• 作成日 : 2025年9月9日

事業再構築補助金の圧縮記帳は認められる?メリット・デメリット、判断基準を解説

新たな事業を展開したり事業業態を転換する際には、事業再構築補助金が活用できます。事業再構築活用補助金を利用すれば、建物や車両などの固定資産の取得もしやすくなります。

補助金で固定資産を取得した場合に検討したいのが圧縮記帳です。事業再構築補助金は、圧縮記帳が認められているのか気になる人もいるでしょう。

この記事では、事業再構築補助金の圧縮記帳について、記帳の可否やメリット・デメリット、判断基準などを解説します。

事業再構築補助金の概要

事業再構築補助金は、中小企業庁が管轄する補助金制度です。以下のような取り組みを通じて、企業の規模拡大や事業の再構築を目指す中小企業を支援します。

  • 新分野展開
  • 業態転換
  • 事業・業種の転換
  • 事業再編
  • 国内回帰
  • 地域サプライチェーンの維持
  • 強靭化

申請にあたっては、認定経営革新等支援機関から事業計画書の確認を受けることが必須要件の一つです。主な要件としては、「事業再構築の定義に該当すること」「金融機関や認定経営革新等支援機関から事業計画書の確認を受けること」「付加価値額を向上させること」の3つが挙げられます。

事業再構築補助金の圧縮記帳は認められる?

事業再構築補助金の圧縮記帳は、法的に認められます。

独立行政法人中小企業基盤整備機構は、2021年8月に事業再構築補助金の圧縮記帳について国税庁に確認したことを公表しました。その結果、事業再構築補助金は、所得税法第42条または法人税法第42条に規定する「国庫補助金等」に該当するとの回答を得ました。

圧縮記帳等の適用可否について、中小企業庁を通じて国税庁に確認を行っておりました。その結果、今般、本補助金については、所得税法第42条又は法人税法第42条に規定する国庫補助金等に該当し、本補助金のうち固定資産の取得に充てるための補助金については、圧縮記帳等の適用が認められる旨の回答を受領致しました

引用:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業等事業再構築促進補助金における圧縮記帳等の適用について」

そのため、固定資産の取得に充てる補助金であれば、圧縮記帳が認められます。

圧縮記帳とは?

圧縮記帳とは、固定資産を取得した際に、その年度の課税を将来に繰り延べる会計処理のことです。補助金の収益を固定資産の取得価額から差し引いた金額で計上することで、課税対象となる所得を繰り延べられます。

圧縮記帳の仕組みや対象となる資産について解説します。

圧縮記帳の仕組み

圧縮記帳は、補助金収入(益金)と補助金相当額の圧縮損(損金)を相殺して、課税所得を少なくする仕組みです。

通常、補助金を受け取って資産を取得した場合、その年度には補助金収入(益金)と、資産の耐用年数に応じて計算される減価償却費(損金)が発生します。多くの場合、初年度は減価償却費よりも補助金収入のほうが大きくなるため、課税所得が増えて税負担が大きくなってしまいます。

この税負担を緩和するために補助金に相当する金額を「圧縮損」として損金計上するのが圧縮記帳の考え方です。圧縮記帳をすれば、補助金を受け取った年度の課税所得を減らし、税額を抑えられます。

圧縮記帳は、課税の繰り延べであるため、納める税金の総額が変わるわけではありません。しかし、特定の一年間だけ税額が大きく増えるのを防げるため、資金繰りに好影響をもたらします。

圧縮記帳の仕組みについてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:圧縮記帳の仕組みとは?要件や仕訳、限度額を学ぶ

圧縮記帳が認められる経費・認められない経費

圧縮記帳が認められる経費は、基本的に建物や機械、車両、船舶などの固定資産です。

技術導入費や専門家経費などの経費は圧縮記帳が認められません。

そのため、固定資産を取得せずに事業再構築補助金を受け取る場合は、補助金を受給した年度の課税額が大きく増える可能性があります。経費支出を増やして課税所得を少なくするなど、税負担が増えないための工夫が必要です。

