- 作成日 : 2025年5月7日
不動産売却の仕訳はどうする?個人と法人のやり方を具体例つきで解説
不動産を売却したとき、収入や経費が大きく動くため、仕訳も複雑になりがちです。土地や建物を売った場合、どの勘定科目を使えばよいのか、減価償却はどこまで行うのか、仲介手数料や登記費用はどう処理するのかなど、迷う場面も多いでしょう。さらに、法人と個人事業主とでは処理の内容も変わります。
この記事では、不動産の売却にともなう仕訳や会計処理の方法を、仕訳例を使いながら、わかりやすく解説していきます。
目次
不動産売却の仕訳とは?
不動産の売却では、売上金額だけでなく、売却益・売却損や各種経費も関係してきます。仕訳のタイミングや使う勘定科目を間違えると、決算に大きなズレが出てしまうため、あらかじめ流れを理解しておくことが大切です。
仕訳の日付、タイミング
不動産の売却では、売買契約を結んだ日ではなく、物件の引き渡しが行われた日が仕訳を記録する基準日になります。実際の現金の受け取り日ではないので注意が必要です。
また、売買代金を分割で受け取る場合もありますが、引き渡し日にすべての収益や費用を認識します。会計上は「発生主義」で処理するため、現金の動きではなく、実際の取引が成立したタイミングで記録することになります。
不動産売却での勘定科目
不動産を売却する際には、以下のような勘定科目が使われます。目的や取引の内容に応じて適切に選ぶことが必要です。
土地には減価償却がありませんが、建物や構築物などは減価償却が行われるため、計算方法にも違いが出ます。会計処理のなかでこうした違いを丁寧に反映することが、実務ではとても大切です。
不動産売却の法人と個人事業主での会計処理の違い
不動産の売却は、法人と個人事業主とで処理の考え方が変わります。使う勘定科目は似ていても、税金の扱いや利益の取り扱い方が異なります。ここでは、それぞれ視点から違いを整理していきましょう。
不動産売却の損益
法人が不動産を売却した場合、帳簿上の価格(簿価)と売却金額との差額を「固定資産売却益」または「固定資産売却損」として記録します。これらは法人税の計算に影響します。
一方、個人事業主が不動産を売却した場合、原則として同じように収益と費用を計算しますが、個人の場合は譲渡所得となり、所得税や住民税がかかり、確定申告において譲渡所得の内訳書などを作成する必要があります。
固定資産の扱い
法人では、事業に使っていた不動産は「固定資産」として扱われます。帳簿に記録され、売却時には帳簿からの削除と損益の認識が必要です。
個人事業主の場合も事業用に使っていた不動産は固定資産として管理されますが、自宅などの生活用資産を売った場合は処理が異なるケースがあります。この点で注意が必要です。
減価償却
建物や構築物などは、使用にともない価値が減っていくため、「減価償却費」として少しずつ費用化していきます。売却時には、これまでに減価償却してきた金額である「減価償却累計額」を加味し、残った価値(帳簿価額)と売却金額を比べて、利益か損失かを計算します。
土地には減価償却がありません。建物と土地を一緒に売る場合は、それぞれを分けて処理します。
消費税の扱い
不動産の売却にあたっては、消費税のかかるものとかからないものがあります。
- 建物の売却:課税取引
- 土地の売却:非課税取引
法人でも個人でも、建物部分には消費税がかかるため、課税事業者であれば消費税の申告・納付も必要になります。
売却時の手数料・諸費用
不動産を売るときには、仲介手数料や登記費用、測量費用などが発生します。これらは法人であれば「支払手数料」や「租税公課」などの費用として計上します。個人でも譲渡所得の譲渡費用になりますが、譲渡所得の内訳書に記載が必要になるため、領収書を保管しておきましょう。
法人税
法人が不動産売却で利益を出した場合、その利益も課税対象となります。売却益は原則として営業外収益または特別利益として扱われ、法人税の計算に含まれます。赤字の場合は売却損として損金になります。
【法人】不動産売却の仕訳例
法人が不動産を売却する場合、売却によって利益が出ることもあれば、損が出ることもあります。会計処理では、固定資産の除却、減価償却費の計上、そして仲介手数料などの諸費用も含めて仕訳を行います。ここでは、不動産売却の代表的な仕訳例を5つ紹介します。なお、仕訳をシンプルにするために減価償却費の累計額を固定資産の勘定から直接控除する直接控除法を前提として説明します。
売却益が発生した場合
建物や土地を帳簿価額よりも高く売却したときには、「固定資産売却益」が発生します。この利益は営業外収益として扱います。
仕訳例
