- 作成日 : 2025年3月3日
償却原価法とは?定額法と利息法の違いや仕訳方法などをわかりやすく解説
償却原価法とは、債券の購入価額と額面金額の差額を調整する会計処理のことです。償却原価法には定額法と利息法の2つがあり、いずれかで処理をします。
この記事では償却原価法の具体的な意味、計算方法、仕訳の記載方法などを解説します。償却原価法について理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。
目次
償却原価法とは
償却原価法とは、債券を額面より高い価額あるいは低い価額で取得した場合に用いる会計処理方法です。差額を満期までの残存期間で按分して毎期計上し、財務諸表に反映させます。この場合の利益は、有価証券利息に計上されます。
償却原価法の具体的な方法として定額法と利息法の2種類があり、いずれかを選んで処理をすることが必要です。
定額法
定額法とは、債券などの取得価額と額面金額の差額を、各期で均一に分ける方法です。例えば差額が16,000円で期間が4年なら、償還日を迎えるまで毎年4,000円ずつ計上していきます。定額法を採用する場合、償却原価法の処理は決算日に行います。
定額法は利息法に比べて、計算方法が比較的単純なためわかりやすいのも特徴です。
利息法
債券(債務)などの利子額と金利調整差額分の合計額が、債券の価額に対して一定率になるよう、複利で各期の損益に配分する方法です。有価証券の利息と、債券の額面の利息を計算し、その差額を投資有価証券に計上します。
償却原価法を行う場合、利息法を適用するのが原則です。利息法の場合、償却原価法の処理は利払日に行います。
償却原価法の計算方法
以下の条件で、満期保有目的債券を取得した場合の計算方法について解説します。
- 額面金額:10,000円
- 取得価額:9,300円
- 期間:3年
- クーポン利率:年3%
- 実効利子率:年5.6%
- 利子支払い:年1回
定額法による計算方法
定額法の場合、取得価額と額面金額の差額を取得日から償還日まで、毎期均等に加減していきます。
1年目:決算日
債券自体の利息は、10,000×3%=300円です。1年あたりの差額は次のとおり算出します。
(10,000円-9,300円)×12か月/36か月=233円
2年目:決算日
2年目の利払日も1年目と同じ処理を行います。
1年分の差額:233円
3年目:決算日
3年目の利払日の処理内容も、1・2年目と同様です。
1年分の差額:234円(端数を調整)
投資有価証券の簿価を集計すると,、3年後には額面金額の10,000円になります。
利息法による計算方法
定額法が決算日に処理を行うのに対し、利息法は利払日に行います。
1年目:利払日
有価証券利息の計算は以下のとおりです。
9,300×5.6%=521円
債券自体の利息も計算します。
10,000×3%=300円
有価利息証券と債券の利息の差額である221円を、投資有価証券の簿価へプラスします。
521-300=221円
2年目:利払日
2年目で発生するのは利払のみです。複利になるため、1年目の投資有価証券の利息も加算して有価証券利息を算出することが必要です。
有価証券利息は以下の計算式で算出します。
(9,300+221)×5.6%=533円
以下の計算で求めた233円を、投資有価証券の簿価へプラスします。
533-300=233円
3年目:利払日
有価証券利息の計算は以下のとおりです。
(9,300+221+233)×5.6%=546円
投資有価証券の簿価にプラスする額は以下となります。
546-300=246円
投資有価証券の3年間の簿価を集計すると、額面金額の1万円になります。
償却原価法を適用する理由
償却原価法は、見慣れていないと「なぜこのような処理が必要なのか」と思うかもしれません。しかし、償却原価法を適用しないと、債券の帳簿上の価額は取得時のまま残ることになります。
何もしないと、帳簿上における債券は、利息を含めた実態を反映しない状態が継続することになってしまいます。そこで、実質的な利息を財務諸表へ反映するため、償却原価法で処理しなくてはなりません。
金利の調整とは
債券の発行において、発行価額を額面価額よりも低く設定するケースが見られます。額面金額より安く買えることで、購入者へお得感をアピールするためです。
この差額を利息の上乗せとみなす場合、上乗せの金額も利息に含めて会計処理するべきというのが償却原価法の考え方です。債券において、取得価額と額面金額との差額は金利の調整として処理されることになります。
金利の調整が認められるケース
金利の調整とは、具体的には以下のようなケースです。
- クーポン利子率を市場利子率よりも低く設定する代わりに、
額面金額より低い価額で売る債券 - クーポン利子率を市場利子率よりも高く設定する代わりに、
額面金額より高い金額で売る債券
クーポン利子率とは、債券の額面の金額に対する利息の割合です。市場利子率とは、債券が発行される際の一般的な利子率を意味します。
債券は何かメリットがなければなかなか購入してもらえません。このため、発行元は1つ目のケースのように、販売する額を額面金額より安くすることでメリットを作り出します。
しかし額面を低くするだけでは、発行元にとっては負担が重くなってしまいます。そこで利息を通常より低くすることで、市場と調整しようとすることが金利の調整です。
金利の調整が認められないケース
金利の調整が認められないケースとは、取得価額と額面金額の差額が、発行元の信用リスクを反映している場合です。ハイ・イールド債(ジャンク債)がこのケースに該当します。
ハイ・イールド債とは、国や企業の信用格付けが低い債券で、BB以下のものです。BB以下は信用リスクが高い債券とみなされ、投機的な格付けがされています。