事業再構築補助金を圧縮記帳するメリット

事業再構築補助金を圧縮記帳するメリットは、主に以下の2つです。

  • 補助金を受け取る年度の税負担を抑えられる
  • 補助金の恩恵を受けられる

基本的には、補助金を受け取った年度の税負担を抑えられることがメリットといえるでしょう。それぞれについて解説します。

補助金を受け取る年度の税負担を抑えられる

圧縮記帳を行うと課税所得が下がるため、補助金を受け取る年度の税負担を抑えられます。

法人税は、所得税と同様に企業の所得に応じて税率が課されます。原則23.2%ですが、中小法人の場合は課税所得が年800万円以下の部分については15%が基本です。法人の所得は益金(収益)から損金(費用)を差し引いて計算されますが、補助金は全額が益金となります。

圧縮記帳をして圧縮損を損金として計上すれば、益金と損金の差が縮まり、課税所得が少なくなります。結果として、その年度の法人税額を抑えられるのです。

補助金の恩恵を受けられる

圧縮記帳ができれば、補助金の恩恵を受けられます。

補助金を受け取ったにもかかわらず、それが「所得の増加」とみなされて税額が増えてしまうと、結果的に企業の負担が増える形になりかねません。そうなると、補助金を受け取った効果自体が薄れてしまうことも考えられます。

圧縮記帳で補助金受領年度の税負担を抑えれば、補助金を有効に活用できたという実感が湧きやすく、事業の成長に向けたさらなる設備投資などを行いやすくなるでしょう。

事業再構築補助金を圧縮記帳する際の注意点

事業再構築補助金を圧縮記帳する際は、以下の3点に注意が必要です。

  • 圧縮記帳は節税ではない
  • 記帳にかかる作業量が増える
  • 資産を売却すると税額が増える場合がある

これらの注意点をおさえた上で、圧縮記帳を行うかどうかを判断することが重要です。

圧縮記帳は節税ではない

圧縮記帳は、あくまで補助金を受け取った年度の税負担を緩和する措置であり、支払う税金の総額が減るわけではありません。よって、節税策ではないことを理解しておく必要があります。

圧縮記帳をすれば、補助金を受け取った初年度の税負担は軽くなります。しかし、その分、固定資産の帳簿価額が低くなるため、圧縮記帳対象資産の減価償却費も少なくなるのです。そのため、翌年以降は益金の状況次第で税負担が増える可能性もあるでしょう。

圧縮記帳はあくまで課税の繰り延べであり、節税の一環にはならないことを念頭に入れておくとよいです。

記帳にかかる作業量が増える

圧縮記帳は通常の会計処理とは異なるため、経理担当者の作業量が増加します。年度末の決算申告時期などの繁忙期に処理が重なると、残業時間の増加や記帳ミスの発生につながるケースもあるでしょう。

税負担を緩和するために圧縮記帳を選択するなら、経理担当者がスムーズに作業を進められるよう、早い段階からスケジュールを確認しておくとよいです。必要に応じて会計ソフトの導入や税理士への相談も検討しましょう。

資産を売却すると税額が増える場合がある

圧縮記帳を適用して計上した資産を将来売却すると、大きな売却益が発生し、税額が増える可能性があります。これは、圧縮記帳によって資産の取得価額が圧縮されて低くなっているためです。

売却した際の売却益は「売却価−帳簿価額」で計算されます。取得価額を圧縮すれば帳簿価額が低くなるため、通常よりも売却益が大きくなるのです。

売却益が大きくなれば、税負担額は増えます。たとえば、圧縮後の価額が2,000万円の資産を4,000万円で売却すると、差額の2,000万円が益金になり、税負担が増えてしまいます。圧縮記帳した資産を売却する際は、他に損金算入できる費用がないか確認し、できる限り税額を抑える工夫をするとよいでしょう。

