- 作成日 : 2025年4月30日
適格合併の仕訳や会計処理とは?具体例でわかりやすく解説
会社の合併は、組織再編やグループ経営の見直しなど、経営の大きな転換点にあたる場面で行われます。その中で「適格合併」は、税務上課税関係が発生しない合併方法として、実務でもよく活用されます。しかし、会計処理では、合併法人と被合併法人それぞれで異なる仕訳が必要となり、会計処理が複雑で迷うこともあるでしょう。
この記事では、適格合併の基礎から、仕訳の考え方、具体的な会計処理の流れまでわかりやすく解説していきます。
目次
適格合併とは?
適格合併とは、会社が他の会社を合併する際に、一定の要件を満たすことで、税務上課税関係が発生しない合併のことです。具体的には「繰越欠損金の引継ぎが可能」「含み益に課税されない」など、法人税の負担の軽減が図られる合併形態とされています。
この合併には2つの会社が関わります。
合併法人(存続会社)と被合併法人(消滅会社)の関係
合併では、事業を続ける会社を「合併法人(存続会社)」、吸収される会社を「被合併法人(消滅会社)」と呼びます。
合併法人は、被合併法人の資産・負債などの権利義務をすべて引き継ぎます。
会計処理では、合併法人は資産や負債を新たに受け入れる形となり、被合併法人は帳簿をすべて整理して清算する必要があります。
適格合併の要件
適格合併と認められるには、例えば次のような条件を満たす必要があります。
- 合併対価として株式のみを交付(現金やその他の資産は不可)
- 被合併法人の従業員等の約80%が合併後も業務に従事する(完全支配関係以外の場合)
- 被合併法人の事業を継続することが見込まれる(完全支配関係以外の場合)
これらは要件の一例ですが、要件を満たすことで、税務上のメリットを受けられるようになります。実際には、グループ内での合併か否か、支配関係の実態などにより要件が異なるため、慎重に確認する必要があります。
参考:組織再編税制とは?適格要件やグループ法人税制との違いを解説
適格合併のメリット
適格合併が選ばれる最大の理由は、税務上の優遇措置が受けられることです。
- 繰越欠損金が引き継げる(条件あり)
- 合併に伴う資産の含み益が非課税
- 会計処理のシンプル化が可能(適格合併は「簿価引継ぎ」)
これにより、合併による税負担を最小限に抑えることができ、財務面でもメリットのある合併が可能になります。
適格合併と非適格合併の違い
適格合併と非適格合併では、会計処理の前提となる考え方が大きく異なります。
区分 | 適格合併 | 非適格合併 |
---|---|---|
資産・負債の評価 | 簿価で引き継ぐ | 時価で引き継ぐ |
税務上の扱い | 含み益は非課税 | 含み益は課税される |
目的 | グループ内再編など | 実質的な買収・M&A |
適格合併の仕訳とは?
適格合併では、関係するすべての当事者(合併法人、被合併法人、株主)にそれぞれ会計処理が必要です。
合併により、会社の資産・負債・純資産が大きく動くため、帳簿上も正確に仕訳して整理しておくことが求められます。
ここでは、それぞれの立場における仕訳の考え方を説明していきます。
合併法人(存続会社)の仕訳
合併法人は、被合併法人の資産と負債を簿価で引き継ぎ、それに見合う合併対価を株式で発行します。
適格合併の特徴として、資産・負債は時価ではなく帳簿価格(簿価)で受け入れる点がポイントです。
また、純資産についても、被合併法人の資本金・資本準備金・利益準備金・繰越利益剰余金等をそのまま受け入れます。
被合併法人(消滅会社)の仕訳
被合併法人は、合併により会社自体が消滅するため、すべての資産・負債・純資産を清算処理する仕訳が必要です。
この結果、被合併法人の資産・負債・純資産の残高はゼロになります
株主の仕訳
合併により株式を受け取った株主側では、持っていた被合併法人の株式が消滅し、合併法人の株式に置き変わるという仕訳が発生します。
法人株主であれば関係会社株式や投資有価証券の消滅と取得の処理(振り替え)が必要です。
適格合併では、この株式の消滅・取得に対して税金は発生しません。
適格合併の仕訳:合併法人(存続会社)
合併法人(存続会社)は、被合併法人(消滅会社)の資産・負債・純資産を簿価でそのまま受け入れ、対価として株式を発行します。
ここでは、合併法人が記帳すべき仕訳を紹介します。
資産・負債・純資産(貸借対照表)の受入れ
例:被合併法人の貸借対照表は以下のとおりである。
