- 作成日 : 2025年4月30日
有償支給取引の仕訳とは?会計処理や消費税の扱いをわかりやすく解説
製造業や委託加工を行っている企業では、「有償支給」の取引がよく行われます。しかし、実際に仕訳をしようとすると、「どの勘定科目を使えばいいの?」「消費税はどう処理するの?」など、悩ましい場面が多いのではないでしょうか。
この記事では、有償支給取引の仕訳について、考え方や会計処理の例、税務上のポイントまでをわかりやすく解説していきます。
目次
有償支給取引とは?
有償支給とは、企業が自社の製造に必要な原材料や部品などを、外部の加工会社(下請先など)に「有償」で提供することをいいます。
外部の加工会社は、その材料を使って製品や部品を加工または完成させますが、最終的に支給元の企業が製品や部品を買い戻すことがあります。
たとえば、ある企業がエンジンの部品を製造するために、鋼材を外部の加工会社に有償で提供し、その加工が終わった後に部品として引き取る、こういった流れが、有償支給取引の基本的なイメージです。
有償支給取引は、特に以下のような理由で利用されます。
- 支給元の企業が、原材料を一括で大量に仕入れることでコストを抑えるため
- 加工会社が持っている特別な加工技術や設備を活用するため
- 工程の一部を外部に委託し、自社の生産効率を上げるため
有償支給取引の会計と税務の考え方
有償支給取引は、会計と税務のそれぞれで扱い方が異なります。ここを混同すると、誤った処理につながりやすくなります。
会計ではすぐに収益を計上しない
会計上の基本的な考え方として、収益認識に関する会計基準では、支給品の「買い戻し義務の有無」によって会計処理を検討しますが、有償支給の段階では、いずれの場合も収益は認識しません。
また、棚卸資産については、支給品の「買い戻し義務がある場合」は原則として消滅を認識せず、支給品を「買い戻す義務がない場合」は消滅を認識することとなります。
支給品の買い戻し義務がない場合も収益を認識しない理由は、支給品の譲渡の収益と最終的な製品の販売の収益(売上など)を重複して計上しないようにするためです。
消費税法では視点が異なる
一方、消費税法では、有償支給の判断の視点が会計とは異なります。
消費税のルールでは、原材料を加工会社などに有償で渡す行為は「資産を譲渡した」と見なされるため、原則として課税の対象になります。
ただし、有償支給した原材料等を支給元の企業が自社の資産として管理している場合は、課税の対象外とされます。
このように、会計と税務では、有償支給をどう扱うかの視点が違うため、それぞれの立場で処理を検討する必要があります。
法人税の取り扱い
法人税法には、有償支給に関する明確な条文・通達等はありません。
そのため、実務上は「所有権の移転があるかどうか」を基準に処理を判断することが一般的です。
もし、支給した原材料の所有権が実質的に加工委託先に移り、その在庫に関するリスクも加工先が負うのであれば、支給時点で売上が成立したと考えることができます。
この場合、法人税の申告でも収益を計上することになります。
逆に、支給元企業がすべての製品を買い戻す契約になっているなど、材料の管理責任や所有権が企業側にあると見なせる場合には、実質的には売上とは言えないため、税務上も収益の認識をしない可能性が高くなります。
有償支給取引の仕訳の考え方
有償支給取引の仕訳を正しく行うためには、支給元企業が支給した原材料などを加工後に「買い戻す義務を負っているかどうか」を検討することです。
この義務の有無によって、会計処理が異なります。たとえば契約により加工された製品や部品の全てを買い戻すとされている場合は、買い戻し義務があると判断されると考えられます。一方で、支給先がその材料を自由に使って、必要な分だけを製品として支給元に提供するような契約内容であれば、「買い戻し義務はない」と見なされます。
買い戻し義務がある場合の会計処理
買い戻し義務がある場合は、原材料を支給しても「在庫はまだ会社のものである」と考えます。つまり、支給した時点では、棚卸資産(在庫)も減らさず、売上も立てないことが原則です。
連結財務諸表を作成する際は、有償支給された材料は引き続き支給元企業の棚卸資産として扱われ、「バランスシートに残す(オンバランス処理)」ことになります。
これは、材料の所有者はまだ支給元企業だと考えるためです。
ただし、個別財務諸表では、実務上の在庫管理の実態を考慮して、例外的に「支給時点で棚卸資産を減らす」という処理が認められています。
この場合、帳簿上では「棚卸資産」の減少とともに「有償支給取引に係る負債(支給対価と棚卸資産簿価に差額がある場合)」の勘定科目を使って、収益が計上されないようにします。
買い戻し義務がない場合の会計処理
買い戻し義務がないケースでは、原材料を加工会社に有償で支給した時点で、「在庫が会社から出ていった(=棚卸資産の減少)」という扱いになります。
ただし、そのときに売上(収益)をすぐに計上すると言う処理は行いません。
ここでも支給対価と棚卸資産簿価との差額を「有償支給取引に係る負債」という勘定科目で処理します。
有償支給取引に使われる勘定科目
有償支給取引に特有の勘定科目(有償支給取引に係る負債)や、一般的な勘定科目(未収入金、買掛金、仕掛品など)の理解は仕訳を行う上で不可欠です。
【ケース別】有償支給取引の仕訳例
具体的な仕訳例を通して、有償支給取引の流れを整理していきましょう。会計処理の理解を深めるために、「買い戻し義務の有無」や「利益の有無」といったパターンごとに分けて説明します。
1. 買い戻し義務がない場合 (支給時に利益を上乗せしない)
原価100円の原材料を、加工委託先に100円(税抜)で支給。120円(税抜)で加工後の製品を受け入れる(加工賃20円)。
【支給時:加工会社に材料を引き渡したとき】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 110円 | 原材料仕入 | 100円 |
仮受消費税 | 10円 |
【加工完了品受入時:120円(税抜)で加工された製品を受け入れたとき】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
製品仕入 | 120円 | 買掛金 | 132円 |
仮払消費税 | 12 |
