- 作成日 : 2024年10月24日
電子帳票とは?電子化のメリットやシステムの選び方を解説
電子帳票とは、事業を営むうえで作成する帳簿や伝票を電子データ化したものです。近年では、電子帳簿保存法の改正やリモートワークの普及など、働き方の多様化により電子帳票を導入する企業が増加しています。
ここでは、電子帳票の概要や帳票を電子化するメリット、電子帳票システムを選ぶ際のポイントなどについて解説します。
目次
電子帳票は電子化された帳票のこと
電子帳票とは、事業活動を通じて作成される帳票を電子データ化したものです。
帳票とは、事業を営むうえで作成される総勘定元帳や仕訳帳などの「帳簿」と、入出金伝票や見積書、請求書などの「伝票」の総称です。
帳票を電子化すると、紙の証票に比べて業務効率化や管理コストの削減につながるなど、さまざまなメリットが期待できます。また、最新の法令対応の観点から、電子帳票の導入を決断する企業も増加しています。
電子帳票が普及しはじめたきっかけ
電子帳票が普及した背景には、法律の改正や働き方の変化が大きく影響しています。特に「電子帳簿保存法の改正」や「テレワーク・リモートワークの普及」により、帳票の電子化が一気に加速したといえるでしょう。
電子帳簿保存法の改正
電子帳簿保存法とは、事業を営むうえで作成する帳簿や書類を電子データとして保存するためのルールのことです。
1998年に施行された電子帳簿保存法は、たびたび改正が行われています。現在は電子データ保存の要件が一部緩和される一方で、データ受領した請求書や領収書などは電子データによる保存が義務付けられるなど、事業者にとっては電子化の必要性が高まっています。
電子帳簿保存法への対応を機に、帳票類もまとめて電子化してバックオフィス業務のデジタル化に踏み切る企業も増加しています。
なお、電子帳簿保存法については、別記事にて詳しく解説しているため、ご興味のある方はぜひ以下のリンクをご参照ください。
テレワーク・リモートワークの普及
テレワークやリモートワークの普及など、近年における働き方の多様化についても、電子帳票の導入を後押ししています。
電子化によって、オフィスにいなくても、インターネットを介してどこからでも帳票の確認や送付ができるため、働き方の多様化に対応した効率的な業務運営を実現できます。
また、紙の帳票に依存しないことで業務のデジタル化が進み、組織全体の生産性向上やスムーズな情報共有にも効果的です。
帳票を電子化する3つのメリット
帳票を電子化することによって、さまざまな効果が期待できます。以下のような電子帳票のメリットを正しく理解し、自社で導入すべきかどうかを慎重に検討しましょう。
コスト削減ができる
紙の帳票を管理するためには、印刷代や保管費用、郵送代などのさまざまなコストがかかります。
帳票を電子化することで、これらのコストを大幅に削減することが可能です。また、ペーパーレス化によってスムーズな業務フローを実現しやすく、全体的な運用コストの軽減にもつながるでしょう。
ハンコ出社の必要がなくなる
帳票の電子化により、署名や押印のためだけに出社する必要がなくなります。
従来の組織運営では、紙による社内申請や承認プロセスが大半であり、担当者が出勤しないと手続きがストップしてしまうような業務フローが一般的でした。
しかし、現在では電子帳票だけでなく、電子による署名や承認手続きが普及したことで、テレワーク環境でもスムーズに業務を遂行でき、ハンコ出社の手間を解消することが可能です。
経理業務を効率化できる
帳票の電子化は経理業務の効率化にも大きく貢献します。
特にAI-OCRによる読み取りやAPI連携を活用して、請求書や領収書を電子化することで、仕訳処理の自動化なども実現できます。
また、電子化によって検索や確認手続きが容易になるため、これらの作業工数が削減され、組織全体の生産性向上にもつながるでしょう。
電子帳票の基本的な仕組み
電子帳票は、取引内容やお金の流れを電子データとして記録することで、企業としての事業活動を支えます。具体的には、以下のような特徴が電子帳票の基本的な仕組みと言えるでしょう。
記載内容や項目は紙の帳票と同じ
電子帳票を作成する場合でも、記載内容やフォーマットについては紙の帳票と同様です。
あくまで作成した帳票を「紙と電子データのどちらで管理するのか」の違いであるため、帳簿の記載内容や請求書の様式などは変わりません。
PCやスマホで電子データとして情報を入力して帳票を作成する