借方(資産) | 貸方(負債) | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 3,000,000円 | 買掛金 | 2,000,000円 |
売掛金 | 2,000,000円 | 借入金 | 2,000,000円 |
建物 | 5,000,000円 | 資本金 | 1,000,000円 |
繰越利益剰余金 | 5,000,000円 |
この仕訳では、被合併法人の資産・負債・純資産をすべて帳簿価格で受け入れています。税務上もこのような処理が可能なのが「適格合併」の特徴です。
適格合併の仕訳:被合併法人(消滅会社)
被合併法人(消滅会社)は、合併によって法人格が消滅するため、帳簿上のすべての資産・負債・純資産を清算し、帳簿を締める必要があります。
ここでは、被合併法人で必要となる仕訳で見ていきましょう。
資産・負債の引渡し
例:貸借対照表は以下のとおりである。
- 現金預金:3,000,000円
- 売掛金:2,000,000円
- 建物:5,000,000円
- 買掛金:2,000,000円
- 借入金:2,000,000円
- 資本金:1,000,000円
- 繰越利益剰余金:5,000,000円
借方(負債清算) | 貸方(資産除却) | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 2,000,000円 | 現金預金 | 3,000,000円 |
借入金 | 2,000,000円 | 売掛金 | 2,000,000円 |
資本金 | 1,000,000円 | 建物 | 5,000,000円 |
繰越利益剰余金 | 5,000,000円 |
このように、被合併法人では、合併直前の貸借対照表の残高をゼロにします。合併法人に渡された後は、受入れ仕訳として相手側に反映されます。
適格合併の会計処理や仕訳のポイント
適格合併の会計処理は、「簿価引継ぎ」が基本であるため非常にシンプルな仕訳となります。
しかし、合併は日常の取引とは異なり巨額な金額の会計処理を行うことが必要なため、合併法人・被合併法人・株主それぞれで正確な処理が求められます。そのため、処理の順序や事前の準備が重要になります。
ここでは実務で押さえておきたいポイントを紹介します。
資産・負債はすべて簿価で処理する
適格合併では、被合併法人から受け取る資産・負債・純資産は帳簿価格(簿価)でそのまま記帳します。
被合併法人の帳簿をもとに、科目ごとにそのまま引き継ぐことが基本です。
「のれん」「負ののれん」は発生しない
組織再編の対価(発行した株式の評価額)と、受け入れた純資産との間に差額があると、「のれん」または「負ののれん」が発生します。
しかし、適格合併では合併法人は被合併法人の合併直前の貸借対照表をそのまま受け入れるため、のれんや負ののれんは発生しません。
科目の表記方法を合併法人と揃える
会計ソフトの勘定科目は、合併法人と被合併法人で揃えておくことが必要です。
例えば、同じ資産でも一方では「車両及び運搬具」、他方では「車両運搬具」など表記が異なることがあります。
過去からの表示の継続性の観点から合併法人の勘定科目に統一する必要があります。
被合併法人の帳簿は必ず完全に締める
被合併法人は、合併をもって法人格が消滅します。そのため、すべての資産・負債・純資産を帳簿から除却する処理を行う必要があります。
さらに、確定申告書の作成にあたっては、合併までの減価償却や未払法人税等などの処理もあわせて実施しなければなりません。
申告が残っているうちは帳簿管理も必要なので、税理士と連携して進めるのが安心です。
株主側の仕訳は法人株主かどうかで判断
合併によって株式を受け取る株主側の処理は、個人であれば通常は仕訳不要です。
ただし、法人株主の場合は「関係会社株式・投資有価証券の消滅・取得」などの仕訳が発生します。
合併後の帳簿整理をスムーズに進めよう
適格合併では、税務上の特例が活用できる一方で、会計処理や仕訳には細かい配慮が求められます。合併法人と被合併法人でそれぞれ異なる処理があるため、事前に仕訳の流れや勘定科目を整理しておくことが大切です。合併後は、受け入れた資産・負債・純資産を正しく反映しましょう。帳簿の整合性を保つことが、将来の決算や税務対応をスムーズに進める第一歩になります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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