建物の帳簿価額:1,000,000円
売却価格:1,500,000円
売却代金は現金で受領
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 1,500,000円 | 建物 | 1,000,000円 |
固定資産売却益 | 500,000円 |
このように、帳簿価額との差額を「固定資産売却益」として計上します。
売却損が発生した場合
帳簿価額よりも安く不動産を売却したときには、「固定資産売却損」として費用処理します。
仕訳例
建物の帳簿価額:2,000,000円
売却価格:1,600,000円
売却代金は普通預金に入金
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 1,600,000円 | 建物 | 2,000,000円 |
固定資産売却損 | 400,000円 |
売却損は営業外費用または特別損失として扱い、損益計算書にも反映されます。
土地と建物を同時に売却した場合
土地と建物の両方をまとめて売却した場合、それぞれの帳簿価額を個別に把握し、消費税の納税義務がある場合には売却額も合理的に按分して処理する必要があります。
仕訳例
土地の帳簿価額:3,000,000円
建物の帳簿価額:2,000,000円
合計売却額:6,000,000円(うち土地4,000,000円、建物2,000,000円)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 6,000,000円 | 土地 | 3,000,000円 |
建物 | 2,000,000円 | ||
固定資産売却益 | 1,000,000円 |
土地と建物の帳簿価額を合わせた合計5,000,000円に対して、売却額が6,000,000円なので、差額の1,000,000円が売却益となります。
減価償却費の計上
建物を売却する場合、一般的には売却までの期間の減価償却費を計上しておきます。これは、決算時だけでなく中途売却時にも適用されます。
仕訳例
建物の年間減価償却費:240,000円(月額20,000円)
売却時点で3か月経過
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 60,000円 | 建物 | 60,000円 |
この処理をしてから売却の仕訳を行うことで、正しい帳簿価額が反映されます。なお、売却する場合は期中の減価償却費を計上しないという方法もあり、その場合、期中の減価償却費は固定資産売却損益に含まれることとなり、所得の金額は変わりません。
手付金の発生
不動産売買では契約時に手付金が支払われることがあります。売却代金の一部を先に受け取った場合は、「前受金」で処理します。
仕訳例
手付金:1,000,000円を現金で受け取った場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 1,000,000円 | 前受金 | 1,000,000円 |
その後、物件の引き渡し日に固定資産売却損益を処理します。
【個人事業主】不動産売却の仕訳例
個人事業主が事業用の不動産を売却する場合も、会計処理が必要です。法人と同様に「売却益」や「売却損」が発生しますが、個人の場合は確定申告の際に「譲渡所得」として処理する点が異なります。また、日々の帳簿付けでは、簡易な記帳方法を使うこともあります。ここでは、代表的な仕訳例を紹介しながら解説していきます。
売却益が発生した場合
事業で使っていた建物などを帳簿価額より高く売ったときは、利益が出ますが、「固定資産売却益」は計上せず事業主借を用います
仕訳例
建物の帳簿価額:800,000円
売却価格:1,200,000円
売却代金は普通預金に入金
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 1,200,000円 | 建物 | 800,000円 |
事業主借 | 400,000円 |
売却益は「譲渡所得」として扱われ、確定申告で所得税の計算に影響します。
売却損が発生した場合
帳簿価額より安く売った場合には売却損が出ますが、「固定資産売却損」は計上せず事業主貸を用います
仕訳例
建物の帳簿価額:1,500,000円
売却価格:1,200,000円
売却代金は現金で受け取り
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 1,200,000円 | 建物 | 1,500,000円 |
事業主貸 | 300,000円 |