【決済時:支給代金と加工賃を相殺して決済した場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 132円 | 未収入金 | 110円 |
現金及び預金 | 22円 |
2. 買戻し義務がない場合 (支給時に利益を上乗せする)
原価100円の原材料を、加工委託先に110円(税抜)で支給。120円(税抜)で加工後の製品を受け入れる(加工賃10円)。
【支給時:加工会社に材料を引き渡したとき】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 121円 | 原材料仕入 | 100円 |
有償支給取引に係る負債 | 10 | ||
仮受消費税 | 11円 |
【加工完了品受入時:120円(税抜)で加工された製品を受け入れた場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
製品仕入 | 120円 | 買掛金 | 132円 |
有償支給取引に係る負債 | 10 | 製品仕入 | 10 |
仮払消費税 | 12 |
自社が付加した利益相当の10円である有償支給に係る負債を製品仕入からマイナスすることで純粋な加工後の製品の原価が計上されることになります。
【決済時:支給代金と加工賃を相殺して決済した場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 132円 | 未収入金 | 121円 |
現金及び預金 | 11円 |
3. 買い戻し義務がある場合 (棚卸資産の消滅を認識しない場合)
原価100円の材料を110円(税抜)で有償支給。120円(税抜)で加工後の製品を受け入れる(加工賃10円)。
【支給時:加工会社に材料を引き渡したとき】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 121円 | 有償支給取引に係る負債 | 121円 |
買い戻し義務があるため、支給時点では棚卸資産を減少させません。
【加工完了品受入時:120円(税抜)で加工された製品を受け入れた場合(加工賃10円)。】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
製品仕入 | 10円 | 買掛金 | 132円 |
有償支給取引に係る負債 | 121円 | ||
仮払消費税 | 1円 |
【決済時:支給代金と加工賃を相殺して決済した場合】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 132円 | 未収入金 | 121円 |
現金及び預金 | 11円 |
4. 買い戻し義務がある場合 (個別財務諸表で棚卸資産の消滅を認識する場合)
同じく買い戻し義務があるが、個別財務諸表で棚卸資産を減らす処理を採用するケース。原価100円の材料を110円(税抜)で有償支給。120円(税抜)で加工後の製品を受け入れる(加工賃10円)。
【支給時:加工会社に材料を引き渡したとき】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未収入金 | 121円 | 原材料仕入 | 100円 |
有償支給取引に係る負債 | 21円 |
【加工完了品受入時:120円(税抜)で加工された製品を受け入れた場合(加工賃10円)。】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
製品仕入 | 120円 | 買掛金 | 132円 |
有償支給取引に係る負債 | 21円 | 製品仕入 | 10円 |
仮払消費税 | 1円 |
有償支給に係る負債のうち、自社が付加した利益相当10円を製品仕入からマイナスすることで加工後の製品の原価が計上されます。
【決済時:支給代金と加工賃を相殺して決済した場合。】
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 132円 | 未収入金 | 121円 |
現金及び預金 | 11円 |
連結会計における有償支給取引の仕訳の注意点
連結財務諸表を作成する際には、個別財務諸表での処理と異なる場合があります。とくに買い戻し義務がある場合に個別財務諸表で棚卸資産の消滅を認識した際は、連結上ではその消滅を打ち消し、「有償支給取引に係る負債」を計上する修正仕訳が必要になります。
有償支給取引の仕訳・会計処理で注意すべき点
大切なのは、「買戻し義務があるかどうか」を契約内容や取引の実態に基づいて判断することです。
また、材料が誰にあるのか、材料を自由に使える権利があるかどうかを見極めるのも大切です。
加工会社に材料を渡したとき、その材料を自由に使える状態であれば、「支配が移転した」と考えます。一方、材料の使い方が制限されており、すべて支給元の企業が管理しているのであれば、「支配は移っていない」と判断します。
実務においては、支給品の受払いや数量管理を正確に管理しておくことも欠かせません。
材料の所在がきちんと記録されていなければ、どのタイミングでどんな仕訳をすべきかがわからなくなり、誤った処理につながる可能性があります。
購買システムと会計システムを連携させることで、支給した材料や加工費用に関するデータを自動で反映できるため、消費税の処理などを効率よく行えるようになります。
有償支給取引の仕訳を正しく理解して実務に活かそう
有償支給の仕訳は、買い戻し義務の有無によって会計処理が変わります。とくにポイントとなるのが、「買い戻し義務があるかどうか」と「材料の支配がどちらにあるか」です。この2点によって、仕訳の仕方も、消費税の処理方法まで変わってきます。
また、個別財務諸表と連結財務諸表では会計処理の方法が異なることがあるため、グループ内で会計方針の統一や修正仕訳の検討が必要になるケースもあります。
実務においては、材料の数量や取引の流れを正確に把握できる体制を整え、必要に応じて購買管理システムや会計システムとの連携を図ることで、ミスを減らし、効率の良い運用が可能になります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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