- 作成日 : 2025年6月13日
企業版ふるさと納税とは?延長されたふるさと納税の会社版について解説
企業版ふるさと納税は、寄附額の最大約6割が税額控除、それとは別に損金算入による減税効果が約3割となるため、合計で最大約9割の税負担軽減を得ながら地域活性化に貢献できる企業向け制度です。
本記事では、企業版ふるさと納税の利用期限の延長や申請手順、活用メリットなどについて詳しく解説します。
目次
企業版ふるさと納税とは
企業版ふるさと納税は、正式名称を「地方創生応援税制」といいます。国が認定した地域創生事業に資金を拠出した法人に対し、寄附額の最大約9割を法人税・法人住民税・法人事業税の特例税額控除と損金算入で軽減する仕組みです。
企業版ふるさと納税(人材派遣型)とは?
人材派遣型の企業版ふるさと納税とは、企業が金銭的な寄附に加えて、自社の従業員を一定期間自治体へ送り出せる仕組みです。派遣された従業員の人件費については、企業が行う寄附金の中から賄われるため、自治体側は専門的なスキルを持つ人材を実質的なコスト負担なく受け入れることができます。
この制度を活用することで、自治体は地域課題に対応するためのノウハウや人的資源を確保でき、企業にとっても地方公共団体との連携強化や一部人件費の負担軽減といった利点が期待されます。
個人版ふるさと納税との違い
個人版ふるさと納税が「所得税・住民税の控除」と「返礼品の受領」を特徴とするのに対し、企業版は寄附額のうち一定割合が法人税等の税額控除および損金算入の対象となります。また返礼品の受け取りは禁止されており、寄附対象事業はあらかじめ内閣府に認定された地域再生計画に基づくものである必要があります。
さらに、寄附先にも制限があり、その企業の本店所在地への寄附はできません。
適用期限は令和9年度まで
企業や地方公共団体からの要望が多数あったとして、令和7年度税制改正によって、令和6年度までとされていた企業版ふるさと納税の適用期限は3年間延長され、令和9年度までになりました。
この延長は制度改善策を講じることが前提になっており、制度改善策のポイントとして以下の点が挙げられています。
- 寄附活用事業の実施に際するチェック機能の強化
- 寄附活用事業の実施状況の透明化(公表要件など)
- 認定取消しを受けた際の再申請における欠落期間の創設
企業版ふるさと納税のメリット
企業版ふるさと納税によって企業は単に税制上の優遇措置を受けられるだけでなく、地域社会への具体的な貢献や、企業としての社会的価値の向上にもつながります。
ここでは、企業が制度を利用することで得られる主なメリットについて見ていきましょう。
最大9割の節税ができる
企業版ふるさと納税では、法人税・法人住民税・法人事業税の合計で最大6割程度の税額控除が認められます。また、損金算入が可能でありその減税効果は約3割となるため、全体として最大で9割程度の税負担の軽減が見込めます。これにより企業は、現金支出を抑えつつ社会貢献活動に参画が可能です。
1,000万円を寄附した場合、税額控除により最大600万円が直接控除され、さらに寄附金の損金算入により法人税課税所得から差し引かれることで、寄附額の約3割の300万円ほどが減税され、全体で約900万円の税負担が軽減されます。
この場合の実質負担は、約1割の100万円です。
社会貢献として企業のPRになる
企業版ふるさと納税への取り組みは地方創生を支援する姿勢を明確に示すものであり、報道機関や自治体の広報資料に企業名が掲載される機会も増加します。
その結果、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を重視する機関投資家やステークホルダーに対して、「社会的責任を果たす企業である」というメッセージを強く発信できるでしょう。
また、社員にとっても自社の社会的意義を実感できることで帰属意識やエンゲージメントの向上につながり、企業の採用活動においてもポジティブなブランディング要素として機能することが期待できます。
地方公共団体とのパートナーシップを構築できる
寄附先の地方公共団体と継続的な協議や意見交換の場を持つことで、単なる一過性の寄附にとどまらず戦略的な地域連携の構築が期待できます。
地域の特産品や観光資源、未活用インフラといった地場資源を企業の事業活動に活用し、共同研究や新規ビジネスの立ち上げに発展する可能性があります。また、地方自治体による公共調達案件への参画や、地域を舞台とした実証実験の実施など、官民連携(PPP/PFI)を通じた新たな事業展開の足掛かりとしても有効です。
企業にとっては、地域との信頼関係を深めながら中長期的な経済的メリットを追求する機会にもなります。
創業地やゆかりの地への恩返しになる