電子帳票については、自社のパソコンやスマートフォンを使用して必要な情報を入力し、デジタル形式で作成するケースが一般的です。
たとえば、総勘定元帳や仕訳帳などの帳簿に関しては、社内の会計システムでの仕訳処理を通じて電子上で作成し、そのまま電子データとして保存します。
一方で、入出金伝票や請求書、領収書については、電子上で帳票を作成したり、取引先との間で電子データによってやり取りしたりするケースに加え、紙帳票をスキャンしてデータ化する方法もあります。
電子データとして保存される
作成された電子帳票については、基本的には紙に印刷することなく、そのまま電子データとして保存します。
電子データとして保存する場合には、クラウドストレージや社内のサーバーなど、セキュリティ対策が講じられた安全な保存体制を整備することで、ペーパーレス化を実現できます。
ただし、帳簿書類を電子上で保存する場合には、電子帳簿保存法で求められる要件を満たさなければなりません。帳票の種類や書類の受領方法などによって、データ保存する際の要件が異なるため、慎重な対応を心掛けましょう。
メールやクラウドサービス上で送付される
電子帳票のうち、見積書や請求書、領収書などの取引に関連する書類については、電子データのまま活用されるケースが一般的です。
電子帳票の導入に伴い、取引先との書類の授受についても、メール送信やインターネット上でのダウンロードなど、電子化に切り替える企業が増加しています。
なお、相手先から電子データとして受領する請求書や領収書については、電子帳簿保存法における「電子取引」に該当します。「電子取引」に関しては、原則として2024年1月1日からはデータ保存が義務付けられているため、取り扱いには注意しましょう。
帳票を電子化する2つの方法
帳票を電子化するには、いくつかの方法が挙げられます。ここでは、電子帳票を導入する際に、一般的に選択される2つの方法について紹介します。
PDFで電子データ化する
請求書や領収書などの書類をデータ化する場合には、PDF形式で運用するケースが多いです。
たとえば、ExcelやWordなどで作成した請求書データでも、簡単にPDFファイルへ変換できるため、取引先へのメール送信も容易に行えます。また、相手先から紙で受領した書類についても、スキャナによってデータ化し、PDFファイルなどで保存することが少なくありません。
ただし、紙媒体の書類をデータ化して電子上のみで保存する場合には、電子帳簿保存法における「スキャナ保存」の要件を満たしているかどうかを必ず確認しましょう。
電子帳票システムを導入する
電子帳票の導入にあたっては、専用のシステムを活用するケースも多いです。
特に総勘定元帳や仕訳帳などの帳簿に関しては、「会計システム」で作成するケースが大半です。なお、会計システムで作成した帳簿をそのまま電子データのみで保存する場合には、電子帳簿保存法における「電子帳簿等保存」に該当します。
一方で、自社が発行する請求書や領収書については、「電子帳票システム」の導入によって、デジタル化を推進する企業が増加しています。
電子帳票システムとは、企業間取引において作成する見積書や請求書、領収書などの書類を電子化し、業務効率化を図るためのシステムのことです。
電子帳票システムは、電子データとして帳票を送受信するだけでなく、取引先から受領した紙帳票を電子化する場合にも活用できます。読み取り機能に優れたシステムを有効活用すれば、ペーパーレス化をよりスムーズに実現できるでしょう。
電子帳票システムは主に2つの形態がある
電子帳票システムには、主に「オンプレミス・インストール型」と「クラウド型」の2つの形態があります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを正しく理解し、自社にとって最適な形態を選択しましょう。
オンプレミス・インストール型
オンプレミス・インストール型とは、企業内のサーバーやコンピューターに専用システムをインストールして運用する形態です。
一般的にカスタマイズ性に優れており、自社の業務フローやニーズに合った運用方法を追求しやすいというメリットがあります。また、社内セキュリティの管理下で運用できる点についても、この形態の強みといえるでしょう。
一方で、システムの更新やメンテナンスは自社で行う必要があるうえ、初期導入コストが高くなりやすいというデメリットもあります。
