- 更新日 : 2025年9月9日
保険金の圧縮記帳の仕方とは?圧縮するメリット・デメリットや注意すべきポイントを解説
車両事故や機械の故障により保険金を受け取った際は、益金となるため税負担の増加に注意が必要です。税負担が増えると、資金繰りが悪化して経営に支障をおよぼす可能性があります。
保険金を受け取った年度に検討したいのが圧縮記帳です。圧縮記帳をすれば、保険金にかかる税負担を抑えられます。この記事では、保険金の圧縮記帳の仕方や、圧縮記帳のメリット・デメリットを解説します。
目次
保険金に税金がかかる理由
法人が受け取る保険金に税金がかかるのは、保険差益が発生する可能性があるからです。
保険差益とは、受け取った保険金額が、損壊した資産の帳簿価額や被害にともなう経費といった実際の被害額を上回り、利益が発生している状態を指します。利益とみなされるため、保険差益は、税務上「益金」(収益)として扱われるのです。
法人の所得は「益金−損金(費用)」で計算され、その所得額に応じて法人税が課されます。そのため、保険差益によって益金が増加すると、その分だけ課税所得が増え、納税額が大きくなるのです。
保険差益の税負担を下げる「圧縮記帳」
保険差益にかかる税負担を軽減する方法として圧縮記帳があります。圧縮記帳の概要や、対象となる保険金について解説します。
圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、固定資産を取得した際に、その年度の課税を将来に繰り延べる会計処理のことです。保険差益に相当する金額を、新たに取得した固定資産の取得価額から差し引き、差し引いた額を損金として計上して、課税所得を減らします。
これにより、保険金を受け取った年度の課税所得を圧縮できます。そのため、通常の記帳方法と比べてその年度の税負担が緩和されるのです。
圧縮記帳の仕組みについてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
圧縮記帳の対象になるもの
圧縮記帳の対象となる保険金は、固定資産の損害を補填するために支払われたものに限られます。具体的には、建物の火災保険金や工場の機械の損害保険金、社用車の車両保険金などです。
なお、保険差益のほかにも、以下のようなケースで得た金銭等は圧縮記帳の対象となります。
- 国庫補助金:国の補助金や、地方公共団体の施策で国の補助金を財源として進めているもの
- 工事負担金:電気・ガス会社などの公益事業会社が、施設設置の費用として利用者から受け取った資金
- 交換差益:資産を交換した際に生じる譲渡益(取得した資産の時価が、譲渡した資産の帳簿価額を上回る場合)
- 非出資組合の賦課金:出資をともなわない協同組合などが、事業に必要な資金として組合員から徴収する資金
該当する資金を受け取った場合は、税負担を緩和するために圧縮記帳を検討するとよいでしょう。
圧縮記帳のメリット・デメリット
圧縮記帳のメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット | 保険金を受け取った年度の税負担を緩和できる |
---|---|
デメリット |
|
圧縮記帳のメリットは、突発的な税負担の増加を避けられる点です。保険金を受け取ったことで税額が上がると、万が一に備えて契約していた保険の恩恵を感じにくくなってしまいます。
圧縮記帳をして税負担を抑えられれば、保険金の活用による資産の再購入にためらいがなくなり、事業の早期復旧や生産性向上にもつなげやすいでしょう。
一方で、圧縮記帳のデメリットは、手続きが通常の記帳と異なるため、処理に時間がかかる可能性が高い点です。経理担当者が、例年以上に業務負担を感じやすくなる可能性も懸念されます。
また、圧縮記帳は当年の税負担を将来の年度へ繰り延べるものです。あくまで税負担を先送りしているだけであり、圧縮記帳をしても支払う税金の合計額が減るわけではない点に注意が必要です。
保険金を圧縮記帳する要件
保険金を圧縮記帳するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 固定資産の滅失・損壊により保険金を受領していること
- 代替資産を取得していること
- 確定申告で明細を添付すること
これらの要件を満たさないと圧縮記帳は認められないため、注意しましょう。
固定資産の滅失・損壊により保険金を受領していること
受け取る保険金は、固定資産が滅失・損壊したことによるものでなければなりません。
たとえば、建物の火災保険や車両保険は、いずれも固定資産にかかる保険です。そのため、もし火災や事故などで資産が損壊した際に保険金が支払われた場合、その保険金は固定資産の損壊によって得たものとみなされ、圧縮記帳の対象となります。
これ以外の用途で得た保険金については、圧縮記帳の対象外です。
代替資産を取得していること
圧縮記帳をするには、受け取った保険金を使って代替資産を取得している必要があります。建物が全焼したなら新しい建物を、車が廃車になれば新しい車両を取得していなければ、圧縮記帳はできません。
もし保険金を代替資産の取得以外の使い道に充ててしまうと、保険差益はそのまま益金として計上されます。単純な利益増となり税負担が増加するリスクが高いため、注意しましょう。
確定申告で明細を添付すること
圧縮記帳を適用するには、法人税の確定申告の際に所定の明細書を添付して提出する必要があります。
具体的には「別表13(2)」という書類を作成し、確定申告書に添付します。この提出を忘れると、ほかの要件を満たしていても圧縮記帳が適用されず、税負担が増えてしまうため、確定申告の際は必ず準備しておきましょう。