ハイ・イールド債においての差額は信用リスクの高さが原因とみなされるため、金利調整差額とは認められないケースが多いです。
償却原価法をその他有価証券に適用するケース
償却原価法は、満期保有目的債券だけに限って適用されるものではなく、その他有価証券に適用されるケースもあります。その他有価証券とは、満期保有目的債券、売買目的有価証券、子会社株式および関連会社株式のどれにも分類できない有価証券のことです。
例えば、長期的な売却を想定している株式は、短期売買を目的とする売買目的有価証券には該当しません。また、取引先との業務提携を目的として保有する株式も、売買目的有価証券にはならず、その他有価証券として扱われます。
その他有価証券において額面価額と取得価額に差額が生じ、それが金利調整差額であるとみなされる場合は、償却原価法を適用して会計処理をします。
償却原価法を適用する場合の仕訳
償却原価法を適用する場合の仕訳方法を解説します。わかりやすくするため、前述の計算方法で用いた例をこちらでも使用します。
- 額面金額:9,300円
- 取得価額:10,000円
- 期間:3年
- クーポン利率:年3%
- 実効利子率:年7%
- 利子支払い:年1回
定額法による仕訳方法
1年目:債券の購入
借方に投資目的有価証券、貸方に現金や普通預金などを記載します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 投資有価証券 | 9,300円 | 現金預金 | 9,300円 | 債券の購入 |
1年目:決算日
利息の受け取りでは、借方に現金預金、貸方は有価証券利息を記載します。取得価額と額面金額の差額は、借方に投資有価証券、貸方に有価証券利息を記載して処理します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300円 | 有価証券利息 | 300円 | 利息受け取り |
| 投資有価証券 | 233円 | 有価証券利息 | 233円 | 取得価額と額面金額の差額 |
2年目:決算日
2年目の利払日の日付で、1年目と同様の処理を行います。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300円 | 有価証券利息 | 300円 | 利息受け取り |
| 投資有価証券 | 233円 | 有価証券利息 | 233円 | 取得価額と額面金額の差額 |
3年目:決算日
3年目も同様の処理を行いますが、差額に関する端数は調整します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300円 | 有価証券利息 | 300円 | 利息受け取り |
| 投資有価証券 | 234円 | 有価証券利息 | 234円 | 取得価額と額面金額の差額 |
3年目:償還
債券の償還時には、「貸していたお金が戻ってくる」意味の仕訳を行います。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 10,000円 | 投資有価証券 | 10,000円 | 償還 |
利息法による仕訳方法
1年目:債券の購入
債券購入時の処理は、定額法の場合と同様です。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 投資有価証券 | 9,300円 | 現金預金 | 9,300円 | 債券の購入 |
1年目:利払日
債券自体の利息は現金預金、有価証券の利息は投資有価証券として借方に記載し、貸方には有価証券利息を記載します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300円 | 有価証券利息 | 521円 | 有価証券利息受け取り |
| 投資有価証券 | 221円 | |||
2年目:利払日
2年目では利払のみ発生するため、利払があったことを仕訳で記載します。有価証券利息は複利になるため、1年目の投資有価証券も加算して算出することが必要です。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300円 | 有価証券利息 | 533円 | 有価証券利息受け取り |
| 投資有価証券 | 233円 | |||
3年目:利払日
1年目・2年目と同様の仕訳処理を行います。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300円 | 有価証券利息 | 546円 | 有価証券利息受け取り |
| 投資有価証券 | 246円 | |||
ここまでの仕訳で、投資有価証券の簿価は額面の10,000円と一致します。
3年目:償還
償還時の仕訳は、定額法の場合と同様です。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 現金預金 | 10,000円 | 投資有価証券 | 10,000円 | 償還 |
償却原価法を正しく適用しよう
償却原価法の意味や適用する理由、会計処理の方法を解説しました。債券の取得価額と額面の額に差がある場合に、金利の調整として簿価に反映させる方法です。
利息法はやや複雑ですが、一度理解すればほぼ問題なく仕訳ができるようになります。本記事で解説した方法を活用して、償却原価法を正しく適用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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