- 作成日 : 2025年3月28日
IFRSにおける減損とは?日本基準との違いや減損テストの方法などを解説
IFRSにおける減損は、資産の回収可能価額が帳簿価額を下回ると判断された場合に、その差額を損失として認識することを指します。この記事では、IFRSにおける減損の概要や対象資産、減損テストの具体的な流れについてご紹介し、日本基準との違いや実務上の注意点についてもご説明します。
目次
IFRSにおける減損とは
IFRSにおける減損とは、企業が保有する資産の回収可能価額が帳簿価額よりも低い場合に、その差額を損失として計上することを指します。主にIAS第36号「資産の減損」によって規定されています。
減損の対象となる資産
IFRSにおける減損の対象資産は、のれんや無形資産、有形固定資産(建物や機械装置など)、投資不動産など多岐にわたります。企業が事業活動で使用するために保有している資産や、将来的に経済的利益をもたらすと期待される資産が対象です。特にのれんや、耐用年数が確定していない無形資産は、毎期必ず減損テストを行う必要があるため、日常的な評価・管理が欠かせません。
減損の対象とならない資産
一方で、IFRSにおける減損の対象とならない資産も存在します。代表的なものとして、IAS第2号「棚卸資産」で扱われる在庫や、IAS第12号で規定される繰延税金資産などが挙げられます。これらは別の会計基準で評価・測定が行われるため、IAS第36号の減損テストは適用されません。また、IFRS第9号「金融商品」で処理される金融資産(貸倒見積もりなど)についても、減損会計の適用範囲外となります。
IFRSにおける減損テストの方法
IFRSでは、資産の回収可能価額と帳簿価額を比較するテストを行い、回収可能価額が下回ると判断された場合に減損損失を計上します。以下で具体的なステップを解説します。
資産のグルーピング
まず、資産は「単体」もしくは「キャッシュ・ジェネレーティング・ユニット(CGU)」というグループ単位で評価されます。CGUとは、資産または資産グループが独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位を指します。例えば、工場設備や事業部門ごとにキャッシュ・フローを把握できる場合は、その単位で減損テストを行います。これによって、資産同士の依存関係を正確に反映した評価が可能となります。
減損の兆候があるかを検討
IFRS(IAS第36号)では、まず資産の価値が下がったと疑われる「減損の兆候(インディケーター)」があるかを判断します。例えば、市場環境の悪化や技術革新による需要減少、資産の物理的な損傷などが挙げられます。この兆候が確認された場合、またはのれんや耐用年数が非定型の無形資産を保有している場合は、減損テストの実施が必須となります。
減損テストの実施
減損テストでは、対象資産もしくはCGUの「回収可能価額」を算定します。回収可能価額とは、公正価値(処分費用控除後)と使用価値のいずれか高いほうの金額を指します。公正価値あるいは使用価値と帳簿価額を比較して、帳簿価格を下回る場合に減損損失を計上します。
減損損失の認識
減損テストの結果、回収可能価額が帳簿価額を下回っていれば、その差額を減損損失として認識します。減損損失は一般的には「その他の費用」として損益計算書に計上されますが、資産の種類や企業の開示方針によっては別項目として表示されることもあります。
また、CGUベースで行っている場合は、のれんに対して優先的に減損を振り当て、その後に他の資産へ配分する手続きが必要です。
減損損失の戻し入れ
IFRSでは、一度計上した減損損失について、後に回収可能価額が改善した場合に「減損損失の戻し入れ(リバーサル)」を認めています。ただし、「のれん」に対しては戻し入れを認めない点が特徴です。
戻し入れを行う場合は、過去に計上した減損損失を上限として、損益の増額処理を行います。
IFRSと日本基準の減損の違い
IFRSと日本基準では、減損テストの手順はおおむね類似していますが、いくつかの大きな違いがあります。例えば、IFRSではのれんを除いて一度計上した減損損失の戻し入れが原則認められるのに対し、日本基準ではそれが認められていません。
また、IFRSは資産の「使用価値」を将来キャッシュ・フローの割引計算で算定することを重視し、回収可能価額の測定がより厳格で詳細になります。
IFRSによる減損を適用する場合の注意点
IFRSによる減損を適用する際は、のれんに関する定期的なテストや情報開示の徹底など、いくつかの留意点があります。以下で代表的な項目を見ていきましょう。
のれんは毎年減損テストが必要
IFRSでは、のれんに対して耐用年数を設定して定期償却を行わず、毎年必ず減損テストを実施することが求められます。これは、のれんがM&Aなどによる期待価値を示す資産である一方、市場環境の変動やシナジーの未達成によって実際の価値が変動しやすいためです。
日本基準では、のれんを一定期間で償却する方法も認められているため、この点は特に注意が必要となります。
減損に関する情報の開示が必要
IFRSでは、減損損失を計上した背景や判断根拠、回収可能価額の測定方法などを財務諸表の注記で開示することが求められます。特に、使用価値の算定に用いた割引率や将来キャッシュ・フローの仮定など、投資家や利害関係者がリスクや不確実性を評価できる情報を適切に開示する必要があります。
日本基準にも同様の注記のルールはありますが、IFRSのほうがより詳細かつ定量的な情報開示が求められるケースが多いです。
IFRSの減損を把握すれば企業の透明性向上につながる
IFRSにおける減損会計は、企業が保有する資産の回収可能価額を適切に評価し、実態を財務諸表に反映するための重要な仕組みです。日本基準との主な違いとしては、減損損失の戻し入れが可能(のれん除く)な点や、のれんに対して毎年減損テストを実施する点が挙げられます。
これによって、資産価値の変動をタイムリーに把握でき、投資家やステークホルダーに対して企業の透明性を高められるメリットがあります。経理担当者の方は、減損テストの手順や開示要件に注意しながら、IFRSの導入メリットを最大限に活かしていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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