別表13についてより詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:法人税申告書の別表13とは?見方や書き方、注意点まで解説
保険金の圧縮記帳の仕方
保険金の圧縮記帳では、保険差益と圧縮限度額の計算が重要です。また、確定申告では提出書類も増えます。重要な手続きをおさえて、スムーズに確定申告を完了させましょう。
保険差益を計算する
はじめに、保険差益がいくらになるのかを計算します。保険差益の計算式は以下のとおりです。
たとえば、受け取った保険金が2,000万円、資産の撤去などにかかった経費が30万円、被害に遭った資産の帳簿価額が1,300万円だった場合、保険差益は以下のようになります。
この場合は670万円を保険差益として帳簿に計上しましょう。
圧縮限度額を計算する
次に、損金として計上できる上限額である「圧縮限度額」を算出します。圧縮限度額の計算式は以下のとおりです。
圧縮限度額 = 保険差益額 × (代替資産の取得に充てた保険金の額 / 保険差益の額)
※代替資産の取得価額が「保険金の額−滅失費用」以上の場合、圧縮限度額=保険差益となる。
たとえば、上記の例(保険差益670万円)で、代替資産の取得に3,500万円かかったとします。この場合、保険金から経費を引いた1,970万円(2,000万円−30万円)の全額を代替資産の取得に充てたとみなせるため、圧縮限度額は保険差益の全額である670万円となります。
この金額を圧縮損として損金計上しましょう。
確定申告書の別表13を記載して申告書類を提出する
保険金の圧縮記帳では、確定申告時に「別表13(2)」を作成する必要があります。この書類には、以下のような内容を記載します。
- 保険事故の発生日
- 保険の目的となった資産
- 保険金額
- 算出した圧縮額
- その他一定の事項
書類の作成時は、会計システムや税理士の力を借りながら、適切に書類を作成するようにしましょう。
作成した書類は、確定申告書とあわせて税務署へ提出します。なお、国庫補助金などを受け取っている場合は、別途「別表13(1)」など別様式も追加で記載する必要があるため、書類の漏れには十分注意してください。
保険金を圧縮記帳をする際の注意点
保険金を圧縮記帳する際は、以下の3点に注意しましょう。
- 収益補填のための保険金は圧縮記帳できない
- 圧縮記帳するかどうかは任意で決められる
- 専門家に質問できる環境をつくっておく
圧縮記帳は通常の処理とは異なるため、上記の注意点をおさえながら慎重に進めましょう。
収益補填のための保険金は圧縮記帳できない
圧縮記帳が認められる保険金は、あくまで固定資産の損害や滅失について支払われたもののみです。そのため、事業の中断による利益を補う営業補償保険金や、在庫商品など棚卸資産の損害に対する保険金は、圧縮記帳の対象外となります。
建物や機械、車両といった固定資産に何らかの実害が発生して支払われた保険金が、圧縮記帳の対象になるとおさえておきましょう。
圧縮記帳するかどうかは任意で決められる
圧縮記帳は法律上の義務ではありません。そのため、申告までに十分な時間が取れない場合や、保険差益がわずかで税額に与える影響が少ないのであれば、適用しなくても問題ありません。
保険金を受け取った年の税負担を緩和したいのであれば、圧縮記帳を行うのが望ましいでしょう。しかし、一時的な税負担の増加に耐えうるキャッシュフローがあるならば、経理担当者の業務負担を考慮し、煩雑な手続きをせずに通常どおり記帳するのもひとつの手です。
専門家に質問できる環境をつくっておく
圧縮記帳の手続きは、通常の会計処理とは異なり専門的な知識を要します。そのため、自社だけで対応するのではなく、税理士などの専門家に相談するケースも想定しておくと安心です。
顧問の税理士がいるのであれば、事前に相談し、連携をとりながら進めるとよいでしょう。もし顧問税理士がいない場合は、地域の税理士に連絡をとり、どのように手続きをしていけばよいかアドバイスを求めると、スムーズに記帳手続きを進められます。
保険金の圧縮記帳に関するQ&A
保険金の圧縮記帳に関するよくある質問や疑問をまとめました。保険金受取時や記帳時の参考としてください。
車の保険金の圧縮記帳はできますか?
社用車など事業用の車に関して受け取る保険金は、圧縮記帳が認められます。自動車は固定資産であり、事故による損壊や盗難による滅失の際に保険金が支払われた場合、圧縮記帳の対象になります。
保険金で先行取得した資産は圧縮記帳できますか?
保険金が支払われる前に自己資金などで代替資産を先行取得した場合でも、圧縮記帳は可能です。先に資産を取得し、後から保険金を受け取る場合の圧縮記帳については、法人税法第47条に明記されています。
そのため、資産を先行取得した場合でも、要件を満たせば圧縮記帳をして税負担を緩和できます。
圧縮記帳の際は保険金の消費税も考慮しますか?
損害保険金は、資産の譲渡等の対価ではないため、消費税の課税対象外(不課税)です。よって、圧縮記帳の計算において消費税を考慮する必要はありません。
圧縮記帳はあくまでも法人税の負担を緩和する制度であり、要件を満たしたうえで保険差益と圧縮限度額が正しく算出できていれば問題なく適用されます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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