなります。
例:個人が業務用パソコンを下取りに出して新品を購入(帳簿価額:30,000円、下取り額:20,000円)
借方(費用・資産) | 貸方(負債・資本) | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 120,000円 | 備品 | 150,000円 |
備品 | 120,000円 | 現金 | 100,000円 |
事業主貸 | 10,000円 |
個人事業主でも、「旧資産の売却」「新資産の記帳」は基本的に法人と同じ流れで行いますが、固定資産売却損益は計上せず、事業主貸または事業主借で計上します。そして下取り部分については譲渡所得となるため、譲渡所得の内訳書を作成し、譲渡所得として確定申告をする必要があります。
個人・法人の違いまとめ
比較項目 | 法人 | 個人事業主 |
---|---|---|
減価償却の記帳 | 必須(毎期) | 法人と同様 |
勘定科目の名称 | 「工具器具備品」「固定資産売却益/損」など | 「工具器具備品は」同様。「固定資産売却損益」は計上せず、事業主勘定で処理し、下取りについては譲渡所得として申告する必要がある |
台帳管理 | 固定資産台帳で厳格に管理 | 法人と同様 |
処理の考え方 | 売却と取得を完全に分けて記録 | 法人と同様 |
下取り時の会計処理や仕訳のポイント
ここでは、実務で特に気をつけたいポイントを6つに分けてご紹介します。
1.下取り額は「売却」として処理する
下取り価格は、単なる割引ではなく「売却代金」として扱います。
新しい資産の取得価額から下取り額を差し引いて処理してしまうと、新資産の取得原価が正確に表示されなくなり、減価償却費も誤ってしまいます。
会計上は、新しい資産は「総額」で記帳し、下取り分は売却処理として別に記帳するのが正しい方法です。
2.帳簿価額との比較で損益を判断する
古い資産の帳簿価額(未償却残高)と下取り額を比較して、売却益または売却損を計算します。
この計算を誤ると、本来計上すべき損益が漏れる可能性があります。
帳簿価額の確認には、減価償却累計額が正しく記帳されていることが前提となるため、固定資産台帳や減価償却明細書を事前に見直しておくと安心です。
3.減価償却の計上漏れに注意
資産を下取りに出す直前まで、減価償却を計上していないことがあります。
減価償却費を直前まで計上していないと、帳簿価額が本来よりも高くなり、売却損が過大に計上されてしまう恐れがあります。
特に、期中での買い替えの場合には、直近の減価償却も忘れずに処理しておくことが大切です。
4.新資産の取得価額は「総額」で記録
下取り額を差し引いた金額を取得価額としてしまうと、減価償却の計算基準が低くなり、今後の費用計上が適正に行えません。
たとえば、新しいパソコンが150,000円で、30,000円の下取りがある場合でも、「備品」の取得価額は150,000円で記録し、下取りは売却処理として分けて記帳します。
5.消費税の処理にも注意
消費税は、売却した資産にも、新たに購入した資産にも発生します。
下取りで相殺されるからといって、相殺した処理をすることは税務上できません。
消費税の処理を忘れると、申告漏れや還付ミスが起こる可能性があるため、取引明細や請求書に税額の記載があるかを確認しておきましょう。
6.メモ書きではなく仕訳で処理する
実務では「下取りで差し引きされたから支払いだけ記帳した」という対応がされがちですが、これは会計上の正確性を欠く処理です。
売却益・損の計上、新しい資産の取得価額の記録、減価償却の調整といった処理はすべて仕訳を通じて行うべきであり、口頭の伝達やメモだけでは決算対応が不十分になります。
資産の入れ替えを帳簿でも丁寧に記録しよう
パソコンや車両、機械などの入れ替えは、会社の日常業務でもよくある場面です。特に下取りを使った取引では、古い資産の除却と新しい資産の取得が一度に発生するため、帳簿の整理があいまいになりがちです。
売却益や損失を正しく計上し、新しい資産の取得価額を適切に記録することで、資産管理や損益の見通しがぐっと明確になります。日々の取引の中でも、こうした入れ替え時の処理を丁寧に行うことで、会計の精度が自然と高まっていきます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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