圧縮記帳の可否を決める判断基準

圧縮記帳を行うかどうかを決める基準としては、以下の2点を重要視しましょう。

  • 税負担が増えるかどうか
  • 記帳がスムーズにできる環境が整っているか

税負担の側面だけでなく、実務的なキャパシティや作業にかかる時間も考慮するのが大切です。

税負担が増えるかどうか

圧縮記帳のメリットは、補助金取得年度の税負担を抑えられる点です。補助金を受け取ることで、その年度の税負担がどれだけ増えるかを試算すれば、圧縮記帳をすべきか判断しやすくなります。

補助金額がそれほど大きくなく、税額にあまり影響をおよぼさないようであれば、手間を考慮して圧縮記帳をしないという選択肢も考えられるでしょう。一方で、補助金額が大きく税額が増える場合は、圧縮記帳をしたほうが税負担を緩和でき、経営への影響を抑えられると判断できます。

記帳がスムーズにできる環境が整っているか

圧縮記帳を行う際は、適用要件をおさえたり、記帳の仕方を理解したりと、手続きに時間がかかる可能性があります。そのため、経理担当者だけで対応するには難しいケースも考えられます。

手続きをストレスなく進めるには「計算を支援してくれる会計ソフトがあるか」「相談に乗ってくれる税理士などの専門家はいるか」といった周辺環境を確認するのが重要です。問題ない環境が整っているなら、経理担当者も安心して圧縮記帳に臨めるでしょう。

事業再構築補助金の圧縮記帳の仕方

圧縮記帳には「直接減額方式」と「圧縮積立金方式」の2つの方法があります。複雑な計算をする際は、会計ソフトなどのツールや、税理士など専門家の力が必要になるケースもあるでしょう。

事業再構築補助金を受け取った際の圧縮記帳の仕方について解説します。

直接減額方式

直接減額方式は、固定資産の帳簿価額から補助金額分を直接差し引いて計上する方法です。

たとえば、5,000万円の資産を取得した際に2,000万円の補助金を受け取ったとします。この場合「圧縮損」2,000万円を計上して、資産の帳簿価額を3,000万円に直接減額します。

直接減額方式は比較的シンプルな手法であるため、帳簿管理が楽になるのがメリットです。

圧縮積立金方式

圧縮積立金方式とは、補助金分の金額を圧縮積立金として貸借対照表の純資産の部に計上する方法です。

この方法では資産の取得価額は変わらないため、企業の財政状態を正しく把握できるのが特徴といえます。一方で、毎期、減価償却に応じて積立金を取り崩す処理が必要です。そのため、帳簿の管理は直接減額方式よりも手間がかかります。

事業再構築補助金の圧縮記帳に関するQ&A

事業再構築補助金の圧縮記帳に関するよくある質問や疑問について回答します。補助金の受給時や圧縮記帳をする際の参考としてください。

事業再構築補助金は圧縮記帳と特別償却を併用できますか?

圧縮記帳と特別償却は、併用が可能です。法人税法にもとづくものであればそれぞれの制度の併用が認められており、事業再構築補助金も併用の対象となります。

特別償却についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:特別償却とは?一括償却との違いや対象設備などの要件をわかりやすく解説

事業再構築補助金を圧縮記帳したら別表の提出が必要ですか?

圧縮記帳を行う際は、法人税の確定申告で「別表13(国庫補助金等、工事負担金及び賦課金で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書)」の提出が必要です。

別表13には、国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額について記載する必要があります。圧縮記帳を適用した年度の確定申告では、別表13の作成と提出を忘れないようにしましょう。

別表13についてより詳しく知りたい人は、こちらの記事も参考にしてください。

関連記事:法人税申告書の別表13とは?見方や書き方、注意点まで解説

資産を先行取得しても事業再構築補助金の圧縮記帳はできますか?

補助金の交付決定前に資産を先行取得した場合でも、圧縮記帳は可能です。先に資産を取得し、後から補助金を受け取る場合の圧縮記帳については、法人税法第42条に定められています。

よって、資産を先行取得した場合でも要件を満たせば圧縮記帳を適用でき、税負担を緩和できます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事

会計の注目テーマ