- 作成日 : 2024年12月3日
電子取引の紙保存はなぜ廃止された?理由や対応方法を解説
電子帳簿保存法により、電子取引における書類は、原則電子データ上で保存する決まりになっています。企業によっては、電子データを紙面に印刷して保管するケースもありました。
しかし、2024年1月に宥恕措置が終了したため、電子取引で受信・送付した書類は電子データ上での保存が必要です。
本記事では、電子帳簿保存法において紙保存できる書類・できない書類や、電子取引関連書類の適切な保存方法を解説します。紙保存できる書類を把握していない方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
【電子帳簿保存法】電子取引上で扱った書類は紙保存ができない
電子帳簿保存法の改正により、電子取引で送付・受領を行った書類は、電子データ上での保存が義務付けられました。また、単純にデータを保存するだけでなく、指定の要件にしたがって保存する必要があります。
保存要件を満たし、電子上に書類を保存している場合は、別途紙面に印刷した書類を保存しても構いません。電子帳簿保存法で義務化されている電子保存とは、電子取引で授受した書類を電子上に保存することです。紙での保存は禁止されていないため、紙で保存している書類を処分する必要はありません。
ただし、紙面に印刷した書類単体では、正規の書類と認められなくなります。
紙保存が廃止された理由は?
電子データで扱った書類が紙保存できなくなった理由は、次の2つです。
- 紙書類と電子データの同一性・正当性を証明できないため
- 税務手続きの電子化に対応するため
所得税法・法人税法では、取引に際して相手から受け取った書類や、相手に交付した書類の写しを保存する義務があります。しかし、電子取引に関しては、紙面のみで保存すると原始記録(取引があったことを証明する記録)の保存が行われません。
また、税務手続きをデジタル化することで、経理業務のデジタル化移行を促すねらいもあります。
参考:国税通則法等の改正
紙保存できる書類・できない書類
電子帳簿保存法では、紙保存できる書類と、できない書類が区別されています。たとえば、手渡しや郵送で受け取った書類であれば、紙保存が可能です。しかし、電子データ形式で作成・送受信した書類は、電子保存する必要があります。
【保存可能】紙で発行・受領した書類
取引先から紙で受け取ったり、紙面で郵送した書類は、紙面で保存できます。次のような書類であれば、紙のまま保存しても問題ありません。
また、紙面で保存するスペースがない場合・検索性を上げたい場合は、スキャナ保存も検討しましょう。指定の要件を満たすことで、スキャナやプリンター、カメラで撮影した書類をデータ上で保管できます。
【保存不可】電子データ上でやり取りした書類
電子データで送受信した書類は、電子保存する必要があります。電子メールやクラウドサーバー経由で送受信した書類はもちろん、インターネットからダウンロードした書類や、インターネットFAXも電子保存の対象です。
法改正以前は、税務調査などの際に書類が提示・提出できることを条件に、印刷した紙面での保存が許可されていました。しかし、2024年現在は紙による保存が完全に廃止され、電子データ保存が義務付けられています。
【ケース別】電子帳簿保存法における書類の適切な保存方法
電子帳簿保存法において、授受した書類の取り扱い方法をご紹介します。ケース別に、対応方法を一覧でまとめました。
取引内容 | 保存方法 |
---|---|
取引先から紙で受領した書類 |
|
電子データ上で作成した帳簿書類 |
|
取引先に電子データで送付した書類 | 電子データ保存 |
取引先から電子データで受領した書類 | 電子データ保存 |
EDI取引で受領した書類 | 電子データ保存 |
取引先から紙で受領した書類
取引先から紙媒体で受け取った書類は、紙面で保存できます。また、スキャナで書類を読み込み、電子データ化して保存することも可能です。紙面の書類を電子データに変換して保存することを「スキャナ保存」と呼びます。
スキャナ保存では、紙面で受け取った書類自体を保存する代わりに、スマホやスキャナで読み込んだ電子データを保存できます。
電子データ上で作成した帳簿書類
電子上(パソコン・スマホなど)で自分が作成した帳簿書類は、任意でデータ保存を行うことになります。
紙面での保存も可能なので、電子データ保存と紙のいずれかを選択してください。ただし、電子データ保存を行う場合は、保存要件に従う必要があります。
このような保存方法を選択できる書類は、主に総勘定元帳や仕訳帳のような国税関係帳簿や、貸借対照表や損益計算書などの国税関係書類です。
取引先に電子データで送付した書類
取引先に電子上で作成した見積書・請求書などを、電子データ経由で送信した場合は、書類の控えをデータ上で保存する必要があります。電子的に作成・送付した書類を、紙面で保存することはできません。
また、書類の控えを保存する際は、改ざんのリスクを排除してください。次の4ついずれかの方法で、編集履歴を閲覧できるよう対策しましょう。
- タイムスタンプを付ける
- データの訂正・削除ができないシステムを導入する
- データの訂正・削除履歴が残るシステムを利用する
- 訂正削除を防止する事務処理規定を整備する
取引先から電子データで受領した書類
取引先から電子データで受領した書類も、電子保存の対象です。電子メールやクラウドサーバーなど、どのような方法でも、電子データのまま保存する必要があります。
ただし、連絡ミスによる誤字や書き損じが見られる書類や、取引を希望する企業から一方的に送られた営業書類などに、保存の義務はありません。
参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁、「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(問2)
EDI取引で受領した書類
EDI取引で授受した書類は、電子保存の必要があります。専用回線や通信回線を経由して取引を行うEDI取引も、電子取引に含まれるためです。
特定の取引に関連するEDIシステムにおいて、書類を送付・受領した場合は、EDIシステム上で保存しましょう。自社サーバーに移動しての保存も可能です。
紙保存できる書類・できない書類を、それぞれ適切に管理しよう
電子取引において授受した書類は、電子データ上で保存する義務があります。2021年の税制改正において、電子帳簿保存法が改正されたため、電子上で送信・受信した書類の紙保存ができなくなりました。
紙保存ができない書類は、電子データ上に原本がなければ、正規の書類として認められません。電子帳簿保存法の内容や保存要件を正しく知って、適切な保存方法を選びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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