- 更新日 : 2024年8月13日
貸倒懸念債権とは?判定基準や貸倒引当金の算定方法について
売掛金などの債権が将来、回収不能となるリスクに備えるために設定されるのが、貸倒引当金です。しかし、将来に回収不能となるリスクの大きさは、債権ごとに異なります。そこで債権をリスクの高さにより3つの区分に分けて、貸倒引当金の計算を行います。その区分の1つが「貸倒懸念債権」です。
ここでは、貸倒懸念債権の定義・判定基準・簿記、貸倒引当金の算定方法について解説します。
目次
貸倒懸念債権とは?
貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態にまでは至っていないものの、債務の返済に大きな問題が発生している、または発生する可能性が高い債務者に対する債権のことです。英語では「doubtful accounts receivable」などと呼ばれています。
一般的に債権は、債権者の経済状態や営業成績に応じて、一般債権、貸倒懸念債権、破産更正債権の三つの区分に分類されます。
貸倒懸念債権を区分している目的は、貸倒見積高を算出するにあたって、貸倒引当金設定額の算出方法を規定することです。
貸倒引当金とは、貸倒見積高を計算することにより発生する引当金のことです。
通常、貸倒懸念債権に関しては、キャッシュフロー見積法や財務内容評価法によって、貸倒見積額を算出することになっています。貸倒懸念債権は債権者側が計上する勘定項目ですが、通常一般債権とは区分せず、売掛金などの科目に含めて表示されます。また、貸倒引当金は、貸借対照表においては資産から引く手法で表示できます。
貸倒懸念債権の判定基準
貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態にまでは至っていないものの(1)債務の返済に大きな問題が発生している、または(2)発生する可能性が高い債権のことです。
「金融商品会計に関する実務指針」では、(1)債務の返済に大きな問題が発生しているとは「債務の返済に大きな問題が発生している」もしくは「債務の返済に大きな問題が発生しているなど弁済条件の大幅な緩和が行われていること」としています。
また、(2)発生する可能性が高いとは「業況が低調、または不安定で、財務内容に問題がある、過去の経営成績などを考慮しても、債務の一部を条件通りに弁済できない可能性が高いこと」としています。
所有している債権が貸倒懸念債権かどうかを判断するためには、取引先の財務諸表を入手して分析する、もしくは帝国データバンクなどに信用調査を依頼することになります。
貸倒懸念債権の貸倒見積高の算出方法
ここからは、貸倒引当金の金額をどのように算定するのかについて見ていきましょう。
金融商品会計基準では、債権の区分に応じ、「貸倒実績率法」「財務内容評価法」「キャッシュフロー見積法」の3つの方法を用いて、貸倒見積高を求めます。貸倒懸念債権では、このうち「財務内容評価法」「キャッシュフロー見積法」を用いて、貸倒見積高を求めます。
それぞれの計算方法について、見てみましょう。
財務内容評価法
財務内容評価法とは、債務者の財政状態や経営成績を考慮して、貸倒見積高を算定する方法です。
具体的には、債権の額から担保の処分見込額や保証による回収見込額を差し引き、その差引額に、債務者の状況から設定した貸倒引当金の設定率を乗じて、貸倒見積高を求めます。
キャッシュフロー見積法
キャッシュフロー見積法とは、債権の元本の回収及び利息の受取りについて、当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法です。
債権の元本の回収や利息の受取りのキャッシュフローを合理的に見積ることができる債権は、キャッシュフロー見積法が適用されます。
貸倒引当金懸念債権の仕訳方法
ここからは、財務内容評価法、キャッシュフロー見積法、それぞれの仕訳方法を具体的に見ていきましょう。
財務内容評価法
例)取引先A社の財政状態を精査したところ、A社の売掛金100万円は、貸倒懸念債権に該当した。
そこで、担保の処分見込額10万円を差し引いた残額の50%を貸倒引当金として設定することになった。
貸倒引当金繰入額=(売掛金残高100万円-担保処分見込額10万円)×50%=45万円
貸倒引当金繰入 | 450,000円 | 貸倒引当金 | 450,000円 |
キャッシュフロー見積法
例)取引先B社に対する貸付金100万円について、B社から条件緩和の申し出があった。
弊社は、条件緩和の申し出を受けるとともに、当該貸付金を貸倒懸念債権として貸倒引当金を設定する。
なお、計算した将来キャッシュフローの割引現在価値は80万円だった。
将来キャッシュフローの割引現在価値は、計算しやすい金額にしている。
貸倒引当金繰入額=(売掛金残高100万円-将来キャッシュフローの割引現在価値80万円)=20万円
貸倒引当金繰入 | 200,000円 | 貸倒引当金 | 200,000円 |
貸倒懸念債権は、特別な表示区分や勘定科目を使用する必要はありません。貸借対照表では、一般の売掛金や貸付金などの債権に含めて表示します。
一般的に貸倒引当金繰入は、対象となる債権が売掛金のような営業債権である場合は「販売費及び一般管理費」区分、貸付金のような営業外債権である場合は「営業外費用」区分で表示をします。
貸倒懸念債権を理解して、正しく計算された貸倒引当金を計上しよう
一般的に債権は、債権者の経済状態や営業成績に応じて、一般債権、貸倒懸念債権、破産更正債権の三つの区分に分類されます。
貸倒懸念債権は、経営破綻の状態にまでは至っていないものの、債務の返済に大きな問題が発生している、または発生する可能性が高い債務者に対する債権のことです。他の二つの区分とは、貸倒引当金の金額の計算方法が異なります。
貸倒懸念債権がどのようなものかをしっかりと理解して、正しく計算された貸倒引当金を計上する必要があるでしょう。
よくある質問
貸倒懸念債権とは?
貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態にまでは至っていないものの、債務の返済に大きな問題が発生している、または発生する可能性が高い債務者に対する債権のこと。詳しくはこちらをご覧ください。
貸倒見積高の算出方法は?
「財務内容評価法」「キャッシュフロー見積法」を用いて、貸倒見積高を求めます。詳しくはこちらをご覧ください。
貸倒引当金懸念債権の仕訳方法は?
貸借対照表では、一般の売掛金や貸付金などの債権に含めて表示します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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