クラウド型
クラウド型とは、クラウドサービスの提供元が展開するサービスについて、インターネット上で利用する形態です。
サービスの提供事業者が機能アップデートを行うため、常に最新の状態でシステムを利用できるというメリットがあります。また、毎月の利用料が発生する代わりに、初期費用が低い点も強みとして挙げられます。
さらに導入手続きも容易で、インターネット環境さえあればどこでも利用できるため、テレワークやリモートワークを推進する場合にも有用です。
ただし、オンプレミス・インストール型に比べると、カスタマイズ性では劣りやすいため、独自性の強い業務フローには馴染みにくいというデメリットもあります。
電子帳票システムの選び方・ポイント
電子帳票システムを選ぶ際は、各種機能が業務に適しているかどうかを十分に検証し、システムの選定を行うことが重要です。具体的には、以下のようなポイントを重点的にチェックし、自社にとって最適なシステムを選択しましょう。
電子帳簿保存法に対応している
企業がペーパーレス化を目的として電子帳票を導入する際には、電子帳簿保存法への対応が最も重要なポイントです。電子帳簿保存法で求められる要件をクリアできなければ、紙ベースでの保管が必要となり、ペーパーレス化への移行は実現できなくなってしまいます。
電子帳票を導入し、バックオフィス業務のDX化を進める場合には、改ざん防止やタイムスタンプ機能が備わっているシステムを選択することで、電子帳簿保存法に適切に対応できる体制を整えましょう。
インボイス制度に対応している
2023年10月にインボイス制度が導入されたことにより、適格請求書発行事業者は適格請求書(インボイス)の記載要件を満たすフォーマットによって、請求書や領収書を作成する必要があります。
したがって、電子帳票システムを通じて請求書や領収書を作成する場合には、そのシステムがインボイス制度に対応しているかどうかを必ず確認しましょう。
また、会計システムを通じて取引先から受領する請求書や領収書をデータ保存する場合には、AI-OCR機能のあるシステムを選択することで、それらの書類に記載されたインボイス登録番号の読み取りや照合作業を自動化でき、経理業務の効率化にも役立ちます。
紙やPDFファイルを取り込むことができる
紙ベースやPDFファイルの帳票が混在するような企業では、それらの帳票をスムーズに取り込み、システム内で一元管理できる電子帳票システムがおすすめです。
特に紙帳票をスキャンしてシステム内にアップロードすることで、手入力によるヒューマンエラーの発生リスクを削減でき、デジタル管理への円滑な移行を実現しやすくなるでしょう。
テンプレートを利用できる
帳票を作成する際に、システム内で用意されたテンプレートを利用できることで、バックオフィス業務の効率化に役立ちます。
また、自社で利用する帳票のフォーマットを事前に設定できれば、取引の都度入力する手間を省くことができ、帳票作成の工数削減や入力ミスの防止にも効果的です。
特に取引量の多い企業では請求書の作成枚数も多いため、システムで用意されたテンプレートを有効活用することで、担当者の業務負担軽減にも貢献します。
帳票の送信・送付方法が複数ある
作成した帳票を取引先に送信する際、その送信手段が複数用意されているかどうかについても、システム選びにおける重要なチェックポイントです。
紙での郵送や電子メール、クラウド上でのデータ共有など、さまざまな方法で取引先に送付できるシステムであれば、取引先ごとのニーズに合わせた送信方法を柔軟に選択できます。
電子帳票で業務を効率化しよう
電子帳票を導入することによって、業務の効率化やコスト削減を追求する企業が増加しています。特に帳票を電子化することで、リモートワークへの対応や経理業務の効率化を実現できるうえ、リアルタイムでのデータ確認や業務の透明性向上も追求できるなど、さまざまなメリットを期待できます。
その一方で、ペーパーレス化を実現するためには、電子帳簿保存法に対応した電子帳票システムの導入が必要不可欠です。
電子帳票を導入する場合には、ペーパーレス化に向けた社内体制を整備することで、バックオフィス業務全体のデジタル化に取り組みましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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