いずれのケースも譲渡所得となり、譲渡所得の内訳書を作成することとなります。
土地と建物を同時に売却した場合
土地と建物をセットで売却した場合、それぞれの帳簿価額と売却額を分けて記録します。個人でも、帳簿がしっかりしていれば法人と同じように仕訳できます。
仕訳例
土地の帳簿価額:2,000,000円
建物の帳簿価額:1,500,000円
売却価格:4,000,000円(土地2,500,000円・建物1,500,000円)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 4,000,000円 | 土地 | 2,000,000円 |
建物 | 1,500,000円 | ||
事業主借 | 500,000円 |
土地と建物の帳簿価額に対して利益が出ていれば、その差額を「事業主借」として計上します。
不動産売却にかかる費用の仕訳
不動産を売却する際には、売買に関する手数料や登録費用、測量などの実費が発生します。これらの費用は「売却に関連してかかった経費」として、会計上では売却損益の調整とするのが一般的です。ここでは、一例として仲介手数料の処理を説明します。
仲介手数料
不動産会社に仲介を依頼して売却を行った場合、契約が成立した際に仲介手数料を支払います。本取引では固定資産売却益が個の仲介手数料を考慮する前の段階で300万円出ていたとします。この場合は「固定資産売却益」の勘定科目で処理します。
仕訳例
仲介手数料:330,000円(うち消費税30,000円)を普通預金で支払った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
固定資産売却益 | 300,000円 | 普通預金 | 330,000円 |
仮払消費税 | 30,000円 |
仲介手数料は不動産売却にともって発生した費用のため、売却損益に含めます。
不動産売却の会計処理や仕訳のポイント
不動産の売却は、通常の取引に比べて金額が大きく、処理の内容も多岐にわたります。売却益や損失だけでなく、減価償却の有無や経費の計上、税金の扱いなど、いくつかのポイントを押さえることで、ミスのない経理処理ができます。ここでは、仕訳や会計処理で注意すべき点をまとめて紹介します。
減価償却は一般的には売却直前まで行う
建物などの減価償却資産を売却する場合、売却までの期間の減価償却費を計上するのが一般的です。売却した月までの月割り計算が必要となる場合もあります。未処理のまま売却仕訳を行うと、帳簿価額に誤差が出るため注意が必要です。
減価償却を行ってから売却処理を行うと、帳簿上も損益計算上も正確になります。
売却損益と経費を混同しない
仲介手数料や登記費用などの諸費用は、売却損益に含めるのではなく、それぞれ独立した経費として処理します。たとえば、売却で利益が出ていても、経費処理を誤ると不適切な利益操作と見なされることがあります。
経費と売却損益は別々に処理し、勘定科目を明確に分けましょう。
売却額と帳簿価額の差額に注目する
売却時には、帳簿価額との差額によって利益か損失かを判断します。帳簿価額には減価償却累計額も反映されているため、必ず「帳簿価額=取得価額-減価償却累計額」で確認してから処理を行います。
減価償却累計額を控除した帳簿価額と実際の売却価格を正確に把握することが大切です。
消費税の課税区分を確認する
建物の売却には消費税がかかりますが、土地の売却には消費税はかかりません。また、課税事業者か免税事業者かによっても処理は変わります。課税売上と非課税売上が混在する場合は、それぞれ区別して仕訳します。
土地と建物で消費税の扱いが異なるため、仕訳時には区分記録が必要です。
ローンの残債処理を忘れずに
売却と同時にローンの残債を一括返済するケースでは、借入金の処理もあわせて行います。また、返済にともって発生する手数料なども経費として処理する必要があります。
売却に付随する借入金の返済処理も同日に行い、整合性を保つようにしましょう。
不動産売却の仕訳は確認しながら進めよう
不動産の売却は金額が大きく、処理も複雑になりがちです。売却益や損失の計算だけでなく、減価償却や費用の仕訳、消費税の区分、ローン返済の記帳まで、ひとつずつ丁寧に確認することが大切です。勘定科目を正しく使い分け、帳簿にきちんと反映させることで、決算や確定申告もスムーズに進められます。今回紹介した仕訳例を参考に、実際の会計処理に役立ててください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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