- 作成日 : 2025年2月5日
キャッシュフロー計算書では減価償却費をなぜプラスする?損益計算書との違いも解説
減価償却費は、損益計算書では費用として計上される一方で、キャッシュフロー計算書では資金の増加要因として扱われます。この仕組みを理解していないと、「なぜこうした処理が行われるのか」と感じることもあるでしょう。
本記事では、キャッシュフロー計算書における減価償却費の取り扱いや、損益計算書との関係性について詳しく解説します。
目次
キャッシュフロー計算書の減価償却費とは
キャッシュフロー計算書のなかで減価償却費がどのように扱われるかを理解するには、まず「キャッシュフロー計算書とは何か」「減価償却費とは何か」を整理しておく必要があります。両者の概念をしっかり把握すると、キャッシュフロー計算書において減価償却費がどのように影響を及ぼすのかが見えてきます。
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書とは、企業の一定期間における「現金および現金同等物」の増減を、営業活動・投資活動・財務活動の3つに分類して示す財務諸表です。現金の流れを明確にすることで、企業がどのように資金を獲得し、どのように支出しているのかが一目でわかる点が特徴といえます。
企業は利益が出ていても、手元資金が不足してしまえば倒産リスクに直面する可能性が否定できません。このような資金面の安全性を評価するため、キャッシュフロー計算書は損益計算書や貸借対照表と並ぶ主要な財務諸表として位置付けられています。
減価償却費とは
減価償却費とは、固定資産を取得した際の支出を、法定耐用年数にわたって費用配分する会計処理を指します。
減価償却費はあくまで会計上の費用配分であり、現金支出を伴わない点が大きな特徴です。購入時点に支出した金額を会計上で期間配分しているだけであり、キャッシュ(現金)そのものが同じタイミングで出ていくわけではありません。
キャッシュフロー計算書で減価償却費をプラスする理由
減価償却費は損益計算書上、費用としてマイナス項目である一方、キャッシュフロー計算書ではプラスされます。キャッシュフロー計算書を理解するうえで、「なぜ減価償却費をプラスするのか」という点に疑問が生じることもあるでしょう。
この背景には、損益計算書の作り方とキャッシュフロー計算書の作り方、そして両者が扱う対象の違いがあります。
損益計算書では、減価償却費をマイナスとして計上する
損益計算書は、収益と費用を期間配分という考え方を軸にして計上し、当期の利益を算出します。ここでいう費用は「企業がその期間に収益を得るために使用したコスト」であり、実際にキャッシュの出入りが生じたかどうかに必ずしも一致するわけではありません。
減価償却費は、その年に発生した現金支出ではなく、過去に購入した固定資産の費用化を継続的に行うものです。そのため、損益計算書においては「費用」に区分され、利益を押し下げるマイナスの要因として扱われます。
しかし、これはあくまで会計上の費用配分においてです。キャッシュの流出という事実が、減価償却費計上のタイミングで再び起こっているわけではありません。
キャッシュフロー計算書では、減価償却費をプラスして整合性をとる
キャッシュフロー計算書の営業活動の区分では、まず損益計算書上の税引前当期純利益をベースにスタートします。損益計算書が「発生主義」に基づいた利益を計上しているのに対し、キャッシュフロー計算書は「現金の増減」に注目するため、そのままではズレが生じます。
そこで、減価償却費のような「実際には現金支出を伴わない費用」を利益に加算し、あらためて手元にどれだけの現金があったのかを調整するのです。
つまり、損益計算書で費用として差し引かれた金額のうち、実際には支払いの発生しなかった部分を足し戻す必要があります。特に減価償却費はもともと過去に行われた支出を期間配分して計上するものであるため、当期にキャッシュが流出したわけではありません。
したがって、キャッシュフロー計算書では費用として計上された減価償却費をプラスすることで、現金流出の実態と帳簿上の費用計上とのズレを整合させています。
キャッシュフロー計算書と損益計算書の減価償却費の違い
キャッシュフロー計算書と損益計算書で減価償却費の扱いが異なる背景には、両者がそもそも注目する視点が違うという点が関係しています。損益計算書は「企業活動における一定期間の収益と費用のマッチング」を重視し、キャッシュフロー計算書は「現金および現金同等物の増減」を重視しているのが特徴です。以下では、その基本原則から実際の処理までを解説します。
会計処理の基本原則の違い
損益計算書は発生主義に基づく費用収益対応の原則を重視しており、企業が行った取引や経済的事象を会計期間に割り振り、当期の利益を計算します。ここでは「いつお金が動いたか」ではなく、「いつ収益や費用が発生したか」が重視されます。
一方、キャッシュフロー計算書は資金の流れを追うため、「いつキャッシュが実際に入出金されたか」という観点の現金主義です。発生主義とは異なり、キャッシュの動きそのものを把握することで、企業の資金繰りや投資活動の実態を明確にします。
つまり、損益計算書の数字を単に読み取るだけでは見えてこない実際のキャッシュの増加を、補完的に明らかにしてくれるものがキャッシュフロー計算書です。
損益計算書での処理
損益計算書における減価償却費の処理は、固定資産の取得に要した支出を耐用年数にわたって按分して、毎期の費用として計上する形をとります。例えば、耐用年数が5年の設備を500万円で取得した場合、定額法であれば年間100万円ずつ費用(減価償却費)を計上していくことになるでしょう。つまり、設備取得時点でまとめて費用に落とすのではなく、設備を使用している期間にわたって費用配分しています。
このようにして計上された減価償却費は、当期の損益計算書上では営業費用などに区分され、営業利益を減少させる要因です。利益計算の観点では、当期の収益に対応する費用として位置付けられるため、発生主義に基づいた処理として意義があります。
キャッシュフロー計算書での処理
一方、キャッシュフロー計算書では、損益計算書の税引前当期純利益などからスタートして、発生主義による収益や費用を現金主義ベースに修正していきます。ここで、当期に現金の支出を伴わない減価償却費は、損益計算書で費用として引かれた分だけ「現金支出と無関係な費用」として足し戻さなければなりません。
これはキャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」の区分内で「非資金取引に係る損益計算上の調整」として行われます。減価償却費や引当金繰入額など、現金支出を伴わない費用が該当します。
こうして、損益計算書上の利益からスタートした数字を実際の資金増減に近づけるための調整を行うのが、キャッシュフロー計算書の大きな特徴です。
キャッシュフローに減価償却費は影響しない?
ここまで見てきたように、減価償却費は実際のキャッシュ流出を伴わない会計処理です。設備を購入したタイミングでまとまった支出を行った後、そこから先は費用配分を行っているに過ぎないため、厳密には減価償却費自体が実際のキャッシュフローに直接影響を与えるわけではありません。
減価償却費が大きい企業であれば、営業利益は圧迫されていても、実際のキャッシュフロー(営業活動によるキャッシュフロー)は思ったより高い可能性があります。反対に、減価償却費がほとんど計上されない企業の場合は、営業利益と営業キャッシュフローが近い値になるため、利益と現金の動きが比較的直結しているといえるでしょう。
キャッシュフロー計算書と減価償却費の関係を正しく理解しよう
キャッシュフロー計算書では、損益計算書上で費用計上された減価償却費をプラスする処理が行われます。それは、減価償却費があくまでも「過去に支出した固定資産の購入費用の会計上の按分」であり、当期に現金流出を伴わない費用であるためです。
減価償却費が持つ特徴を理解し、キャッシュフロー計算書での加算処理を正しく読解できると、企業の実際の手元資金の推移を適切に評価できるようになるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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