- 作成日 : 2025年9月3日
原価配賦とは?基準の決め方や計算方法、会計処理をわかりやすく解説
原価の配賦は、複数の製品や部門にまたがる間接費を、一定の基準で合理的に割り振る会計処理です。この手続きによって、製品やサービスごとの正確な原価が明らかになり、適切な価格設定や事業の採算性評価といった、的確な経営判断につながります。この記事では、原価配賦の基本的な意味から、配賦基準の決め方、具体的な計算方法、仕訳などの会計処理まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
目次
原価配賦とは?
原価配賦(げんかはいふ)とは、製品や部門の垣根を越えて発生する共通経費(間接費)を、公平な実態に合った基準で割り振る計算のことです。この計算によって、製品一つひとつの原価をより正確に把握できるようになります。
原価計算や損益管理を行ううえで、この考え方は欠かせません。まず、原価配賦がなぜ必要なのか、基本的な部分から見ていきましょう。
直接費と間接費の違い
会社の原価は、特定の製品に直接結びつく「直接費」と、結びつかない共通の「間接費」に分けられます。
原価配賦を学ぶうえでこの違いを理解しましょう。
費用の種類 | 内容 | 原価配賦の要否 |
---|---|---|
直接費 | 特定の製品・サービスに直接結びつけられる原価 | 不要 |
間接費 | 複数の製品・サービスに共通して発生する原価 | 必要 |
原価計算で配賦が行われるケース
原価配賦は、製品ごとの製造原価や、部門ごとの損益を正確に知りたいときに行われます。
具体的には、主に以下のような場面で使われます。
- 製造業における製品別原価計算
- 部門別損益計算
- サービス業におけるプロジェクト別原価計算
これらの計算を通じて、より精密な経営管理を目指します。
なぜ原価配賦は必要なのか
もし原価配賦を行わないと、製品や事業ごとの実態に近い損益がわからなくなってしまうためです。
正確な原価がわからない場合、次のような問題が起こりえます。
- 不適切な価格設定:
本当はコストがかさんでいる製品を安売りしてしまい、知らないうちに赤字を出す。 - 誤った経営判断:
利益が出ているように見える事業が、実は間接費を含めると赤字であることを見逃す。 - コスト意識の低下:
全部門共通の経費として扱われるため、コスト削減への意識が働きにくくなる。
原価配賦を適切に行うことで、製品や部門ごとの本当の収益性が明らかになり、データに基づいた判断が可能となるでしょう。
原価の配賦方式
原価配賦は、何を対象に(部門、製品、サービス)、どのような目的で行うかによって方式が分かれます。
ここでは代表的な3つの方式を紹介します。
部門別配賦
部門別配賦とは、部門ごとの正確な原価や損益を計算するために行われる配賦方式です。
とくに、製造に直接関わらない補助部門で発生した費用を、製品を実際に作る製造部門に配賦する際に用いられます。また、本社の共通経費を各事業部へ配賦するのも部門別配賦の一例です。
製品別配賦
製品別配賦とは、一つの部門で発生した製造間接費を、そこで作られる複数の製品に割り振る方式です。
直接材料費や直接労務費といった直接費に、この製品別配賦で計算された間接費を加えることで、最終的な製品の製造原価が確定します。
サービス別配賦
サービス別配賦とは、IT開発やコンサルティングといったサービス業で、プロジェクトごとの採算性を知るために行われる配賦方式です。
複数のプロジェクトに共通して発生する経費(オフィスの家賃など)を、個別のプロジェクト(サービス)に配賦します。配賦基準としては、各プロジェクトの「工数(作業時間)」などがよく用いられます。
原価の配賦基準の決め方
配賦基準は、割り振る経費の発生原因と最も関連性の高いものを、合理的に選ぶことが基本です。
原価配賦の計算結果の妥当性は、この配賦基準をいかに合理的に設定できるかにかかっています。代表的な配賦基準には、売上高や材料費といった「金額基準」、生産量や面積などの「物量基準」、作業時間や機械稼働時間などの「時間基準」、従業員数で分ける「人員基準」などがあります。
費目ごとに、より相関関係の強い基準を選ぶことが大切です。たとえば、建物の減価償却費なら「専有面積」、機械の修繕費なら「機械稼働時間」、福利厚生費なら「従業員数」を基準にすると、実務的にも妥当性が認められやすいといえるでしょう。
費用の例 | 適した配賦基準の例 |
---|---|
工場の家賃、建物の減価償却費 | 各部門の専有面積 |
水道光熱費 | 従業員数、機械の稼働時間、専有面積 |
機械の修繕費 | 機械の稼働時間 |
福利厚生費、事務消耗品費 | 従業員数 |
本社管理部門の経費 | 各事業部の売上高、従業員数 |
自社に合った配賦基準を選ぶ際は、費用との因果関係が説明できるか、基準となる数値が客観的なデータで測定できるか、そして計算や管理が煩雑になりすぎないか、といった点をふまえて検討しましょう。