企業版ふるさと納税は本社所在地以外への寄附が条件となっているため、創業地や過去にゆかりのある地域への支援として活用できます。収益を上げた後にその地域へ直接的な恩返しができる、貴重な制度といえるでしょう。
単なる寄附ではなく、自治体が掲げる地域課題の解決に直結する事業へ資金を投じることで、より意義深い社会的貢献になります。こうした背景を踏まえたCSR活動にはストーリー性が加わり、企業の理念と地域との結びつきをアピールできる好機にもなり得るでしょう。
また、地域住民や関係者との信頼関係を深めることで、企業の中長期的なブランド価値や持続的な地域展開の基盤づくりにも寄与します。
企業版ふるさと納税の申請方法
ここでは、企業が制度を実際に利用する際の基本的な申請手順について、順を追って説明します。
①寄附先を選ぶ
はじめに、寄附先を選定します。寄附先は内閣府の認定を受けた地域再生計画に基づいて事業を実施している地方公共団体で、展開されるプロジェクトの中から自社の理念や事業領域に合致するプロジェクトを選定しなければなりません。
寄附先の情報は、内閣府地方創生推進事務局のポータルサイトで地域別や分野別、またはキーワードでの検索が可能です。計画内容をよく読み込み、継続的な支援が可能かどうかの視点も加えて判断することが望まれます。
②社内調整
寄附を行うにあたっては、社内での十分な意思決定プロセスと関係部門との連携が欠かせません。各社の決裁権限規程に基づいた決裁を経て、寄附額および寄附の目的を明確にし、企業の方針と整合性を図る必要があります。
さらに寄附金の会計処理を担う経理部門、人的リソースの調整を行う人事部門、外部発信や社内広報を担う広報部門など、複数の部門と密に連携しながら進めることが求められます。
とくに人材派遣型での取り組みを行う場合には、派遣対象となる社員との十分なコミュニケーションを図るとともに、労働条件通知書や出向契約書の準備、受け入れ先自治体との調整など、法令遵守の観点からも慎重な手続きが必要です。場合によっては労働組合との協議や、就業規則の確認も求められるため、事前に法務部門の関与も視野に入れるべきでしょう。
③寄附先の地方公共団体との調整
企業版ふるさと納税を実施する際には、寄附先の地方公共団体と必要な連絡・調整を行います。まず、企業は対象となる地域再生計画に基づいた事業の内容を確認し、当該自治体に対して寄附申出書の提出が必要です。自治体は内容を確認し、受入可能と判断した場合に、寄附金の振込口座や手続き方法などを通知します。
寄附の実行後には、地方公共団体から「寄附金の受領証」が発行され、それが税務申告に必要な証拠書類となることを押さえておきましょう。企業側はこの受領証や寄附申出書の控えなどを適切に保管し、法人税・法人住民税・法人事業税の申告時に活用します。
④寄贈贈呈式などの広報
寄附後には、地方公共団体主催の贈呈式や感謝状授与式などが実施されることが一般的です。これらの広報的な取り組みは、企業が地域貢献に取り組む姿勢を対外的に示す場でもあります。公表に同意した場合は自治体の広報誌やウェブサイト、地域メディアに取り上げられることも多く、企業ブランディングの観点でも有効です。
⑤税務処理
企業版ふるさと納税を実行した年度の法人税の確定申告時には、別表6(22)「認定地方公共団体の寄附活用事業に関連する寄附をした場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を添付し、法人税の申告時に税額控除の適用を行います。自治体発行の受領証は添付する必要はありませんが、保存しておかなければなりません。
法人県民税・法人事業税については第7号の3様式を、法人市民税については第20号の5様式を添付し、さらに自治体発行の受領証も申告書に添付して提出する必要があります。
企業版ふるさと納税の申請方法について詳しくは、以下をご覧ください。
参考:企業版ふるさと納税ポータルサイト、企業版ふるさと納税サイト/ふるコネ
企業版ふるさと納税を活用して、会社PRや節税をしよう
企業版ふるさと納税は、企業が地域課題の解決に貢献しながら税制上の優遇を受けられる制度であり、公益性と経済性を兼ね備えた仕組みとして注目されています。寄附先や事業内容を選定する際には自社の中長期的な経営方針や社会的使命と合致するかどうかを検討し、できる限り持続可能な地域貢献として活用していくことが望まれます。
企業の理念や地域とのつながりを大切にしながら、制度をうまく活用して地域貢献と企業PR、そして節税につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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