原価配賦の具体的な計算方法と流れ
原価配賦は、「間接費の集計」「配賦基準の決定」「配賦率の算定」「費用の配賦」という4つのステップで進めます。
- ステップ1:配賦する間接費の総額を集計する
- ステップ2:配賦基準を決める
- ステップ3:配賦率を算定する(配賦率 = 間接費総額 ÷ 配賦基準の合計値)
- ステップ4:各部門や製品に費用を配賦する(配賦額 = 配賦率 × 各部門の基準値)
このステップをふむことで、間接費総額が各配賦先に過不足なく割り振られます。
ステップ1:配賦する間接費の総額を集計する
最初に、配賦の対象となる間接費が全体でいくらになるのかを集計します。工場の減価償却費、水道光熱費、消耗品費など、複数の製品製造に共通してかかった費用をすべて合計します。
ステップ2:配賦基準を決める
次に、集計した間接費をどのような基準で割り振るかを決めます。前章で解説したとおり、費用の発生原因と関連性の高い、公平な基準を選びます。
ステップ3:配賦率を算定する
配賦基準となる数値1単位あたりの間接費がいくらになるか(配賦率)を計算します。
ステップ4:各部門や製品に費用を配賦する
算定した配賦率を使って、各部門や製品に間接費を実際に割り振ります。
原価配賦の計算と仕訳
原価配賦の計算例と、その際の簿記上の会計処理(仕訳)を見ていきます。
ある工場で製品Aと製品Bを製造しており、当月の工場全体の製造間接費が50万円発生したとします。この費用を、各製品の「直接作業時間」を基準に配賦します。
- 間接費の総額:500,000円
- 配賦基準の合計値:製品A(800時間)+ 製品B(200時間)= 1,000時間
- 配賦率の算定:500,000円 ÷ 1,000時間 = 500円/時間
- 各製品への配賦額:
- 製品A:500円/時間 × 800時間 = 400,000円
- 製品B:500円/時間 × 200時間 = 100,000円
会計処理(仕訳例)
発生した間接費を「製造間接費」勘定から、製品の原価である「仕掛品」勘定へ振り替える仕訳を行います。
間接費を各製品(仕掛品)に配賦するときの仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕掛品(製品A) | 400,000円 | 製造間接費 | 500,000円 |
仕掛品(製品B) | 100,000円 |
この仕訳によって、費用が各製品の原価に移されたことが会計帳簿上で記録されます。
原価配賦で陥りがちな失敗と業務効率化のヒント
原価配賦では、実態に合わない基準を使い続けたり、計算が複雑になりすぎたりする失敗が起こりがちです。
ここでは、よくある失敗例とその対策、そして業務を効率化するためのヒントを紹介します。
失敗例1:配賦基準が実態とかけ離れてしまう
一度決めた配賦基準を長期間見直さないことで、事業の実態と合わなくなってしまうケースです。たとえば、設備の自動化が進んだのに、昔ながらの「作業時間」を基準にし続けると、実態とは異なる配賦結果になってしまいます。生産方法の変更や組織改編があったタイミングで、配賦基準が今も妥当かどうかを定期的にレビューする仕組みが大切です。
失敗例2:計算作業が複雑で担当者の負担が大きい
正確性を追求するあまりに配賦基準を細かく設定しすぎると、計算プロセスが複雑になります。とくにExcelなどで手作業管理している場合、計算式のメンテナンスに多くの時間がかかり、人的ミスの原因にもなりかねません。管理の手間と得られる効果のバランスを考え、運用しやすいルールに簡素化することもときには必要でしょう。
効率化のヒント:原価計算システムの活用
間接費の種類や配賦先が多く、手作業での管理に限界を感じている場合は、原価計算に対応した会計システムやERP(統合基幹業務システム)の導入を検討するのも一つの方法です。計算の自動化によって手作業のミスや工数を削減できるほか、タイムリーな原価把握が可能になり、経営判断のスピード向上にもつながります。
これらの点に注意することで、より効果的な原価管理ができます。
正確な原価配賦で、経営判断と会計処理の精度を高める
原価配賦は、製品や事業の本当の収益性を可視化し、経営管理と会計処理をつなぐ重要な手続きです。単なる経理上の計算作業ではなく、一つひとつの製品や事業が本当に利益を生んでいるのかを明らかにする、経営管理の手法です。
適切な配賦基準を設定し、正確な原価を把握することで、より実態に合った価格設定や、根拠のある経営判断を下せるようになります。本記事で解説した方法や考え方を参考に、自社に合った原価配賦の仕組みを構築し、経営と会計処理の精度を高めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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